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長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『アノマリサ』

2020-09-14 | 映画レビュー(あ)

 カスタマーサービスにおけるビジネス指南書で名声を築いたマイケル・ストーンは著書の講演会でとある街を訪れる。妻子に恵まれ、何不自由ない生活を送っているように見える彼だが、ある悩みを抱えていた。自分以外の誰もが同じ声に聞こえてしまうのだ。そこへ唯一人、自分の声を持つ女性リサが現れ…。

 監督、脚本のチャーリー・カウフマンはこの話を何とストップモーションアニメで作っている。当然、アニメ的デフォルトを施された可愛らしさは皆無だし、人形の目元には謎の分割線(これは後々、意味がわかる)が付いていて何ともグロテスクだ。しかも性器までしっかり作り込まれていて(僕が視聴したケーブルTVではモザイクが付いていた!)人形同士のセックスシーンまであるのだ。全くどうかしてる!

 “人形”というのはカウフマン作品に度々登場する重要なモチーフの1つだ。『マルコヴィッチの穴』では主人公の職業が人形遣いであり、それは思い通りにならない人生をコントロールしたいという願望の表れだった。最新作『もう終わりにしよう。』では劇中劇でバレエが登場するが、これも美しい人生だと思い込みたい主人公の願望である。

 『アノマリサ』は映画そのものがカウフマンの願望ではないだろうか。この人はどういうワケかデビュー当時からミドルエイジクライシスをテーマにしてきた。人生は思い通りにはならない、セックスしたい、イラク戦争はおかしいetc.…。いつだって言いたい事が多すぎるカウフマンはマイケルに講演会でぶちまけさせるも、人生は好転したりはしない。

 カウフマンはウディ・アレン級に多弁でナルシシスティックだ。しかし、人生に対する考え方はずっと悲観的である。人生を変えるような出会いなんて起きるワケがない。人形劇のようにコントロールなどできはしない。この人生観は5年の歳月を経て円熟し、最新作『もう終わりにしよう。』に結実する事となる。


『アノマリサ』15・米
監督 チャーリー・カウフマン
出演 デヴィッド・シューリス、ジェニファー・ジェイソン・リー、トム・ヌーナン


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