Protein increases signals that protect cancer cells, study finds
March 10, 2016
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/03/160310143811.htm
スタンフォード大学医学部の研究者は癌関連遺伝子Mycの発現と、腫瘍を免疫系から保護する細胞表面の分子との間のつながりを明らかにした
Mycは『二つの分子』の発現を直接制御することで免疫系から腫瘍を守るのだという
この発見は、腫瘍がうまく成長するために必要な二つの重要なステップを関連付ける初めてのものである
一つは制御不能な細胞の増殖であり、Mycが変異するか調節不能になると細胞分裂を促進するタンパク質レベルの増加を引き起こす
そしてもう一つは、その増殖を止めるために作られる免疫分子の裏をかくoutwitための能力である
ドイツ・バイエルンのヴュルツブルク大学との協力のもと実施された今回の研究は、Scienceのオンライン版で3月10日に発表される予定である
首席著者は腫瘍学と病理学の教授であるDean Felsher, MD, PhDであり、筆頭著者はpostdoctoral scholarのStephanie Casey, PhDである
Felsherは言う
「Mycのような癌遺伝子がどのようにして癌を引き起こすのか、そしてそれら癌細胞はどのようにして免疫系をうまく回避するのか?
我々の発見はそれらの間の密接な因果関係について述べる」
「私を食べないで」と「私を見つけないで」
'Don't eat me' and 'don't find me'
二つの分子の一つはCD47というタンパク質である
これは以前スタンフォードのIrving Weissman, MDのラボの研究者によって『私を食べないで』というシグナルとして働くことが明らかにされている
このシグナルは癌を貪り食う免疫細胞であるマクロファージを寄せ付けないward off
Weissmanはがんの臨床研究を担うVirginia and D.K. Ludwig Professor教授職であり、スタンフォード幹細胞生物学・再生医学研究所のディレクターでもある
※D.K. Ludwig: Daniel K. Ludwigが1971年にルートヴィヒがん研究所を設立した(1971年はニクソン大統領が『癌との戦い』を宣言した年)
※2006年に6つのルートヴィヒセンターがアメリカに設立された(ジョンズ・ホプキンズ大学、ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学、メモリアルスローンケタリングがんセンター、スタンフォード大学、シカゴ大学)
ヒトの癌はほぼ全てが細胞表面にCD47を強く発現しており、CD47タンパク質を標的とする抗体が現在様々なヒトの癌に対して第一相の臨床試験中である
もう一方の分子はPD-L1で、これは『私を見つけないで』というシグナルを送り免疫系を抑制することが知られている
PD-L1は癌や自己免疫疾患で過剰発現しているが、通常の妊娠中にも見られる分子である
PD-L1に結合する抗体が膀胱癌と非小細胞癌の治療用としてアメリカFDAによって承認されているが、他の多くの癌の治療でも有効なことが示されている
癌でMycはいつも容疑者
In cancer, Myc a usual suspect
Felsherのラボの研究者はMycタンパク質を10年以上研究している
Mycはいわゆる癌遺伝子によってコードされている
正常な癌遺伝子は細胞の重要な機能を実行しているが、変異したり不適切な過剰発現することにより強力な癌のプロモーターとなる
Myc癌遺伝子はヒトのあらゆる癌の半分以上で変異するか調節を失う
Felsherのラボは特に癌遺伝子依存oncogene addictionという現象を研究している
この依存状態にある腫瘍細胞は特定の癌遺伝子の発現に完全に依存していて、
動物実験ではMyc遺伝子の発現を阻害することにより腫瘍が完全に退縮complete regressionする
2010年にFelsherたちはこの動物実験での退縮regressionが完全な免疫系が存在する時のみ起きることを示したが、その理由は不明だった
「それ以来、私は心の奥でMycと免疫系との間に関係があるに違いないと考えてきた」
Felsherは言う
Mycの発現をオフにする
Turning off Myc expression
CaseyとFelsherはMycの発現と癌細胞表面のCD47・PD-L1タンパク質との間に関係があるのかを調べるため、マウスとヒトの腫瘍細胞でMycの発現を能動的にオフにすると何が起きるのかを調査した
実験はマウスとヒトの急性リンパ芽球性白血病(ALL)、マウスとヒトの肝細胞癌、ヒトの皮膚癌、ヒトの非小細胞肺癌で行われ、
実験の結果、Mycの発現の減少はCD47とPD-L1タンパク質レベルを同様に低下させた
対照的に、細胞表面に見られる他の免疫調節性分子のレベルは影響を受けなかった
研究者は公的に利用可能な何百人もの腫瘍患者サンプルの遺伝子発現データから
肝臓、腎臓、結腸直腸の腫瘍においてMyc発現レベルがCD47・PD-L1遺伝子の発現レベルと強く相関することを明らかにした
次にCD47・PD-L1遺伝子を調節するDNA領域を直接調べた結果、マウス白血病細胞、ヒトの骨癌細胞系統において高レベルのMycタンパク質がCD47・PD-L1のプロモーター領域に直接結合することが明らかになった
彼らはこのMycの結合がCD47遺伝子の発現を増大させることもヒトの血球細胞系統において確認した
相乗作用による治療の可能性
Possible treatment synergy
最後に、CaseyとFelsherは遺伝子工学によりマウス白血病細胞でMyc発現状態にかかわらずCD47またはPD-L1遺伝子を常に発現するようにした
この細胞はマクロファージやT細胞のような免疫細胞による発見を回避することが通常の細胞よりもうまく、
これらの細胞から生じた腫瘍はMyc発現が不活化されても退縮regressしなかった
「CD47とPD-L1が癌細胞の表面に存在すると、癌遺伝子を停止させてもマウスは適切な免疫応答を開始せず、腫瘍は退縮しないということを我々は突き止めつつある」
Felsherは言う
今回の研究は、MycとCD47かPD-L1の発現を標的とする治療の組み合わせが腫瘍の増殖を遅くするか止め、加えて免疫系に向けて『赤旗を降る』ことによりおそらく相乗効果を発揮するだろうということを示唆するとFelsherは言う
「癌の免疫分野において途方もない興奮が高まりつつある」
There is a growing sense of tremendous excitement in the field of cancer immunotherapy
「多くの場合はうまくいくが、なぜ癌の中に免疫療法が有効なものとそうでないものがあるのかは明らかになっていない
我々の研究は癌遺伝子の発現と免疫の調節との間の直接のつながりに光を当てるものであり、
これは患者を救うために利用できる可能性がある」
この研究はスタンフォード医学部がプレシジョン・ヘルスprecision healthに焦点を当てる一例である
その目標は疾患の先手を打って予防し、病苦を正確に診断して治療することである
http://dx.doi.org/10.1126/science.aac9935
MYC regulates the antitumor immune response through CD47 and PD-L1.
関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/2d47e9452ca9fbe9fd92159fba5b70bc
CD47に対する抗体で「私を食べないで」シグナルを無効化し、マクロファージが癌細胞を破壊できるようにする
関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/ba31225fb3f8b2ca8d9732645ddc4c3d
p53はmiR-34aを活性化させ、miR-34aはPD-L1の発現を直接阻害する
関連記事
http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/86d8ce693a9d47602829e71dc811c01c
p53突然変異はMLL1を介してゲノムのメチル化を変化させ、癌の増殖を促進する
March 10, 2016
https://www.sciencedaily.com/releases/2016/03/160310143811.htm
スタンフォード大学医学部の研究者は癌関連遺伝子Mycの発現と、腫瘍を免疫系から保護する細胞表面の分子との間のつながりを明らかにした
Mycは『二つの分子』の発現を直接制御することで免疫系から腫瘍を守るのだという
この発見は、腫瘍がうまく成長するために必要な二つの重要なステップを関連付ける初めてのものである
一つは制御不能な細胞の増殖であり、Mycが変異するか調節不能になると細胞分裂を促進するタンパク質レベルの増加を引き起こす
そしてもう一つは、その増殖を止めるために作られる免疫分子の裏をかくoutwitための能力である
ドイツ・バイエルンのヴュルツブルク大学との協力のもと実施された今回の研究は、Scienceのオンライン版で3月10日に発表される予定である
首席著者は腫瘍学と病理学の教授であるDean Felsher, MD, PhDであり、筆頭著者はpostdoctoral scholarのStephanie Casey, PhDである
Felsherは言う
「Mycのような癌遺伝子がどのようにして癌を引き起こすのか、そしてそれら癌細胞はどのようにして免疫系をうまく回避するのか?
我々の発見はそれらの間の密接な因果関係について述べる」
「私を食べないで」と「私を見つけないで」
'Don't eat me' and 'don't find me'
二つの分子の一つはCD47というタンパク質である
これは以前スタンフォードのIrving Weissman, MDのラボの研究者によって『私を食べないで』というシグナルとして働くことが明らかにされている
このシグナルは癌を貪り食う免疫細胞であるマクロファージを寄せ付けないward off
Weissmanはがんの臨床研究を担うVirginia and D.K. Ludwig Professor教授職であり、スタンフォード幹細胞生物学・再生医学研究所のディレクターでもある
※D.K. Ludwig: Daniel K. Ludwigが1971年にルートヴィヒがん研究所を設立した(1971年はニクソン大統領が『癌との戦い』を宣言した年)
※2006年に6つのルートヴィヒセンターがアメリカに設立された(ジョンズ・ホプキンズ大学、ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学、メモリアルスローンケタリングがんセンター、スタンフォード大学、シカゴ大学)
ヒトの癌はほぼ全てが細胞表面にCD47を強く発現しており、CD47タンパク質を標的とする抗体が現在様々なヒトの癌に対して第一相の臨床試験中である
もう一方の分子はPD-L1で、これは『私を見つけないで』というシグナルを送り免疫系を抑制することが知られている
PD-L1は癌や自己免疫疾患で過剰発現しているが、通常の妊娠中にも見られる分子である
PD-L1に結合する抗体が膀胱癌と非小細胞癌の治療用としてアメリカFDAによって承認されているが、他の多くの癌の治療でも有効なことが示されている
癌でMycはいつも容疑者
In cancer, Myc a usual suspect
Felsherのラボの研究者はMycタンパク質を10年以上研究している
Mycはいわゆる癌遺伝子によってコードされている
正常な癌遺伝子は細胞の重要な機能を実行しているが、変異したり不適切な過剰発現することにより強力な癌のプロモーターとなる
Myc癌遺伝子はヒトのあらゆる癌の半分以上で変異するか調節を失う
Felsherのラボは特に癌遺伝子依存oncogene addictionという現象を研究している
この依存状態にある腫瘍細胞は特定の癌遺伝子の発現に完全に依存していて、
動物実験ではMyc遺伝子の発現を阻害することにより腫瘍が完全に退縮complete regressionする
2010年にFelsherたちはこの動物実験での退縮regressionが完全な免疫系が存在する時のみ起きることを示したが、その理由は不明だった
「それ以来、私は心の奥でMycと免疫系との間に関係があるに違いないと考えてきた」
Felsherは言う
Mycの発現をオフにする
Turning off Myc expression
CaseyとFelsherはMycの発現と癌細胞表面のCD47・PD-L1タンパク質との間に関係があるのかを調べるため、マウスとヒトの腫瘍細胞でMycの発現を能動的にオフにすると何が起きるのかを調査した
実験はマウスとヒトの急性リンパ芽球性白血病(ALL)、マウスとヒトの肝細胞癌、ヒトの皮膚癌、ヒトの非小細胞肺癌で行われ、
実験の結果、Mycの発現の減少はCD47とPD-L1タンパク質レベルを同様に低下させた
対照的に、細胞表面に見られる他の免疫調節性分子のレベルは影響を受けなかった
研究者は公的に利用可能な何百人もの腫瘍患者サンプルの遺伝子発現データから
肝臓、腎臓、結腸直腸の腫瘍においてMyc発現レベルがCD47・PD-L1遺伝子の発現レベルと強く相関することを明らかにした
次にCD47・PD-L1遺伝子を調節するDNA領域を直接調べた結果、マウス白血病細胞、ヒトの骨癌細胞系統において高レベルのMycタンパク質がCD47・PD-L1のプロモーター領域に直接結合することが明らかになった
彼らはこのMycの結合がCD47遺伝子の発現を増大させることもヒトの血球細胞系統において確認した
相乗作用による治療の可能性
Possible treatment synergy
最後に、CaseyとFelsherは遺伝子工学によりマウス白血病細胞でMyc発現状態にかかわらずCD47またはPD-L1遺伝子を常に発現するようにした
この細胞はマクロファージやT細胞のような免疫細胞による発見を回避することが通常の細胞よりもうまく、
これらの細胞から生じた腫瘍はMyc発現が不活化されても退縮regressしなかった
「CD47とPD-L1が癌細胞の表面に存在すると、癌遺伝子を停止させてもマウスは適切な免疫応答を開始せず、腫瘍は退縮しないということを我々は突き止めつつある」
Felsherは言う
今回の研究は、MycとCD47かPD-L1の発現を標的とする治療の組み合わせが腫瘍の増殖を遅くするか止め、加えて免疫系に向けて『赤旗を降る』ことによりおそらく相乗効果を発揮するだろうということを示唆するとFelsherは言う
「癌の免疫分野において途方もない興奮が高まりつつある」
There is a growing sense of tremendous excitement in the field of cancer immunotherapy
「多くの場合はうまくいくが、なぜ癌の中に免疫療法が有効なものとそうでないものがあるのかは明らかになっていない
我々の研究は癌遺伝子の発現と免疫の調節との間の直接のつながりに光を当てるものであり、
これは患者を救うために利用できる可能性がある」
この研究はスタンフォード医学部がプレシジョン・ヘルスprecision healthに焦点を当てる一例である
その目標は疾患の先手を打って予防し、病苦を正確に診断して治療することである
http://dx.doi.org/10.1126/science.aac9935
MYC regulates the antitumor immune response through CD47 and PD-L1.
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http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/2d47e9452ca9fbe9fd92159fba5b70bc
CD47に対する抗体で「私を食べないで」シグナルを無効化し、マクロファージが癌細胞を破壊できるようにする
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http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/ba31225fb3f8b2ca8d9732645ddc4c3d
p53はmiR-34aを活性化させ、miR-34aはPD-L1の発現を直接阻害する
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http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/86d8ce693a9d47602829e71dc811c01c
p53突然変異はMLL1を介してゲノムのメチル化を変化させ、癌の増殖を促進する