長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『クライ・マッチョ』

2022-01-31 | 映画レビュー(く)

 さすがに足腰は衰えた。声にも張りがない。つまびくような劇伴が信条だったハズだが、本作を見る限りでは演出家としての耳も怪しい。シーンの繋ぎも明らかにおかしいのだが、「そんなのちゃんと見てりゃわかるだろ」と言わんばかりだ。

 いいや、91歳の現役スターにして映画監督が、世界配給で新作をリリースした試しがかつてあっただろうか?ゆらりゆらりと荒野を歩く姿は美しく、この大スターは今も自分の見せ方を心得ている事がよくわかる。無批判の信奉という誹りを受けても構わない。しきりに「もう寝るぞ」と床につく彼につられて何度かウトウトしてみれば、僕はこの心地にすっかり平伏してしまったのである。

 クリント・イーストウッド、91歳。監督50周年40作目。ほとんど遺作のような『グラン・トリノ』から十余年が経ち、ようやく老いが見えた。「ちゃんとした脚本でもう1本見たい」なんて厚かましい事を言うもんじゃない。これが遺作でもかまわない。崇高な死なんて背負わなくていい。オレ達に老いと“マッチョ”を伝えたら、彼は荒野の何処かでハットを被り、好きな女と踊っているのだ。そんな涅槃があってもいいじゃないか。


『クライ・マッチョ』21・米
監督 クリント・イーストウッド
出演 クリント・イーストウッド、エドゥアルド・ミネット、ナタリア・トラベン、ドワイト・ヨーカム

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