長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『Love,サイモン 17歳の告白』

2020-09-04 | 映画レビュー(ら)

 高校卒業を間近に控えたサイモンはオンライン掲示板に書かれた投稿を見て、その主にメールを送る。ゲイである事を隠しているサイモンは、その主も自分と同じ悩みを抱えているのではと察したのだ。サイモンはブルーと名乗る投稿主との文通を経て、やがてまだ見ぬ相手への恋心を募らせていく。

 これまで数多く作られてきたカミング・エイジ・ストーリーの現代最新版だ。サイモンは家族や友人に恵まれ、何不自由なく生きてきたが、自身のアイデンティティを確かめることも明かすこともできなかった。彼と周囲の人々の交流を丁寧に描く演出、脚本の慎ましやかさと主演ニック・ロビンソンの繊細な演技が素晴らしい。サイモンの抱く恋のときめきと人生の目覚めは誰もが共感できる普遍のものだ。「ゲイと自覚したきっかけは?」という問いに「デナーリス推しじゃなくてジョン・スノウ推しと気付いた時」という会話も楽しい(基礎教養としての『ゲーム・オブ・スローンズ』!)
また『13の理由』で迫害されるヒロインを演じたキャサリン・ラングフォードがここではサイモンの幼馴染役で生き生きとした表情を見せているのも嬉しかった。

 ブルーとのメールが第三者に盗み見された事で、サイモンはゲイである事をバラされる“アウティング”の危機に遭う。日本でも社会問題として取り沙汰されるこの行為の卑劣さには胸をかきむしられるような想いだが、“学園青春モノ”は日進月歩でこのイシューを更新してきた。翌年、Netflixで配信されたTVシリーズ『セックス・エデュケーション』やオリヴィア・ワイルド監督の『ブックスマート』ではゲイや同性愛が当たり前の事として描かれ、登場人物の誰もが互いを認め合い、攻撃的な敵は一切出てこないのだ。たった1年でポップカルチャーの景色はこうも変わるのか。サイモンの告白を学校中の生徒が見学に来るというクライマックス1つとっても(こんな晒し行為がハッピーエンドとは思えない)変革の年である2019年の作品群と比べて古びて見えてしまった。

 もちろんそれが本作の繊細さを損なう事にはならない。だがこのジャンルの作り手達は現在を生きる若者達の進歩性を信じ、多様な社会と連帯のロールモデルを日々更新し続けているのである。


『Love,サイモン 17歳の告白』18・米
監督 グレッグ・バーランティ
出演 ニック・ロビンソン、キャサリン・ラングフォード、ジョシュ・デュアメル、ジェニファー・ガーナー
 

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