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長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『シンデレラ』

2017-05-14 | 映画レビュー(し)

 言わずと知れたディズニークラシックアニメの初の実写化。古臭くもバタ臭くもならず、正攻法の演出で凛々しく現代風にアレンジされている。監督ケネス・ブラナーはダンテ・フェレッティ、サンディ・パウエルらスコセッシ組のスタッフの力を借りてゴージャスな風格を作品にもたらしており、子供だましで終わらせないのはさすがシェイクスピア劇の名手といったところ。可愛らしくも媚びない可憐なリリー・ジェームズはニュースター誕生だ。大見得を切りまくるケイト・ブランシェット扮する継母と十二分に渡り合っている。

 アニメでも一番の見せ場だった魔法のドレス登場シーンの完全再現こそ実写化最大の目的であった事が伝わってくる。青く輝くドレスを手がけたサンディ・パウエルはアカデミー衣装デザイン賞にノミネート。現役最高峰のデザイナーである事を改めて実証した。


『シンデレラ』15・米
監督 ケネス・ブラナー
出演 リリー・ジェームズ、ケイト・ブランシェット、ヘレナ・ボナム・カーター
 
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『ジャッキー ファーストレディ最後の使命』

2017-05-02 | 映画レビュー(し)

 ケネディ大統領夫人ジャクリーンことジャッキーの伝記映画だが、パブロ・ラライン監督は月並みな実録モノに終わらせない。前作『NO』ではペルー独裁政権の終焉を1カ月間のCM合戦に的を絞って描いた監督である。今回はケネディ暗殺から国葬を取り付けるまでの4日間に的を絞り、ジャッキーの人物像をあぶり出そうとする。

ラライン監督の実録ドラマは徹底した再現性という外枠に俳優の身体性、エネルギーを収めようとしているかに見える。
前作『NO』では88年の出来事を描くために当時の撮影機材を使うというほとんど偏執的なまでのこだわりであり、そこに南米リベラルの雄ガエル・ガルシア=ベルナルのパッショナブルな演技がエモーションを与えていた。

本作でもTV放映されたジャッキーによるホワイトハウスツアーを完コピする徹底ぶりだが、映画の原動力となるのはやはりナタリー・ポートマンのキャリアの転換点とも言える爆発的なパフォーマンスだ。
ジャッキーの喋りを再現するのはほんの序の口。撃たれた夫の脳髄を拾い集め、頭からこぼれ落ちないよう押さえたという話。血まみれの外遊コートのまま終日、夫からジョンソンへの権利移譲に立ち会ったという話。元ジャーナリストという経歴から、記者の取材メモを逐次チェックしたという話。伝え聞く伝説的なエピソードを体現するポートマンの演技は単なる再現の域を超え、歴史の潮流に耐え、一時代を築いた人間だけが持つ怪物的な魔性がある。

 子役という出自からか、オスカーを受賞した『ブラック・スワン』すら小女性が抜けきらず、その幼い印象が足かせのように見える時期もあったが、本作では35歳という実年齢がジャッキーと結びつき、ようやく大人の女優としての代表作を得たように感じられた。夫ケネディを神格化させた女の持つ凄味。それはナタリー・ポートマンという偉大な女優の深淵も映し出す事となったのだ。


『ジャッキー ファーストレディ最後の使命』16・米、仏、チリ
監督 パブロ・ラライン
出演 ナタリー・ポートマン、ピーター・サースガード、グレタ・ガーウィグ、ビリー・クラダップ、ジョン・ハート
 
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『幸せなひとりぼっち』

2017-03-14 | 映画レビュー(し)

 今年のアカデミー賞で外国語映画賞、メイク賞にノミネートされたスウェーデン映画。本国では"ウン人に1人が見た”レベルの特大ヒット作になったらしい。スウェーデン映画なんてそう何本も観ないのでお国柄云々とか言う気はないが「ベタなお涙頂戴映画の話法というのは万国共通なのだなァ」と思った次第。

主人公はオーヴェという老人だ。
町内のゴミ出し、駐輪、防犯、車両の進入に目を光らせるのが日課で、違反者を見るや厳しく叱責する。誰にも頼まれていないのに。日本にもこういう面倒くさいオジサンは、いる。

往々にしてこういうオジサンは独り身が長い。オーヴェもそうだ。最愛の妻に先立たれて久しい。毎日、墓参りをしては近隣住民の事を愚痴っている。そんな彼の中で、ある想いが固まりつつあった。

妻の後を追う。
身辺整理は大方ついた。あとはいつ決行するかだ。
オーヴェのキャラター描写を積み重ね、ついには最初の自殺未遂に到るまでのテンポは快調。こういうオジサンとは関わり合いになりたくないが、傍から見ている分には面白いもんである。

自殺を試みたオーヴェの脳裏にはこれまでの人生が走馬灯のように甦っていく。幼くして訪れた母との死別、父の事故死、そして妻との出会い…おいおい、ドラマツルギーについてとやかく言う気はないが、回想シーンは決して物語を前に進めたりはしない。にも関わらず、作り手は死にきれないオーヴェに何度も自殺を試みさせては回想シーンを盛り込んでいくのである。その度に映画は愁嘆場となり、観客は泣くことを強要される。いいや、僕らが見たいのはこれだけ哀しい人生を歩んできたオーヴェがいかにして周囲の人々と調和し、新しい人生を歩んでいくかだ。これでは回想シーンのために結末が作られているようなもんである。いっそのこと、回想シーンを1つも使わずに過去を匂わせるという(高度な)演出方法もあったハズだ。ドラマのために不必要に哀しいエピソードが盛り込まれているように感じられた。むしろ主眼は生家を奪い、妻を助けなかった行政システムへの怒りではないかと感じたのだが、原作はどうなっているのだろう。

ところでメイク賞ノミネートの理由が映画を見ている間はサッパリわからなかった。回想シーンのオーヴェ役俳優があまりに自然にフィットしているので「ひょっとして彼を老けさせて撮ってるのか!?」とワクワクしたのだが、そんな事はなく『アフター・ウェディング』のロルフ・ラースゴードを汚~い頑固ジジイに老けメイクさせていたのでした。
 

『幸せなひとりぼっち』15・スウェーデン
監督 ハンネス・ホルム
出演 ロルフ・ラースゴード
 
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『シンドラーのリスト』

2017-03-14 | 映画レビュー(し)

 スティーブン・スピルバーグが初めてホロコーストという出自に関わる困難な題材に挑んだアカデミー賞7部門受賞作。195分にも及ぶ長尺ながら同年『ジュラシック・パーク』との連続撮影という驚異的な早撮りを敢行している。娯楽大作のメガホンを握る事で念願の企画である本作の製作をユニバーサルに担保させるためであり、画面の隅々に到るまでスピルバーグの気迫と執念が漲っているのを感じる。

 1200人にも及ぶユダヤ人を収容所から救い出したドイツ人実業家オスカー・シンドラーの伝記映画として認知されている本作だが、その実は圧倒的迫真力、リアリズムを重視した記録映画のような趣だ。初タッグとなった名手ヤヌス・カミンスキーによる美しい白黒映像はさながら当時の記録映像のようであり、それでいてシネアストのスピルバーグらしく往年の名作映画を彷彿とさせるような陰影の深さもある(アンジェイ・ワイダの影響も強いだろう)。ストーリーを半ば放棄し、徹底したリサーチに基くディテールのみを積み上げていった残酷描写の怖ろしさはこれまでセンチメンタルになりがちだったスピルバーグにはない表現であり、このリアリズムの追及は98年の『プライベート・ライアン』で映画史に残る発明として完成される事となる(残酷描写へのフェティッシュなこだわりという歪さも奇妙な作家性の1つである)。

物語る事を重視した『ミュンヘン』以後の近作と本作の決定的違いは、描写だけで語れてしまう映像作家としての異能ぶりだ。先に挙げたドキュメンタリー的な描写手法は後に数々のフォロアーを生むワケだが、シンドラーの動機となる赤い服の少女こそ本作の最も印象的なアイコンだろう。ゲットー閉鎖を丘の上から見守る彼は逃げ惑う赤い服の少女を目にする…モノクロームの中で唯一色付けられた赤色の鮮烈さが観る者の心を激しくざわつかせ、その運命に想いを抱かせるのだ(この少女は後半にもう一度登場する)。

 しばしば見過ごされがちだが、本作で大ブレイクする事となったリーアム・ニーソン、レイフ・ファインズを発掘したスピルバーグのキャスティング慧眼も見所である。特にファインズはその後、しばらくは貴公子的な二枚目扱いをされてきたが、昨今の怪優っぷりを思うと俳優としての本分は本作で演じた残虐なナチ将校が近いのではないか。まるで呼吸をするのと同じように人を殺す男が、お気に入りのユダヤ人メイドの前では歪んだ愛情を吐露する。全体主義国家による思想教育の恐ろしさを垣間見る身の毛もよだつシーンだ。スピルバーグはこの後もレイシズムについて取り組んでいくが、本作で印象深いのはむしろ子供たちがぶつけるユダヤ人への醜い憎悪だった。

 そしてスピルバーグは安易なヒューマニズム、センチメンタリズムを持ち込もうとしない。シンドラーはあとわずかに金があればもう1人救えたのにと涙するが、しかし目を覚ますには酒と女が過ぎた。
 行動なくして世界は変わらない。彼の墓標に立つ名もなき人影は、映画を見ている僕たち自身だ。


『シンドラーのリスト』93・米
監督 スティーブン・スピルバーグ
出演 リーアム・ニーソン、レイフ・ファインズ、ベン・キングスレー
 
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『ジュピター』

2017-03-04 | 映画レビュー(し)

 何でもウォシャウスキー兄弟は今は“兄弟”ではなく“姉妹”らしい。『マトリックス』よろしく本当の自分に気づいた彼らはリリーとラナへ性転換したのだ。

本作でミラ・クニス演じるジュピター(こんなDQNネームを付けられてさぞかし苦労しただろう)はセレブの大邸宅で掃除に勤しむ貧しい移民の娘。しかし本当の姿は銀河を収めた女王の生まれ変わりだったのだ!こんな窮屈な思いをして生きているアタシは本当のアタシじゃない!いつか素敵な王子様が迎えに来てくれるハズ…とやってきたのは我らがチャニ公(註:チャニング・テイタム)。ジェットブーツにビームシールドというオタクなガジェットを装備し、ヒロインのために身を挺して戦ってくれる(しかも上半身裸で)。宇宙に上がればイケメン銀河皇族達が覇権とミラ・クニスを巡って陰謀を張り巡らしており…なんだこの乙女脳展開!!こんなナヨナヨした映画撮りたかったのかよ!!

美人女優をあえてキャスティングしなかったのか、ミラ・クニスをこんなにブスに撮ったのも酷い。一方でチャニングは狼耳を付けても一向に損をしない愛されオーラっぷり。公開時期に運悪く(?)オスカーを獲ってしまったエディ・レッドメインは1人だけケタ違いの本気演技で悪役を演じ、浮きまくっている。

 ウォシャウスキー姉妹のアクション演出は『マトリックス』さながらにスローモーションを多用するが、いわゆる“キメ絵”がなく、栄光はかくも遠くなりけりという印象。そういえば彼女らのデビュー作はレズビアンカップルのクライムノワール『バウンド』だった。あんなエッジィでダークな、そしてセクシーな映画を撮ってくれないものかねぇ。


『ジュピター』15・米
監督 ラナ&リリー・ウォシャウスキー
出演 ミラ・クニス、チャニング・テイタム、エディ・レッドメイン、ショーン・ビーン
 
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