長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『アンダー・ザ・シルバーレイク』

2018-11-11 | 映画レビュー(あ)

LAを舞台に素人探偵が美女失踪事件を追う…それだけ聞けばこの『アンダー・ザ・シルバーレイク』はノワールに分類されるだろう。冒頭、登場する“犬殺し”の文字や、壁一面に張られた新聞の中にあるブラック・ダリアの写真からLAを舞台にした暗黒小説の帝王ジェイムズ・エルロイを連想するし中盤、映画が転換する貯水池というキーワードには古典『チャイナタウン』を彷彿とする。不気味な“フクロウ女”のフリークス像にはデヴィッド・リンチがよぎるし、ライリー・キーオは謎の死を遂げたマリリン・モンローの模写だ。映画はそんな数えだしたらキリのない“記号”の集合体で出来ており、謎が謎を呼ぶ。いや、そもそも謎なんてあるのか?これは“LAには何かある”という果てしない妄想ではないか?

 主人公サムはLAシルバーレイクに暮らしている。アーティストになるでもなく、無為に日々を暮らし、昼間から酒を飲んで、近所のヌーディストを覗き見する。この街にいるだけで半ば夢見心地の毎日だ。フニャフニャした声音のアンドリュー・ガーフィールドはクスリで頭がトロトロに溶けたかのようなサムを好演。この落伍者が成り行きで大事件に挑むという構図だけでも『ビッグ・リボウスキ』や『インヒアレント・ヴァイス』という先達を思わせ、ガーフィールドはジェフ・ブリッジス、ホアキン・フェニックスに劣らぬチャーミングさである。
サムはある日、近所に住む美女サラに一目ボレし、恋に落ちる。だが、その翌日、彼女は失踪。その裏には富豪の誘拐事件も絡んで…。

 聖林とはそんな得体の知れない噂、タブロイドの蓄積で出来た街だ。サムはにわか探偵となって妖しげな茂みに分け入っていく。謎の記号を隠したロックバンド、映画女優志望が在籍するエスコートサービス、ありとあらゆるヒットソングを書いたとされる大富豪、LA地下に広がるシェルター、ホームレスの王、そしてチャールズ・マンソンを思わせるカルト集団…。脇のキャストもリンチ組パトリック・フィッシュラー、『ウエストワールド』ジミ・シンプソン、『マニアック』グレース・ヴァン・パタンと近年の怪作に顔を出した役者達で固められ、諸作を引用する記号となっている。

 監督はデヴィッド・ロバート・ミッチェル。スマッシュヒットを記録した前作『イット・フォローズ』から一転、全編途切れる事のないポップスと劇伴のミクスチャーは僕らの人生がいかにポップカルチャーに占められているかという批評であり、妄想とも見て取れる。永遠に続く青春時代を描いた長編デビュー作『アメリカン・スリープオーバー』同様、本作も決して潰える事のない聖林奇譚なのだ。


『アンダー・ザ・シルバーレイク』18・米
監督 デヴィッド・ロバート・ミッチェル
出演 アンドリュー・ガーフィールド、ライリー・キーオ、パトリック・フィッシュラー、グレース・ヴァン・パタン、ジミ・シンプソン
 

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