癌細胞の生き残りを助けるミトコンドリアの『盾』が特定される
Mitochondrial 'shield' that helps cancer cells survive identified
癌細胞はなぜ、ほとんど毒である薬や放射線、免疫システムの猛攻撃に直面してさえ非常に立ち直りが早いのか? 科学者はその仕組みの理解に一歩近づいた。
FASEB誌の2015年3月号で発表される新しい研究報告によれば、ビメンチン(Vimentin)というタンパク質から形成される中間径フィラメント(intermediate filaments)は癌細胞のミトコンドリアを効果的に「絶縁(insulate)」して、癌細胞を破壊するどんな試みからも保護するという。
通常の状況下では、ビメンチンは細胞のための「骨格」となり細胞の形状を維持するのを助ける。しかしながら、いくつかの癌細胞でビメンチンは癌細胞のエネルギーセンターであるミトコンドリアの維持を助け、外側からの攻撃の阻止および細胞の急速な回復を補助する。多くの癌の治療薬が癌細胞のミトコンドリアを標的にしていることから、この発見は研究者が癌をより効果的に治療する新薬を開発するのに役立つはずである。
「いくつかの腫瘍細胞が悪性の形質転換プロセスにおいてビメンチンを発現することはずっと前に発見された。その時からこのタンパク質は臨床診断のマーカーとして用いられてきたが、転移の促進におけるビメンチンの役割は不明だった」、ロシア科学アカデミー(モスクワ)のInstitute of Protein Researchから研究に参加したAlexander A. Minin博士は言う。
「我々の発見は、この問題を解決することの手がかりを提供する。腫瘍細胞が『運動能力のある表現型』を獲得するためには、ミトコンドリアによるエネルギー生成の増強が必要であることを我々は提案する。ビメンチンはミトコンドリア膜電位(MMP)を増加させることによってこの課題を果たす。MMPは細胞のエネルギー資源の量を示す。」
Minin博士と彼の同僚であるFASEB誌の共同編集者Robert Goldman、編集委員会のVladimir Gelfandたちは、生きたまま培養細胞でMMPを分析するために蛍光を発する電位依存的なミトコンドリア色素を用いた。色素はミトコンドリアのMMPのレベルに比例して蓄積し、MMP(エネルギーレベル)が高いほど色素は明るくなる。
MMPの調節におけるビメンチンの役割を調査するため、研究者はビメンチンを欠損する細胞とビメンチンを回復させた細胞とで染色されたミトコンドリアの蛍光強度を比較した。逆の実験では、ビメンチンを有する通常の細胞においてビメンチンの発現をRNA干渉によって抑制した。それらの研究の結果、ビメンチンの存在下でMMPは増加し、ビメンチンの欠乏はMMPの減少を引き起こした。
「癌細胞は概して生物に対して破壊的であるが、癌ではない対照の細胞と比較すると著しく立ち直りが速い(resilient)ことが以前から知られていた」、FASEB誌の編集長、ジェラルド・ワイスマン医学博士は言う。
「本研究はその理由を説明するのに役立つかもしれない。癌細胞の『骨格』となるタンパク質は、細胞の形状を維持するだけでなく、転移のために必要とされるエネルギーの蓄えも保護する。そのことを知った今、我々はこの相互作用を標的にする新しい治療法に取り組み始めることができる。」
記事出典:
上記の記事は、米国実験生物学会連合(Federation of American Societies for Experimental Biology; FASEB)によって提供される素材に基づく。
学術誌参照:
1.ミトコンドリア膜電位は、ビメンチン中間径フィラメントによって調節される。
FASEB、2014;
http://www.sciencedaily.com/releases/2015/03/150302105011.htm
<コメント>
間葉系の細胞で発現する中間径フィラメントタンパク質のビメンチンは、癌幹細胞のミトコンドリアの膜電位も調節して転移に関与するという記事です。
Wikipediaの英語版の項目を見ると、ビメンチンはミトコンドリアに接着する(attached)という記述があります。また同じ乳癌でもトリプルネガティブ乳癌ではビメンチンと予後の悪さは相関する一方で、それ以外の乳癌ではビメンチンの発現は予後の悪さと逆相関するという多様性があるようです。
抗生物質がミトコンドリアを標的にすることで癌幹細胞を根絶するという記事が最近発表されました。