長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『よこがお』

2020-09-17 | 映画レビュー(よ)

 ワケありの女2人が揃うとドラマは粘度を持ち始める。ジーナ・ガーションとジェニファー・ティリーの『バウンド』。サンドラ・オーとジョディ・カマーの『キリング・イヴ』。フランス資本と深田晃司監督による冷徹な演出もあってか、本作を見ている間はクロード・シャブロル監督の『沈黙の女 ロウフィールド館の惨劇』やフランソワ・オゾンの初期傑作『海を見る』も頭をよぎった。

 2つの時間軸をシームレスに移動する前半の手捌きが素晴らしい。主人公の市子が美容室に現れる。初めてだと言うのに池松壮亮扮する美容師を指名だ。彼女は彼のアパートの近所に住んでおり、偶然を装って距離を縮めていく。
ところが、ある場面では市子は善良な介護士である。余命いくばくもない老婦人を世話し、その家族からも厚い信頼を得ている。中学生のサキとその姉、基子の家庭教師まで請け負う程だ。職場の上司である医師との結婚も決まっており順風満帆に思えた彼女の人生だが、ある事件をきっかけに破滅が訪れる。

 『よこがお』のタイトルが示す通り、僕たちは人物や物事の側面しか一度に見る事は出来ない。そんな人間の複雑さを演じる筒井真理子と市川実日子が素晴らしい。一見、清廉な2人が互いのセクシャルな秘密を共有し合う粘度は何なのだ。市川の年齢不詳な個性がニートである基子に説得力を与えており、ケアの行き届いた家庭で彼女の部屋だけが唯一汚れている事に寒気を覚える。筒井は事件前後で全く別人格のように市子を演じ分けており、全てを失ってからの姿はむしろ開放的に見えるのが面白い。

 悪魔のような所業を働く基子だが、その“よこがお”の向こうは驚くほど純だ。その純粋さに市子は怒り、“悲鳴”を上げる。ワケありの女2人が揃うと、恐ろしいスリラーの出来上がりだ。


『よこがお』19・日
監督 深田晃司
出演 筒井真理子、市川実日子、池松壮亮、須藤蓮、小川未祐、吹越満


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