ジョイス・キャロル・オーツの原作をアンドリュー・ドミニクが自ら脚色、監督した『ブロンド』はマリリン・モンローを貶めているとしてプレミア上映されたヴェネチア映画祭で物議を醸し、その後Netflixからのリリースを経てさらに論争は拡大している。無理もない話だろう。アナ・デ・アルマスが熱演するマリリン・モンロー=ノーマ・ジーンはチャップリンの息子から時のアメリカ合衆国大統領ケネディにまで陵辱の限りを尽くされ、それは実に2時間47分に渡って続く。しかも往々にしてこれらは彼女の選択の誤りであったとされ、父親に捨てられたと思い込んでいる彼女は父性に憧れ、結婚相手を“パパ”と呼び、父親の影を追って自滅するというおよそ2022年の映画とは思えない解釈が施されているのだ。もちろん、これまで語られてきたマリリン・モンロー像に新たな発見が追加されているとは言い難い。
一方、チェイス・アービンの素晴らしいカメラは特にモノクロームでモンローのブロンドの輝きを撮らえ、ニック・ケイヴ&ウォーレン・エリスによる音楽は酩酊感をもたらし、50〜60年代に氾濫し、モンローを苦しめた悪夢的イメージの再現という評は頷ける。何より果敢で悲痛なアナ・デ・アルマスのパフォーマンスは作品の評価はともかく、彼女自身のキャリアを傷つけることにはならないだろう。
『ブロンド』22・米
監督 アンドリュー・ドミニク
出演 アナ・デ・アルマス、エイドリアン・ブロディ、ボビー・カナベル、ジュリアンヌ・ニコルソン