長内那由多のMovie Note

映画レビュー、俳優論など映画のことを中心としたブログ

『ローガン』

2017-06-10 | 映画レビュー(ら行)


これは『X-MEN』の続編ではなく、いつか見たアメリカ映画の風景だ。
冒頭、チンピラどもがリムジンタクシーからホイールを奪おうとしている。すると、中から酒に酔った髭面の男が現れ、ならず者ども半殺しにする。男の名はローガン。かつて“ウルヴァリン”と呼ばれた最強のミュータントだ。正義のミュータント軍団X-MENは滅び、タクシー運転手として糊口を凌いでいる。不死身の能力も衰えた。今はなけなしの金で船を買い、呆けてしまった師プロフェッサーⅩと海に出るのが目標だ。そこには夢なんてものはない。ただ漫然と、最期を迎えるためだけに海に出るのだ。

驚くべきことにジェームズ・マンゴールド監督はウルヴァリン完結編の舞台をアメリカの乾いた風に見出した。
傷ついた魂を持つ男、正義と悪、守るべき者、そして暴力とその代償。それらは西部劇からニューシネマ、クリント・イーストウッドに到るまで脈々と受け継がれてきたアメリカ映画の伝統的文脈であり、それがアメコミと融和し、この混迷の時代に今一度「ヒーローとは何か」を問う。悪の組織から逃げ出した子供たちが唯一信じたのはコミックスとなった『X-MEN』だった。混迷し、緩やかに衰退の一途を辿る現代において、信じる力を持った子供たちにこそ未来を切り開く逞しさは宿る。

老い、厭世感に満ちたローガンに再び獰猛さを呼び戻すのが素晴らしいカリスマ性を持った子役ダフネ・キーン演じるローラだ。ローガンの遺伝子を移植された改造人間である彼女を抹殺しようと悪の組織が迫るが、ローラの怒りにはかなわない。時の権力に翻弄されてきたウルヴァリンの怒りを表現するためにはR指定のバイオレンスが必要だった。猛るアクションが観る者の心を奮い立たせる。製作の20世紀FOXは同じR指定の前作『デッドプール』に続き、独自の鉱脈を見つけたようだ。マンゴールドのアクションはいつになく激しく、『3時10分、決断のとき』でも組んだマルコ・ベルトラミのケレン味あふれるスコアも手伝って早くも冒頭のカーアクションで映画はピークに達する。

ヒュー・ジャックマンはこれまでになく荒々しい演技で自身をさらけ出し、キャリア最高の名演である。嬉しいことにオーストラリアから渡ってきた直後、『X-MEN』第1作目で感じた若き日のイーストウッドとのデジャヴを僕は思い出し、それが本作をイーストウッド映画へと邂逅させている。共演のパトリック・スチュワートもシリーズベストはおろか、映画俳優としての過去最高の名演であり、ようやく正当な見せ場を得たと言っていいだろう。

ある名作映画が引用されるクライマックスは涙なしでは見られない。
あまりに多様なフィルモグラフィのために見過ごされてきたが、ジェームズ・マンゴールドは伝統的アメリカ映画の継承者だったのだ。これほど深い余韻を残すアメコミ映画は『ダークナイト』以来である。



『ローガン』17・米
監督 ジェームズ・マンゴールド
出演 ヒュー・ジャックマン、パトリック・スチュワート、ダフネ・キーン
『映画・DVD』 ジャンルのランキング
コメント   トラックバック (2)   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 『アクトレス 女たちの舞台』 | トップ | 『シェーン』 »

コメントを投稿

映画レビュー(ら行)」カテゴリの最新記事

2 トラックバック

LOGAN/ローガン (本と映画、ときどき日常)
監督 ジェームズ・マンゴールド 出演 ヒュー・ジャックマン     パトリック・スチュアート     ダフネ・キーン さらに時代は流れー。 ミュータント絶滅の危機。 老い......
LOGAN/ローガン  監督/ジェームズ・マンゴールド (西京極 紫の館)
【出演】  ヒュー・ジャックマン  パトリック・スチュワート  ダフネ・キーン 【ストーリー】 近未来では、ミュータントが絶滅の危機に直面していた。治癒能力を失いつつあるロ......