長内那由多のMovie Note

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『オザークへようこそ シーズン2』

2018-09-13 | 海外ドラマ(お)

※このレビューは物語の結末に触れています※ 

※シーズン3のレビューはこちら※


【胃痛必至。神経衰弱ギリギリのサスペンス】
麻薬カルテルの資金洗浄に手を染めてしまった一家の地獄めぐりを描くNetflixオリジナルドラマ『オザークへようこそ』。第2シーズンは神経衰弱ギリギリの胃痛展開が連続する緊迫回だ。

前シーズンの最後、地元オザークの麻薬王ジェイコブとカルテル幹部デルの顔合わせをセッティングした主人公マーティだったが、デルの些細な一言をきっかけに会談は破綻。あわや全面戦争という一触即発の事態に発展する。カルテルは弁護士ヘレン(颯爽としたジャネット・マクティア)をオザークへ派遣、マーティ一家に事態を収拾せよとプレッシャーをかける。方やジェイコブは手打ちにと自身の長男を撲殺して差し出す狂気を発揮。どちらの片棒を担いでも待っているのは地獄だ。マーティはジェイコブ製造の麻薬をカルテルで流通させる事を条件に、ジェイコブの所有する大農園にカジノを誘致。カルテルの一大資金洗浄場にする計画を立てる。その頃、マーティをマークし続けてきたFBI捜査官ペティの包囲網が着実と迫りつつあり…。

シーズン2はこんなドン詰まり状態がずっと続く。1つでもボタンをかけ間違えれば一家惨殺は間違いない連中を相手にマーティはカジノ誘致の政界工作までしなくてはならないハードワークぶりだ(それでも彼らは毎話、必ず寝床に着く。どれだけ強心臓なのか)。画面は寒々しい青が基調となり、デヴィッド・フィンチャーを彷彿とさせる陰影が色濃い。しばしば『ブレイキング・バッド』と比較される本作だがユーモアの欠如、計算し尽されたプロット運びは金の計算が得意な主人公マーティの気質そのものだ。演じるジェイソン・ベイトマンのポーカーフェイスな芸風が作品のカラーを決定付けている。前シーズンで計4話を監督したベイトマンは今回も最初の2話を担当。肝心なことは見せずに緊張感を高める手腕は監督としての非凡な才能を証明している。



【“ブレイキング・バッド”】
とはいえ、シーズン1が"ポスト『ブレイキング・バッド』”の域を出なかったのはベイトマン演じる主人公の没個性によるところが大きかったように思う。言ってみれば金稼ぎしか頭にないクソ野郎で、ウォルター・ホワイトが最後まで家族を庇ったのに対し、マーティは物語の早い時点から家族を巻き込んでいる。ウォルター先生の人間味あふれた不完全さがなく、共感しにくい。
シーズン2ではそんな彼にも変化が訪れる。第7話、ある事件をきっかけに一線を超えてしまった彼の中で良心が芽生え始めるのだ。ベイトマンは無個性的なマーティの心に起きるさざ波を静かに体現し、名演である。

一方で、ほぼ同等の共犯関係となった妻ウェンディには異なる変化が訪れる。家族を守るためという大義の下、彼女もある一線を超えてしまうのだ。最終回、マーティが計画した高飛びを彼女は拒否する。行くも地獄、戻るも地獄。それなら「オザークに残りましょう」と。

彼女を変えたもう1つの理由は自尊心だろう。かつて政界に身を置き、やり手だった彼女も結婚、出産を機に仕事を離れ、多分に漏れず居場所を失った。カジノ誘致の成功はそんな彼女の自尊心を大きく満たしたのだ。終幕、功績を称え合うヘレンとウェンディの間に芽生えた仄かな連帯感をリニーとマクティアは表現している。

『オザークへようこそ』で”ブレイキング・バッド”するのは女達なのだ。ウェンディの決意を受け止めたヘレンは言う「この一線を超えたら元には戻れない。全てが変わってしまう。夫に触れられるだけでも、前とは違う」。残虐な行為に手を染めるヘレンにもどうやら家族があるようだ。彼女もまた何かをきっかけに一線を超えてしまったのだろう。

 今夏公開された『オーシャンズ8』でも感じた事だが、使い古されたジャンルでも主人公の性別を男性から女性へ変えるだけで全く新しいストーリーテリングが生まれる。映画という芸術が興ってから100年以上経つが如何に物語が狭く、小さく語られてきたか。『ブレイキング・バッド』が中年男性のファンタジーなら、『オザークへようこそ』は居場所をなくした中年女性がアウトローとして大成するファンタジーであり、真の主役はローラ・リニーと言えるだろう。

【希望は何処に】
それにしてもこの殺伐とした空気は何なのか。登場人物達は互いに罵り合い、感情移入できる人物は誰一人出てこない。
そんな中、マーティを脅かす凶悪なレッドネックとして登場したルースだけが次第に虚飾を剥がれ、少女としての顔を覗かせていく。劇中ただ一人涙を流す彼女はこの世に残されたイノセンスなのかも知れない。演じるジュリア・ガーナーはオザーク訛りをマスターしてがらっぱちな喋りが様になっているが、繊細さを垣間見せ、いい。

 おそらくシーズン3も作られる事になるだろう。『ブレイキング・バッド』級の傑作に化ける予感。期待。


『オザークへようこそ シーズン2』18・米
製作 ビル・デュドゥーク
出演 ジェイソン・ベイトマン、ローラ・リニー、ジュリア・ガーナー、ピーター・ミュラン、ジャネット・マクティア
※Netflixで独占配信中※


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