長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『グッド・ナース』

2022-11-24 | 映画レビュー(く)

 点滴薬に大量のインスリンを混入し、推定400人以上もの患者を殺害したとして現在も収監されている看護師チャーリー・カレン逮捕までを描いた実録サスペンス。シリアルキラーという存在はいつの世も私たちが覗き込みたくなる暗い奈落のような存在であり、やはり実在する殺人鬼とFBI行動心理学課の創設を描いた『マインドハンター』にも参加した監督トビアス・リンドホルムが背筋の寒くなるような冷気を持ち込む事に成功している。チャーリー・カレン役にエディ・レッドメイン、逮捕のきっかけを作る同僚看護師にジェシカ・チャステインが扮し、性格俳優2人が本領発揮した共演は互いにオスカー受賞作を凌ぐ緊迫だ。特にレッドメインはカレンの中にある幼稚な自己顕示欲を的確に捉えており、それが露わになる終盤に戦慄させられる。

 この映画の難点は立証できない殺人まで自供することで死刑を回避したカレンが、未だなお犯行の動機を語っていないことだ。『グッド・ナース』は私たちの危険な願望をわずかばかりに満たしてくれるが、果たしてカレンとは何者なのか、この事件が何を映し、なぜ2022年に語られるべきなのかを再定義していない(ライアン・マーフィーならもっと大胆に作ったかもしれない)。病院側がカレンの犯行に気づきながらも責任を逃れるために放置し続け、その結果、犠牲者が増えたという事実は公文書の改ざんが常態化し、お上から市井の末端まで隠蔽体質が身についた本邦にはゾッとする話ではないか。私たちは奈落を覗き込むばかりで、その周りの景色に気付けていないのだ。


『グッド・ナース』22・米
監督 トビアス・リンドホルム
出演 エディ・レッドメイン、ジェシカ・チャステイン、ノア・エメリッヒ

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