日常生活のふとした瞬間に、故郷とのつながりを感じることがある。
広島市中区にある職場の敷地内で、大切に保存されている灯篭と礎石を見つけた。
「萬象園の屋形灯篭・礎石」。「萬象園」とは、1657年、紀伊国和歌山藩から安芸国広島藩へ転封した浅野家により作られた別邸だ。
別邸内にあったとされる庭園は、池泉回遊式を採用し、広島の観光地として知られる「縮景園」に次ぐ名園といわれた。1959年に日本電信電話公社が購入、2002年まで職員の福利厚生施設として宿泊所や結婚式場として使われた。現在、敷地は売却され、今はNTT基町ビルの一画に移設・保存された屋形灯篭と礎石を残すのみだ。
【写真】 萬象園の屋形灯篭・礎石=広島市中区基町(NTT基町ビル内)
礎石は「殿様の腰掛石」と呼ばれていたという。創設当時、広島藩を治めていた二代藩主・浅野光晟は和歌山の出身。故郷・和歌山を離れ、広島の地に名園を設け、この礎石に腰を掛け藩政を思案していたのかと考えると、同じ和歌山の出身者として感慨深いものがある。庭園が現存していないことが残念だ。
和歌山にも同様の池泉回遊式の庭園として養翠園や温山荘園があり、国の名勝に指定されている。庭園に限らず、私たち市民が、日常のありふれた景色に目を配りその魅力に気づくこと、そして、歴史、文化、自然を後世に伝えることが、魅力的な地域資源の再認識、活性化の起爆剤の創出につながるのではないだろうか。
(次田尚弘/広島)