
油膜のように滑り光るそれを主人公たちは“シマー”と呼ぶ。
徐々に拡大を続けるこの膜の中では電波も磁場も遮断され、生命のDNAは分裂し、新たな進化を遂げる。立ち入った人間は誰一人として帰って来れない“全滅領域”だ。
ナタリー・ポートマンら女性科学者5人が未知の世界の探検に挑む本作はSFホラーのイントロダクションだが、『エクス・マキナ』で僕らを驚かせたアレックス・ガーランド監督はそんなジャンル映画に収めたりはしない。一見、難解な本作には何度も反芻したくなる得難い魅力がある。シマーによって光が乱反射するプリズムの森、新たな生命に侵食された廃墟、深い夜の闇。物語がシマーの深部に近づくと、映画の本質も顔を覗かせる。
それは作り手の諦念とも呼ぶべき人生観だ。絶滅領域シマー内部への探訪は生還困難な決死隊だ。劇中、ジェニファー・ジェイソン・リー扮する学者が言う「自殺と自己破壊は別物」。ではシマー探索が自殺行為なら、自己破壊を行っているのは誰なのか?
度々、挿入されるナタリー・ポートマン演じるレナの回想シーンに注目だ。シマー探検から唯一、生還した夫(オスカー・アイザック)はその後、身体に変調を来し、昏睡状態に陥った。共に軍隊で知り合い、結ばれた二人だが、その間には隙間風が吹いている。レナの不倫。理由はなくもないのかも知れないが、愚かな自己破壊に駆られたのだろう。記憶を保つ事すら困難なシマーの中で、なぜか愛し合った記憶と悔恨が何度も去来する。
そんな彼女が“内なる自分”と対決するクライマックスは近年なかった独創性だ。果たして分裂し、千々に乱れた心は新たな形へと再生するのだろうか?タルコフスキーの影響も伺える映像美と瞑想的な語り口による心の旅はぜひとも映画館の闇で見てもらいたいところだが、本作は北米以外ではNetflixで世界配信された。ビッグタイトルが軒並み及第点以下だったNetflixにとってようやく手に入れた“良い買い物”である本作は、世界で最も見られたカルト映画となるだろう。
徐々に拡大を続けるこの膜の中では電波も磁場も遮断され、生命のDNAは分裂し、新たな進化を遂げる。立ち入った人間は誰一人として帰って来れない“全滅領域”だ。
ナタリー・ポートマンら女性科学者5人が未知の世界の探検に挑む本作はSFホラーのイントロダクションだが、『エクス・マキナ』で僕らを驚かせたアレックス・ガーランド監督はそんなジャンル映画に収めたりはしない。一見、難解な本作には何度も反芻したくなる得難い魅力がある。シマーによって光が乱反射するプリズムの森、新たな生命に侵食された廃墟、深い夜の闇。物語がシマーの深部に近づくと、映画の本質も顔を覗かせる。
それは作り手の諦念とも呼ぶべき人生観だ。絶滅領域シマー内部への探訪は生還困難な決死隊だ。劇中、ジェニファー・ジェイソン・リー扮する学者が言う「自殺と自己破壊は別物」。ではシマー探索が自殺行為なら、自己破壊を行っているのは誰なのか?
度々、挿入されるナタリー・ポートマン演じるレナの回想シーンに注目だ。シマー探検から唯一、生還した夫(オスカー・アイザック)はその後、身体に変調を来し、昏睡状態に陥った。共に軍隊で知り合い、結ばれた二人だが、その間には隙間風が吹いている。レナの不倫。理由はなくもないのかも知れないが、愚かな自己破壊に駆られたのだろう。記憶を保つ事すら困難なシマーの中で、なぜか愛し合った記憶と悔恨が何度も去来する。
そんな彼女が“内なる自分”と対決するクライマックスは近年なかった独創性だ。果たして分裂し、千々に乱れた心は新たな形へと再生するのだろうか?タルコフスキーの影響も伺える映像美と瞑想的な語り口による心の旅はぜひとも映画館の闇で見てもらいたいところだが、本作は北米以外ではNetflixで世界配信された。ビッグタイトルが軒並み及第点以下だったNetflixにとってようやく手に入れた“良い買い物”である本作は、世界で最も見られたカルト映画となるだろう。
『アナイアレイション-全滅領域-』18・米
監督 アレックス・ガーランド
出演 ナタリー・ポートマン、オスカー・アイザック、ジェニファー・ジェイソン・リー、テッサ・トンプソン、ジーナ・ロドリゲス、ソノヤ・ミズノ、ベネディクト・ウォン
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