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興味のある科学/医学ニュースを適当に翻訳していきます。

遺伝性ALSで免疫系を標的にする

2016-03-28 06:06:13 | 
Researchers find that immune cells play unexpected role in Lou Gehrig's disease

Findings raise hope for new ALS treatments that target immune cell dysfunction

March 17, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/03/160317145954.htm

シーダーズ・サイナイメディカルセンター/Cedars-Sinai Medical Centerの研究者たちは、脳内の免疫細胞が『筋萎縮性側索硬化症/amyotrophic lateral sclerosis(ALS)』の発症に直接関与することを明らかにした
この発見はこの徐々に麻痺して死に至る神経変性疾患を標的とする新しい治療法への希望をもたらす
この研究成果はScience誌で3月18日に発表された


この研究ではALSならびに前頭側頭型認知症/frontotemporal dementia(FTD)を引き起こす遺伝子の突然変異に焦点を当てた
FTDはもう一つの神経疾患であり、典型的な特徴として性格personalityや行動behavior、言葉遣いlanguageが変化する

研究者はC9orf72という遺伝子を持たない二系統のマウスを開発し、それが脳内の免疫系の機能にとって重要であることを発見した
この遺伝子を持たないマウスはALSを発症せず、意外なことに免疫系の異常を生じた
免疫細胞の内部の構造の一つであるリソソームは通常細胞内の望ましくないものを処理しているが、C9orf72遺伝子を持たないマウスの免疫細胞ではリソソームが適切に機能するのを止めた


「C9orf72遺伝子は脳内の免疫細胞が適切に機能するために決定的に重要である
脳内の免疫系は単純に損傷に応答するよりむしろ積極的に疾患に関与していることを支持するエビデンスが増えつつあるが、
今回の研究結果もそれに加わることになる」
首席著者のRobert H. Baloh, MD, PhDは言う
彼はシーダーズ・サイナイで神経学部神経筋医学とALS学際的プログラムのディレクターである

「この研究結果は、ALSやアルツハイマー病のような病態においてどのようにして脳細胞が失われるのかについての我々の考え方を根本的に変化させるパラダイムシフトをさらに継続させるものだ」


徐々に脳と脊髄の神経細胞が死んでいくALSは最も一般的な神経筋疾患の一つである
ALS協会によるとアメリカでは毎年5600人以上が新たにALSと診断され、そのうち約10パーセントがC9orf72遺伝子の突然変異によって引き起こされる
ある研究ではアメリカ人のおよそ50万人がこの突然変異のキャリアであるという

Balohたちは彼らの発見が、特にC9orf72遺伝子の突然変異を持つ患者の免疫細胞の機能不全を標的とする新しい治療法への道を示す可能性があると述べる
また、C9orf72遺伝子のレベル低下を標的とする薬剤には慎重にアプローチすべきであると彼は言う
なぜならそれがさらに免疫系を混乱disruptさせる可能性があるからだ


研究に寄与したproject scientistであるJacqueline Gire O'Rourke, PhDは、今回の結果がC9orf72突然変異のキャリアとそれ以外のALS患者との間の差異を理解するのを助けるだろうという

「我々の研究は、免疫を調整する薬剤に対してC9orf72遺伝子キャリアと他のALS患者では反応が異なることさえあるかもしれないという可能性を示唆する」


http://dx.doi.org/10.1126/science.aaf1064
C9orf72 is required for proper macrophage and microglial function in mice.
C9orf72はマウスのマクロファージとミクログリアの適切な機能に必須である


神経変性と免疫細胞とのつながり
Linking neurodegeneration and immune cells

C9orf72の繰り返し配列の伸長expansionはALSの主な遺伝的原因である
この伸長はC9orf72の発現を低下させるものの、ほとんどの研究はニューロン内部での有害なRNAとタンパク質に焦点を当ててきた

O'RourkeたちはC9orf72が意外なことに自然免疫細胞に関与することを明らかにした
C9orf72を持たないマウスではマクロファージとミクログリアの機能不全を起こし、加齢と関連する神経の炎症が生じた

この結果はニューロンの有害な副産物byproductがC9orf72発現低下によるミクログリアの機能不全と組み合わさって共に神経変性を促進するという『二重効果/dual-effect』が疾患のメカニズムであるという可能性をもたらす


Abstract
C9orf72遺伝子の非コード部分に存在するGGGGCCという6つのヌクレオチドの繰り返しの伸長は、ALSならびにFTDの最も一般的な遺伝的原因である
伸長のキャリアではC9orf72の発現低下が見られることから、その機能喪失が疾患に関与することを示唆する

我々はC9orf72オーソローグortholog(相同蛋白質)の3110043O21Rikを全ての組織で持たない二つの独立したマウス系統が正常に成長して運動ニューロン疾患を発症せず加齢することを発見した

代わりにC9orf72ヌル・マウスは進行性の脾臓巨大症/脾腫splenomegalyならびにリンパ節症lymphadenopathyを発症し、貪り食うengorgedマクロファージ様の細胞が蓄積した


C9orf72の発現は骨髄系細胞myeloid cellで最も高く、C9orf72の喪失はマクロファージとミクログリアにおけるリソソーム蓄積ならびに免疫応答の変化という結果になった
加齢とともにC9orf72突然変異ALSに似た神経炎症age-related neuroinflammationを伴い、ヒトの散発性sporadicのALS患者の組織とは異なっていた

したがって、C9orf72は骨髄系細胞の正常な機能に必要であり、ミクログリアの機能の変化はC9orf72伸長キャリアにおける神経変性の一因である可能性がある



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/7acfb1a2f4e4c93bf185698ef5d38fe4
C9ORF72遺伝子の突然変異から生じる有害RNAを阻害する化合物が開発される



関連サイト
http://www.als.gr.jp/staff/document/kiso/kiso_35.html
C9ORF72反復配列の異常伸長の頻度は、臨床的FTD患者では、孤発性FTD203例中6例(3.0%)、家族性FTD171例中20例(11.7%)、
臨床的ALS患者では、孤発性ALS195例中8例(4.1%)、家族性ALS34例中8例(23.5%)で見られる。
 

PARK7の欠陥は代謝を変化させて酸化ストレスを生じる

2016-03-07 06:06:26 | 
New approaches for Parkinson's treatment? Researchers study metabolic changes

March 2, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/03/160302083559.htm

ルクセンブルク大学・システム生体医学センター/Luxembourg Centre for Systems Biomedicine (LCSB) は、
ドイツのコンスタンツConstance、ミュンヘンMunich、ボーフムBochumの研究者たちと協力して、
DJ1(PARK7)という遺伝子に欠陥があるパーキンソン病患者のニューロンが早く年老いていく原因を研究している

この遺伝子の欠陥は細胞の代謝の変化を引き起こし、
その結果ニューロンは酸化ストレスにさらされsubjected、脳内の免疫応答が増大する結果になるmean
この研究結果は科学誌のNeurobiology of Disease誌で発表された


パーキンソン病は二番目に多い神経変性疾患であり、患者の15%に遺伝的な原因がある
この疾患に特徴的な運動症状が生じる原因は黒質ドーパミン作動性ニューロンの早すぎる老化にあるが、
それがどのようにして起きるのかは完全には理解されていない

LCSBメタボロミクス研究グループのリーダーであるKarsten Hiller教授は代謝metabolismの面からその答えを探している
今回の研究で彼ら研究チームは、パーキンソン病のタイプの一つであるDJ1遺伝子に欠陥がある患者を調査した

「DJ1の量は適切でなければならない
癌の中にはDJ1が多すぎるものがある一方で、パーキンソン病のニューロンには十分な量のDJ1がなく、次第に死に絶えていく」
Hillerはそのように説明する

研究チームはDJ1を持たないニューロンの代謝を調べ、二つの重要な代謝経路が影響を受けることを明らかにした

「DJ1がないとニューロンは十分なグルタミンを吸収できず、これはセリン産生にも影響する
グルタミンとセリンはどちらもグルタチオンを作るために重要であり、足りなければフリーラジカルを中和できなくなる」
筆頭著者のJohannes Meiserが説明する

「DJ1が存在しないとこの防御メカニズムは効率的に働かず、酸化ストレスが生じる
これが細胞を早く老化させる」

研究チームはDJ1遺伝子の突然変異が脳内の別の細胞にもネガティブな影響を及ぼすことも示した
ミクログリアは脳内の免疫反応を担当する細胞だが、DJ1に欠陥があるとミクログリアは『過剰に活性化』する

「通常のミクログリアは、例えば炎症時など脳内の何かを取り除く必要が生じた時にのみ活性化する
しかしながら、今回我々が発見したようにDJ1に欠陥がありミクログリアが常に活性化していると、
その影響下にあるニューロンを弱めてしまう」

興味深いことに、研究者はDJ1に突然変異を持つ患者のミクログリアだけでなく、血液中でも代謝的な変化を明らかにした
これは将来新たな診断法への道を開く可能性がある

次のステップは、冒された代謝経路にどのようにして薬剤で影響を与えられるかについての調査などが予定されている
今回明らかにされたグルタミンとセリンの代謝プロセスの変化は、したがってパーキンソン病の治療への新たなアプローチの開発に用いられる可能性がある


http://dx.doi.org/10.1016/j.nbd.2016.01.019
Loss of DJ-1 impairs antioxidant response by altered glutamine and serine metabolism.


Highlights
・DJ-1の欠損は、ニューロンにおけるグルタミン取り込みの不足とGLS2発現の減少につながる
・DJ-1の欠損は、ニューロンにおけるセリン生合成の減少とMTHFD遺伝子発現の減少につながる
・ニューロンにおけるグルタミンとセリン代謝の減少は合わせてGSH恒常性に影響を及ぼし、酸化ストレスを惹起する
・DJ-1に欠陥があるマウスミクログリアは、弱い炎症促進性の活性化を構成的に示し、さらにDJ-1欠陥ニューロンを混乱させるperturbe
・我々はROSから保護する複雑なメカニズムを解決し、トランスレーショナル研究への代謝的なエントリーポイントを正確に指摘する


Abstract
癌遺伝子oncogeneであるDJ-1は、元々PTENのサプレッサーとして明らかにされた
それよりずっと先にfurther on、DJ-1の機能喪失変異がパーキンソン病の要因causative factorとして記述されてきた

DJ-1は細胞の抗酸化応答において重要な機能を持つが、そのニューロンの中心的な代謝における役割は未だ明らかではない


我々は安定同位体を用いた代謝プロファイリングによりDJ-1の機能喪失の影響を調査し、
DJ-1に欠陥を持つ神経細胞ではグルタミンの流入が減少してセリン生合成が低下することを示した
これら二つの代謝経路はGSH合成の前駆体を提供するため、これらは細胞の抗酸化応答にとって重要である

DJ-1喪失の結果として起きるこれらの経路の下方調節により抗酸化応答は損なわれる
さらに、DJ-1欠陥マウスミクログリアは弱いが構成的な炎症促進性の活性化を示す
それらを組み合わせた影響は、DJ-1突然変異を持つ患者のドーパミン作動性ニューロンの神経変性への感受性を上昇させる



Fig. 7.
Dj-1ノックアウトマウス骨髄由来細胞とマクロファージへ分化した細胞(BMDM)ならびにDJ-1患者の末梢血単核球(PBMC)由来のCD14+マクロファージの安定同位体ラベリングは、TCA回路へのグルタミンの寄与の低下を示す

(g)
DJ-1の機能的な役割をハイライトし、かつDJ-1欠乏の結果として影響を受ける代謝経路を要約したモデル図

影響を受ける代謝産物metabolite、酵素、経路は、赤い星でハイライトされている

DJ-1の喪失はグルタミンの流入の減少につながり、
セリン生合成が低下、5,10-methylene tetrahydrofolate dehydrogenase(MTHFD)発現が低下する
これらはグルタチオン(GSH)の恒常性ならびに抗酸化応答に必要である

GSHレベルの低下により、DJ-1が欠乏した細胞は活性酸素種(ROS)への感受性が増大する

さらに、MTHFDとG6PDHの発現の低さは
NADPH産生の潜在能力potentialの低下を示唆する
NADPHは酸化したグルタチオン(GSSG)の還元に必要である

癌細胞においてDJ-1はPTENを抑制するリプレッサーとして働く
PTENはAKTのネガティブな調節因子である

 DJ-1─┤PTEN─┤AKT

活性化したAKTはmTORC1を活性化しうる

AKTとmTORはどちらも、細胞生存と増殖に必要な代謝プロセスの駆動に重要であり、
何よりもグルタミノリシスglutaminolysis(グルタミンを分解してエネルギーを取り出す)に必要なプロセスで重要である

 DJ-1─┤PTEN─┤AKT→mTORC1→グルタミノリシス

加えて、転写因子p53はPTENの活性化因子として働き、それによりDJ-1機能と拮抗する
さらに、p53はmTORを抑制し、アポトーシスを誘導する

しかしながら、これらの代謝ネットワークの潜在的なノードnodeの関連性は神経細胞ではさらに確認する必要がある


Discussion
DJ-1が欠けていると、AKTのリン酸化は低下し、mTORの活性も低下する
mTORはアナプレロティック反応anaplerosisのマスターレギュレーターであり、増殖と細胞生存に重要である
それらの低下はp53の活性に有利である
転写因子p53は酸化ストレスで活性化し、アポトーシスを誘導する

 DJ-1↓,酸化ストレス↑,AKT↓,mTOR↓,p53↑,アポトーシス↑




関連サイト
https://en.wikipedia.org/wiki/PARK7
英語Wikipedia: PARK7
酸化ストレス状態下において、デグリカーゼdeglycaseであるDJ-1は、そのシャペロン活性によりα-シヌクレインの凝集を阻害する[7][8]
したがって酸化還元に感受性のシャペロンとして機能し、酸化ストレスのセンサーとして働く


関連サイト
http://www.genecards.org/cgi-bin/carddisp.pl?gene=PARK7
DJ-1はタンパク質デグリカーゼdeglycaseであり、メチルグリオキサール-ならびにグリオキサール-糖化アミノ酸(システイン・アルギニン・リジン)を修復する

※glycate: グリケート。タンパク質のフリーのアミノ基と糖との間の非酵素的な反応による生成物
※glycation: グリケーション。メイラード反応などと呼ばれていた非酵素的反応
※glycated albumin: 糖化アルブミン

※glycase: グリカーゼ
※deglycase: デグリカーゼ



関連サイト
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%BC%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%BD%E3%83%B3%E7%97%85
日本語Wikipedia: パーキンソン病: PARK7 DJ-1
DJ-1タンパクは酸化ストレスに対して神経を保護する作用を持つ[96]。ミトコンドリアにも局在しており、パーキン/ピンク1経路とはまた別の経路でミトコンドリアを保護し、オートファジーに関与している[97]。

[96]http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15784737
Hypersensitivity of DJ-1-deficient mice to 1-methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyrindine (MPTP) and oxidative stress.

酸化ストレス仮説
抗酸化作用をもつDJ-1タンパクをコードするDJ-1遺伝子の変異が家族性パーキン病の原因 (PINK7) となることから、酸化ストレスがパーキンソン病の一因であると推測される。
 

呼吸器疾患の薬がパーキンソン病の治療に有望

2016-03-04 06:06:17 | 
Promising respiratory drug focus of new clinical trial for parkinson's disease

February 22, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/02/160222112642.htm

様々な呼吸器疾患の治療用に承認されたある薬剤medicationが、パーキンソン病の新たな臨床試験で焦点となった
この薬は前臨床試験で神経保護的な効果が実証されている

この試験はLinked Clinical Trials initiative (LCT) の一部として開始される最新のものであり、
LCTはイギリスの研究慈善団体research charityであるCure Parkinson's Trustが中心となってアメリカミシガン州のVan Andel Research Institute (VARI) と協力して行われるプログラムである

「この試験で我々はパーキンソン病の単なる症状の治療を越えつつあり、実際に疾患の進行を遅くするか止めたいと考えている」
Patrik Brundin, M.D., Ph.D.は言う
彼はLCT国際科学委員会の長であり、VARI神経変性科学センターのディレクターでもある

「このアンブロキソール/ambroxolという薬はパーキンソン病の前臨床研究において例外的な効果を発揮しており、他の病態の治療用として既に承認されている」

厳格な薬剤認証プロセスを既に通過している既存の薬剤の中で、研究室の前臨床試験でパーキンソン病の治療に有望であることが示されたものに焦点を当てることにより、LCTはパーキンソン病の人々に新たな治療をもたらすために必要な時間とコストを減少させることを目的としている


呼吸器の治療から神経保護へ
From respiratory remedy to neuroprotection

この試験はロンドンの王室施療病院/Royal Free Hospitalを拠点としており、通常は呼吸器疾患の治療に使われるアンブロキソールに焦点を当てる
この試験の治験責任者principal investigatorであるAnthony Schapira, M.D., D.Sc.は以前の研究で、細胞の『ごみを片付けるtrash removal』プロセスで重要な役割を果たすタンパク質の機能をアンブロキソールが改善することを実証した
最近のエビデンスから、このプロセスの異常は神経変性疾患の発症と進行に関連があることが示唆されている
加えて、このタンパク質をコードする遺伝子内の変異はパーキンソン病発症の最も強い遺伝的リスク要因であると考えられている

「我々の前臨床研究からアンブロキソールがパーキンソン病の治療に有効かもしれないことが示唆される
この薬は遺伝性パーキンソン病と関連する遺伝子変異を持つ人々で広く見られる機能不全を起こしたタンパク質を修正する能力がある」
Schapiraは言う

「特に興味深いのは、この遺伝子変異を持たないパーキンソン病患者にもアンブロキソールが有益であることだ」


複雑な問題
A complex problem

過去50年でパーキンソン病の画期的な治療法はレボドパや深部脳刺激deep brain stimulation、手術を除いてほとんど現れていない
これらの治療法はQOLを著しく改善する可能性はあるものの、疾患の特徴である脳の神経細胞が死ぬのを遅くしたり止めたりはしない
LCTの科学委員会は、症状を治療するだけでなく疾患の進行も止めるさらなる化合物の調査をゆだねられているcharged

アンブロキソール試験に加えて、LCTはパーキンソン病を修正しうる治療法として、コレステロール低下薬のシンバスタチンや糖尿病薬でGLP-1受容体アゴニストのエキセナチドを研究するための試験もサポートしている
脳内の鉄の蓄積を取り除く薬剤やミトコンドリア機能に対処する治療法など、他の糖尿病治療に焦点を当てる臨床試験が数ヶ月先には開始される予定である



関連サイト
https://en.wikipedia.org/wiki/Ambroxol
>Ambroxol has recently been shown to increase activity of the lysosomal enzyme glucocerebrosidase. Because of this it may be a useful therapeutic agent for both Gaucher disease and Parkinson's disease.[10]
(アンブロキソールはリソソーム酵素であるグルコセレブロシダーゼの活性を増大させることが最近示されており、ゴーシェ病やパーキンソン病を治療する薬剤として役立つ可能性がある[10])

[10]https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24574503
"Ambroxol improves lysosomal biochemistry in glucocerebrosidase mutation-linked Parkinson disease cells"
(アンブロキソールはグルコセレブロシダーゼ変異関連パーキンソン病細胞のリソソーム生化学を改善する)



関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/5dc8d2df5cf3c367e14b14a84eac884e
GBA1突然変異はα-シヌクレインのリサイクルを妨害し、α-シヌクレインは細胞内に蓄積されて脳内に放出される
 

GBA1突然変異はα-シヌクレインを細胞外へ放出させる

2016-02-22 06:06:54 | 
Stemming the flow: Stem cell study reveals how Parkinson's spreads

February 18, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/02/160218132257.htm


(パーキンソン病に冒された幹細胞が脳細胞に変化する様子を示した画像

Credit: Parkinson's UK)

幹細胞を使った新たな研究により、パーキンソン病がどのようにして細胞から細胞へと広がるのかについての新たな手がかりがもたらされた
このプロセスは研究者が何十年もの間ずっとはぐらかしてevadeきた問題である

Stem Cell Reports誌で発表された今回の研究は、α-シヌクレインの放出とGBA1遺伝子の突然変異とを初めて関連付けた
α-シヌクレインは体内で自然に生じるタンパク質であり、パーキンソン病の発症において中心的な役割を演じている
GBA1β-グルコセレブロシダーゼをコードする遺伝子で、パーキンソン病で最も広く見られる遺伝的なリスク要因である
この研究はパーキンソン病という破滅的な神経疾患とその症状の進行でGBA1がどのように関与するのかについて新たな光を当てる


Parkinson's UKの出資によりオックスフォード・パーキンソン病センターが実施した今研究では、二つのグループからなる参加者から得られた細胞を調べた
グループの一つはGBA1遺伝子に突然変異があるパーキンソン病患者で、もう一方はそのような状態/病態conditionのないコントロールグループである

参加者の皮膚から作られた幹細胞と脳細胞を分析した結果、GBA1の突然変異はタンパク質、特にα-シヌクレインがどのように処理されてリサイクルされるかに関する問題を起こすことが初めて明らかになった
GBA1変異を持つ人は細胞内でのタンパク質のリサイクルが適切に働かず、α-シヌクレインが蓄積build-upされる
それは脳内に放出されてパーキンソン病が拡散spreadする一因となる

パーキンソン病の身体症状/運動面での症状は黒質という脳の一部で約70%の細胞が失われると現れる
身体症状としては振戦tremor、緩慢slownessな歩行、硬直stiffnessなどがあり、病態が脳の他の領域に広がるspreadとパーキンソン病認知症のような認知問題が生じる

今回の新しい研究結果は、どのようにして、そしてなぜ過剰なα-シヌクレインが脳内に放出されるのかについての洞察をもたらし、このプロセスを止めうる標的治療への調査を進める新しい道を開く
そして治療の最終的な目標は疾患の重症化を止めるか、最小限にすることである


オックスフォード・パーキンソン病センター長のRichard Wade-Martins教授は次のように述べる
「我々の脳細胞は工場の複雑な製造ユニットのように働く
活動を実行するための新しいタンパク質を作り、損傷したタンパク質をリサイクルしている
パーキンソン病では冒された細胞からα-シヌクレインが脳内に逃れて、そこで別の脳細胞によって取り込まれうることが既にわかっている
今回の研究で我々は初めてα-シヌクレインがどのようにして放出されるかを理解し、この拡散がどのようにして起きるのかについての手がかりを得た」

「最も重要なことは、これらの研究結果がα-シヌクレインの拡散を止めて疾患の進行を遅らせるための潜在的な治療法の調査に向けた新たな道を開くことだ」


Parkinson's UKの研究ディレクターであるArthur Roach博士は次のように言う
「パーキンソン病の患者やその家族は、この病態が精神と身体の両面に将来どのように影響するのかについて確信を持てずにいる
よく知られた動きやバランスの問題に加えて8割までの患者が認知症を発症し、
理論的な考えや計画性、集中力、注意、記憶、言語が影響を受ける」

「今回の研究は、遺伝的な病態についての研究がどのようにして病態全体の根本的な特徴であると考えられるものに対する重要な洞察をもたらすのかという良い例である
これらの研究結果はどうやってパーキンソン病を途中で止めるのかについての新しい概念をもたらす
それはイギリスで生きる12万7千人の、そして世界では700万人のパーキンソン病患者たちの人生を変化させるだろう」


OPEN
http://dx.doi.org/10.1016/j.stemcr.2016.01.013
http://www.cell.com/stem-cell-reports/abstract/S2213-6711(16)00030-8
ER Stress and Autophagic Perturbations Lead to Elevated Extracellular a-Synuclein in GBAN370S. Parkinson's iPSC-Derived Dopamine Neurons.
ERストレスとオートファジーの混乱は、GBAN370S変異パーキンソン病のiPSC由来ドーパミンニューロンにおける細胞外α-シヌクレインの上昇につながる

 GBA変異→折りたたみ失敗→ERストレス,リソソーム肥大(緑色),オートファゴソーム↑(赤色)→オートリソソーム肥大(黄色),カーゴ分解されず,α-シヌクレイン放出

Highlights
・GBA-N370S突然変異を持つパーキンソン病患者3人と、コントロール群3人のiPSC細胞系統から作られた、ドーパミンニューロンの機能的分析
・iPS細胞N370S変異ドーパミンニューロンでは、脂質プロファイルの乱れ、ERストレス、オトーファジーが見られた
・iPS細胞N370S変異ドーパミンニューロンでは、リソソーム区画が拡張enlargedして損なわれていた
・iPS細胞N370S変異ドーパミンニューロンの培養では、細胞外α-シヌクレインが増大した

Summary
β-グルコセレブロシダーゼ/glucocerebrosidase (GBA) 遺伝子のヘテロ接合heterozygousの突然変異は、家族性パーキンソン病で広く見られる最も強いリスク要因である
しかしながら、その関連の根本的な分子メカニズムはほとんど理解されていない

今回我々は、互いに独立したパーキンソン病患者3人とコントロール群3人から得られた10の独立した誘導多能性幹細胞/induced pluripotent stem cell(iPSC)細胞系統lineを分析し、関連する疾患メカニズムを明らかにした

ドーパミン作動性ニューロンに分化させた後、我々は突然変異体グルコセレブロシダーゼタンパク質がER内でプロセシング失敗misprocessingするのを観察した
それはERストレスの活性化、ならびに異常な細胞内脂質プロファイルと関連していた

さらに、オートファジーの乱れperturbationとリソソーム区画の拡張enlargementが、特にドーパミン作動性ニューロンで観察された
最後に、細胞外α-シヌクレインがニューロン培養基で増大し、これはエクソソームexosomeとは関連がなかった

まとめると、ERストレス、オートファジー/リソソームの乱れ、細胞外α-シヌクレインの上昇は、おそらくパーキンソン病早期の決定的な細胞表現型であり、多くの治療標的をもたらす可能性がある



関連サイト
http://www.genecards.org/cgi-bin/carddisp.pl?gene=GBA
Entrez Gene Summary for GBA Gene
この遺伝子はリソソーム膜タンパク質をコードし、グリコシルセラミド(糖が結合したセラミド。セレブロシド)のβ-グルコシド結合/beta-glucosidic linkageを切断する
グリコシルセラミドは糖脂質glycolipid代謝の中間体intermediateである
この遺伝子の変異はゴーシェ病Gaucher diseaseの原因であり、リソソームにグルコシルセラミド(グルコースが1分子結合したセラミド。グルコセレブロシド)が蓄積する



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/02/160217091003.htm
脳脊髄液中(CSF)のα-シヌクレインの濃度低下は、パーキンソン病における早期の認知力低下(軽度認知障害/mild cognitive impairment(MCI))を示すバイオマーカー



関連サイト
http://first.lifesciencedb.jp/archives/6527
RAB7L1とLRRK2は協調してニューロンにおける細胞内輸送を制御するとともにパーキンソン病の発症リスクを決定する
RAB7L1のノックダウンによってもリソソームの肥大化がみられること,同時に,リソソームの機能に重要な加水分解酵素の輸送を担うカチオン非依存性のマンノース6-リン酸受容体のリソソームへの局在が減少することが見い出された.
一方,RAB7L1の過剰発現によりG2019S変異をもつLRRK2の発現によるリソソームの肥大とマンノース6-リン酸受容体のリソソームへの局在の低下は回復した.
 

神経細胞の発達中に壊れやすい27の遺伝子を発見

2016-02-14 06:47:28 | 
DNA breaks in nerve cells' ancestors cluster in specific genes
Study reveals new avenue for thinking about brain development, brain tumors and neurodevelopmental/psychiatric diseases
February 11, 2016
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/02/160211184955.htm


(神経幹細胞・前駆細胞で頻発するDNA二本鎖切断クラスター/Recurrent DSB clusters(RDC)を示す
Credit: Boston Children's Hospital)

Breakable genes may promote disease, brain cell diversity
Date:February 11, 2016
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/02/160211141341.htm

ボストン小児病院、ハーバード・メディカルスクール(HMS)、ハワードヒューズ医学研究所の『細胞分子医学プログラム/Program in Cellular and Molecular Medicine (PCMM) 』の研究者たちは、
発達中の脳細胞のゲノムにはDNAが他よりも非常に壊れやすい27箇所のクラスターclusters/ホットスポットhotspotsが存在することを明らかにしてCell誌で報告した

それらのホットスポットは脳腫瘍や多くの神経発達的・神経精神病学的な病態に関与する遺伝子に現れており、
このことはこれらの病態の源についての、さらにはどのようにして脳が様々な回路を生成するのかという新たな疑問を生じる


今回の研究のルーツは30年以上前にさかのぼる
PCMMのディレクターであり研究首席著者study senior authorでもあるFrederick Alt, PhDたちは、腫瘍と癌遺伝子oncogene、DNA切断/DNA修復との間のつながり、特にその免疫細胞と神経細胞におけるつながりlinksの調査を初めて開始した


一連の研究の中でAltのラボは、DNA修復経路の一つである非相同末端結合/non-homologous end joining (NHEJ) を欠損させてDNA鎖切断の修復ができなくなった神経細胞が
発達の初期に死に絶えるか髄芽腫medulloblastomaという脳腫瘍を生じることを発見した
彼らはなぜこの経路が失われるとそのような劇的な影響があるのかを理解しようと奮闘した


「我々はDNAの切断について非常に多くのことを考察してきた」
遺伝学の教授であり、ハーバードでは小児学のCharles A. Janeway ProfessorでもあるAltは言う

「そして多くの人々が長年にわたって、DNA切断が神経発達における多様性diversityを形作るために重要でありうるという可能性を考えてきた
しかし、NHEJが欠けていると神経系発達がほぼ完全に阻止されることにつながるという、神経細胞におけるそのような切断を確認するための方法は存在しなかった」


最近になり、AltのラボはDNA切断を非常に高解像度でゲノム全体にマッピングする手法として『ハイスループット・ゲノムワイド・トランスロケーション・シーケンシング (HTGTS) 』を設計した
HTGTSは元々、癌ではどのようにして遺伝子が再編成reshuffleされるか、どうやって転座translocateが生じるかを理解するために開発されたが、
AltのラボはこれをCRISPR遺伝子編集の正確さを計測するためにも利用し、加えてゲノムが遺伝子を切断すべきでない箇所で切断しないようにするためにどのようにしてDNA切断酵素を『サンドボックスに入れておく』か詳しく調べるprobeためにも使い始めた

※sandbox: サンドボックス。コンピューターのセキュリティ用語

今回の研究でAltのラボメンバーたちはHTGTSと情報工学informaticsを使い、マウスの神経幹細胞・前駆細胞/neural stem and progenitor cell(NSPC)におけるDNA切断のパターンを複製ストレスreplication stressという条件下で探索してマッピングした

※NSPC: 脳のニューロン、アストロサイト、乏突起膠細胞oligodendrocyteを生じる細胞

実験によりNSPCのゲノムが頻繁に切断される27箇所のホットスポットが明らかになった
印象的だったのはstrikingly、それら27のホットスポットが27の遺伝子それぞれに散らばって存在していたことである
27の遺伝子には多くの特徴が共通していた

・27の遺伝子全てが長く、大部分が10万塩基以上で、多くのエキソンと長いイントロンを持つ
・そのほとんどが遅いレプリケーターlate replicatorである。つまり細胞複製プロセスで遅くにコピーされる
・それらはニューロン表面に見られるタンパク質をコードし、そのほとんどはニューロンがコミュニケーションするのを助ける役目を果たす(例えばシナプス形成や細胞間接着)
・27の遺伝子の内、24の遺伝子が、腫瘍抑制と神経学的病態のどちらか、または両方と関連がある(病態は例えば自閉症スペクトラム障害、統合失調症、双極性障害)

「神経細胞でのDNA切断が重要であるという仮説にフィットするような遺伝子セットは、もう見つからないかもしれないという夢を見るくらいだった」とAltは声を上げる

発見されたDNA切断のほとんどが遺伝子のイントロンで頻繁に現れていたことから、研究チームはホットスポットが明確な目的を持っていると推測するに至った
つまり『脳が様々な回路のレパートリーを生成するのを促進する』ためにわざと切断するのだろうという

「二本鎖切断のほとんどがエキソン間で生じるため、それらはおそらく場合によってはin some casesエキソンの一つか二つを消去させ、潜在的に遺伝子が異なるタンパク質を作れるようにするのだろう」
Altはそのように説明する

様々な方法で遺伝子のエキソンをスプライシングすることにより、ゲノムは一つの遺伝子のコードから複数のバリエーションのタンパク質を作る可能性がある
そうしてNPSCから発達するニューロンは自分自身を配線wireし、独特な神経回路を形成する

「我々が明らかにした27の遺伝子の一つがコードするタンパク質はニューレキシンneurexinというもので、このタンパク質の形態は潜在的に1000を越える
そのうちのいくつかはニューロン間を異なる強さで結合する」
Altラボのpostdoctoral fellowであるWeiは言う

「我々の発見は様々なシナプス結合synaptic connectionのメカニズムをもたらし、ニューロン間の接触を異なるものにする」

※ニューレキシン: 多数のアイソフォームからなる神経細胞表面タンパク質で、α-ニューレキシンを欠損するマウスではシナプスでの伝達物質の放出が著しく障害される

「神経が発達する間、ヒトは比較的限られた数のNSPCから1000億のニューロンで脳全体を形成する」
ハーバードで小児科学の助教授assistant professorであるSchwerは付け加える

「この状況でDNA切断が頻発することにどのような潜在的な利点が存在するのか?
それは回路とシナプスの様々な組み合わせをサンプルとして抽出するための方法かもしれない
それはほとんど進化のミニチュアであるかのようだ」

「我々はこれが当てはまるのか確信してはいない」
彼は続ける
「しかし、神経発達中に生じるこれらの複製ストレスと関連する切断は、これまで認識されてきた神経細胞の多様性に寄与する方法でありうることを今回我々は示す
この多様性を持つ神経細胞が最終的に成熟した脳へと発達する」

また、研究チームは今回の発見に基いて、これら27の遺伝子によって影響を受ける神経発達中の複製ストレスと関連するDNA損傷が、神経発達的な疾患または神経精神病学的な疾患を促進すると推測している

「これらの遺伝子のほとんど全てが、神経発達的な要素を持つ疾患と関連する」
Schwerは言う

「もし遺伝子内の破損を効率的に修復できなければ、そのヒトは神経発達疾患に罹患しやすくなるのかもしれない/it could be that」


http://dx.doi.org/10.1016/j.cell.2015.12.039
http://www.cell.com/cell/abstract/S0092-8674(15)01703-1
Long Neural Genes Harbor Recurrent DNA Break Clusters in Neural Stem/Progenitor Cells.
神経幹細胞・前駆細胞における長いニューロンの遺伝子は、頻発するDNA切断クラスターを持つ



(1番染色体から順に、
Bai3(Adhesion G Protein-Coupled Receptor B3)、
Pard3b(Par-3 Family Cell Polarity Regulator Beta)、
Nfia(転写因子NFIA)、
Magi2(Membrane Associated Guanylate Kinase, WW And PDZ Domain Containing 2)、
Sdk1(Sidekick Cell Adhesion Molecule 1)、
Ptn(プレイオトロフィン)、
Ctnna2(Catenin (Cadherin-Associated Protein), Alpha 2)、
Csmd1(CUB And Sushi Multiple Domains 1)、
Cdh13(カドヘリン13)、
Wwox(WW Domain Containing Oxidoreductase)、
Ntm(Neurotrimin)、
Grik2(Glutamate Receptor, Ionotropic, Kainate 2)、
Dgkb(Diacylglycerol Kinase, Beta 90kDa)、
Npas3(転写因子Neuronal PAS Domain Protein 3)、
Mdga2(MAM Domain Containing Glycosylphosphatidylinositol Anchor 2)、
Nrxn3(ニューレキシン3)、
※上流プロモーターからはEGF様配列を持つαが、下流プロモーターからは配列を持たないβアイソフォームが形成される
Gpc6(グリピカン6)、
Ctnnd2(Catenin (Cadherin-Associated Protein), Delta 2)、
Oxr1(Oxidation Resistance 1)、
Csmd3(CUB And Sushi Multiple Domains 3)、
Rbfox1(RNA Binding Protein, Fox-1 Homolog (C. Elegans) 1)、
Fgf12(Fibroblast Growth Factor 12)、
Lsamp(Limbic System-Associated Membrane Protein)、
Cadm2(Cell Adhesion Molecule 2)、
Nrxn1(ニューレキシン1)、
※By using alternate promoters, splice sites and exons, predictions of hundreds or even thousands of distinct mRNAs have been made.
Dcc(DCC Netrin 1 Receptor)、
Prkg1(Protein Kinase, CGMP-Dependent, Type I))

Highlights
・神経幹細胞・前駆細胞における『頻発するDNA二本鎖切断クラスター/Recurrent DSB clusters (RDCs)』を明らかにする
・全てのRDCsは遺伝子内に存在し、そのほとんどが長い遺伝子で、転写され、複製が後期である
・ほとんどのRDC遺伝子はシナプス形成と神経細胞接着のどちらか/両方に関与する
・複製ストレスと関連する脆弱な箇所fragile siteをヌクレオチドレベルの解像度で提供する

※fragile site: 脆弱部、染色体不安定部


Summary
27の神経幹細胞・前駆細胞(NSPC)の頻発DSBクラスター(RDC)のほとんどは、アフィディコリンaphidicolinによる弱い複製ストレスで検出された
これは複製関連ゲノム脆弱部のヌクレオチドレベル解像の視点をもたらす

※アフィディコリンaphidicolin: 抗生物質。真核生物のα型DNAポリメラーゼを特異的に強く阻害する



関連記事
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/02/160211141341.htm
今回の研究ではDNAをわざと切断して『エサbait』として利用した
この切断された箇所は、既に切断されている箇所と結合するため、元々どこが切断されていたかを示す
そうして特定された27のクラスター全てが、ゲノムのほとんどが遺伝子ではないにも関わらず、遺伝子の中に存在した
27の内15の遺伝子はニューロンが近くにくっつけるようにするタンパク質をコードし、22の遺伝子がシナプスの形成または活性に関与していた
なぜ壊れやすいのかはおそらく遅れて転写されるためで、転写するための分子機構と複写のための分子機構が衝突collideするのかもしれないという
この衝突が二本鎖切断につながる可能性があると研究者は示唆する



関連記事
http://www.sciencedaily.com/releases/2015/11/151130084043.htm
癌と関連すると思われていたBRCA1は認知症にも関係がある
脳は記憶する際にDNAを切断しているため、DNAを修復するBRCAは記憶にも重要



関連サイト
http://ameblo.jp/mojio914/entry-11469645587.html
HHMI/Howard Hughes Medical Institute(ハワードヒューズ医学研究所)は実際には研究所なんてないんですけど、お金だけを配っている団体があるんですよね。
お金をもらう、すなわちHHMI investigatorになるというのは最高に名誉なことで、アメリカではトップクラスのサイエンティストであることを意味します(うちのボスもその一人になるわけですが)。
 

アポE4は1700の遺伝子プロモーターに結合する転写因子である

2016-02-11 06:06:02 | 
A surprising new role for ApoE offers explanation for its diverse range of effects, particularly in Alzheimer's

January 28, 2016

http://www.sciencedaily.com/releases/2016/01/160128155753.htm

バック研究所とカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の新たな研究は、
なぜアポリポタンパク質E/apolipoprotein E (ApoE) の特定の遺伝型(アレルallele)がアルツハイマー病の最も重大な遺伝リスクを有するのかについて説明する

1月20日にThe Journal of Neuroscience誌で発表された彼らの研究は、脂質結合タンパク質のアポE4/apoE4にまったく新しい光を当てる
それによるとアポE4は転写因子であり、核内に入ってDNAに結合する高い親和性を持つ
結合する箇所の中には1700という様々な遺伝子のプロモーター領域が含まれるという

7500万人のアメリカ人がアポE4キャリアであり、アルツハイマー病のリスクが高い
さらに700万人はアポE4のコピーを2つ持ち、彼らのアルツハイマー病の発症リスクは10倍から12倍も高い

「プロモーターにアポE4が結合する遺伝子が機能的グループfunctional groupsにあるとみなす時に、そのアルツハイマー病との関係が目立つ」
共首席著者のDale Bredesen, MDは言う
彼はバック研究所の教員/Buck Institute facultyであり、UCLAのイースタン神経変性疾患研究所の教授でもある

「アポE4が標的とするのは、サーチュイン(Sirtuin)や加齢、インスリン抵抗性、炎症と酸化によるダメージ、アミロイドプラークの蓄積、タウのもつれと関連する遺伝子である
これは何が本質的にアルツハイマー病の『統一理論unified theory』なのかの解明に向けたロードマップをもたらす」

※サーチュイン: ヒトではSIRT1からSIRT7まであり、主に脱アセチル化酵素deacetylaseとして働く

「我々はこの研究がアルツハイマー病の予防と治療のための新しい種類のスクリーニングにつながることを望んでいる
共首席著者のRammohan Rao, PhDは言う
彼はバック研究所で准研究教授associate research professorである

「また、我々は全く新しい薬剤の候補をデザインして設計しており、これはアポE4を介する経路を一つではなく複数同時に標的とするものだ
我々は最終的に、アポE4キャリアに与えることでアルツハイマー病を予防できる薬を開発したいと考えている
これらの結果はメカニズムを提供し、候補をふるいにかけるscreen」


今回の研究はニューロンの細胞系統とアルツハイマー病患者の皮膚の線維芽細胞、ApoEを標的とするマウスの脳を組み合わせて実施され、クロマチン免疫沈降法・ハイスループットDNAシーケンシング(ChIP-seq)が利用された

この研究は2013年のBredesenとRao、Veena Theendakaraらの研究に続くものである
その研究では、抗加齢タンパク質SIRT1によって仲介されるアポE4とアルツハイマー病との間の関連が示された
SIRT1はワインの成分であるレスベラトロールによって活性が促進されるのと同じ分子である

http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1314145110
"Neuroprotective Sirtuin ratio reversed by ApoE4"

http://www.buckinstitute.org/buck-news/major-alzheimers-risk-factor-linked-red-wine-target
"Major Alzheimer's Risk Factor Linked to Red Wine Target "

その研究によると、アポE4の存在は神経細胞とアポE4アルツハイマー病患者の両方でSIRT1の減少を引き起こした
しかし、アポE4がどのようにしてSirT1を減少させるのかは説明されなかった

「これらの結果は新たな治療法をデザインするエキサイティングな可能性をもたらす
その治療法は、アポE4と関連する1700の遺伝子の協調した作用がアルツハイマー病のリスクを引き起こすのを阻害する
そのようなアプローチは現在進行中である」
Bredesenは言う


http://dx.doi.org/10.1523/JNEUROSCI.3562-15.2016
Direct Transcriptional Effects of Apolipoprotein E
アポリポタンパク質Eの直接の転写的影響

Abstract
生物学と医学で未解決の大きな問いは、
アポリポタンパク質Eε4アレルの産物、アポリポタンパク質E4/apolipoprotein E4 (ApoE4) が
本質的に全く異なるdisparate次のようなプロセスで重要な役割を演じるためのメカニズムである

・アルツハイマー病/Alzheimer's disease (AD。ADでアポE4は最も重要な遺伝リスク要因である)
・動脈硬化性心血管病/atherosclerotic cardiovascular disease
・レヴィ小体認知症/Lewy body dementia
・人類の進化/hominid evolution
・炎症inflammation


我々は今回の報告で、神経細胞系統、AD患者の皮膚線維芽細胞、アポE4標的置換マウス脳/ApoE targeted replacement mouse brainsを組み合わせることにより、
アポE4が核に移行して二本鎖DNAに高親和性(低ナノモル)で結合し、転写因子として機能することを示す

クロマチン免疫沈降法とハイスループットDNAシーケンシングを使って、アポE4が1700の遺伝子のプロモーター箇所に結合することを示す

これらのプロモーターと関連する遺伝子はADリスクがアポE4によってもたらされるメカニズムへの新たな洞察をもたらす
なぜなら、それらには栄養サポートtrophic support、プログラム細胞死、微小管分解microtubule disassembly、シナプス機能、加齢、インスリン抵抗性などと関連する遺伝子が含まれ、それらはすべてADの病理発生に関連付けられてきたからである



関連サイト
http://www.buckinstitute.org/buck-news/major-alzheimers-risk-factor-linked-red-wine-target
Major Alzheimer's Risk Factor Linked to Red Wine Target

>ApoE4 causes a dramatic reduction in SirT1.
(アポE4はSirT1を劇的に減少させた)

>the abnormalities associated with ApoE4 and AD, such as the creation of phospho-tau and amyloid-beta, could be prevented by increasing SirT1.
(アポE4とアルツハイマー病に関連する異常は、SirT1の増加によって予防されえた)

>with ApoE3 (which confers no increased risk of AD), there was a higher ratio of the anti-Alzheimer’s peptide, sAPP alpha, produced, in comparison to the pro-Alzheimer’s amyloid-beta peptide.
(アルツハイマー病のリスクを上昇させないApoE3が存在すると、アミロイドベータ/Aβペプチドよりも、sAPPαという抗アルツハイマー病ペプチドの割合が上昇した)

>This finding fits very well with the reduction in SirT1, since overexpressing SirT1 has previously been shown to increase ADAM10, the protease that cleaves APP to produce sAPP alpha and prevent amyloid-beta.
(この発見はアポE4によるSirT1の減少と非常にフィットする。なぜなら、以前SirT1の過剰発現はADAM10を増大させることが示されたからである。ADAM10はAPPを切断してsAPPαを産生するプロテアーゼであり、Aβの産生を阻止する)
 

銅を届けてALSを治療する

2016-02-05 06:06:00 | 
New therapy halts progression of Lou Gehrig's disease in mice

January 29, 2016

http://www.sciencedaily.com/releases/2016/01/160129090449.htm


(銅SODと亜鉛SODは生命にとって必須だが、ダメージを受けると有害になる

Credit: Photo courtesy of Oregon State University)

オレゴン州立大学の研究者は、筋萎縮性側索硬化症/amyotrophic lateral sclerosis(ALS)の研究に使われるマウスモデルの一種で疾患の進行を約2年間、本質的essentiallyに止めていると発表した
正常なマウスの寿命は約2年である

Neurobiology of Disease誌で発表された今回の研究結果は、これまでALSの治療法の探求の中で最も注目すべき一つである

「我々はこの治療がALSの進行を非常に強く止められることに衝撃を受けている」
オレゴン州立大学理科大学College of Scienceで生化学と生物物理学の特別教授distinguished professorである筆頭著者のJoseph Beckmanは言う
彼は州立大学のライナス・ポーリング研究所では主任研究員principal investigatorであり、Burgess and Elizabeth Jamieson Chair職の保持者でもある


何十年もの研究にもかかわらず、ALSへの治療は何一つ見つかっていない
できることと言えば寿命を1ヶ月足らず伸ばすだけである

今回の研究では『Cu-ATSM』という化合物による治療をマウスモデルで調査した
科学者は研究でのマウスの反応がヒトのそれと非常に似ているかもしれないと考えている

※銅-ATSM/Copper-ATSM(Cu-ATSM): ジアセチルビス(N(4)-メチルチオセミカルバゾナート二価銅/diacetylbis(N(4)-methylthiosemicarbazonato) copper(II)。Aはアセチル-、Tはチオ-、Sはセミ-、Mはメチル-。似たような化合物として、pyruvaldehyde bis(N4-methyl)thiosemicarbazone (PTSM)、glyoxal-bis-thiosemicarbazone (GTS) がある

ヒトが同じ反応をするかどうかはまだ不明だが、研究者たちはできるだけ早いヒトでの臨床試験ヘ向けて動いており、新しいアプローチの安全性と効能をテストしようとしている


ALSは1800年台後半に進行性の致命的な神経変性疾患として同定され、
1939年にはアメリカのベースボールで伝説的なルー-ゲーリックがALSと診断されたことにより全世界で知られるようになった

ALSは脊髄の運動ニューロンの細胞死と劣化によって起きることが知られており、
銅/亜鉛のスーパーオキシドジスムターゼ/superoxide dismutase(SOD)の突然変異と関連付けられている


Cu-ATSMは特にミトコンドリアが損傷した細胞へ銅を送り届けるのを助けることが知られ、そして脊髄の中にも到達する
ALSの治療が必要なのは脊髄の内部である

この化合物は毒性が低く、血液脳関門を容易に貫通し、ヒトでも既に低用量ではあるが使われている
実験動物でははるかに高いレベルでも十分な忍容性がある
Cu-ATSMを使用した後の不必要な銅は速やかに体内から排出される

しかしながら、専門家はこのアプローチが銅のサプリメントのように単純ではなく、銅がそれほど極端ではなくても毒性があると警告する
そのようなサプリメントはALSの患者にとって何ら価値はないだろうという


研究では新しい治療法を使うことでトランスジェニックマウスによるALSモデルの一種で進行を止めることが可能だった
このマウスは治療をしないと普通なら2週間以内に死ぬが、
治療をしたマウスの中には650日以上生き残るものがあり、
これはあらゆる過去の研究よりも500日以上も長い

実験の中には治療を開始してからそれを差し止めるものがあり、治療を止めたマウスは2ヶ月以内にALSの症状を示し始め、別の月には死んだ
しかし治療を再開するとマウスは体重が増加し、ALSの進行は再び止まって6ヶ月から12ヶ月生存した

「我々はなぜこの治療がマウスに効くのかについて確たる理解があり、
この治療は家族性familialと散発性sporadicのどちらでも有効であると予測される」
Beckmanは言う


今回の進歩は、ALSという疾患の進行への理解ならびに生化学の基礎研究における確かな科学的進歩を元にしている

今回の研究で使われたトランスジェニックマウスはヒトの『スーパーオキシドジスムターゼ/superoxide dismutase(SOD)のための銅シャペロン/copper chaperone for superoxide dismutase(CCS)』という遺伝子を持つ
CCSは銅をSODへと挿入するが、このSOD遺伝子を持つトランスジェニックマウスは治療をしないとすぐに死んでしまう

数年の研究の後、科学者たちは銅を届けることによるALS治療へのアプローチを開発した
それは脊髄の特定の細胞ならびに銅の欠乏によって弱ったミトコンドリアに銅を届けるというものだった
銅はSODを安定させる金属であり、抗酸化タンパク質のSODが適切に機能することは生命体にとって必須である
補因子cofactorである銅が欠乏するとSODはフォールディングされずに有害となり、運動ニューロンを殺す

このアプローチが有効なのはミトコンドリア機能の改善が一因であるというエビデンスがあり、これはおそらくパーキンソン病などの病態にも価値があるだろうと研究者は述べた

この治療は既にALSによって失われたニューロンを著しく回復できる可能性は低いが、診断後の開始でも進行を遅らせることは可能かもしれないと言う
ALSを引き起こすSODの突然変異のキャリアの治療にも使える可能性がある


http://dx.doi.org/10.1016/j.nbd.2016.01.020
Copper delivery to the CNS by CuATSM effectively treats motor neuron disease in SODG93A mice co-expressing the copper-chaperone-for-SOD.
CuATSMによる中枢神経系への銅の送達は、SODのための銅シャペロンを発現するSODG93A変異マウスにおける運動ニューロン疾患を効果的に治療する


Highlights
・SODG93Aを高発現するマウスでは、銅リガンドのCuATSMが寿命を最大25%まで延長する
・SODG93Aを高発現し、CCSも発現させたマウスでは、CuATSMは20ヶ月間生存する(500%)
・運動ニューロン疾患は、CuATSM治療を止めたり再開することにより、進行の停止や再発が可能である
・CCS発現と銅を組み合わせると、マウスの脊髄におけるSODタンパク質の量がほぼ倍になる
・この大多数の変異体SODは、成熟して活性のある状態(銅・亜鉛SOD)という形で見られる


Abstract
銅・亜鉛スーパーオキシドジスムターゼ/superoxide dismutase(SOD)の変異体の過剰発現はマウスにALSを誘発し、
これは最も広く使われてきた神経変性モデルである
しかしながら、過去20年間、このマウスの寿命を薬理学的な薬剤で延長できるのはほんの2、3週に過ぎなかった

『SODへの銅シャペロン/Copper-Chaperone-for-SOD (CCS) 』というタンパク質はSODに銅を挿入することにより成熟を完了させるが、逆説的に、マウスに『ヒトのCCS』と『変異体SOD』を共に発現co-expressionさせると、誕生から二週以内に死ぬ

我々はCCSと変異体SODの共発現が脊髄内の銅の欠乏を引き起こすと仮定し、これらのマウスの仔にPET画像化の薬剤であるCuATSMを投与した
CuATSMは数分以内に中枢神経系(CNS)へ銅を送達することが知られている

CuATSMはCCSxSODマウスの仔の早期の死亡を妨げ、
脊髄腹側/ventral spinal cord/hypochordalの銅・亜鉛SODタンパク質を著しく増大させた

注目すべきことにRemarkably、CuATSMの治療の継続はマウスの生存を平均18ヶ月延長した
CuATSMの治療を止めると、マウスはALSに関する症状を示し、3ヶ月以内に死んだ

CuATSMによる治療を再開すると症状を示していたマウスは回復した
これは疾患の進行を制御する手段をもたらす

すべてのヒトALS患者もCSSを発現することから、SOD突然変異による家族性ALSも、CCSxSODマウスと同様にCuATSMの治療に反応する可能性があるという希望をもたらす


Introduction
(略)
この問題に異なる角度からアプローチすべく、我々はどのプロセスがSODマウスにおける運動ニューロン疾患の発症を『加速』するのかを調べ始めた

これまで研究で最も急速にALSを加速したのは、ヒトのCCSがヒトのSODと共に発現する時である
SODG93Aを『低』発現し、CCSを共発現するマウスは、ALSによって30日から50日で死ぬ
これはヒトCCSを発現しないマウスよりも8倍も早い (Son et al., 2007)

なぜCCSがSODG93Aの有害性を加速するのかについて理解することは重要である
なぜなら、トランスジェニックマウスにおけるヒトSODG93Aに対するマウスCCSの比率と比較して
ヒトのALS患者におけるSODに対するヒトCCSの発現の比率がより高いからである (Rothstein et al., 1999).

Son and Elliott (Son et al., 2008) は、『低』発現SODG93AxCCSマウスでは
銅依存性のシトクロムcオキシダーゼ(複合体IV)の活性が大幅に低下することを明確に示した
これは脊髄で銅の欠乏が示されたことと一致する

in vivoでの銅の配分は、銅への強い親和性を持つSODとの『親和性勾配affinity gradients』によって決定される (Banci et al., 2010)
したがって、低発現SODG93AxCCSマウスにおけるCCSの過剰発現はミトコンドリアへの銅のインポートを損なうということが提案されている


最も有望なALS治療法の一つは、CuATSMと銅の複合体である
これは低発現SODG93AとSODG37RというALSマウスモデルに保護的であり、寿命をそれぞれ15%または26%延長する (Soon, CP, et al., 2011 and McAllum, EJ, et al., 2013)

CuATSMはPET画像化薬剤として低酸素状態のヒトの腫瘍で使われ (Dearling et al., 2002)、毒性が低く、BBBを通過してALS患者の脳に数分で届く (Ikawa et al., 2015)

ATSMの半分moietyは低分子の疎水性hydrophobicリガンドであり、2+酸化状態の銅と親和性が高い (Dearling and Packard, 2010)
CuATSMがPETスキャニング薬剤として使われる論理的根拠rationaleは、これが『低酸素の組織』で選択的に銅をリリースするためであり、そこでの銅は1+酸化状態に還元される (Donnelly et al., 2012)



質量分析法法から明らかになったのは、SOD変異マウスの脊髄ではSODタンパク質の約半分が『銅・亜鉛SOD』だったものの、残る半分のSODは亜鉛のみで、銅は含まれなかったということである (Rhoads, TW, et al., 2011 and Rhoads, TW, et al., 2013)



関連サイト
http://alexkazu.blog112.fc2.com/blog-entry-469.html
SOD1変異モデルマウスは、ヒトG93A変異SOD1遺伝子を23コピー保有しています。その結果、運動神経細胞で高濃度のヒトG93A変異SOD1蛋白質が発現することになります。
研究者らは、このモデルマウスを、銅シャペロン蛋白質(hCCS)過剰発現マウスと交配したところ、生存期間が極端に短縮することを発見しました。
SOD1蛋白質は、銅との親和性が最も強い蛋白質の1つであり、hCCSによる銅の枯渇が致死的であることをあらわしています。



関連サイト(PDF)
http://www.tcichemicals.com/ja/jp/support-download/tcimail/backnumber/article/135dr.PDF
さて,この SOD1 酵素における変異と ALS 発症とがどのように関連しているかが一番の関心事である。 SOD 酵素の方から言えば,変異による効果としてスーパーオキサイドイオンの分解能が問題となる。実際に,いくつかの変異型 SOD では SOD 活性は正常型の 40 ~ 50%までに落ち込んでいるが,しかしほとんど活性が落ちていないものも多い 2,9)。もともとスーパーオキサイドイオンそのものの酸化力は小さく,それ自身での細胞障害を起こす可能性は低いのである。
現在の中心的な考え方は,「変異SOD1が構造変化によって神経細胞に対する細胞毒性機能を新たに獲得したことが原因で,ニューロンの変性が起きる」というものである 11)。 これを,“ gain-of-function”と呼んでいる。
この変異 SOD に由来する毒性の原因はなんであろうか。多くの SOD の構造解析の結果から,変異はβバレル構造の骨格となる分子表面の β鎖に集中して存在しており,それが原因でβバレル構造が歪み, SOD1 サブユニットの二量体形成( 図 1) 12) が阻害され, SOD1 が不安定化することが指摘されている。この構造不安定性のためにSOD酵素の会合体形成が進行することが毒性の最大の原因であると考える研究者が多い 9,13,14)。

(略)以上の事実から,ALS と関連している SOD の変異は一般的には銅(II)イオンとは離れたところで生じており,その影響は銅(II)イオンの周りのわずかな構造変化しか引き起こさないが,しかし過酸化水素の捕獲・活性化とは密接に関連していると推定される。これらのことから変異SODではSOD作用の途中で生成する過酸化水素の高い反応性が原因で二量体構造の表面相互作用が変化し,モノマーへ解離が起きやすくなっていると推測され,これより“ gain-of-function”の発現機構が,初めて明らかにされたのである。 

最近の研究から,ALS 発症とその進行の機構は違うという考えが提案されている。すなわち,会合体の形成は必ずしも ALS 発症とは関係していないという考えである 32)。これはアミロイド蛋白の会合とアルツハイマー病に対する最近の考えと似ている 33,34)。ALS の場合,構造的に不安定な二量体SODからミスフォールデングした SODモノマーが形成し, それが他の分子と会合することで細胞死を導くと考えたほうが合理的であろう 35-37)。

過酸化水素で wild-type SOD も構造変化を受ける事実からして 29), SOD 二量体構造がいわゆる“ gain-of-function” 以外の原因で壊れる可能性を調べることは, 孤発性ALS発症を考える上でも非常に重要な問題であると思っている。酸化ストレスというと,「活性酸素」となるが,私は過酸化水素と鉄イオンが,酸化ストレスを引き起こす最大の原因であると指摘してきた 6,30)。多量のnon-specific iron ionの形成は,症状的には「鉄過剰症」と呼ばれているが,これは単に鉄イオンを過剰に摂取する以外に,アルミニウム・マンガンイオンの多量の摂取・蓄積によっても引き起こされるので,注意しなければいけない 6,41)。最新のレビューに,「アルツハイマー病に対するアルミニウムイオン原因説には科学的根拠は得られておらず, この説への関心は弱まっている」 , と記載されているが 42),これはとんでもない認識不足である 41)。



関連サイト
http://www.als.gr.jp/staff/document/kiso/kiso_41.html
変異SOD1は活性酸素種の過剰な産生を引き起こし、増大した酸化ストレスがβ-カテニン/AKT/ FoxO1経路へ作用し癒着帯タンパクの発現を変え、血液脊髄関門(blood spinal cord barrier: BSCB)の完全性を障害していると考えられた。
 

LRRK2はどのようにしてパーキンソン病に関与するのか

2016-02-02 06:06:35 | 
Identifying another piece in the Parkinson's disease pathology puzzle

International consortium identifies and validates cellular role of priority Parkinson's disease drug target, LRRK2 kinase

January 28, 2016

http://www.sciencedaily.com/releases/2016/01/160128133042.htm

公私が協力する国際的な研究コンソーシアムにより、パーキンソン病の主な薬剤標的であるLRRK2キナーゼの細胞内での役割が明らかになった

※コンソーシアム/consortium: 協会、共同体

オープンアクセス誌のeLifeで発表された今回の重要な発見により、パーキンソン病の治療開発や介入試験に役立つ全く新しい経路が明らかにされた

マックス・プランク生物化学研究所、ダンディー大学、マイケル・J・フォックス・パーキンソン病リサーチ財団(MJFF)、グラクソ・スミスクライン社(GSK)、MSD社からなる研究チームは、厳密でシステマティックな試験を実施するための独特なツールと専門技術を提供し、
LRRK2キナーゼが特定のRabタンパク質(Rab3、Rab8、Rab10、Rab12)の不活化により細胞内輸送を調節することを明らかにした

LRRK2遺伝子の突然変異はパーキンソン病の要因の一つとして非常によく知られており、製薬会社はLRRK2キナーゼの変異の影響を修正してパーキンソン病を治療すべく阻害剤を開発中である
今回の新たな画期的な発見は『突然変異体のLRRK2』と『Rabの機能の不適切な不活化』を結びつけるもので、これはRabタンパク質の役割について20年以上蓄積されてきた知識を解き明かすunlock
この知識は今や統合されて完全なものとなりintegrated、パーキンソン病の過程におけるLRRK2機能不全についての我々の知識を著しく改善する

「パーキンソン病のような脳の疾患につながる病的なカスケードには、おそらく多くの細胞内の要素が関与する」
マックス・プランク生物化学研究所のMatthias Mann, PhDは言う

「LRRK2の基質を同定したことにより、我々はこのパズルの中心となるピースを手に入れる
これは疾患プロセスに介入するためのもう一つの場所となるかもしれない」

マイケル・J・フォックス・パーキンソン病リサーチ財団のMarco Baptista, PhDは次のように言う
「LRRK2の基質としてRabタンパク質を同定したことにより我々はLRRK2阻害剤の影響を計測するためのツールを手に入れ、LRRK2レベルだけでなくLRRK2機能への効果が測定できるようになる
この重要な要素によりパーキンソン病の治療開発が前進するだろう」


このMJFFを中心とするコンソーシアムではいくつかのツールを組み合わせて研究を実施した
GSKはLRRK2遺伝子の最も一般的な変異を持つノックインマウス・モデルを作成し、
もう一つのノックインマウスはMJFFが作成した
LRRK2キナーゼ阻害剤はGSKとメルク/Merckが用意し、そして最先端の質量分析が使用された
これらのツールと、そしてパートナー同士を結びつける協力の心が今回の発見に必要だったのである


http://dx.doi.org/10.7554/eLife.12813
Phosphoproteomics reveals that Parkinson's disease kinase LRRK2 regulates a subset of Rab GTPases.
リン酸プロテオミクスによりパーキンソン病に関与するLRRK2キナーゼがRab GTPアーゼのサブセットを調節することを明らかにする

Abstract
Park8/LRRK2(Leucine-rich repeat kinase 2)の病的な突然変異ではG2019Sが最も一般的なアミノ酸置き換えであり、この変異はLRRK2キナーゼを2倍から3倍活性化する
しかしながら、LRRK2の生理的な基質についてのコンセンサスはほとんどない

我々はリン酸プロテオミクスphosphoproteomics、遺伝学、薬理学を組み合わせることにより、GTPアーゼのRabのサブセットをLRRK2の重要な基質として明確にしたunambiguously identify

LRRK2はin vivoとin vitroでこれらを直接リン酸化する
リン酸化される箇所はスイッチIIドメインに存在し、このアミノ酸残基は進化的に保存されている

様々な機能的ドメインを位置づける病原性pathogenicのLRRK2変異体はRabのリン酸化を増大させ、『Rab GDP解離抑制蛋白質/Rab GDP dissociation inhibitor(Rab GDI/ラブジーディーアイ)』のような調節性タンパク質への親和性を強く低下させる

我々の発見は真のLRRK2基質ならびにRabのまったく新しい調節メカニズムを明らかにする
それはRabをパーキンソン病へと結びつける

※Rab GDI: 低分子量Gタンパク質の一種。GDPと結合しているRabは不活性であり、Rab GDIはこれと結合して活性化を阻害する


Figure 7(PDF)
 LRRK2(野生型)─(リン酸化)→[細胞質]GDI+Rabの解離→[細胞膜]GEF等によるRabの活性化

 LRRK2(G2019S/R1441G変異)─(リン酸化↑↑)→[細胞質]GDI+Rabの解離↑↑→[細胞膜]GEF等によるRabの活性化↑↑



関連サイト
http://first.lifesciencedb.jp/archives/6527
RAB7L1とLRRK2は協調してニューロンにおける細胞内輸送を制御するとともにパーキンソン病の発症リスクを決定する
RAB7L1のノックダウンによってもリソソームの肥大化がみられること,同時に,リソソームの機能に重要な加水分解酵素の輸送を担うカチオン非依存性のマンノース6-リン酸受容体のリソソームへの局在が減少することが見い出された.
一方,RAB7L1の過剰発現によりG2019S変異をもつLRRK2の発現によるリソソームの肥大とマンノース6-リン酸受容体のリソソームへの局在の低下は回復した.
 

凝集しやすい領域を保護する構造

2016-01-28 06:06:17 | 
Milestone for Parkinson's research: The amyloid protein α-synuclein has been visualised in the cell for the first time

January 26, 2016

http://www.sciencedaily.com/releases/2016/01/160126090055.htm


(生きた健康な細胞でのα-シヌクレインタンパク質の状態
中心のNAC領域は十分に保護されている(灰色の棒線)
この保護により細胞質(白)や他の成分との相互作用が確実に起きなくなる
神経変性的な変化の場合、灰色の領域はからみ合いgrow together、アミロイド構造を形成する
Credit: Philipp Selenko)

α-シヌクレインというタンパク質はパーキンソン病や他の神経変性疾患で重要な役割を演じる
パーキンソン病に典型的なアミロイド沈着内でのα-シヌクレインの構造についてはかなり知られているが、
健康な細胞での元々の状態についてはこれまでまったく知られていない

ドイツ・ベルリンのライプニッツ分子薬理学研究所/Leibniz-Institut für Molekulare Pharmakologie(FMP)の科学者は、高解像度の分光器spectroscopyを使って健康な細胞内におけるα-シヌクレインを初めて可視化した
驚いたことに、α-シヌクレインは構造化されていない状態unstructured stateだった

NatureとNature Communications誌で発表される今回の発見は世界中の研究にとって画期的な出来事milestoneである
疾患の経過を通じてこのα-シヌクレインタンパク質の構造が劇的に変化することはこれまで知られていなかった


パーキンソン病やアルツハイマー病、ハンチントン病のような神経変性疾患には一つの共通点があり、いわゆるアミロイドの凝集したものが脳に沈着している
アミロイドとは断片化したタンパク質の包括的umbrellaな用語であり、人体によって作られ最終的に神経細胞の死につながるものを指す
α-シヌクレインタンパク質はアミロイド凝集体の主な構成要素の一つであり、したがってパーキンソン病の発症に大きく関与する

凝集体の構造的な性質について知られていることは多い
例えばα-シヌクレインは非常に固体的な構造を持つが、これは特定のパターンに従った青写真/計画blueprintを基盤としていることを意味する
そしてそれとは対照的に、そこから分離して精製されたα-シヌクレインがまったくどんな構造も持たないno structure whatsoeverことが知られている

※whatsoever: whateverの強意形。否定+名詞+whatever「少しの~も(ない)」

しかしながら、これまでα-シヌクレインが健康な細胞の内部でどのような姿をしているかは知られていなかった
そして病理的な『変化』は、そのタンパク質の元々の状態がわからなければ完全には説明することはできない

ドイツ・ベルリンのライプニッツ分子薬理学研究所(FMP)の研究チームはα-シヌクレインタンパク質の構造を詳しく調べ、
ニューロンとそれ以外の細胞におけるα-シヌクレインを可視化して証明することに世界で初めて成功した

それを可能にしたのは核磁気共鳴分光学/nuclear magnetic resonance spectroscopy(NMR)と電子常磁性共鳴分光学/electron paramagnetic resonance spectroscopy(EPR)という二つの方法の組み合わせであり、原子レベルの解像度でタンパク質構造の相対的配置を記述することが可能になった


『我々は今、α-シヌクレインの原点を知る』
"Now we know the starting point of α-synuclein"

「我々はα-シヌクレインが精製した状態でも構造化されていない状態unstructured stateであることを発見した」
Philipp Selenko博士が説明する

「これは実際、かなり驚くべきことだ
なぜなら、そのような構造化されていない状態のタンパク質が細胞内の環境で存在し続けられるというのはこれまで思いもよらないことだったからだ」

しかしながら、見たところ細胞は実際、構造化されていないタンパク質を扱えているようである
Nature誌に発表された画像は、健康な細胞内でこのタンパク質がいわゆる『NAC領域』をどのようにして無関係の分子から保護するのかを示す

※NAC: non-amyloid-β component「非アミロイドβ成分」。凝集しやすい傾向を持つ領域

この中心領域は、高度に構造化されたアミロイド凝集体の発達において、決定的な役割を演じる
このα-シヌクレインの保護的な性質がなぜ神経変性疾患で失われるのかは、将来の研究で扱うであろう中核的な質問の一つである

「病的な状態では、NAC領域が他の分子にとってアクセス可能になる程度までα-シヌクレインは構造的に変化するはずだ
そうしてこの領域は凝集することが可能になり、成長してアミロイド構造を形成する」


タンパク質が構造を変化させるのを観察する
Watching the protein change its structure

このベルリンの研究チームの研究結果は、これらの構造変化を解明するための基礎を提供する
研究チームは既にこれから数ヶ月の具体的なプランを立てている

いくつかの巧みな方策tricksにより、人工的に老化した細胞を作成してアミロイドタンパク質を導入し、それを今回と同じ分光学的手法spectroscopic proceduresで観察する
パーキンソン病などの神経変性疾患は加齢と関連する疾患であるため加齢のシミュレーションを実施し、最終的には疾患の起源と一致する状態を構築したいと研究者は考えている

「我々はNAC領域の保護がだんだん失われるにつれてタンパク質がどのようにしてアミロイドのような構造を形成し始めるかを観察したいと考えている」
研究グループのリーダーSelenkoは言う


この面に関して、Nature Communications誌で発表された研究でチームは既に刺激的な発見をしている

彼らは年老いた細胞では普通に見られるようにα-シヌクレインの複数の箇所にダメージを与え、
それを若い健康な細胞に導入した

その結果、細胞がどのようにして欠陥を修復できたかを観察した
その修復はある領域では驚くべき完璧さだったが、別の領域ではそうではなかった
修復されなかった領域は、タンパク質の機能にとって非常に重要なものだった


パーキンソン病の原因の発見へと近づきつつある
The discovery of the cause of the disease is getting closer

彼らはこれからの研究で、どのような欠陥がこの修復メカニズムの失敗を引き起こし、それにより神経変性的なプロセスの基礎を形作るのかについての包括的な洞察を得たいと考えている

Philipp Selenkoによると、それにより疾患の原因の発見への鍵をとうとうつかむことができるという
それはいつの日か今回の研究結果を基礎として開発される有効な薬剤を使って、破壊的なプロセスへ介入することにつながる

「α-シヌクレインタンパク質の最初の状態を発見したことにより、我々はその方向へと決定的な一歩を進んだ」
Selenkoは言う


http://dx.doi.org/10.1038/nature16531
Structural disorder of monomeric α-synuclein persists in mammalian cells.


http://www.nature.com/nature/journal/vaop/ncurrent/fig_tab/nature16531_F4.html
Figure 4
αSyn interactions and conformations in cells.



http://dx.doi.org/10.1038/ncomms10251
Intracellular repair of oxidation-damaged α-synuclein fails to target C-terminal modification sites.
 



α-シヌクレインの伝わり方はプリオンとは異なる

2016-01-10 06:06:45 | 
Parkinson's disease: New insights into a traveling protein

A laboratory study indicates that one of the main proteins involved in Parkinson's disease pathology does not behave as a 'prion'

January 5, 2016

http://www.sciencedaily.com/releases/2016/01/160105133128.htm

パーキンソン病ではα-シヌクレインというタンパク質が患者のニューロン内に凝集し、脳の相互につながった領域を伝わって広まるpropagateようである
これがどのようにして起きるのかはほとんどわかっていないが、α-シヌクレインが『プリオン』のようにふるまう可能性がこれまで提案されている
それによると、このタンパク質の『病的な形態pathological forms』は、正常なα-シヌクレインのコンフォメーション/構造を変化させることを可能にし、
したがって凝集を引き起こしてニューロンからニューロンへの伝播propagationをできるようにするかもしれないという(この現象をシーディングseedingと呼ぶ)

※seed: (vt) 種をまく,生長の因子を供給する,種晶を入れる. (n) 種晶(過飽和溶液から結晶を析出するために加える微小結晶)

神経変性疾患ドイツセンター/German Center for Neurodegenerative Diseases (DZNE) による最近の研究で、α-シヌクレインによる凝集、拡散、病理は、必ずしもプリオンのようなシーディングを伴わないことが明らかにされた
シーディングの代わりに、それらはα-シヌクレイン発現の促進ならびにモノマー形態とオリゴマー形態両方のニューロン間の移動passageによって引き起こされる可能性があるという
このDonato Di Monte教授を中心とする研究報告はBRAIN誌で報告される


パーキンソン病の病理発生におけるα-シヌクレインの決定的に重要criticalな役割を強調するエビデンスは数多い
特に、α-シヌクレインはレヴィ小体というニューロン内の封入体inclusionの主な構成要素であり、この封入体がパーキンソン病の脳内に徐々に蓄積する
α-シヌクレインの病理はしばしば延髄medulla oblongataという脳の下部領域から始まり、延髄から上方の中脳~皮質領域へと拡がっていく
今回の研究でDZNEの研究者はこの現象をマウスで模倣した
テーラーメイドなウイルスベクターを使ってヒトのα-シヌクレイン遺伝子の複写図blueprintをマウスの延髄のニューロン特異的に導入した結果、これらの細胞は比較的多い量の外因性ヒトα-シヌクレインを作って蓄積し始めた


長距離のタンパク質伝播
Long-distance protein transmission

Di Monte教授たちはヒトα-シヌクレインを認識する特異的な抗体を用いて、このタンパク質がマウスの脳内を拡散していく様子を6週間から12週間かけて追跡した
さらに、外因性ヒトα-シヌクレインと内因性α-シヌクレインを発現するマウスを、外因性ヒトα-シヌクレインは発現するがマウスの内因性α-シヌクレインを持たない変異体マウスと比較し、その拡散spreadingする様子と病理を検討した

実験の結果、両方のグループで、ヒトα-シヌクレインの発現上昇により延髄から吻側rostralの脳領域へと拡散diffusionが進行した
このタンパク質の拡散spreadingは少なくとも一つのトランスtransなシナプスを越えたジャンプを伴い、
解剖学的な相互接続経路を経由する拡散と一致するステレオタイプなパターンstereotypical patternをたどったfollow

※trans: トランス。こちら側から向こう側へ

さらに、レシピエント側ニューロンへ拡散したタンパク質の蓄積は、ニューロンへのダメージのエビデンスを伴った(ニューロンが損傷したという証拠が見られた)


プリオンとの相違
Unlike prions

プリオン様のシーディングメカニズムからの予想では、
ドナーのニューロンによって作られた異常な形態のα-シヌクレインと
レシピエントのニューロンが発現する『汚染されていないuncorrupted』α-シヌクレインとの間の相互作用により
α-シヌクレインの拡散spreadingは促進されるはずである

「言い換えれば、」
Di Monte教授は言う
「我々の予想では、内因性のα-シヌクレインを持たない変異体マウスでは、α-シヌクレインタンパク質の伝達transmissionの効率は低下less efficientし、病理は目立たなくなるless pronouncedと思われた
また、拡散と病理は『アミロイドを生み出すamyloidogenic形態のα-シヌクレイン』の蓄積と関連するだろうとも予測していた
不溶性の線維状凝集物を作ることができるのは、そのような形態のタンパク質である」

これらの予測とは反対に、内因性α-シヌクレインを持たない変異体マウスにおいて、α-シヌクレインの拡散は相殺されるよりもむしろ促進された
さらに、α-シヌクレインタンパク質の拡散とそれにより引き起こされたニューロン病理の原因は、線維状ではないnon-fibrillar、非線維状のα-シヌクレインのトランスなニューロン伝達passageだった

研究者は次のように説明する
「我々はこれらの研究結果が疾患の病理発生にとって多くの重要な意味を持つと考えている
我々はα-シヌクレインの長距離の拡散diffusionが必ずしもプリオン様の形態の生成を必要としないと結論する
加えて、研究データからは拡散spreadingと病理がただ単にα-シヌクレインの過剰発現によって引き起こされる可能性があり、
少なくとも初めは、モノマーまたはオリゴマーなα-シヌクレイン、もしくはモノマーとオリゴマーの両方によって、仲介されることが明らかになった」


動くmovingタンパク質とともに進むmoving
Moving forward with studies on a "moving" protein

α-シヌクレインがプリオンのようにふるまうかもしれないという可能性は、他のプリオン病(クロイツフェルト-ヤコブ病)と同様、パーキンソン病の症例は接触伝染性の形態のタンパク質contagious protein speciesへの曝露から生じるのかもしれないという疑いを引き起こしてきた

Di Monte教授は次のことを強調する
「パーキンソン病が伝染病であることを示す徴候はまったく存在しない
実際、我々の新たな研究の重要な貢献は、ニューロンからニューロンへのα-シヌクレインの伝達とタンパク質蓄積のようなパーキンソン病の病理発生の重要な側面がどのようにしてプリオンのようなものではないメカニズムによって説明できるかということである」

DZNEのDi Monte教授たちはα-シヌクレインについての研究を続けるつもりであり、彼らは特に病理的/臨床的な疾患の進行を遅くするか止めるためにα-シヌクレインをどのように標的にできるかに焦点を合わせている


http://dx.doi.org/10.1093/brain/awv376
Brain propagation of transduced α-synuclein involves non-fibrillar protein species and is enhanced in α-synuclein null mice.
形質導入されたα-シヌクレインの脳内伝播は非微小繊維状タンパク質種を必要とし、それはα-シヌクレイン・ヌルのマウスで促進される

Abstract
ニューロンからニューロンへの伝達と蓄積は、ヒトのシヌクレイン病synucleinopathyにおける病理発生的な役割と関連するα-シヌクレインの特性attributeである
線維状α-シヌクレインの実質内への注入は内因性α-シヌクレインの発現を必要とするメカニズムによりアミロイド生成性タンパク質種の広範な伝播を引き起こし、
そしておそらく、そのミスフォールドされたコンフォーマーmisfolded conformerによる構造的な改悪structural corruptionが病理的なシードseedとして働く

※conformer: コンフォーマー。(異常な)プリオンタンパク質の構造

今回我々はそれとは別の、脳内α-シヌクレイン長距離拡散のもう一つのパラダイムを記述する
それはモノマーとオリゴマーのどちらかまたは両方のニューロン間の移動を伴いinvolve、
そして内因性α-シヌクレインタンパク質には依存しない


ウイルスベクターによる形質導入後、
延髄medulla oblongataのドナーニューロン内にはモノマー、オリゴマー、線維状のタンパク質が検出されたが、
橋ponsのレシピエントニューロンの軸索には線維状α-シヌクレインの免疫活性が検出されなかった
このことが示すのはニューロン間を主に伝わるのが非線維状の形態のα-シヌクレインであり、脳内を拡散して初期のニューロン損傷につながるということである



関連記事
http://www.sciencedaily.com/releases/2014/09/140929174413.htm
α-シヌクレインは通常の濃度ではマルチマーmultimerとなってシナプスに集まり、シナプス小胞のクラスター化を促進し、その動きを制限している
シナプス小胞をシナプスでクラスター化することにより、α-シヌクレインは神経伝達を根本的fundamentallyに制限する
それは信号に似ていなくもない--自動車を交差点に集めて交通の流れを遅くし、全体の流れを調節している
「通常の濃度でα-シヌクレインは神経伝達を阻害せずむしろ管理しているが、
疾患ではそのレベルが異常に上昇することにより神経伝達が強く抑制されてシナプス毒性につながる」

http://dx.doi.org/10.1016/j.cub.2014.08.027
α-Synuclein Multimers Cluster Synaptic Vesicles and Attenuate Recycling.
 

パーキンソン病ではリソソームによるオートファジーが低下する

2016-01-08 06:09:12 | 
A glitch in the recycling: Study identifies key factor in the neural death that causes Parkinson's disease

April 28, 2015

Source: ルートヴィヒがん研究センター

http://www.sciencedaily.com/releases/2015/04/150428082207.htm

パーキンソン病のニューロンには、しばしばレヴィ小体という奇妙な塊が含まれている

パーキンソン病では中脳のドーパミン作動性ニューロンにLmx1bが少ない
転写因子のLmx1bは『リソソームによるオートファジー』というプロセスにとって重要な多くの遺伝子の発現を制御する

オートファジーは異常な折りたたみタンパク質を分解するプロセスで、パーキンソン病ではこのプロセスが損なわれていると考えられている

 Lmx1b→リソソームによるオートファジー─┤レヴィ小体


http://dx.doi.org/10.1038/nn.4004
Dopaminergic control of autophagic-lysosomal function implicates Lmx1b in Parkinson's disease.
ドーパミン作動性ニューロンのオートファジー-リソソーム機能の制御は、Lmx1bのパーキンソン病への関与を示す

Abstract
ニューロンの性質の維持ならびに疾患における発達上の転写因子developmental transcription factorsの役割はほとんど理解されていないままである

Lmx1aとLmx1bは、腹側ventralの中脳ドーパミン/midbrain dopamine(mDA)ニューロンの早期の特殊化specificationにとって必須の、鍵となる転写因子である

今回我々は、中脳ドーパミンmDAニューロンの特殊化specificationの後に条件付きでLmx1aとLmx1bの遺伝子を除去することにより、パーキンソン病に早くから見られる細胞の異常と高い類似性を示す異常が起きることを示す

我々はLmx1bがオートファジー - リソソーム経路の正常な実行に必須であり、
ドーパミン作動性神経末端の完全性ならびに中脳ドーパミンニューロンの長期生存にも必要であることを示す

特に、ヒトのLMX1Bの発現はパーキンソン病に罹患した脳組織の中脳ドーパミンニューロンにおいて減少していた

ゆえに、これらの結果は中脳ドーパミンニューロンの機能にとってLmx1bが持続的に必須であることを明らかにし、その機能不全はパーキンソン病の病理発生を示唆するものである




関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/3236d7fa036fe0a6a5c93efef5d80fc9
Lmx1aは皮膚細胞をドーパミンニューロンへと変える際に必要な転写因子



関連サイト
http://first.lifesciencedb.jp/archives/6527
RAB7L1とLRRK2は協調してニューロンにおける細胞内輸送を制御するとともにパーキンソン病の発症リスクを決定する
RAB7L1のノックダウンによってもリソソームの肥大化がみられること,同時に,リソソームの機能に重要な加水分解酵素の輸送を担うカチオン非依存性のマンノース6-リン酸受容体のリソソームへの局在が減少することが見い出された.
一方,RAB7L1の過剰発現によりG2019S変異をもつLRRK2の発現によるリソソームの肥大とマンノース6-リン酸受容体のリソソームへの局在の低下は回復した.
 

ドーパミンポンプの障害が脳細胞を自滅させる

2016-01-07 06:07:21 | 
Hunting down trigger for Parkinson's: Failing dopamine pump damages brain cells

June 16, 2014

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/06/140616082146.htm

ウィーン医科大学脳研究センターの研究グループは、パーキンソン病と健康な人の細胞内のドーパミンポンプの機能を調査した
研究の結果、パーキンソン病患者のポンプはドーパミンをくみ出してたくわえる効率が通常より低いことが判明した
ドーパミンが正しく貯蔵されないと、それは神経細胞の自滅を引き起こす


ドーパミンは脳内で異なるニューロン間の情報交換を仲介し、それを助けるために、通信する神経細胞間between the corresponding nerve cellsの接触する箇所で絶えず作り直されている
ドーパミンは小胞vesicleという構造の中に貯蔵されて必要な時に放出されるが、パーキンソン病ではこれらの神経細胞が死んでしまうためにドーパミンが欠乏し、動きの遅れ、筋肉の硬直、振戦のような動作の問題を引き起こす

50年以上も前、ウィーン大学の薬理学研究所(現在のウィーン医科大学)のHerbert EhringerとOleh Hornykiewiczはパーキンソン病が脳の一定の領域におけるドーパミンの欠乏によって引き起こされることを発見した
この発見によりHornykiewiczはドーパミンの代わりとしてアミノ酸のL-DOPAをパーキンソン病の治療に採り入れることが可能になり、この病態の症状を数年間管理できるmanageableようにした

パーキンソン病で神経細胞が死ぬ理由は完全には理解されておらず、それがいまだに疾患の発症を防ぐことができない理由である
しかしながら、ドーパミン自体が正しく小胞に貯蔵されないと、影響を受けた神経細胞に自滅self-destructionを引き起こす


そして今、疾患の原因究明に向けた研究が一歩前進する
ウィーン医科大学の脳研究センターのChristian Piflと現在87歳のOleh Hornykiewiczを中心とする研究チームは、亡くなったパーキンソン病患者の脳と神経学的に健康な対照となる死者の脳を比較した
研究チームはドーパミンを貯蔵する小胞を脳から取り出して調製prepareすることに初めて成功し、それによりVMAT2というポンプでくみ上げてドーパミンを貯蔵する能力を定量的に計測することが可能になった
計測の結果、パーキンソン病患者の小胞のポンプはドーパミンをくみ出す効率が低いless efficientlyことが判明した

Christian Piflが説明する
「パーキンソン病患者の小胞におけるポンプの欠陥とそれによるドーパミン貯蔵能力の低下は、神経細胞内のドーパミン蓄積collectingにつながり、有毒な効果を引き起こして神経細胞を破壊する」


http://dx.doi.org/10.1523/JNEUROSCI.5456-13.2014
Parkinson's Disease a Vesicular Dopamine Storage Disorder? Evidence from a Study in Isolated Synaptic Vesicles of Human and Nonhuman Primate Striatum.
パーキンソン病は小胞のドーパミン貯蔵の疾患か? ヒトとヒト以外の霊長類の線条体から単離したシナプス小胞における研究からのエビデンス

Abstract
ニューロン内でのドーパミンは大部分がlargelyシナプス小胞に閉じ込められ、小胞内では代謝による分解から保護される
しかしながら、細胞質に遊離したドーパミンは細胞毒のフリーラジカルの形成を生じさせる
通常、細胞質のドーパミン濃度はvesicular monoamine transporter 2/小胞モノアミントランスポーター2 (VMAT2) の継続的なポンプ活動により最小限at a minimumに保たれる
細胞質ドーパミンのVMAT2による制御の欠陥は、ドーパミンによって生成されるオキシラジカルoxy radicalsのレベルを増大させ、最終的にはドーパミン作動性ニューロンの変性という結果になる

今回我々は6人のパーキンソン病患者と4人の対照群の線条体からドーパミンを貯蔵する小胞を初めて単離し、小胞ドーパミン貯蔵メカニズムのいくつかの指標indexを計測した

我々の発見は次の通りである
(1) 小胞によるドーパミン取り込みと、VMAT2に選択的な標識labelである重水素標識ジヒドロテトラベナジン/[3H]dihydrotetrabenazine は、パーキンソン病で強く減少していた(それぞれ87–90%、71–80%の減少)

(2) ドーパミン神経末端の喪失を修正後、VMAT2のトランスポート箇所によるドーパミンの取り込みはパーキンソン病の線条体と被殻とで有意に減少していた(それぞれ53%、55%の減少)

(3) VMAT2によるトランスポートの欠陥はパーキンソン病に特異的であるように思われた
その理由は、『MPTPによる黒質から線条体への神経変性/nigrostriatal neurodegeneration』が同程度のカニクイザル/Macaca fascicularis(MPTP群7匹、対照群8匹)には、この欠陥が存在しなかったからである

※黒質線条体の/nigrostriatal: 黒質緻密部から線条体(尾状核と被殻)へ向かう線維結合

(4) 小胞の標本preparationにおけるドーパミンの外向き流束の研究efflux studiesと酸性化の計測measurements of acidificationにより、ドーパミン貯蔵の欠陥impairmentはVMAT2タンパク質それ自体に局在することが示唆される

以上から我々は、VMAT2の欠陥defectは、パーキンソン病における黒質線条体ドーパミンニューロンの細胞死につながるメカニズムを促進する早期異常である可能性を提案する



<コメント>
 ドーパミン─(VMAT2)→小胞取り込み

 ドーパミン─(ミトコンドリア外膜/MAO)→DOPAL─(細胞質/ALDH1A1)→DOPAC



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http://www.sciencedaily.com/releases/2015/03/150302121504.htm
http://www.dm-net.co.jp/calendar/2015/023441.php
脳のインスリン抵抗性状態では、ドーパミンを分解するMAOAとMAOBという2つの酵素の産生がミトコンドリアで増加してうつ病につながる

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25733901
Insulin resistance in brain alters dopamine turnover and causes behavioral disorders.
脳内でインスリン受容体をノックアウトすると、ミトコンドリアの酸化活性が低下、ROSが増加、線条体striatumと側坐核nucleus accumbensには酸化した脂質とタンパク質のレベルが増大し、MAOAとMAOBが増加してドーパミン代謝が増大した

 インスリン─(インスリン受容体)─┤MAOA,MAOB



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農薬のベノミルはALDHを阻害してDOPALを蓄積させる
 

農薬のベノミルはALDHを阻害してDOPALを蓄積させる

2016-01-06 06:34:31 | 
Pesticides and Parkinson's: Further proof of a link uncovered

January 4, 2013

http://www.sciencedaily.com/releases/2013/01/130104101427.htm

この数年の間、カリフォルニア大学ロサンゼルス校/UCLAの神経学者は農薬とパーキンソン病との間に関連が存在するという証拠を集めてきたbuild a case
パラコートparaquat(ジメチルビピリジウム系除草剤)、マンネブmaneb(カルバミン酸塩系抗菌剤)、ジラムziram(ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛)のような一般的にカリフォルニアのセントラルバレー等で噴霧されてきた化学物質は、
これまで農場労働者farmworkerだけでなく単に近くに住んでいるか働いていて吹き流された粒子を吸い込んだ可能性がある人々の疾患の増加と関連付けられてきた

今回の研究でUCLAの科学者は、それとは別の農薬であるベノミルbenomylとパーキンソン病とのつながりを発見した
ベノミルの毒物学的な影響は環境保護庁/Environmental Protection Agencyによって禁止された後もなお約10年間残存するlinger

さらに重要なこととして、ベノミルによって始まる一連の有害damagingなイベントは、まったく農薬に曝露したことがないパーキンソン病の患者でも起きるかもしれないことを研究は示唆する
研究の首席著者でありUCLAで神経学の教授であるJeff Bronsteinによると、ベノミルへの曝露は細胞内で一連のイベントを開始してパーキンソン病につながる可能性があるという
この農薬はALDH(アルデヒド脱水素酵素/aldehyde dehydrogenase)という酵素を阻害してDOPALの制御をできないようにする
DOPALは脳内で自然に生じる毒素で、ALDHによって抑制されないとニューロンに蓄積してダメージを与え、パーキンソン病の発症リスクを上昇させる

研究者はベノミルに関する彼らの発見がパーキンソン病の患者すべてに一般化されるかもしれないと考えている
ALDH活性を保護する新たな薬の開発によって、個々人が農薬に曝露したかどうかにかかわらずいつかは疾患の進行の抑制を助けるだろうと彼らは言う
この研究はPNASで発表される

パーキンソン病は世界で数百万人が罹患する消耗性の神経変性疾患で、その症状は主に中脳の黒質という部分の神経変性の進行にともなって増していく
この領域は神経伝達物質のドーパミンを産生し、そして中脳の損傷は疾患と関連する
一般的にパーキンソン病の症状が現れるまでにはドーパミン作動性ニューロンの半分以上が失われている


筆頭著者のArthur G. Fitzmauriceによると、これまで遺伝性のパーキンソン病を引き起こす遺伝子多型が同定されてきたが、パーキンソン病で遺伝子が原因なのはほんのわずかであるという

「結果として、この疾患では環境要因が重要な役割を演じるのはほとんど確実である」
Fitzmauriceは言う

「関連するメカニズムの理解、特に何が原因で選択的にドーパミン作動性ニューロンが失われるのかを理解することは、疾患の発症を説明するための重要な手がかりを与えるだろう」


ベノミルは毒物学的な証拠により肝臓の腫瘍や脳の奇形、生殖への影響、発癌につながる可能性があると明らかにされるまで30年以上の間アメリカで広く使われていたが、2001年に禁止された

研究者はベノミルとパーキンソン病との間に関係があるのかどうかを研究しようとした
それは農薬の使用と慢性的な曝露から10年以上という長期間の毒物学的な影響の可能性を実証するだろう
しかし、農薬とパーキンソン病との間の直接の因果関係はヒトの試験で明らかにすることはできないため、研究者は実験モデルでの曝露が疾患の病理学的な特徴のいくつかを再現できるかどうかを決定しようとした

研究者は初めにベノミルの培養細胞での影響をテストして、この農薬がドーパミン作動性ニューロンにダメージを与えるか破壊することを確認した

彼らは次に農薬をゼブラフィッシュのパーキンソン病モデルでテストした
この淡水魚freshwater fishは研究で広く使われるが、その理由は遺伝子の操作が簡単で、早く育ち、そして透明なので、生物学的なプロセスの観察や計測が他の生物よりも簡単だからである
蛍光で染色してニューロンの数を数えることにより、このゼブラフィッシュで著しくニューロンが失われ、それがドーパミン作動性ニューロンだけで起きることを彼らは発見した
他のニューロンは影響を受けないままだった


これまでの証拠はα-シヌクレインというタンパク質をパーキンソン病の原因として特に示してきた
このタンパク質は全てのパーキンソン病患者に共通に見られ、
凝集して結合すると有害になりニューロンを殺して疾患につながる経路を作ると考えられている

ALDH活性の特定により、今や研究者は疾患を止めるために焦点を合わせるべきもう一つの標的を手に入れる

「動物モデルと細胞培養において、農業用の農薬はパーキンソン病につながる神経変性プロセスを引き起こすことがわかっている」
UCLA Movement Disorders ProgramのディレクターであるBronsteinは言う

「疫学研究では農業労働者と田舎に住む集団で高率に生じることが一貫して示されている
我々の研究は農薬が原因の一部かもしれないという仮説を裏付け、この新たな経路の発見は新しい治療薬の開発につながる可能性がある」


http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1220399110
Aldehyde dehydrogenase inhibition as a pathogenic mechanism in Parkinson disease.
パーキンソン病の発病メカニズムとしてのALDH阻害

Abstract
農薬への曝露はパーキンソン病の発症と関連付けられており、
我々は以前防カビ剤のベノミルbenomylがパーキンソン病の病理発生に関するいくつかの細胞プロセスに干渉することを報告した

今回我々はベノミルがその生理活性化されたbioactivated代謝産物であるチオカルバミン酸スルホキシド/thiocarbamate sulfoxide(T-SO)を介してアルデヒド脱水素酵素/aldehyde dehydrogenase (ALDH) を阻害し、反応性のドーパミン代謝産物である3,4-ジヒドロキシフェニルアセトアルデヒド/3,4-dihydroxyphenylacetaldehyde (DOPAL) の蓄積につながることを提案する
それはドーパミン作動性ニューロンの選択的な変性とパーキンソン病の発症につながる
この仮説は多くのエビデンスによって支持される

(i) 我々は以前、ベノミルからS-メチル N-ブチルチオカルバミン酸スルホキシド/S-methyl N-butylthiocarbamate sulfoxide(MBT-SO)への代謝をマウスで示した
この物質はナノモルレベルでALDHを阻害する

我々は今回、初代培養primaryの中脳ニューロンmesencephalic neuronにおけるベノミルへの曝露が (ii) ALDHを阻害し、(iii)ドーパミンの恒常性を変化させることを報告する

※初代培養: 生体から取り出した組織や細胞を容器等で培養する

それは (iv) in vitroの中脳の初代培養primary mesencephalic culturesと (v) in vivoのゼブラフィッシュ系において、ドーパミン作動性ニューロンの選択的な損傷を誘発する

(vi) in vitroの細胞喪失は、DOPALの形成を低下させることにより緩和される

(vii) 我々の疫学研究では、ベノミルへの曝露の高さはパーキンソン病リスク増大と関連があった

パーキンソン病の病因に関するこのALDHモデルは、ドーパミン作動性ニューロン選択的な脆弱性の説明を助ける可能性がある
これは環境からの毒性物質toxicantsがパーキンソン病の病理発生に寄与するという潜在的なメカニズムを提供する


http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3545765/figure/fig01/

Figure 1
ALDH阻害はベノミルによって誘発されるパーキンソン病のメカニズムとして提案されている
ベノミルは効率的にBICやMBT、特にMBT-SOのようなALDH阻害剤へと代謝されるため、曝露は有毒なドーパミン代謝産物のDOPALの蓄積につながる
パーキンソン病の病理発生pathogenesisにおいて観察されるドーパミン作動性ニューロンに対する選択的な毒性に関して、この仮説は可能性としてあり得る説明を提供する

※GSH: グルタチオンglutathione

 ベノミルカルベンダジム,BIC─(GSH)→MBT─(CYP)→MBT-SO

※BIC: イソシアン酸ブチル/ butyl isocyanate

※MBT: S-メチル N-ブチルチオカルバミン酸/ S-methyl N-butylthiocarbamate

※MBT-SO: S-メチル N-ブチルチオカルバミン酸 スルホキシド/ MBT sulfoxide



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ドーパミンの代謝産物DOPALはドーパミンニューロンを殺す



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昔の牛乳の殺虫剤はパーキンソン病の徴候と関連



<コメント>
ベノミルの代謝にグルタチオンやCYPが関与しているので、これらに作用する環境的な要因も影響がありそうな気がします(喫煙による活性酸素等)。

 

ドーパミンの代謝産物DOPALはドーパミンニューロンを殺す

2016-01-05 06:17:41 | 
Natural toxin implicated as triggering Parkinson's disease

February 11, 2011

http://www.sciencedaily.com/releases/2011/02/110210123026.htm

セントルイス大学の研究者は、パーキンソン病につながる一連の細胞イベントの原因が『脳自体によって作られる毒』であるという証拠を発見した
脳の毒であるDOPALがドーパミンニューロンの細胞死に関与して病気を引き起こすという今回の研究はPLoS Oneで発表される


セントルイス大学の研究者は以前の研究で、DOPALが健康なドーパミンニューロンを殺す原因であり、それがパーキンソン病を引き起こすようだということを発見した
今回の研究では動物モデルを用いて、この化学物質が容疑者であることを疑う理由をさらに付け加える

パーキンソン病は消耗性/衰弱させる神経変性運動疾患であり、65歳以上の2%、85歳以上の4-5%が罹患する
この疾患はドーパミンニューロンの喪失によるものであり、運動緩慢bradykinesiaと静止時の振戦tremorが特徴である

ドーパミンは体の筋肉と動きを制御するニューロンの調和機能coordinated functionを可能にする重要な化学物質で、黒質substantia nigraの神経細胞によって作られる
この細胞の80%が死ぬか損傷するとパーキンソン病の症状、例えば振戦、動作の緩慢、強剛rigidityと硬直stiffness、バランスの困難が現れ始める

※parkinsonian rigidity: 筋強剛
※muscle stiffness: 筋硬直

セントルイス大学の薬理学と生理学の教授であるW. Michael Panneton, Ph.D.は、この研究がパーキンソン病の理解に向けた大きな一歩になると言う

「パーキンソン病においてドーパミンニューロンの死が症状の原因であることを我々は知っているが、なぜこの細胞が死ぬのかは誰も知らなかった」

細胞の視点から博士はパズルのピースのいくつかを見つけた
パーキンソン病では黒質でドーパミンニューロンが失われ、それが線条体striatumでのドーパミン低下につながり、そしてα-シヌクレインというタンパク質が蓄積する

α-シヌクレインは脳内のどこにでも見られるが、中には凝集している人もいる
研究者はα-シヌクレインを凝集させるのはDOPALであることを発見した
これがDOPALのさらなる増加を誘発し、ドーパミンを作る細胞が死んでパーキンソン病を引き起こす

現在のパーキンソン病への主なアプローチはドーパミンを補うことによる対症療法である
しかし、このアプローチはドーパミンニューロンの喪失を防ぐことができない


http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0015251
The Neurotoxicity of DOPAL: Behavioral and Stereological Evidence for Its Role in Parkinson Disease Pathogenesis.

チロシン─(チロシン3-モノオキシゲナーゼ)→DOPA→ドーパミン─(MAO)→DOPAL─(ALDH1A1)→DOPAC

3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン/3,4-dihydroxyphenylalanine(DOPA/L-DOPA)
3,4-ジヒドロキシフェニルアセトアルデヒド/3,4-dihydroxyphenylacetaldehyde (DOPAL)
3,4-ジヒドロキシフェニル酢酸/3,4-dihydroxyphenylacetic acid(DOPAC)


Introduction
DOPALは神経学的に正常なヒトの患者の生検でも2–3 µMのレベルで存在する [19]
しかしながら、パーキンソン病患者の黒質/SNと線条体のDOPALレベルは増大し [30]、
一方でALDH1A1のmRNA、タンパク質、活性は黒質と線条体で低下する [31], [32], [32]–[34]
これはDOPALが潜在的な内因性の毒であることを意味する

さらに、我々は以前DOPALが生理的濃度でもニューロンにとって有害toxicであることをin vitroで示し [19], [21]、
α-シヌクレインの凝集を引き起こすことも示した [21]


Reference
19
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11295535
Kristal BS, Conway AD, Brown AM, Jain JC, Ulluci PA, Li SW, et al. (2001)
Selective dopaminergic vulnerability: 3,4-dihydroxyphenylacetaldehyde targets mitochondria.
(選択的なドーパミン作動性の脆弱性: DOPALはミトコンドリアを標的にする)

20
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14556942
Burke WJ, Li SW, Williams EA, Nonneman R, Zahm DS (2003)
3,4-Dihydroxyphenylacetaldehyde is the toxic dopamine metabolite in vivo: implication for Parkinson's disease pathogenesis.
(DOPALは有害なin vivoのドーパミン代謝産物である)

21
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17965867
Burke WJ, Kumar VB, Panneton WM, Gan Q, Pandey , et al. (2008)
Aggregation of α-synuclein aggregation by DOPAL, the monoamine oxidase metabolite of dopamine.
(MAOによるドーパミン代謝産物DOPALによるα-シヌクレインの蓄積)
 

昔の牛乳の殺虫剤はパーキンソン病の徴候と関連

2016-01-04 06:06:40 | 
Pesticide found in milk decades ago may be associated with signs of Parkinson’s

December 9, 2015

http://www.sciencedaily.com/releases/2015/12/151209183729.htm

1980年台前半より前に使われていた殺虫剤のヘプタクロルエポキシドは当時の牛乳にも含まれ、それがパーキンソン病の徴候と関連するかもしれないという研究が医学雑誌Neurology誌のオンライン版で12月9日に発表された
Neurology誌は米国神経学アカデミーの学会誌である

「先行研究で乳製品とパーキンソン病との関連が発見されている」
筆頭著者で滋賀県大津市にある滋賀医科大学のR. D. Abbott, PhDは言う

「我々は特に牛乳とパーキンソン病の脳の徴候との関連を調べた」


今回の研究ではホノルル-アジア加齢研究に参加した平均年齢53歳の日系アメリカ人Japanese-Americanの男性449人を死ぬまで30年以上追跡し、死後に病理解剖autopsyを実施した
このテストで参加者の脳の黒質substantia nigra領域で脳細胞が失われているかどうかを調べた
そのような喪失はパーキンソン病の症状が現れる数十年前から始まる可能性がある

また、研究者は116の脳でヘプタクロルエポキシドheptachlor epoxideという殺虫剤の残留量を計測した
この殺虫剤は1980年台前半のハワイではパイナップル工業で害虫を殺すために用いられていたが、アメリカではこの頃に禁止されて使われなくなった
この殺虫剤は当時の牛乳中に高レベルで見られ、井戸水からも見つかる可能性もある

研究の結果、非喫煙者で1日2杯より多く牛乳を飲んでいた人は、2杯未満しか飲まなかった人よりも黒質の脳細胞が40%少なかった
どの時点であれ喫煙者だった人に関しては、牛乳摂取と脳細胞喪失との関連は見られなかった
以前の研究で喫煙者はパーキンソン病を発症するリスクが低下することが示されている

ヘプタクロルエポキシドの残留は最も多く牛乳を飲んでいた人たちの90%で見つかり、
対照的に牛乳をまったく飲まない人では63%だった

Abbottは参加者が飲んでいた牛乳にヘプタクロルエポキシドが含まれていたという証拠がないことに言及する
また、彼は今回の研究が殺虫剤や牛乳摂取によりパーキンソン病が引き起こされることを示すものではなく、関連を示しているだけであるとも述べている

「この関連に関していくつかの説明が考えられる。単なる偶然chanceもありうる」
米国神経学アカデミーのメンバーであり編集委員長記を書いた国立環境衛生科学研究所/National Institute of Environmental Health Sciences(NIEHS)のHonglei Chen, MD, PhDは言う

「また、牛乳の消費は研究の開始時に一度だけ計測されたのみである
この計測が、時が経っても参加者の食習慣を表していると推量するしかない」

この論文は疫学研究がどのようにしてパーキンソン病の原因調査に寄与しうるのかという優れた例であるとChenは述べた

今回の研究は、国立老化研究所/National Institute on Aging(NIA)、国立心肺血液研究所、国立神経疾患・脳卒中研究所、陸軍省/Department of the Army、退役軍人省/Department of Veterans Affairs、クアキニ・メディカル・センター/Kuakini Medical Centerのサポートによるものである


http://dx.doi.org/10.1212/WNL.0000000000002254
Midlife milk consumption and substantia nigra neuron density at death.

有機塩素系殺虫剤/organochlorine pesticide



関連サイト
http://www.shiga-med.ac.jp/education/newresearch/main.html
滋賀医科大学の『最新研究論文の紹介』



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http://www.sciencedaily.com/releases/2011/02/110214115442.htm
殺虫剤のロテノンとパラコートがパーキンソン病と関連



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http://www.sciencedaily.com/releases/2012/11/121112171050.htm
5分以上の意識消失loss of consciousnessを伴う頭部損傷と殺虫剤のパラコートはパーキンソン病リスクにつながる