長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ハスラーズ』

2020-02-17 | 映画レビュー(は)

 舞台はNYにあるウォール街御用達のストリップクラブ。2008年のリーマンショックで全てを失ったデスティニー(コンスタンス・ウー)らストリッパー達が証券マンから大金を巻き上げた実話の映画化だ。製作にはウィル・フェレル、アダム・マッケイらが名を連ねており、本作における義憤は『アザー・ガイズ』や『マネー・ショート』の連なりである事がわかる。ストリッパーは言う「アイツらはみんなから金を奪って、その金でアタシ達にフェラさせてんのよ!」。

 映画を牽引するのはカリスマダンサーに扮したジェニファー・ロペスだ。御年50歳、鍛え上げられた肉体がポールを伝ってステージの俗世に降臨する初登場シーンから周囲を圧倒する貫禄だ。全米の批評家賞でも大絶賛され、まさに彼女のキャリアハイライトとなったが、オスカーでは候補落ちした。まったく、何だって言うんだ。ノミネートされていれば今年の覇者ローラ・ダーンも危なかったのではないか。

 新鋭ローリーン・スカファリア監督は数々のヒットソングと縦横無尽に駆け回るカメラで『グッドフェローズ』を彷彿とさせる頼もしい演出ぶりであり、#Me too以後の映画として既存ジャンルを女性主人公で語り直し、新たな物語を得る事に成功している。男達がひと山当てようと欲をかけば殺し合うか、さもなくばスコセッシ自らが『アイリッシュマン』で解体したように、愚鈍な仁義の果てに自らを滅ぼすというのが関の山だ。
 しかし女達は違う。J-Lo扮するラモーナは面倒見のいい姉御であり、巻頭早々ディステニーを「あたしの毛皮に入んな」と抱き込むや、舞台上でポールテクニックを教えてくれる。楽屋で出血しているアナベルが「男兄弟ばかりで…」と言えば、さらりと事情を察してやる。凡百の男どもが女の集団へ「互いに出し抜こうとしている」と下卑な“品評”をするのに対し、彼女らは遥かに熱く、硬く結束しているのだ。男の入る隙間どころか必要とすらしないシスターフッド!
女優陣のアンサンブルも楽しく、スクリーン上で吐きまくってもキュートなリリ・ラインハート嬢や、安定の“病だれ”芝居でJ-Loを篭絡する『ハンドメイズ・テイル』マデリーン・ブリューワーがいい。

 『ジョーカー』『アス』『パラサイト』同様、本作もまた格差社会を底辺から描いた現在=いまの映画であり、2019年を代表する1本として記憶されるべきだろう。


『ハスラーズ』19・米
監督 ローリーン・スカファリア
出演 ジェニファー・ロペス、コンスタンス・ウー、ジュリア・スタイルズ、キキ・パーマー、リリ・ラインハート、リゾ、カーディB
 

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