
今や世界的大スターとなったトニー・スタークことロバート・ダウニーJr.も、かつてはアメリカンインディーズのパイオニア、ロバート・ダウニーの息子という枕詞が付いた時期があった。この偉大なアーティストの足跡を振り返ろうとダウニーJr.自らがプロデュースし、父の晩年の様子を撮らえたのが本作だ。ダウニーシニアは85歳。老いたりと言えど才気は衰えず、撮影中もプロデューサーである最愛の息子へのダメ出しが止まらない。父の撮影現場に置かれた揺りかごで育ったというダウニーJr.にとって、映画製作とはまさに父子のコミュニケーションそのものなのだ。ダウニーJr.はオフでもまんま“社長”で、しかもお父さんが大好きなパパっ子ぶりが伝わってくるチャーミングさ。父の影響を受けたポール・トーマス・アンダーソン監督を指して「彼が息子の方が良かった?」なんて減らず口を利く姿も楽しい(もちろん、ptaがロバート・ダウニーシニアの“後継者”であることに異論はないだろう)。
残念ながら日本ではダウニー・シニアの映画をほとんど見ることができない(Netflixが本作に合わせてリリースすることなんて望むべくもないだろう)。2022年にようやく1969年作『パトニー・スウォープ』が上映された程度である。シニアのキャリアを振り返ることができない以上、本作はダウニーJr.による年老いた父の看取りの物語と見るのもいいだろう。パンデミックによる厳しい行動制限の中、ダウニーJr.は息子を連れて病床にある父と最期の時間を過ごしていく。それは偉大なアーティストと世界的スターである前に普遍的な父と息子の姿であり、この数年であまりに多くの別れを経験してきた私達の心を打つのである。
『“Sr.”ロバート・ダウニー・シニアの生涯』22・米
監督 クリス・スミス
出演 ロバート・ダウニー、ロバート・ダウニーJr.
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