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興味のある科学/医学ニュースを適当に翻訳していきます。

2015年3月2日

2015-03-04 17:46:31 | 

癌細胞の生き残りを助けるミトコンドリアの『盾』が特定される
Mitochondrial 'shield' that helps cancer cells survive identified



癌細胞はなぜ、ほとんど毒である薬や放射線、免疫システムの猛攻撃に直面してさえ非常に立ち直りが早いのか? 科学者はその仕組みの理解に一歩近づいた。

FASEB誌の2015年3月号で発表される新しい研究報告によれば、ビメンチンVimentin)というタンパク質から形成される中間径フィラメント(intermediate filaments)は癌細胞のミトコンドリアを効果的に「絶縁(insulate)」して、癌細胞を破壊するどんな試みからも保護するという。

通常の状況下では、ビメンチンは細胞のための「骨格」となり細胞の形状を維持するのを助ける。しかしながら、いくつかの癌細胞でビメンチンは癌細胞のエネルギーセンターであるミトコンドリアの維持を助け、外側からの攻撃の阻止および細胞の急速な回復を補助する。多くの癌の治療薬が癌細胞のミトコンドリアを標的にしていることから、この発見は研究者が癌をより効果的に治療する新薬を開発するのに役立つはずである。

「いくつかの腫瘍細胞が悪性の形質転換プロセスにおいてビメンチンを発現することはずっと前に発見された。その時からこのタンパク質は臨床診断のマーカーとして用いられてきたが、転移の促進におけるビメンチンの役割は不明だった」、ロシア科学アカデミー(モスクワ)のInstitute of Protein Researchから研究に参加したAlexander A. Minin博士は言う。

「我々の発見は、この問題を解決することの手がかりを提供する。腫瘍細胞が『運動能力のある表現型』を獲得するためには、ミトコンドリアによるエネルギー生成の増強が必要であることを我々は提案する。ビメンチンはミトコンドリア膜電位(MMP)を増加させることによってこの課題を果たす。MMPは細胞のエネルギー資源の量を示す。」

Minin博士と彼の同僚であるFASEB誌の共同編集者Robert Goldman、編集委員会のVladimir Gelfandたちは、生きたまま培養細胞でMMPを分析するために蛍光を発する電位依存的なミトコンドリア色素を用いた。色素はミトコンドリアのMMPのレベルに比例して蓄積し、MMP(エネルギーレベル)が高いほど色素は明るくなる。

MMPの調節におけるビメンチンの役割を調査するため、研究者はビメンチンを欠損する細胞とビメンチンを回復させた細胞とで染色されたミトコンドリアの蛍光強度を比較した。逆の実験では、ビメンチンを有する通常の細胞においてビメンチンの発現をRNA干渉によって抑制した。それらの研究の結果、ビメンチンの存在下でMMPは増加し、ビメンチンの欠乏はMMPの減少を引き起こした。

「癌細胞は概して生物に対して破壊的であるが、癌ではない対照の細胞と比較すると著しく立ち直りが速い(resilient)ことが以前から知られていた」、FASEB誌の編集長、ジェラルド・ワイスマン医学博士は言う。

「本研究はその理由を説明するのに役立つかもしれない。癌細胞の『骨格』となるタンパク質は、細胞の形状を維持するだけでなく、転移のために必要とされるエネルギーの蓄えも保護する。そのことを知った今、我々はこの相互作用を標的にする新しい治療法に取り組み始めることができる。」

記事出典:
上記の記事は、米国実験生物学会連合(Federation of American Societies for Experimental Biology; FASEB)によって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.ミトコンドリア膜電位は、ビメンチン中間径フィラメントによって調節される。

FASEB、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2015/03/150302105011.htm

<コメント>
間葉系の細胞で発現する中間径フィラメントタンパク質のビメンチンは、癌幹細胞のミトコンドリアの膜電位も調節して転移に関与するという記事です。

Wikipediaの英語版の項目を見ると、ビメンチンはミトコンドリアに接着する(attached)という記述があります。また同じ乳癌でもトリプルネガティブ乳癌ではビメンチンと予後の悪さは相関する一方で、それ以外の乳癌ではビメンチンの発現は予後の悪さと逆相関するという多様性があるようです。

抗生物質がミトコンドリアを標的にすることで癌幹細胞を根絶するという記事が最近発表されました


2015年2月19日

2015-02-26 23:13:52 | 

DNAの『ワームホール』と関連する癌リスク
Cancer risk linked to DNA 'wormholes'



Institute of Cancer Researchの新しい研究によると、かつて『ジャンクDNA』として片づけられたゲノムの中のたった一文字の遺伝子変異は、はるか彼方の遺伝子に対してワームホール(wormhole; 虫食い穴)のような効果により癌リスクを増す可能性がある。

遺伝子が全く存在しない『遺伝子砂漠』 と呼ばれる中のDNA配列は、比較的遠い距離を越えてDNAループ(DNA loop)を形成することにより異なる場所の遺伝子活性を調節することが可能である。Institute of Cancer Research(ロンドン)の科学者たちを中心とする今回の研究は、あまり役に立っているようには見えないゲノムの遺伝子変異がどのようにして癌リスクを増加するのかについての謎を解決するのを助ける。

研究者たちはDNAの環状化による相互作用(looping interactions)を研究する新しい技術を開発し、DNA環状化を含むゲノム領域の単一のDNA変異が結腸直腸癌の発症と関連することを発見した。本日Nature Communicationsで発表される研究は、これらのDNA相互作用、特に腸の癌細胞における相互作用に目を向けた最初の包括的研究であり、他の複雑な遺伝子疾患とも関連がある。

彼らはキャプチャHi-C(cHi-C)と呼ばれる技術を開発し、拡散したDNA同士の物理的な長距離相互作用を調査した。それにより染色体の特定の領域が物理的に相互作用する方法を以前にもまして詳しく観察できるようになった。長距離の(long-range)DNA相互作用を調べるためにこれまで用いられてきた技術は、決定的な結果をもたらすには感度が不十分だった。

研究者は以前腸癌リスクと関連づけられた変異を含むDNAの14の領域を評価し、それら14の領域すべてに著しい長距離の相互作用を検出した。これは遺伝子の調節における長距離相互作用の役割を示す。この相互作用が重要である理由は遺伝子のふるまいを制御できるためであり、遺伝子のふるまいの変化は癌につながる可能性がある。実際、癌リスクと関連づけられてきたほとんどの遺伝子変異は遺伝子それ自体の中にではなく、それらを調節するゲノム領域の中に存在する。



研究のリーダーでありInstitute of Cancer Researchの分子集団遺伝学の教授でもあるRichard Houlston教授は以下のように言う:

「我々の新しい技術は、遺伝子の変異がDNAループによりゲノムの他の場所にある発癌遺伝子と長距離の相互作用をすることで、癌リスクを増加させる可能性を示す。
それは時にワームホールと同じように説明される。ワームホール理論では、宇宙の遠い場所を空間と時間の歪みが結びつける。」

「長距離の遺伝子の調節についての理解は、癌がどのように生じるかについて理解するために重要である。そしてそれは癌の治療のために新しい方法を発見する際に重要であるかもしれない。」

Institute of Cancer Researchのチーフ・エグゼクティブであるPaul Workman教授は以下のように言う:

「すでに癌と関連づけられてきた多くの遺伝子のバリアントは遺伝子砂漠(gene deserts)において生じる。遺伝子砂漠はしばしばきわめて長く、そして非常に不可解なDNA塩基配列である。実際のところ、砂漠には『遺伝子』が存在しない。しかしそれは、我々がまだ完全には理解していないやり方で癌の発症に関与する。」

「よく言われるようにDNAの環状化は研究が困難である。しかし今回の研究は、DNA砂漠の遺伝子変異が腸癌の発達を促進するために何をしているのかについての理解へ向けて重要な一歩を踏み出した。」

記事出典:
上記の記事は、Institute of Cancer Researchによって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.キャプチャHi-Cは、結腸直腸癌リスク遺伝子座のクロマチン・インタラクトームを特定する。

Nature Communications、2015;

http://www.sciencedaily.com/releases/2015/02/150219090349.htm

<コメント>
ジャンクDNAと思われていたゲノムの多型は、DNAの環状化によりゲノムの遠い箇所と相互作用して結腸癌などのリスクにつながるという記事です。

以前にもDNAの立体構造を推定するために3Cを用いてマラリア原虫の核を捉えたという記事がありましたが、今回使われたのは3Cを発展させたHi-Cをさらに改良したcHi-Cというものです。本文によると「Hi-Cはゲノム全体スケールでの長距離相互作用の検出には使えるが、その有効な解像度は限定フラグメント(制限酵素による断片化?)ならびに実験の感受性に依存しており、特定の相互作用を説明することはできない」とのことです。

記事中にある「cHi-Cを適用した14の領域」というのは、論文によると1q41, 3q26.2, 8q23.1, 8q24.21, 10p14, 11q23, 12q13, 14q22.2, 15q13, 16q22.1, 18q21.1, 19q13.1, 20p12.3, 20q13.33という14箇所で、その内の一つ8q24.21にあるSNPのrs6983267は下流のMYCと相互作用し、さらに上流の調節因子としてCCAT1を同定したとあります(MYCCCAT1は50万塩基以上離れている)。



本文にはこうあります。

>These observations are concordant with recent data from Xiang et al.26 showing the role of ​CCAT1-L, a CRC-specific isoform of the ​CCAT1 lncRNA, in intra-chromosomal looping with the ​MYC gene promoter regulating ​MYC transcription.
(これらの観察は、[26]のデータとも一致している。CCAT1というロングノンコーディングRNAの結腸直腸癌CRC特異的アイソフォームのCCAT1-Lは、MYCの転写を調節するMYC遺伝子のプロモーターとの染色体内ループ形成において役割を果たすことを[26]は示した。)

染色体内のループというのは、[26]によれば具体的にはこのような形になっているようです。2つのループにより結果的にMYCプロモーターを含む3つ目のループが形成されています。



2015年2月10日

2015-02-14 23:25:35 | 

がん研究者は細胞生物学の研究の新しい領域をインスパイアするかもしれない
Cancer researchers may inspire new area of research in cellular biology



グリフィス大学(ゴールドコースト)の草分け的な研究は科学者たちを驚かせた。彼らの中には細胞生物学の研究すべてが修正されるべきかもしれないと思う者もいる。グリフィス大学とMalaghan研究所(ニュージーランドウエリントン)の共同研究によると、宿主細胞のミトコンドリアは細胞膜を通過して腫瘍細胞に移動することが可能である。その後、ミトコンドリアが不完全だったがん細胞は急速な増殖を始める。

これまでの考えでは細胞のミトコンドリアとミトコンドリアDNA(mtDNA)は細胞膜の中に拘束され、それぞれの細胞は固有の存在であるとされてきた。グリフィス大学とMalaghan研究は、mtDNAが健康な細胞からミトコンドリアに障害がある腫瘍細胞へと移動できることを発見した。研究を指揮したグリフィス大学のJiri Neuzil教授は、mtDNA移動の発見がまったく新しい研究領域を築くかもしれないと考えている。

「我々が発見したのは、遺伝物質(genetic material)は細胞から細胞へと伝えることができるということである。その遺伝物質は細胞を『生き返らせる』。これは我々のヒトの生物学の理解における重要な発見である」、Neuzil教授は言う。

「このプロセスは以前にも実験室の環境で観察されている。しかし今回我々はニュージーランドのグループとともに研究を実施し、生きている動物においてこのプロセスが起きるというエビデンスを提供する。」

従来の生物学が我々に教えてきたのは、すべての生物形態(life forms)は細胞から造られ、どんな生物形態が意図されてもそれを組み立てるための基本的な情報は細胞の中に存在するということだった。すなわち、生物形態を作るための計画書であるDNAと、指示を実施するために必要なエネルギーを作るミトコンドリアである。

紛らわしいことに、細胞の中にはミトコンドリアDNA(mtDNA)という別の要素が存在する。その名前が示唆するように、mtDNAは生物形態とミトコンドリアの計画書を両方とも少しずつ持っており、細胞増殖のプロセス全体を確実に進ませるために重要である。

mtDNAが腫瘍に転送される正確な方法は不明である。細胞が相互作用して一時的に融合するのか、あるいは細胞膜が『ナノチューブ』を形成してmtDNAが伝わるのかはまだ示されていない。



がんの柔軟性(plasticity)、つまり脅威を作り変えて変化させ、乗り越えるという能力はがんの大きな強みである。それは誰もまだ治療法を見つけられない理由に関する非常に重要な要素なのかもしれない。

「我々の研究はがんの適応性に対する新たな洞察だけではなく、おそらく他の病態も発見している。今回のようなことは、mtDNAに障害がある他の疾患、例えば神経変性疾患でも起きることはありえる。しかしこれは現段階では推測である」、彼は言う。

ミトコンドリアDNAの障害は200以上の疾患の原因である。そしてそれはおそらく、より多くの一部に過ぎない。


記事出典:
上記の記事は、グリフィス大学によって提供される素材に基づく。


学術誌参照:
1.ミトコンドリア・ゲノムの獲得は、ミトコンドリアDNAのないがん細胞の呼吸機能と腫瘍形成可能性を回復する。

Cell Metabolism、2015;

http://www.sciencedaily.com/releases/2015/02/150210133216.htm


<コメント>
ミトコンドリアDNAをなくしたがん細胞は、宿主からミトコンドリアDNAを獲得してから転移を始めるという記事です。

実験では確認されていたとあるのでReferencesを見ると、確かにいくつか報告があります[1][2][3]。その中の一つに血小板(human platelets)と共培養したという実験があってなるほどと思ったのですが(血小板にはミトコンドリアが含まれている)、しかしその実験はうまくいかなかったようです。

>We were not able to demonstrate transfer of mitochondria from cocultured platelets or isolated mitochondria. Therefore, the transfer of mitochondria appeared to involve an active cellular process rather than passive uptake of cellular fragments or organelles. The results did not exclude the possibility that the target cells were rescued by a transfer of mtDNA without intact mitochondria, but the simplest explanation of the data are that functional mitochondria were transferred and then propagated in the target cells.

2015年2月9日

2015-02-11 15:19:58 | 

結腸直腸がん腫瘍細胞の起源を突き止める
Origins of colorectal cancer tumor cells traced



南カリフォルニア大学(USC)ケック医学部の癌研究者は、結腸直腸がん細胞の起源を初めて突きとめた。この発見はなぜ腫瘍細胞が「良」くなったり「悪」くなったりするかについての重要な手がかりであり、腫瘍が始まる前に止めることができるポテンシャルを持つ。

USCケック医学部で病理学教授のDarryl Shibata医学博士と、スタンフォード大学の助教授でありUSCケック医学部の非常勤助教授でもあるChristina Curtis博士らを中心とする研究チームは、ヒト結腸直腸がんの増殖に対して「ビッグバン」モデルを使用した。このモデルは宇宙が単一の点から始まり外側に爆発したというビッグバン理論と似ている。

「それはまるで過去にさかのぼるようである」、Shibataは言う。

「それぞれの腫瘍の歴史はゲノムに書かれている。腫瘍を防ぐために、早い時期に何があったかを調べて最初の細胞分裂をどのように止めるべきかを知りたいと思う。」

研究者は結腸直腸腫瘍の正反対の側からのサンプルを取ることにより、最初に起きた数回の分裂を再構築した。そのような分裂が生じるのは、生まれたての腫瘍が小さすぎて検出すらできない時である。

腫瘍の始まりは、突然の新たな突然変異を伴う異常なものである。さらに、多くの悪性のがん細胞は最初から異常な運動能や細胞の混合(intermixing)を示し、それにより最終的には人体に侵入して転移することができるようになる。対照的に、のちに良性腺腫を形成することになる腫瘍細胞は(他の細胞とは)混ざらなかった。それは腫瘍の中に「生まれながらの悪」がいることを示す。腫瘍が患者を殺すのか無害なのかを知ることは、手術を受けるかどうかの決断をしなければならない患者にとって重要であるとShibataは言う。

研究の次のステップは、腫瘍細胞の発生で起こることをさらに調査することである。また、Curtisは他のがんも結腸直腸がんと同じようにふるまうかどうかも調査しようと考えている。

学術誌参照:
1.ヒト結腸直腸腫瘍増殖のビッグバン・モデル。

Nature Genetics、2015;

http://www.sciencedaily.com/releases/2015/02/150209122848.htm


<コメント>
腫瘍の正反対の位置の2箇所から生検することで最初に起きた変異を推定した結果、宇宙のビッグバンと似たようなモデルが提案されたという記事です。

ビッグバン理論では「宇宙の晴れ上がり」が宇宙マイクロ波背景放射として観察されるとしています。それと同様に腫瘍の早期に起きた変化が腫瘍の全体で観察されるということを、宇宙のビッグバンになぞらえたということのようです。

Abstractにはこう書かれています。

Genomic profiling of 349 individual glands from 15 colorectal tumors showed an absence of selective sweeps, uniformly high intratumoral heterogeneity (ITH) and subclone mixing in distant regions, as postulated by our model.
我々のモデルから仮定されるように、選択的一掃(selective sweeps)の不存在、一様に高度な腫瘍内の不均一性(intratumoral heterogeneity/ITH)、ならびに遠く離れた領域のサブクローンの混合をゲノムのプロファイリングは示した。

We also verified the prediction that most detectable ITH originates from early private alterations and not from later clonal expansions, thus exposing the profile of the primordial tumor.
我々は次の予想も確認した。ほとんどの検出可能な腫瘍内の不均一性/ITHは腫瘍早期の最初の個別な変化が起源であり、後期のクローン増殖によるものではなく、ゆえに最初の腫瘍のプロファイルを示す。

※selective sweep: 選択的一掃
http://en.wikipedia.org/wiki/Selective_sweep
>A selective sweep is the reduction or elimination of variation among the nucleotides in neighboring DNA of a mutation as the result of recent and strong positive natural selection.
(選択的一掃とは、新しく生じた自然選択に有利な変異の近隣にあるDNAヌクレオチドの多型が、減少するか消えることである。)


腫瘍内の不均一性については以前からいくつかモデルが提示されているようです。


2015年2月6日

2015-02-08 14:47:03 | 

新しい研究は癌幹細胞の調節を明らかにする
New study sheds light on cancer stem cell regulation



サンフォード・バーナム医学研究所の研究者は、阻害されることで腸の腫瘍の原因となりうる幹細胞シグナルの正確なプロセスを発見した。この発見は幹細胞がどのようにして腫瘍を生じるのかについての理解を深め、腸癌の発症と進行、再発を阻害するための標的となるような特異的な幹細胞分子を特定する。研究の結果は本日のCell Reportsで公表される。

「癌幹細胞は癌の開始と進行、転移、再発、そして薬剤耐性の原因となることを示唆するエビデンスが蓄積しつつある」、サンフォード-バーナムでthe Cell Death and Survival Networks Programのプログラム・ディレクターであるJorge Moscat博士は言う。

「我々の新しい研究は、幹細胞を調節するシグナル伝達カスケードについての理解を深める。それは今よりも有効な癌の治療法を新しくデザインするために必須である。」

「プロテインキナーゼC-ゼータ(PKC-ゼータ)は通常、2つのシグナル経路、つまりベータカテニンとYapを下方調節することにより幹細胞の活性を阻害する」、論文のシニア共著者のMaria Diaz-Meco博士は言う。

「我々の研究室は以前、PKC-ゼータは腫瘍サプレッサー遺伝子として作用し、腸の幹細胞の恒常性を維持することを示した。今回の研究は、それが生じるメカニズムを明らかにする。」

腸は上皮細胞の単一の層によって覆われ、3日から5日ごとに入れ替わる。これらの上皮細胞を置き換える細胞のプールである腸の幹細胞は、恒常性を維持するように調節される必要がある。

「幹細胞プールの恒常性の乱れは、2通りの方向へ進む可能性がある。それは腸の上皮細胞の再生を低下させるか、または幹細胞の増殖を増大させる」、Diaz-Mecoは言う。

「細胞増殖の主要なメカニズムを制御する重要な遺伝子で突然変異が蓄積することにより癌は生じる。幹細胞は腸において『永続的』に存在する集団であり、それらの突然変異を蓄積するリザーバーである。したがって幹細胞の活性が増加すると、PKC-ゼータが欠けている腸の場合と同様に腫瘍を生じる可能性はずっと高くなり、腫瘍が生じるとそれはより悪性になる。」

研究チームは遺伝子工学による腸癌のマウス・モデルを用いて、このプロセスはPKC-ゼータが2つの不可欠な腫瘍プロモーターのベータカテニンとYapを直接リン酸化することによって、制御が保たれることを発見した。

「重要なことに、我々はヒトの結腸腺癌サンプルでPKC-ゼータとベータカテニン、Yapの腫瘍形成的なプロファイルを確かめた。マウスのin vivoでの研究とヒトでの結果の相関性は、YapとベータカテニンがPKC-ゼータ機能の潜在的な標的であり、新しい癌治療法の潜在的な標的であることを強く示唆する。」

「この結果は、腫瘍の原因となる経路を阻害することによる腸癌の予防と治療に新しい可能性を与える」、Moscatは言う。

「それらは、化学療法と放射線によって引き起こされるような急性または慢性的な損傷後の腸の再生を促進するための新しい戦略に光を当てる。」

記事出典:
上記の記事は、サンフォード・バーナム医学研究所によって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.PKCζによるβ-カテニンとYapの直接のリン酸化による、腸幹細胞機能と腫瘍形成の抑制。

Cell Reports、2015;

http://www.sciencedaily.com/releases/2015/02/150206111631.htm

<コメント>
腸陰窩に存在するLgr5+幹細胞は、PKCζがβ-カテニンとYapを直接リン酸化することにより機能が抑制されるという記事です。



2015年2月4日

2015-02-06 23:04:02 | 

追加されたタンパク質は、ハダカデバネズミに癌を止めるための力を与える
An extra protein gives naked mole rats more power to stop cancer



ハダカデバネズミという地下に住む齧歯動物は、癌にならないように見える。ハダカデバネズミで新しく発見されたタンパク質は、その独特の癌を防ぐ能力についての理解を助けるかもしれない。そのタンパク質は複数の遺伝子が集まる場所(遺伝子座)と関係がある。その遺伝子座の仕事は、癌と戦ういくつかのタンパク質をコードすることである。

この遺伝子座はヒトとマウスにも存在する。しかしそのどちらも癌と戦うタンパク質を3つしかコードしていないのに対して、ハダカデバネズミの遺伝子座は合計4つのタンパク質をコードする。ロチェスター大学の生物学教授のVera Gorbunovaらによるこの発見はPNASで発表された。



INK4遺伝子座と呼ばれる領域がヒトとマウス両方の種で3つの同じ癌抑制タンパク質、つまりp15INK4bp16INK4ap14ARF(alternate reading frame)を作ることはすでに知られていた: この3つのタンパク質は、細胞がストレスに曝されるか変異したときに、細胞が分裂するのを止める。

学生研究者のJorge Azpuruaは、単独の実験としてハダカデバネズミのp16タンパク質を複製しようとして予想外のことに気がついた: p15INK4bとp16INK4aが融合した結果として生まれた、第4のタンパク質の存在である。この第4のタンパク質は細胞の分裂を止める能力がp15INK4bとp16INK4aと同等か、さらに優れてすらいた。

「我々は、この新しい産物をpALTINK4a/bと名づけた」、Gorbunovaは言う。

「我々はそれが腫瘍の発達を阻害する能力を含めて、ハダカデバネズミの長寿に寄与する可能性があると考えている。」

ハダカデバネズミは地下に住む小型で無毛の齧歯動物である。寿命が30年あるにもかかわらず、これまで癌になったという報告はない。SeluanovとGorbunovaらは以前の研究で、INK4遺伝子座の抗がん応答を活性化する化学物質としてHMW-HA(very high molecular weight hyaluronan; 高分子量ヒアルロン酸)を特定した。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23783513

「INK4は、ヒトの癌において最も広く変異が見られる遺伝子座である」、Seluanovは言う。

「その遺伝子が削除されるかサイレンシングされると、しばしば腫瘍の形成に結びつく。」

そして彼が指摘したように、アテローム性動脈硬化症や他の加齢と関連する疾患における役割を裏づけるエビデンスが増えつつある。



pALTINK4a/bの重要性を確認するため、研究者はさまざまな細胞が増殖する状態下でのタンパク質の発現を調べた。実験の結果、細胞が過密になると、HMW-HAが存在する間に限ってハイブリッド・タンパク質が増加することを発見した。一方、HMW-HAが取り除かれるとpALTINK4a/bは発現しなかった。しかしpALTINK4a/bは癌遺伝子のような様々なストレスによっても誘導されたため、それは癌を引き起こす可能性もある。

研究者は、このタンパク質は高い細胞密度とHMW-HAに反応して、INK4遺伝子の抗がん応答を開始すると結論した。第4のINK4タンパク質pALTINK4a/bの存在により、ハダカデバネズミは悪性腫瘍のリスクがあるときも細胞の増殖を抑制すると思われる。

pALTINK4a/bがマウスとヒトにも存在するかを確かめるために細胞と組織のスクリーニングを試みたが、うまくいかなかった。

「我々の研究は、このタンパク質がマウスとヒトでも何らかの状態下で存在する可能性を除外しないが、研究結果はその可能性が非常に低いことを示唆する」、Gorbunovaは言う。

学術誌参照:
1.腫瘍抵抗性の齧歯動物のハダカデバネズミのINK4遺伝子座は、機能するp15/p16ハイブリッド・アイソフォームを発現する。

PNAS、2015;

http://www.sciencedaily.com/releases/2015/02/150204144657.htm

<コメント>
ハダカデバネズミ(naked mole rat)は癌にならないことで有名ですが、その一因としてヒトとマウスにはない4つ目の癌を抑制するタンパク質(pALTINK4a/b)の存在が示唆されたという記事です。

Abstractによると、pALTINK4a/bは、p15INK4bのエキソン1と、p16INK4aのエキソン2、エキソン3から構成されるとのことです。



2015年1月26日

2015-01-28 23:37:28 | 

癌が善良な細胞をダークサイドに変える方法
How cancer turns good cells to the dark side



ライス大学の研究者によると、癌はこれまでほとんど知られていない細胞シグナルを用いて細胞間コミュニケーションのプロセスを乗っ取り、そして転移するという。ライス大学を拠点とする理論生物学医学センターの研究者による新しいコンピュータ研究は、癌細胞がどのように隣の細胞とコミュニケーションするシステムを利用するかを示す。癌細胞はシステムを乗っ取り、次のようなメッセージを伝える。

「私のようになれ。」

「私のようになるな。」



ライス大学の生物物理学者Eshel Ben-JacobとJose Onuchicを中心とする研究者は、癌細胞がNotchシグナル伝達Notch signaling)という細胞間の相互作用メカニズムを用いて転移を促進する方法を解読する。このメカニズムは胚の発達と創傷治癒において重要な役割を果たし、一方の側のDeltaリガンドまたはJaggedリガンドが、隣接するもう一方の細胞のNotch受容体と相互作用すると活性化される。彼らの研究は癌転移に関与する遺伝子回路を経由する情報の流れを示した2014年の研究に続くものであり、今月のPNASにオープンアクセスで発表される。

「我々の新しい研究の核心は、転移を引き起こす主な因子が『上皮細胞(移動しない)』と『間葉系細胞(移動する)』のハイブリッドな集団であるということである」、Ben-Jacobは言う。

「完全に間葉系ではないこれらの細胞は癌進行の『悪い役者たち』であり、最も高いリスクを有する。これらのハイブリッドな細胞は一緒に行動することによって免疫システムを回避する可能性が高く、血管を循環している間はうまく生き残ることが可能である。」

Notch-Delta-Jaggedシグナルが癌の進行を促進する多面的なメカニズムはこれまで謎だったが、最近の実験的研究はJaggedリガンドが腫瘍進行において重要な役割を果たすことを明らかにした。今回の新しい研究は、細胞の運命を研究する科学者に新しい理論的な枠組みを与える。

Jaggedリガンドの存在によって、発信者でもあり受信者でもあるというハイブリッドな細胞集団が生じ、「私のようになれ(be like me)」というシグナルを送るようになる。それは胚の発達と治癒に役立つが、癌細胞によって乗っ取られることもあり得る。

「我々は、ハイブリッドな癌細胞がその特徴を利用して、安定な相互作用を確立することができることを理解した。それは彼らを『攻撃チーム』に変化させ、転移の間は一緒に移動する」、Onuchicは言う。



Notchシグナルの研究の焦点は、これまでNotch-Deltaシグナルについてだけだった。以前の研究によれば、発信者(sender)の細胞はNotch受容体の発現が低く、Deltaリガンドの発現は高い。他方、受信側(receiver)の細胞はNotch受容体の発現が高く、Deltaリガンドの発現が低い。この状況は正反対の運命を採用するように2つの細胞を導く。つまり、「私のようになるな(be not like me)」と発信する細胞と、それを受信して「あなたのようにはならない」と決める細胞である。

生物学者がNotch-Deltaシグナルを最初に知ったのは1世紀前、ショウジョウバエの翼の形成に関する研究においてだった。ある細胞が隣の細胞に「私のようになるな」と伝えると、細胞は互いに正反対の色を採用する。その時の視覚的な現れ方はチェス盤やゴマ塩のようなパターンである。

「JaggedはDeltaと似たような役割を演じると思われたため、研究の焦点はNotch-Deltaに集中してきた」、Ben-Jacobは言う。

「我々は、これらのリガンド間の違いとその影響についてより深く研究しようと考えた。」



「癌はJaggedタンパク質の影響を利用して、ハイブリッドな癌幹細胞から成る根っからの移動ユニットを形成する」、Ben-Jacobは言う。

Notch-Jaggedシグナルは癌細胞が化学療法と放射線治療に抵抗性を生じるのを助け、さらに新しい場所での癌とストロマ細胞(結合組織)との間のコミュニケーションを促進することにより転移形成を容易にする。

最近、腫瘍環境のストロマ細胞はJaggedリガンドを分泌することが発見された。ライス大学の研究者は癌細胞が近くのストロマ細胞を乗っ取り、Jaggedリガンドの産生を加速するように促すことを発見した。それは癌の生存の可能性を補強する。加えて、癌細胞が内部でJaggedを発現すると治療抵抗性の癌幹細胞の産生と維持が増加する可能性を研究者は示唆した。

「Jaggedを発現する癌細胞は幹細胞のような特性を獲得する可能性が高く、遠い臓器に到達するとその可塑性を利用して分化し、転移先の新しい状態に適応する」、筆頭著者であり以前はライス大学の客員研究員だったMarcelo Boaretoは言う。

研究者はこのモデルが、癌細胞が免疫システムと治療を回避するために用いるシグナル伝達メカニズムのより深い理解に向かう一歩であると言う。

「単一の細胞を研究しても、全ての答えは得られない」、Onuchicは言う。

「我々は互いにシグナルを送る細胞による判断を理解する必要がある。」

学術誌参照:
1.Notchシグナル伝達のJagged-Delta非対称性は、送信者Sender/受信者Receiverハイブリッドな表現型を生じ得る。

PNAS、2015;

http://www.sciencedaily.com/releases/2015/01/150126095715.htm

<コメント>
Notch-Deltaシグナルはトグルスイッチのように送信者と受信者を切り替えることが知られていましたが、Notch-Jaggedシグナルは送信者でもあり受信者でもある(medium ligand, medium receptor)第三の状態を生じるという記事です。

Abstractによると、活性化したNotchは細胞内ドメイン/NICDを切り離して標的遺伝子を活性化しますが、リガンドの産生に対しては非対称的に(asymmetrically)影響し、Deltaの産生は抑制してJaggedの産生を活性化するとあります。

NotchはDeltaとJaggedをどのように見分けているかという研究が最近Scienceに報告されました



2015年1月6日

2015-01-07 23:00:29 | 

研究者は、癌を促進する重要な遺伝子を発見する
Researchers uncover key cancer-promoting gene



癌生物学の謎の1つは、トランスフォーミング増殖因子β(TGF-beta)がどのようにして癌の形成を止めたり、増殖を促進できるかということである。ミシガン大学総合がんセンターの研究者は、このパラドックスを説明して潜在的な治療目標を提供するかもしれない重要な遺伝子を発見した。

TGF-betaは腫瘍サプレッサー遺伝子として知られ、細胞が正常に成長するよう抑えておくために必要である。しかし、ある時点でその機能は反転して腫瘍プロモーターとなり、癌の悪性の増殖と浸潤を促進する。今回、研究者はTGF-beta受容体の調節に関与する重要な遺伝子としてBub1を特定し、Science Signalingで発表した。

「Bub1が受容体レベルで関与するというデータは完全に予想外である」、研究ディレクターのAlnawaz Rehemtulla博士は言う。彼は放射線腫瘍学と放射線医学のRuth Tuttle Freemanリサーチ・プロフェッサーであり、ミシガン大学メディカルスクール分子画像化診断センターの共同ディレクターでもある。

「Bub1は細胞分裂での役割で有名だが、今回の発表はそれをTGF-betaと結びつける最初の研究である。我々は、これが腫瘍プロモーターであり腫瘍サプレッサーでもあるというTGF-betaのパラドックスを説明するかもしれないと考えている」、彼は付け加えた。



ミシガン大学研究者チームのShyam Nyati博士とBrian D. Ross博士たちは、TGF-beta受容体を調節する遺伝子をスクリーニングする方法を開発した。肺癌と乳癌細胞についてヒトゲノムの720の遺伝子がスクリーニングされ、TGF-betaシグナルにおいて有力な役割を果たす遺伝子としてBub1が現れた。Bub1はTGF-beta受容体と結合して、悪性の細胞増殖のスイッチを入れる。研究者がBub1を阻害すると、TGF-beta経路は完全にシャットダウンされた。

悪性のがん細胞の特徴を示す細胞では、TGF-betaが関与することが知られている。研究者は、Bub1が様々なタイプの癌細胞で強く発現することも知っていた。Bub1は様々な種類の癌で見られるため、それを標的にする薬は多くのがんに影響を与える可能性がある。

Bub1を標的にする化合物は開発されてはいるが、患者で試験する準備はまだできていない。ラボの実験では、Bub1阻害剤が他の細胞に害を引き起こすことなくBub1のみを標的にできることが示唆される。

「癌での遺伝子の発現でBub1はトップ5に入る。加えて、Bub1発現レベルは肺癌と乳癌患者の転帰と相関する。しかしそれがなぜかはこれまで不明だった。その関連が判明した今、我々はこのサイクルのシャットダウンに一歩近づいた」、Rehemtullaは言う。

記事出典:
上記の記事は、ミシガン大学健康システムによって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.セリン/ThrキナーゼBUB1のキナーゼ活性は、TGF-βシグナルを促進する。

Science Signaling、2015年1月;

http://www.sciencedaily.com/releases/2015/01/150106140820.htm

<コメント>
TGF-βシグナルは癌の抑制と悪性化の両方に関与しますが、そのシグナルを調節する遺伝子としてBub1を特定したという記事です。

Abstractにはこう書かれています。

------------------------------
TGF-βと結合すると、TGF-βI型受容体/TGFBRIは、TGFBRIIと結合して、転写因子SMAD2とSMAD3を活性化する。

BUB1キナーゼは、TGF-βが存在すると、TGFBRIと相互作用して、TGFBRIIとのヘテロ二量体化を促進し、さらにTGFBRIIとも相互作用して三量体を形成することが示唆される。

BUB1ノックダウンは、受容体複合体へのSMAD3のリクルート、SMAD2とSMAD3のリン酸化、そのSMAD4との相互作用、SMAD依存的な転写、TGF-βによる細胞表現型における変化(上皮間葉転換EMT/移動/浸潤)を阻害する。

BUB1ノックダウンは、非古典的なTGF-βシグナル(AKTキナーゼ、p38 MAPKキナーゼ)を抑制する。

BUB1のTGF-βシグナルの促進はキナーゼ活性に依存する。BUB1のキナーゼ活性の阻害剤2OH-BNPP1またはキナーゼが失活する変異は、TGF-βシグナルならびに受容体の三量体形成を抑制した。

2OH-BNPP1を肺癌異種移植lung carcinoma xenograftマウスへ投与すると、腫瘍組織でのSMAD2リン酸化は減少した。

これらの発見は、TGF-β経路におけるBUB1のキナーゼとしての機能を示す。細胞周期と染色体の接着chromosome cohesionにおけるその確立された機能を超えた役割において。
------------------------------

TGF-βが初期の癌は抑制するものの後期にはEMTを誘導するということは以前からよく知られています。


http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/a634de2c32256ddde7e64a3859950fcb
>周囲のストロマ細胞によるHSF1の活性化が、TGF-βとSDF1により悪性化を進行させる。

http://blog.goo.ne.jp/news-t/e/b825f66ef0fd430b04ceec445e4acf32
>基底細胞型の乳癌では、ZEB1遺伝子の状態は、抑制化と活性化のマーカーが遺伝子上に共存していて曖昧である。
>これらの細胞がTGF-βのようなシグナルに触れると、抑制マークは取り除かれて、ZEB1が発現する。それにより基底細胞型の非CSCはCSC(癌幹細胞)に変化する。

http://www.jci.org/articles/view/76711
>TGF-β signaling acts as an oncogene in basal breast tumors, in which it promotes EMT and metastasis, and acts as a tumor suppressor in luminal tumors, in which it is downregulated (54, 55).


2014年12月29日

2014-12-30 21:52:06 | 

糖分子はマウスで赤身肉の消費と高い癌リスクを関連づける
Sugar molecule links red meat consumption and elevated cancer risk in mice



多くの赤身肉を食べる人は特定の癌のリスクが高くなることが知られているが、他の肉食動物はそうではない。そのような観察から、カリフォルニア大学サンディエゴ校医学部の研究者はNeu5Gcという糖分子が腫瘍の形成に関与する可能性を調査するに至った。Neu5Gcはほとんどの哺乳類で自然に見られる分子だが、ヒトには存在しない。

PNASの12月29日のオンライン速報版で発表される研究によれば、ヒトと同様に糖分子Neu5Gcが欠けるよう設計されたマウスにNeu5Gcを与えたところ、自然発生癌(spontaneous cancer)が著しく促進された。

※自然発生癌: 誘発癌(induced tumor)に対応する言葉

この研究は発癌物質、つまり人工的に癌を引き起こす物質への曝露はしておらず、Neu5Gcを赤身肉消費と癌との間の重要なつながりとしてさらに関連づけるものである。

「これまで、Neu5Gcと癌を関連づける我々の証拠の全ては、状況証拠かまたはいくぶん人為的な実験的構成から間接的に予測されたものだった」、医学部・細胞分子医学の特別教授(Distinguished Professor)で主任研究員のAjit Varki医学博士は言う。彼はカリフォルニア大学サンディエゴ校ムーアズがんセンターの一員である。

「ヒト以外のNeu5Gcを与えて抗Neu5Gc抗体を誘導するという『ヒトの正確な状況』を模倣することが、マウスで自然発生癌を増加させることを直接示したのはこれが初めてである。」



Varkiの研究チームは初めに一般的な食品のシステマティックな調査を実施し、赤身肉(牛肉、ポーク、ラム)にはNeu5Gcが豊富であり、そのような哺乳類由来の食品がヒトの食事におけるNeu5Gcの主な供給源であることを確認した。

この分子は生物が利用可能(bio-available)であることも明らかにした。それはつまり体内に吸収されて血流に乗り、体全体の組織に分配されることを意味する。研究者は以前、ヒトの組織は動物のNeu5Gcを吸収できることを発見している。

今回の研究で彼らは、もし食べた動物に由来する異質な分子であるNeu5Gcに対して体の免疫システムが常に抗体を生じると、赤身肉が炎症の原因になり得ると仮定した。慢性的な炎症は腫瘍形成を促進することが知られている。

この仮説を確かめるため、研究チームは自身のNeu5Gcを持たないという点でヒトを模倣するマウスを設計した。このマウスはNeu5Gcに対する抗体を産生する。このマウスにNeu5Gcを与えると、全身性の炎症が引き起こされた。自然発生腫瘍の形成は5倍に増加し、Neu5Gcは腫瘍に蓄積した。

「ヒトにおける最終的な証明を得るのはずっと難しいだろう」、Varkiは言う。

「しかしより一般的な注釈(general note)をすると、本研究は赤身肉の消費と他の(腫瘍以外の)疾患との潜在的な関係を説明するのを助けるかもしれない。疾患とは例えばアテローム性動脈硬化症と2型糖尿病のような、慢性炎症によって悪化するような疾患である。

「もちろん、適度な量の赤身肉は若者にとって優れた栄養の供給源となるだろう。我々の研究が、この八方ふさがりの状態(catch-22)にとって実際的な解決策へと最終的につながることを我々は望んでいる。」

記事供給源:
上記の記事は、カリフォルニア大学サンディエゴ校健康科学によって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.赤身肉由来の多糖(glycan)は、炎症と癌進行を促進する。

PNAS、2014年12月;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/12/141229152226.htm

<コメント>
赤身肉(red meat)は哺乳類の成体(adult mammal)の肉のことです。牛や豚の肉に含まれているNeu5Gcという分子はヒトには存在しないため、体内に入ってくると抗体が作られて炎症が生じ、マウスの実験では癌の自然発生が促進されたという記事です。

Wikipediaを見ると、世界がん研究基金(WCRF)とアメリカがん研究協会は赤身肉を腸癌リスクの増加につながるとして、WCRFは赤身肉を「週」あたり300グラム未満(調理後の重さ)にするよう推奨しています。

実際、Cancer Research UKにも同様のことが書かれています

関連記事を見ると、赤身肉と関連する直結腸癌のリスクをレジスタントスターチが低下させるかもしれないという記事があります。レジスタントスターチは冷えたご飯やポテトサラダに多く含まれる炭水化物です。

日本の疫学研究でも上記の内容を支持する結果が出ているようです。

http://epi.ncc.go.jp/can_prev/evaluation/3452.html
>赤肉と加工肉について、各研究を総合して摂取量最低群に対する最高群の相対リスクを推計するメタアナリシスを行ってみました。
>すると、赤肉摂取による大腸がんのリスクはOR=1.16(95%信頼区間1.001-1.34)、同じく結腸がんのリスクはOR=1.21(95%信頼区間1.03-1.43)となり、有意なリスクの上昇が見られました。
>また、加工肉摂取による大腸がんのリスクはOR=1.17(95%信頼区間1.02-1.35)、同じく結腸がんのリスクはOR=1.23(95%信頼区間1.03-1.47)となり、やはり有意なリスクの上昇が見られました。

2014年12月18日

2014-12-23 23:46:17 | 

神経腫瘍学者は、癌細胞が酢酸を燃料として使えることを発見する
Neuro-oncologists discover cancer cells can burn acetate for fuel



テキサス大学サウスウエスタン・メディカル・センターの研究者は、脳腫瘍は燃料として酢酸を燃焼できることを発見した。この研究結果は腫瘍増殖を止めるための新しい潜在的な標的を提供する。



何が癌細胞の成長に燃料を供給するのか?

この疑問に対して研究者はずっと奮闘してきた。癌細胞が主な燃料としてブドウ糖を用いることは75年以上も前から知られていたが、脳でグルコースレベルを制御することにより癌成長を停止させる努力はうまくいかなかった。

「がん細胞の燃料はブドウ糖だけではないことを我々は特定した」、シニア著者のRobert Bachoo博士は言う。彼は神経学、神経医療、内科学の助教授であり、そしてハロルド C.シモンズがんセンターのメンバーでもある。

「酢酸は燃料と代謝産物を作り出すために用いられ、代謝産物は細胞が生き残って増殖するために必要なものを作るために使われる。」



今回の研究ではまず最初に、特別に設計されたマウス・モデルが使われた。このマウスの脳腫瘍が増殖する様子は、特に分子および代謝性特性に関してヒトの脳腫瘍にきわめて類似している。彼らはマウスに13C-酢酸と13C-ブドウ糖を共に注入し、腫瘍が燃料として酢酸を燃焼させることを示した。

「これは、酢酸がこうして細胞によって用いられることを示す初めての証拠である。印象的だったのは、我々が研究した全ての癌細胞が同じように酢酸を燃焼できる能力を持つということだった」、Elizabeth Maher博士は言う。彼女はハロルド C.シモンズがんセンターならびにアネットG.シュトラウス神経腫瘍学センターの一員であり、神経腫瘍学のセオドアH.シュトラウス教授職を保持する。

「我々が調査した全ての腫瘍は酢酸を代謝する酵素であるACSS2の発現を上昇させた。そして神経膠腫は成長するために酢酸に依存的であるようだ。」

研究者はさらに、2例の神経膠芽腫患者と、乳癌と肺癌の外科的切除を受けた2例の脳転移患者において、彼らの発見を実証した。

「その分析はヒトの腫瘍が酢酸を強く燃焼させることを示した」、神経腫瘍学アネットG.シュトラウス・センターの一員であり、神経腫瘍学でミラー・ファミリー教授職を保持するBachoo博士は言う。

「したがって、ACSS2は利用できる治療法が限られたこれらのきわめて悪性の腫瘍にとって治療学的な標的となる可能性がある。」

関連した研究と組み合わせたCell誌の添付のプレビュー論文は、「本研究によって提供される洞察は、癌代謝における潜在的に利用可能な脆弱性として酢酸代謝を位置づける」ことを示した。

記事出典:
上記の記事は、テキサス大学サウスウエスタン・メディカル・センターによって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.酢酸は、ヒトの神経膠芽腫と脳転移のための生体エネルギー的な基質である。

Cell、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/12/141218140845.htm

<コメント>
癌細胞はブドウ糖だけでなく酢酸も燃やせるという記事です。

アル中の人の脳は酢酸を燃料にできるというJCIでの論文があったので驚くよりもむしろ納得したのですが、やはり癌細胞は人体のあらゆるプログラムを利用できるのだなと実感します。

癌幹細胞はケトン体も使えるという記事が最近ありました。



2014年12月15日

2014-12-17 16:36:04 | 

小児期の神経障害の治療方針
Therapeutic strategy may treat childhood neurological disorder



テキサス大学サウスウエスタン・メディカル・センター研究者は、神経線維腫症1型(neurofibromatosis type 1; NF1)を治療し得る治療法を特定した。NF1は学習障害と自閉症が特徴の小児期の神経疾患であり、ニューロフィブロミンneurofibromin)というタンパク質をコードする遺伝子の突然変異に起因する。

研究者は、マウスにおけるニューロフィブロミンの喪失が小脳の一部の発達に影響を及ぼすことをまず最初に確かめた。小脳の機能は、バランス感覚、会話、記憶、学習である。発生生物学の主任教授であるLuis F. Parada博士が率いる研究チームは、NF1のマウスモデルで生じる小脳の解剖学的異常は、ニューロフィブロミンの喪失を打ち消す分子で処置することによって覆すことができることを発見した。



NF1はフォン・レックリングハウゼン病としても知られ、3,000人に1人がかかるまれな遺伝的障害である。NF1は行動と学習の障害、自閉症スペクトラム障害が特徴であり、神経に沿ってコントロールできない腫瘍の成長が生じる。

アメリカ国立衛生研究所によれば、ニューロフィブロミンは通常、腫瘍抑制因子として作用する。NF1遺伝子の突然変異はニューロフィブロミンの機能しないバージョンを生じ、細胞の成長と分裂が調節できなくなる。

小脳は様々な層の異なる細胞タイプから形成され、出生後も発達を続ける。小脳が完全に形成される前に、「未発達」の神経細胞は増殖して適切な部分に移動し、そこで別々の神経細胞タイプに「成熟」して小脳の層を形成する必要がある。

テキサス大学サウスウエスタンの研究者は、ニューロフィブロミンの喪失がこのプロセスに干渉して小脳の奇形につながることを発見した。ニューロフィブロミンがない小脳ではERKというシグナル経路には常に活性があり、それは正常な脳の発達に干渉する。この新しく得た知見を元に彼らはERK経路の阻害剤を生まれてすぐのマウスに投与して、小脳の解剖学的異常(anatomical defects)を覆せることが判明した。この発見はGenes and Development誌で発表される。

学術誌参照:
1.NF1によるRAS/ERKシグナルの調節は、小脳の発達における適切な顆粒ニューロン前駆体の増殖と移動のために必要である。

Genes & Development、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/12/141215122929.htm

<コメント>
神経線維腫症1型という疾患ではニューロフィブロミンという腫瘍抑制因子に変異が生じ、RAS-ERK経路による細胞の増殖と神経の移動が制御できなくなるという記事です。

ニューロフィブロミンneurofibromin)にはGTPase活性化タンパク質(GTPase activating protein; GAP)の触媒部位と相同性があり、GTPをGDPに分解することでRASを負に制御して細胞増殖を抑制しています。


2014年12月10日

2014-12-15 23:22:55 | 

ホリデー・ターキーを分解する経路は、トリプルネガティブ乳癌の転移に燃料を供給する
Pathway that degrades holiday turkey fuels metastasis of triple negative breast cancer



サンアントニオ・乳がんシンポジウムで発表されるコロラド大学がんセンターの研究によれば、トリプルネガティブ乳癌細胞はトリプトファンの加工処理を加速して、体内を移動して新しい種をばらまく転移の間の生存を促進する。

「私は、転移性乳癌の患者が休日にターキーを食べるべきではないとは言っていない。しかし、トリプルネガティブ乳癌はより速くトリプトファンを加工処理して、体内を循環している間も生き残れる準備をする方法を発見するようだ。それにより乳癌細胞は転移することが可能になる」、論文のファースト・オーサーであるThomas Rogersは言う。



健康な細胞の場合、もともといた組織から分離するとアノイキス(anoikis; ギリシア語で「家なし」の意)というプロセスが開始され、細胞死するようにプログラムされる。これはつまりがん細胞が転移するためにはアノイキスを回避しなければならず、浮遊している間も組織から分離したまま生き残る必要があるということである。

今回の研究では遺伝子アレイを使用して、組織に付着したままの細胞と比較して、浮遊したままでも成長できるトリプルネガティブ乳癌細胞ではどの遺伝子が上向き調節されるかについて調べた。

「要するに、引き離されても生き残ることができる細胞では何が異なるかを我々は調べた」、Rogersは言う。



分離して生き残ることを学んだトリプルネガティブ乳癌細胞で起きた遺伝子発現の変化の多くはただ一つの代謝経路、キヌレニン経路に関するものだった。キヌレニン経路は必須アミノ酸のトリプトファンを分解する経路である。キヌレニン経路が速いほど、トリプトファンは速く分解される。

そしてキヌレニン経路の速度を制御するのはTDO2という酵素であり、分離していないトリプルネガティブ乳癌細胞と比較して、分離した細胞では偶然にもそれが最も上向き調節された遺伝子だった。

言い換えれば、がん細胞はTDO2を過剰発現させてキヌレニン経路の全体の速度を上げる可能性がある。トリプトファンの分解は加速され、その全てはアノイキスを免れるのを助ける。アノイキスを逃れた癌細胞は自らの「根っこを引っこ抜い」て、体内の他の場所へ転移するために十分に長く生き残れるようになる。

「癌細胞が分離してこの異化経路を開始するとトリプトファンの代謝は速くなり、癌細胞の生存を促進する」、Rogersは言う。

現在、キヌレニン経路の複雑な連鎖反応の他の酵素を標的にした薬がすでに臨床試験中である。例えばNew Link Genetics社のindoximodは、転移性乳癌に対して化学療法と組み合わせた試験が実施されている。この薬はキヌレニン経路内の機能を調整して、免疫システムが効果的に癌細胞を標的にするのを助ける。

記事出典:
上記の記事は、コロラド大学がんセンターによって提供される物質に基づく。

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/12/141210131051.htm

<コメント>
転移するトリプルネガティブ乳癌ではTDO2(tryptophan 2,3-dioxygenase)という酵素の発現が上方調節されていて、トリプトファン分解からのキヌレニン経路を加速してアノイキスを回避するという記事です。


2014年12月1日

2014-12-09 13:40:31 | 

悪性の乳癌と関連する遺伝子が発見される
Gene associated with an aggressive breast cancer uncovered



A*STARのシンガポールゲノム研究所(Genome Institute of Singapore; GIS)の科学者は地元の米国臨床医たちと協力して、トリプルネガティブ乳癌(TNBC)と強く関連するバイオマーカーを特定した。トリプルネガティブ乳癌は化学療法をしてもすぐに再発して転移することが多い、きわめて悪性の癌である。

新しく特定されたバイオマーカーはRASAL2と呼ばれる遺伝子である。このバイオマーカーは新しい治療法の設計と開発の標的となる可能性がある。



エストロゲン受容体(ER)が陽性の乳癌やHER2で増幅される乳癌とは異なり、TNBCは致命的である。その理由は、ER陽性/HER2乳癌には効果的な分子標的治療があるのに対して、TNBC腫瘍は標的治療に反応しないためである。乳癌には多くのサブタイプがあり、それぞれ異なる遺伝子の構成を持つ。したがって、サブタイプが異なると、浸潤と転移のふるまいも異なる。

分子生物学者Min FengとGISの同僚は、乳癌組織サンプルのゲノム・データと乳癌細胞系統を使用した統合的アプローチにより、TNBCの高い転移能を説明するような調節不全を起こす遺伝子を捜そうと試みた。

その結果、高い転移能を持つTNBC細胞では特定のマイクロRNA(miR-203)が失われていることが明らかになった。このマイクロRNAは管腔細胞型乳癌(luminal breast cancer)では失われない。TNBC腫瘍でマイクロRNAが失われると、それによって抑制されていたRASAL2が上方調節される。

患者の予後を調べると、腫瘍でRASAL2の発現が高いTNBCの患者は、発現が低い患者と比較して生存率が低い傾向が見られた。乳癌マウス・モデルでは、RASAL2遺伝子をノックダウンすると転移の減少につながることが示された。

興味深いことに、以前の研究ではRASAL2が管腔型の乳癌の一部で失われることが明らかになっている。管腔細胞型においてRASAL2は腫瘍サプレッサー遺伝子として働く。

研究のプロジェクト・リーダーであり、GISのキャンサー・セラピューティクスならびに多層的腫瘍学プログラム(Stratified Oncology Program)のシニア・グループ・リーダーであるQiang Yu教授は次のように言う。

「癌は非常に異なった要素からなる疾患である。この疾患では、多くの分子プロセスがそれぞれ間違った方向に進んでいる。TNBCにおいてRASAL2は腫瘍サプレッサー遺伝子というよりむしろ、癌を促進する分子として働く。このことから我々が連想するのは、同じ分子でも癌のサブタイプが異なると、きわめて異なる機能を果たし得るということである。それは以前からしばしば観察されてきた現象だ。」

記事出典:
上記の記事は、A*Star Agency for Science, Technology and Researchによって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.RASAL2はRAC1を活性化して、トリプルネガティブ乳癌進行を促進する。

JCI、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/12/141201113408.htm

<コメント>

トリプルネガティブ乳癌(triple negative breast cancer; TNBC)の新たなバイオマーカーとして、miR-203の抑制と、RASAL2の上方調節が特定されたという記事です。

TNBC(MDA-MB-231, BT-549)ではいくつかのマイクロRNA群が失われているため、RASAL2が上方調節されてRAC1による腫瘍の浸潤と転移を促進します。逆にLuminalタイプ(MCF-7, BT474)ではRASAL2は腫瘍を抑制する方向に働きます(RASAL2はTNBCの38%、HER2+の16%で強く発現していたが、Luminalではほとんど発現していなかった)。


Luminal

 RASAL2─(E-カドヘリンによるMET)─┤RAS→pERK→成長/転移

 RASAL2↓ ───────────┤RAS↑→pERK↑→成長/転移

TNBC

 miR-200─┤ZEB1/2, SNAI1/2─┤E-カドヘリン─┤EMT
 miR-203─┤RASAL2─┤ARHGAP24─┤RAC1活性化→間葉系浸潤/転移


 miR-200↓─┤ZEB1/2, SNAI1/2↑─┤E-カドヘリン↓─┤EMT↑
 miR-203↓─┤RASAL2↑─┤ARHGAP24↓─┤RAC1活性化↑→間葉系浸潤/転移↑




ところで記事中の「同じ分子でも癌のサブタイプが異なるとまったく異なる機能を果たす」というのは、論文を見ると例えばTGF-βのことだと分かります。

>This phenomenon seems to resemble TGF-β signaling,
> which acts as an oncogene in basal breast tumors, in which it promotes EMT and metastasis,
> and acts as a tumor suppressor in luminal tumors, in which it is downregulated (54, 55).

2014年11月26日

2014-12-04 10:03:58 | 

多くの腫瘍の進行に重要な酵素
Enzyme may be key to cancer progression in many tumors



KRAS遺伝子の突然変異によって癌が起きることは長く知られていた。充実性腫瘍(solid tumors)のおよそ3分の1はKRASまたはKRAS経路の突然変異がある。

KRASは細胞成長と分裂を引き起こすことによってだけでなく、保護的な腫瘍抑制遺伝子をオフにすることによっても癌形成を促進する。腫瘍抑制遺伝子は通常、制御できない細胞の成長を制限して、損傷を受けた細胞を自滅させる。

アイオワ大学の最新の研究は、KRASが腫瘍抑制遺伝子をオフにするプロセスにおいて重要な酵素であるTET1を特定した。この酵素は癌の診断と治療の重要な目標である可能性が示唆される。この発見は11月26日にCell Reportsのオンライン版で発表される。



KRAS変異による癌において腫瘍抑制遺伝子はオフにされる(サイレンシング)が、それは抑制遺伝子の発現を制御するDNAがメチル化によって修飾されるためである。アイオワ大学の研究は、このメチル化に関与する遺伝子のサイレンシングをKRASが促進することを示す。KRASは、DNAからのメチル基の除去に関与するTET1酵素をオフにする。

アイオワ大学カーヴァー医科大学で生化学ロイJ.カーヴァー教授職でありシニアオーサーのCharles Brenner博士は次のように説明する。

「TET1というメチル基イレーサーは通常、非悪性の細胞で発現している。しかしKRASが活性化するとメチル基イレーサーはサイレンシングされ、遺伝子の発現を沈黙させるメチル基が蓄積される。」

KRAS突然変異により癌になった細胞は、異常に増殖してコロニーを形成する。Brennerと筆頭著者のBo-Kuan Wu博士は、この癌細胞にTET1を加えると腫瘍抑制遺伝子を再活性化させ、その異常な増殖を減少させるために十分であることを発見した。

癌細胞からKRASシグナルを除去するとその悪性度は低下したが、KRASが存在しなくても、細胞からTET1を除去することは再びそれらを癌化するには十分であった。



この経路を阻害する阻害剤は現在利用可能である。

「これらの阻害剤はいくつかの腫瘍で作用するが、そうでない腫瘍もある」、Brennerは言う。

「我々は、阻害剤がTET1を再び発現させることができるかどうかが、薬が腫瘍で作用するためのきわめて有力なバイオマーカーであると考えている。TET1の活性化は多くの悪性腫瘍に対する普遍的な治療学的戦略であるかもしれないと我々は考える。」

記事出典:
上記の記事は、アイオワ大学によって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.TET1依存的なDNA脱メチル化反応の抑制は、KRASによって媒介される形質転換のために必須である。

Cell Reports、2014年11月;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/11/141126123924.htm



<コメント>
変異したKRASは、ERKを介して脱メチル化に関与する腫瘍抑制遺伝子TET1(Tet Methylcytosine Dioxygenase 1)のスイッチを切ってしまうという記事です。

DNAのシトシンはDNMT(DNA methyltransferase)によってメチル化され、反対にメチル化シトシンはTETによってヒドロキシル化されてから脱メチル化されます。

※TET1は、CXXCドメインによりプロモーターに局在する。TET2はCXXCドメインを欠く

IDH1/2の変異によって生じる2-ヒドロキシグルタル酸(2-hydroxyglutarate; 2-HG)は、JHDM/TETを抑制して、ヒストン/DNAの脱メチル化を抑制します。JHDMはヒストン、TETはDNAを、α-ケトグルタル酸をコファクターとして脱メチル化反応を触媒する酵素です。


2014年11月25日

2014-11-28 23:32:18 | 

乳癌浸潤に対する新しい洞察は、優れた試験と治療薬をもたらす可能性がある
New insights into breast cancer spread could yield better tests and treatments



乳癌患者の腫瘍細胞を研究室の血管内層モデルと組み合わせた研究により、乳癌の浸潤には「三つの特定の細胞」が必要であるという動かぬ証拠が示された。今回の発見は、乳癌が転移するかどうかを予測する優れた検査ならびに新しい抗癌療法につながる可能性がある。

この研究はNCI(米国国立癌研究所)指定のアルバート・アインシュタインがんセンターとモンテフィオーリ・アインシュタインがんケアセンター(MECCC)によって実施されたもので、Science Signalingのオンライン版で発表された。



米国国立癌研究所によれば、昨年アメリカでは23万2千人以上の女性が乳癌を発病し、約4万人の女性が死亡した。乳癌による死亡はほとんどの場合、癌の転移によって生じる。転移とは一次性の腫瘍細胞が血管に侵入して血流に乗り、体内の別の場所に腫瘍を形成することを意味する。

動物モデルとヒト癌細胞による以前の研究で、3つの特定の細胞が直接接触するときに乳癌は転移することが明らかになっていた: その3つの細胞とは、血管内皮細胞、血管周囲マクロファージ、そして高レベルのMenaを産生する腫瘍細胞である。Mena(Mammalian Enabled)は、癌細胞の浸潤する能力を強化するタンパク質である。

これら3つの細胞が接触する場所で、腫瘍細胞は血管に入ることができる。このような場所を「腫瘍転移微小環境(tumor microenvironment of metastasis; TMEM)」と呼ぶ。TMEMの箇所が多い、つまりTMEM「スコア」が高い腫瘍は、TMEMスコアが低い腫瘍よりも転移する可能性が高かった。

加えて、Menaの一種であるMenaINVの高い癌組織は特に転移しそうであることを研究者は発見した(MenaINVのINVは侵襲性(invasive)を指す)。

「それらの研究は癌がどのように蔓延するかについての新しい洞察を明らかにしたが、それは必ずしも何が患者に起こっているかについて示すわけではなかった」、イェシーバー大学アルバート・アインシュタイン医科大学の病理学の准教授で研究リーダーのMaja Oktay医学博士は言う。



科学者は研究を拡大して、乳癌の患者を分析した。2011年、彼らは40例の患者について、高いMenaINVレベルと高いTMEMスコアの間に相関を示すという研究を発表した。

今回の研究では40例の患者に加えて、さらに60例の患者の結果を組み合わせた。100例の患者は全て浸潤性乳管癌と診断された女性たちで、MECCCで治療を受けていた。浸潤性乳管癌は浸潤乳癌で最も一般的なタイプで、全乳癌患者の80パーセントを占める。この疾患で癌細胞は血管の内壁を通り過ぎて、周囲の胸部組織へと浸潤していた。

より最近の患者のサブセット60例に関して、研究者は腫瘍細胞のふるまいを調べた。特に、血管の内皮を越える癌細胞の能力についてである。

彼らは細い針による吸引(fine-needle aspiration; FNA)で腫瘍細胞を得て、新しく設計された組織分析アッセイの中にそれらを配置した。その分析装置は血管内皮を再現するように作られていた。血管内皮は、腫瘍細胞が一次性の腫瘍から遠くまで転移するために越えなければならないバリアである。

新しい60例の患者の生検で得られた腫瘍組織はホルマリンで固定されてパラフィンに包埋され、TMEM箇所を数えられるようにした。その結果、この分析アッセイで血管内皮を越えることができた乳癌細胞は、MenaINVレベルが他の全ての腫瘍細胞の集団よりも高いことが判明した。

加えて、同じ患者から得られたパラフィン生検標本では、MenaINVのレベルの高さは、TMEMの箇所の多さと相関した。



研究者は100例の患者の全ての結果を組み合わせて、今回の発見は浸潤性乳管癌の最も一般的な3つの臨床サブタイプ全体で一貫していることを示した。

※3つの臨床サブタイプ: 日本乳癌学会の規約によれば、浸潤性乳管癌は構造的な特徴から、乳頭腺管癌(papillotubular carcinoma)、充実腺管癌(solid-tubular carcinoma)、硬癌(scirrhous carcinoma)の3型に分けられる

「これらの結果により、TMEM箇所とMenaINVがヒトの乳癌の浸潤に必須であることが確認される」、Oktay博士は言う。

「それらはまた、MenaINV発現とTMEMスコア測定が、ヒト乳癌が転移するために広く使われるメカニズムのいくつかの面を関連づけることも意味する。」

Oktay博士は次の点を強調した。

「転移性乳癌の結果は、分子標的治療などの発達にもかかわらず過去30年改善しなかった。転移のプロセスについてより多くを知ることはひどく重要である。それにより我々は癌が転移するかどうかを予測する新しい方法を開発し、新しい治療薬を特定できるようになるからである。」

記事出典:
上記の記事は、イェシーバー大学アルバート・アインシュタイン医科大学によって提供される素材に基づく。

学術誌参照:
1.患者から得られた浸潤性の乳癌細胞は、MenaINV依存的かつマクロファージ依存的な経内皮移動(transendothelial migration)を示す。

Science Signaling、2014;

http://www.sciencedaily.com/releases/2014/11/141125180317.htm

<コメント>
乳癌細胞の血管内皮を越える転移はMenaINVを多く産生しているほど可能性が高くなり、そのような浸潤は血管周囲マクロファージの近くで起きるという記事です。

Abstractによれば、乳癌細胞の血管への侵入は、癌細胞とマクロファージとの間のCSF-1R(colony-stimulating factor-1 receptor)を介するシグナルを抗体によって阻害することで抑制される可能性が示されたようです。