長内那由多のMovie Note

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『あの夜、マイアミで』

2021-01-20 | 映画レビュー(あ)

 1964年2月マイアミの夜。マルコムX、モハメド・アリ、サム・クック、ジム・ブラウンというブラックカルチャーの4大レジェンドが一堂に会したら…というifを描いたケンプ・パワーズによる同名戯曲の映画化だ。監督は『ビール・ストリートの恋人たち』でアカデミー助演女優賞を、TVシリーズ『ウォッチメン』でエミー主演女優賞を受賞した名優レジーナ・キングが務めている。

 昨今の俳優監督ブームの例にもれず、キングも長編映画初監督とは思えない手慣れた演出で、新鋭俳優4人から素晴らしいアンサンブルを引き出している。映画は実際に親交のあったマルコムXとサム・クックの物語となっており、精神的支柱となるキングズリー・ベン・アデルのインテリジェンス、レスリー・オドム・Jr.の反骨と歌唱が素晴らしい。共に今年のオスカーレースを賑わせることになるだろう。

 4人がマイアミで語り明かしたことはフィクションだが、映画は彼らをまるで旧知の親友のように描いており、レジェンド達のあり得たかも知れない一夜に思わず頬がほころぶ。しかし、本質を知るためには彼らが互いに及ぼした思想的影響と連帯を知る必要があるだろう。そういった意味でも2020年代的ハイコンテクスト作品であり、決して万人向けのフィールグッドムービーではない。

 明らかになるのは劇中「肌の明るさが違う」という言葉に象徴される思想の濃淡だ。公民権運動の最中、マルコムXの怒りが大きな支持と反発を得る一方、サム・クックは楽曲の著作権を持ったことで白人優位の音楽業界で川上に立つことに成功する。Black Lives Matterとワンイシューのように括られるが、その背景には様々な境遇の違いがあるのだ。2020年、BLMの年にスパイク・リーが『ザ・ファイブ・ブラッズ』で先陣を切り、本作とやはり戯曲原作の『マ・レイニーのブラックボトム』がその精神性を掘り下げた。黒人演劇の大家オーガスト・ウィルソンによる『マ・レイニー~』の初演は1982年、ケンプ・パワーズによる本作の初演が2013年。それらが2020年に同時に映画化されたのは哀しいかな、変わらない現実を描いているとしか言いようがないだろう。
 ちなみにケンプ・パワーズは2020年、ピクサーの新作『ソウルフル・ワールド』の脚本も手掛けており、おそらく監督ピート・ドクターの個人的体験にブラックカルチャーを織り込んでいったと思われる。『ソウルフル・ワールド』はピクサー初の“黒人映画”としても重要な1本であったのだ。

 2020年は“人種差別ホラー”『ラヴクラフトカントリー』もヒットを記録。多くの黒人クリエイターが注目され、ブラックカルチャーが1つも2つも大きな進化を成し遂げた事を記憶しておきたい。


『あの夜、マイアミで』20・米
監督 レジーナ・キング
出演 キングズリー・ベン・アデル、イーライ・ゴリー、オルディス・ホッジ、レスリー・オドム・Jr.

 

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