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長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『人生スイッチ』

2017-10-07 | 映画レビュー(し)

まったくアルゼンチンって国は!
 歴代興行収入記録をこんなしょーもないブラックコメディが塗り替えたというのだから何とも屈託のない国民性だ。日常の“あるスイッチ”を押した事から陥る人生のバッドスパイラルを描いたこのオムニバスブラックコメディはまさかのアカデミー外国語映画賞ノミネートまで達成する始末。いやいや、確かに笑える場面もあるにはあるが、みんな喜び過ぎじゃないか。こういうシニカルな小話話芸は日本にだっていくらでも名手がいて、名編があり、そんなに有難がるような話じゃない。ラテン気質のエグ味がちょっとした持ち味くらいで、愛想笑いも僕にはそう続かなかった事を打ち明けておこう。


『人生スイッチ』14・アルゼンチン、スペイン
監督 タミアン・ジフロン
 
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『新感染 ファイナル・エクスプレス』

2017-09-16 | 映画レビュー(し)

ジョージ・A・ロメロの発明したホラーアイコン、ゾンビは死してなお生きた人間の血肉を求め彷徨い歩く怪物だ。頭脳を破壊しない限り殺すことはできず、噛まれた者は一定の時間を経ると同じゾンビへと変容してしまう。1978年の
『ゾンビ』以後、あらゆる亜流を生んで一大ジャンルへと成長し、インターネットが普及した2000年頃から情報化のスピードを象徴するようにその動きも早くなった(100メートル11~12秒台で走る!)。

だが、ロメロが描いてきたのは怪物そのものの恐怖だけではない。『ゾンビ』には消費社会や人種差別に対する批評があり、何より極限状況下に置かれた人間の野蛮さに冷ややかな目が向けられていた。

本作のヨン・サンホ監督は“ゾンビは社会を映す鏡”というロメロ御大のイズムを的確に継承している。
ソウル発釜山行きの特急列車内でゾンビ禍が発生するというゾンビ映画史上類を見ないセンス・オブ・ワンダーが象徴するのはソウルを背中合わせにし、今なお緊張が高まり続ける北朝鮮情勢に他ならない。一度、軍事衝突が起こればソウルが火の海と化す事は既に各方面で検証されており、ゾンビパニック後の市街のカタストロフは当事国ならではの切迫感がある。ゾンビが走る事はもちろん、時速300キロ超の特急KTXが象徴するのは電光石火で半島を火に染める北朝鮮への恐怖なのだ。

さらに見落としてはならないのがゾンビのスピードよりも、この状況下における人々の反応だろう。
中盤、ゾンビで溢れ返った後部車両から生存者を救出したものの、前部車両の人々は「こっちへ来るな」と拒絶する。北朝鮮人民が38度線を越えて自国へ流入する事の嫌悪感と差別意識。それを先導するのが企業重役という部分にも、サムスンはじめ財閥の寡占と腐敗の続く、まさに特急列車の如く発展した韓国資本主義への批評がある。我が子を顧みない主人公はファンドマネージャーであるために何度となく蔑まされるが(対照的に胸のすくような好漢マ・ドンソク)、リーマンショック以後、ファンドマネージャーが嫌われるのは今や万国共通認識だ。

 本作は2016年のサマーシーズンに韓国で記録的大ヒットとなった。同時期公開が『コクソン』というのだから、いやはや韓国映画ファンの胆力たるや。韓国に留まらず、世界の不安を捉えた正統の“ロメロイズム”が海を越え、世界規模で大ヒットしたのは当然の結果だろう。

『新感染 ファイナル・エクスプレス』16・韓国
監督 ヨン・サンホ
出演 コン・ユ、マ・ドンソク
 
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『ジュラシック・ワールド』

2017-08-14 | 映画レビュー(し)

こんなに大ヒットするなんて誰が想像したろうか?
人気シリーズの最新作とはいえ、前作『ジュラシック・パークⅢ』から実に14年ぶり、それも前2作に比べインパクトに乏しい興行成績で終わった後だ。監督は無名の新人コリン・トレボロウ、主演は製作開始時点では
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』が公開前でやはり知名度不足のクリス・プラット。いわゆる“地雷”の条件が揃ってしまっていた。今まで“製作総指揮スティーヴン・スピルバーグ”という名義詐欺被害に遭ってきた人も多いハズだ(ネット上では一時、人間と恐竜のハイブリッドという“恐竜人間”のコンセプト画も出回り、僕らを一層不安にさせた)。

ところが蓋を開ければ歴代興行収入記録を塗り替える大ヒットである。
ここで注目したいのが“スピルバーグ・イズム”を継承したトレボロウ監督の優等生っぷりだ。子役2人よるアドベンチャーの嬉しい既視感。御大に負けるとも劣らないブラックな殺戮シーン(あまりに酷くて大笑い)。初めは快く思っていなかった男女の丁々発止のやり取り。これらディテールが劇中セリフよろしく「より大きく、より派手に」が求められる昨今のハリウッド大作において実に豊かな味付けとなっているのだ。

スターロードよりもワイルドさを増量したプラットの相変わらずの間合いの上手さと、もはや名バイプレーヤーと呼んでいいブライス・ダラス・ハワードの相性も良く、トレボロウが役者の扱いも心得ている事がわかる。特にハワードは甥っ子の行方がわからずパニックになる場面や、インドミナスレックスに襲われるシーンでしっかり涙目になるなど本当に巧いなぁと思う。そろそろこういう華はなくとも芝居が上手な女優さんをハリウッドは正当に評価してほしいものである。かねてから彼女を応援してきた僕としてはようやく大ヒット作、代表作を手に入れてくれた事が嬉しかった。

と、ここまでなら腕のいい職人止まりなのだが、クライマックスでは近年のオタク系監督の御多分に漏れず、凄まじいまでの作品愛が爆発し、まるで少年漫画みたいな熱い展開になる。オチを決めるジョーズよろしくな水棲恐竜モササウルスは今回のMVPとして記憶しておこう。

本作での大成功を受けてトレボロウ監督の次回作は『スター・ウォーズ/エピソード9』に決定した。
 新三部作の最後を締めくくるには最高のバランス感覚の持ち主であろう。破格の大出世だが、願わくば先人のリツイートに終わらず、より作家性を打ち出して“ポスト・スピルバーグ”を目指してほしいところだ。


『ジュラシック・ワールド』15・米
監督 クリス・プラット、ブライス・ダラス・ハワード
 
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『ジョン・ウィック』

2017-06-18 | 映画レビュー(し)

キアヌ・リーヴスという俳優は何とも不思議なキャリアの持ち主だ。
本人はアクション映画に留まらず、インディーズ映画にもギャラを度外視して出演するこだわりを持っているが、哀しいかなこんなに演技力が向上しない人も珍しい。何度も“過去の人”扱いされてきたそのキャリアはアクション映画への出演で何度も浮上した。『ハート・ブルー』『スピード』、そして今やSF映画史に残る金字塔となった『マトリックス』3部作…エキゾチックな顔立ちと痩身には類稀な運動神経が備わっており、アクションスターとしてならその無表情も“クール”と映える。

本作はキアヌ演じる主人公ジョン・ウィックが最愛の妻を亡くしたところから始まる。傷心を妻が残した愛犬で慰めるキアヌ。ところがロシアンマフィアのドラ息子がキアヌの愛車マスタングに目を付け、邸に侵入。キアヌに重症を負わせ、目の前で愛犬を殺してしまうのだ(我が家に来てまだ2日なのに!)。
ドラ息子がマスタングを車屋に持ち込むと、お抱えディーラーのジョン・レグイザモ(半ドン仕事も数をこなせば貫禄になる)が顔色を変える「マジでか…」。キアヌはその昔、最強と謳われた伝説の殺し屋だったのだ!周りが最強伝説を話せば話すほどギャグにしか聞こえない振り切れ方が可笑しい。かくして“Just a Dog”なキアヌの復讐劇が幕を開けた!

ジョン・ウィックの戦闘スタイルは近接格闘と銃撃を組み合わせた“ガンフー”なるオリジナル戦術。ほとんどダンスの如くキアヌが舞い、刺し、撃つのだが、ダブルタップで確実に殺しているところにマンガに終わらないリアルな迫力がある。スタントマン出身のチャド・スタエルスキー監督はアクションのバリエーション作りにも余念がなく、キアヌは見事な銃さばきでアサルトライフル、ショットガン、ライフルをぶっ放す。クライマックスではマスタングに乗ったままハンドガンで皆殺しにする無双っぷりで、ロシアンマフィアも最後には「あ、オレ詰んだ」と諦めモードに入ってしまうのがユカイだ。

殺生厳禁の中立ホテルや、裏社会共通通貨のコイン、ウィレム・デフォーの渋味など裏社会のディテールもマンガとハードボイルドの間で程よい味付けになっているのが魅力。第2弾が間もなく公開されるが、またワンちゃんは殺されちゃうんでしょうかね?

『ジョン・ウィック』14・米
監督 チャド・スタエルスキー
出演 キアヌ・リーヴス、ウィレム・デフォー、ジョン・レグイザモ
 
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『シェーン』

2017-06-11 | 映画レビュー(し)

 単なる感動作と認識している人も多いかも知れないが、後のアメリカンニューシネマやイーストウッド映画に連なる、伝統的アメリカ映画の源流とも言える作品ではないだろうか。勧善懲悪の二元論で語られてきたジャンルに本作が“贖罪”の概念を持ち込んだ。西部開拓史とは血で血を洗う侵略の歴史であった事を描くことによって、その後も西部劇というジャンルは時代が暴力に手を染める度に語り直され、アメリカ映画は暴力とその代償について考察してきたのである。

大手スタジオによる自主規制“ヘイズコード”によって制作の自由が制限されていた1953年の映画でありながら、暴力シーンは今見ても色あせない並々ならぬ緊迫感がみなぎり、2017年に生きる僕は身をすくめるのである。延々と続く殴り合い、殺気ほとばしるクライマックスの早撃ち。ジャンル映画に求められたいわゆる“爽快感”とは無縁だ(対峙するシェーンとウィルソンの殺気をいち早く気取った犬が走り去るディテールよ!)。

 規制の中でより豊かな表現を求めた監督ジョージ・スティーヴンスの映像的比喩表現、行間の数々が本作に豊かな文学性をもたらす。たまさかの心の平安を得た流れ者シェーンだが、殺しの烙印を背負った者に安住は許されない。「シェーン、カムバック!」の叫びを受けながら、人知れず死んでいく場所を求める彼は西部時代の終焉そのものなのである。


『シェーン』53・米
監督 ジョージ・スティーヴンス
出演 アラン・ラッド
 
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