長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ダーク・マテリアルズ/黄金の羅針盤』

2020-07-24 | 海外ドラマ(た)

 2000年代前半は『ハリー・ポッター』シリーズや『ロード・オブ・ザ・リング』3部作の大成功によって空前のファンタジーブームが起こり、多くの小説がシリーズ化を目論んでは消えていった。僕はこのムーブメントに終止符を打ったのが『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズを製作したニューラインによる『ライラの冒険/黄金の羅針盤』だったと思っている。オールスターキャストの鳴り物入りで公開されるも興行、批評共に失敗に終わり、期待されていた続編は製作中止に追い込まれてしまった。また仕上がりとは別に2007年の世界金融危機や、フィリップ・プルマンの原作が非キリスト教的であるとするボイコット運動も原因していたと分析されている。やがてファンタジー映画ブームはYA小説映像化ブームへと変わっていった。

 僕も公開当時、胸躍る気持ちで劇場に足を運び、大きく肩を落として帰ってきた事を覚えている。それがHBOとBBCの共同によるTVドラマシリーズとして復活というのだから、PeakTVかくたるや。かくして10余年の時を経てこの世界を再訪してみれば、TVシリーズのナラティブでしか映像化し得ない、なんとも複雑な作品であった。こんな話だったのか!

 僕達の暮らす世界とは異なる文明が築かれたパラレルワールド。孤児である主人公ライラは嘘が得意で、反抗心に満ちた女の子だ。演じるのは『ローガン』でブレイクしたダフネ・キーン。野性的な目つきで、子役特有の甘っちょろさがない彼女のキャスティングに本作の志向が伺える。大作を牽引できてしまうカリスマ性に今後が楽しみだ。

 ライラは育ての親であるアスリエル卿(すっかり名優の貫禄ジェームズ・マカヴォイ)から託された真理計を読み解く事ができるため、世界を支配する組織“教権”から狙われる事になる。彼女を追うコールター夫人はダースベイダー的悪役であり、演じるルース・ウィルソンは児童小説ファンタジーには十分過ぎる程の演技で子供どころか大人も震え上がらせる。子供が犠牲になる場面も多く、シーズン後半は『ゲーム・オブ・スローンズ』の“壁の向こう”さながらの陰鬱な雪景色だ。
 さらに今回は僕達の暮らす世界に生きる少年ウィルが登場し、後のライラとの運命を予感させる。『ライラの冒険』は2つの世界を結ぶ並行世界SFだったのだ!

 それでも尺が足りない。シーズン1全8話を通してようやく映画版2時間が補完されるに留まっており、ウィルとライラの宿命は唐突なナレーションによって匂わせる程度に終わっている。結果、本筋に絡まないウィルのパートはストーリー展開を鈍重にしている。

 『ゲーム・オブ・スローンズ』シリーズ終盤が予算の都合上、従来の1シーズン10話から6~7話へと変わったのを皮切りに、超大作化が進むTVシリーズの変則編成が増えてきた(HBO最新作『ウエストワールド』シーズン3も全8話)。そのいずれもが語り足りていない。長編小説の映像化に優れたフォーマットとして隆盛してきたのが近年のPeakTVでありながら、超大作映画のような予算規模によって破綻してしまうのは本末転倒ではないか。ひょっとすると、PeakTVは既に斜陽期に入っているのではないか。そんな一抹の不安を『ダーク・マテリアルズ』シーズン2が払拭してくれる事を期待したい。


『ダーク・マテリアルズ/黄金の羅針盤』19・英
出演 ダフネ・キーン、ルース・ウィルソン、リン・マヌエル・ミランダ、ジェームズ・マカヴォイ


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