長内那由多のMovie Note

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『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』

2023-07-16 | 映画レビュー(い)

 おいおい、いったいどうしてこんな事になってしまったんだ?前作『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』以来15年ぶりの続編となる本作は『フォードvsフェラーリ』を手掛け、名実ともにアメリカ映画界を代表する名匠へと成長したジェームズ・マンゴールド監督へとバトンが引き継がれ、公開された予告編からは齢80歳を迎えたハリソン・フォードの老境に『ローガン』同様、アメリカンヒーローの黄昏を描くのかと期待が高まった。マンゴールド自身もそんなインディ・ジョーンズの老いに興味を抱いたと発言しており、長いアヴァン(本当に長い)を終えて1969年現在のインディが登場する序盤のシークエンスは確かに味わい深いものがある。狭苦しいアパートに暮らすインディは寂しい独居老人で、近所の若者にはナメられ、宇宙開発競争が激化する中、人々の関心は過去を顧みる考古学ではなく"未来”にある。老いさらばえた肉体を臆することなくスクリーンに晒すハリソン・フォードは『フォースの覚醒』のハン・ソロ、『ブレードランナー2049』のデッカードに続いて当たり役に時の年輪を刻み、偉大なキャリアを総括した。そんなインディの元へ名付け子のヘレナ、そして第二次大戦中に秘宝を巡って争った元ナチスの科学者フォラーが現れる。

 "インディ・ジョーンズシリーズ”と言えばスピルバーグをカーチェイス演出の横綱へとたらしめた活劇性と、他愛のないものから黒過ぎるものまでふんだんに散りばめられたユーモアが大きな魅力。ところが意外にもマンゴールドにはどちらのセンスも欠如している。最大の見せ場と言っていいパレード中の市内で繰り広げられるチェイスシーンはカメラもフィジカルも全く躍動することなく、マンゴールドは往時のスピルバーグ演出を踏襲する素振りすら見せない。ようやくモロッコに至るとエンジンがかかってきたようにも思えるが、ここを過ぎると映画は上映時間を1時間余り残してほとんど駆動すらしなくなっている。ヘレナ役に『フリーバッグ』でエミー賞を席巻した脚本家、女優のフィービー・ウォーラー=ブリッジが起用されていることから80歳のアクションスターが主演する映画を活気づけるには十分と期待されたが、これも意外なことにマンゴールドはこの才媛を活かす術をまるで持ち合わせていない。ウォーラー=ブリッジがアクション女優でないことは承知の上だが、『フリーバッグ』で見せた演技、ユーモアのキレとスピードはフィジカルアクションに勝る。ウォーラー=ブリッジは何とも所在なさげで、これはそもそも彼女がやるべき仕事ではないだろう。せめて彼女の登場シーンの演出とセリフを全て任せない限りはどうにもならなかったのではないか(今思えば、ウォーラー=ブリッジが演者として唯一成功していたメジャー大作はドナルド・グローヴァーの相棒ドロイドを快投した『ハン・ソロ』だけ)。マンゴールドは俳優演出に長けた監督のイメージだったが、振り返ればホアキン・フェニックス、クリスチャン・ベールといった1人で作品のランクを上げるワンマンアーミー級の名優と多く組んでおり、必ずしもキャストアンサンブルに秀でた演出家ではなかったのかもしれない。
 そんな中、ただ1人気を吐いているのがマッツ・ミケルセンで、“インディ映画の悪役”をスマートで楽しげに演じ、なんとカーチェイスシーンでは後部座席でタバコをくゆらせている(ほとんど見切れているシーンなので、おそらくマッツのアドリブだろう)!

 本作の企画が本格始動したのはディズニーによるルーカスフィルムの買収後、『フォースの覚醒』が大ヒットを記録した2015年から2016年にかけてと言われている。この事からも『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』は観客のノスタルジーに依存した『スター・ウォーズ』シークエル3部作の副産物という見方もできなくない。そもそも冒頭、若返りCGによって甦った1980年代全盛期のハリソン・フォードに80歳のしわがれ声が当てられた様に、筆者は「嫌な予感がする」と感じずにはいられなかった(おっと、違う映画だ!)。154分の間、家に帰ったらディズニープラスで旧作を見て口直しをしようとずっと考えていたが、それすらもディズニーの株価に寄与する思うつぼだろう。“インディ・ジョーンズシリーズ”という偉大なアークは、何とも虚しいライブラリーへと収蔵されてしまったのだ。


『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』23・米
監督 ジェームズ・マンゴールド
出演 ハリソン・フォード、フィービー・ウォーラー=ブリッジ、マッツ・ミケルセン、アントニオ・バンデラス、ジョン・リス=デイヴィス、トビー・ジョーンズ、ボイド・ホルブルック、カレン・アレン

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