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長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ジョン・ウィック:チャプター2』

2018-12-02 | 映画レビュー(し)

スマッシュヒットを記録した前作『ジョン・ウィック』でデビューしたスタントマン出身のチャド・スタエルスキー、デヴィッド・リーチはハリウッドアクションのトレンドを更新せん勢いだ。“身体能力の高い俳優を徹底的にトレーニングし、なるべくカットを割らずにコレオグラフィで魅せる”というコンセプトはその後、リーチが単独監督した『アトミック・ブロンド』で驚異的な長回しへと昇華され、そしてスタエルスキーによる本作では様式美へと進化している。ダリオ・アルジェントや鈴木清順を彷彿とさせる映像美はハリウッドアクションとして近年、類を見ない個性だ。

 そんな突出した映画のスタイルは没個性的とも言える主演キアヌ・リーヴスと親和性が高い。防弾加工されたオーダーメイドスーツを身にまとい、銃器を“テイステイング”、そして意固地とも言えるこだわりで標的を追い詰めるジョン・ウィックのキャラクターは独自の作品選びゆえにスター街道を避けてきたキアヌのストイックさそのものでもある(それにしてもこんなに演技が下手だったのかと、さらに愛おしさがこみ上げてしまった)。さらなる修羅道に踏み込んでしまったジョンの行く末が案じられる。現在、第3弾が撮影中。彼がどんな落とし前をつけるのか、注目だ。


『ジョン・ウィック:チャプター2』17・米
監督 チャド・スタエルスキー
出演 キアヌ・リーヴス、コモン、ローレンス・フィッシュバーン、ルビー・ローズ、ジョン・レグイザモ、イアン・マクシェーン
 
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『ジャスティス・リーグ』

2018-11-20 | 映画レビュー(し)
DCがまたやらかした。
 せっかく『ワンダーウーマン』が持ち上げた屋台骨をザック・スナイダーがめちゃくちゃにしたのだ。スーパーマン、バットマン、ワンダーウーマンらに加えて
アクアマン、フラッシュ、サイボーグら人気ヒーローの集結する本作は“DC版アベンジャーズ”として大ヒットを期待されていた。ところが巨額の製作費を投じた本作は『ワンダーウーマン』の半分に過ぎない2億ドルの興行収入に留まり、DCユニバース史上の最低記録を更新。各スピンオフ作品も大きく軌道修正を強いられる事となった。

ムリもない。ギャグもワンダーウーマンの見せ場も増量し、音楽は元祖バットマンのテーマを響かせるダニー・エルフマンが登板するも、CGで塗りたくられた画面は観客の興を削ぎ、個性の乏しいヒーロー達の演技アンサンブルはマーヴェルに及ぶべくもない。敵役となるステッペンウルフの無個性ぶりときたら何だ。ザック・スナイダーはまたしても力任せにぶつかり合うだけのアクションシーンを演出し、終幕にはただ虚しさだけが募るばかりである。

 聞けば本作の“マーヴェルっぽい”部分は『アベンジャーズ』を手掛けたジョス・ウェドン監督による追加撮影だという。家族の不幸がきっかけでザック・スナイダー監督は途中降板したのだ。残念な出来事に端を発しているとはいえ、ようやくDCに訪れた変革の時である。彼が築き上げたものを如何に発展させるのか、続くDCユニバースを(期待はしないが)見守ってみよう。


『ジャスティス・リーグ』17・米
監督 ザック・スナイダー
出演 ベン・アフレック、ガル・ガドット、ヘンリー・カヴィル、ジェイソン・モモア、エズラ・ミラー、エイミー・アダムス、ダイアン・レイン、J・K・シモンズ
 
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『ジェニーの記憶』

2018-11-08 | 映画レビュー(し)

ジェニファー・フォックス、48歳。ドキュメンタリー作家。
ある日、実家の母から奇妙な電話がかかってきた。ジェニファーが13歳の時に書いた物語を読んだというのだ。
「あなた、虐待にあってたんじゃない!」
文章にはジェニファーと大人の男性の恋愛が書かれていた。
「そんな大げさに言うことじゃない。あれはちゃんとした恋愛だったし、当時の私は同年代の子よりもしっかりしていた」
だが母は言う「あなた、他の同級生よりもずっと背が低くて子供っぽかったわよ」。
そんなバカな。だが文章を読む毎に記憶は混濁する。あの時、いったい何があったのだろう?

『ジェニーの記憶』(=原題The Tale)は驚くべき事に監督ジェニファー・フォックスの実体験だという。彼女は自らの過去を暴くために帰省し、当時の関係者達に聞き込みを行っていく。背伸びした13歳の恋は男性コーチにレイプされた記憶の改竄だったのだ。映画は現実と作られた記憶を往復しながら、おぞましい性暴力の実態を浮き彫りにしていく。少女を特別扱いする事で優越感を持たせ、言葉巧みに両親から引き離していく犯人の卑劣な手口に怒りがこみ上げる。関係者への配慮からか、登場人物の名前は変えられており、ドキュメンタリー化が困難だった事が伺える。

だが、劇映画化した事で本作は俳優陣の素晴らしいパフォーマンスを得ており、それが監督にある種の浄化作用をもたらしたのかもしれない。キャリア絶頂期にあるローラ・ダーンは彼女ならではのダイナミックな芝居でノンフィクションを中和し、終幕の決着には胸がすく。また事件のきっかけとなった馬術講師Mrs.Gに扮するエリザベス・デビッキは13歳のジェニファーが憧れた“完璧な美人”に相応しい好キャスティング。フォックスが思い描く架空インタビューの中では悔恨と哀れさを滲ませ、名演である。

 終幕、対峙するフォックスと犯人は一瞬、相手の反応に驚いたような表情を見せる。それはまるでドキュメンタリー映画のような、カメラが偶発的に収めたかのような間合いである。“撮る”という行為を通じて自身のトラウマと客観的に向き合ったフォックス監督の強さに驚き、敬服してしまった。映画は人を救うことができるのかも知れない。


『ジェニーの記憶』18・米、独
監督 ジェニファー・フォックス
出演 ローラ・ダーン、エリザベス・デビッキ、エレン・バースティン
 
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『7月22日』

2018-10-16 | 映画レビュー(し)

2011年7月22日にノルウェーで発生した同時多発テロ事件を描く実録映画。
7月22日午後3時半頃、首都オスロの官公庁街で車に積まれた爆弾が爆発し、多くの死傷者を出した。だがそれはさらなるテロへの序曲に過ぎなかった。オスロ近郊の離れ小島ウトヤ島に集まっていた労働党青年部の集会こそが真の標的だったのだ。高校生を中心に700名もの子供たちが集まったこの島にアサルトライフルを装備した犯人が警官に成りすまして潜入。70名近い子供たちの命を奪ったのである。しかも恐るべきことにその犯行はアンネシュ・ブレイビクなるたった1人の青年によって短時間のうちに繰り広げられたのだ。

この史上稀に見る凄惨な事件の映画化に『ブラディ・サンデー』『ユナイテッド93』『キャプテン・フィリップス』で知られる社会派の巨匠ポール・グリーングラス監督が挑んだ。ノルウェー社会からの反発も大きかったというが、パワフルで緻密な仕上がりは決して当事者の感情を逆撫でしないだろう。無名俳優たちに肉薄した手持ちカメラの緊迫は今回もまるで事件現場に居合わせたかのような迫真力を生み、前半40分の惨劇に怒りと恐怖で涙をこぼれる程だ(犯人の卑劣で残忍な手口がつぶさに描かれる事からもグリーングラスの取材密度が伺える)。

これまでの監督作と異なるのは事件当日よりもその後に重点を置いている事だろう。人権派弁護士リッペスタッドはいかなる人にも平等に裁判を受ける権利があると訴えてきたが、それが仇となって犯人に弁護を依頼され、世間から後ろ指を指されてしまう。時の首相ストルテンベルクは事件を未然に防ぐことはできなかったのか自らの政治生命を賭けて責任の所在を明らかにしようとする。短いエピソードながらもこれが世界中で跋扈する反知性主義的政治家に対するカウンターであることは言うまでもない。
そして犯人によって5発もの銃弾を体に受け、重度の障害を負った青年ビリヤルこそ本作の真の主人公だ。日常も友も奪われ、脳には取り出すことのできない銃弾が埋まり、明日をも知れない命だ。自暴自棄になり、自殺も試みてしまう。彼を支える家族にも歪みが生まれた。

 それでも、とグリーングラスは訴える。卑劣な排外主義、テロリズムに対して我々文明社会は常に民主的、理性的であり続けなければならない。連帯し、強く生き続ける事が彼らと戦い、勝利できる唯一の方法なのだ。ビリヤル(ヨナス・ストラン・グラヴリ、熱演)の反撃に胸が熱くなる。7年前の事件に現在を見出し、怒りよりも希望を込めたグリーングラスの力強さに圧倒された。


『7月22日』18・ノルウェー、アイスランド
監督 ポール・グリーングラス
出演 ヨナス・ストラン・グラヴリ
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『ジュラシック・ワールド 炎の王国』

2018-09-01 | 映画レビュー(し)

大成功を収めた『ジュラシック・ワールド』の続編となる本作は今後のシリーズ存続を占う意欲的なアレンジが施された1本だ。前作以後、放棄されてしまったジュラシックワールドが噴火の危機に見舞われ、オーウェン、クレアらは恐竜たちを救うべく、再び島へと舞い戻る。

前半はシリーズ第2作『ロスト・ワールド』の焼き直しに火山爆発のタイムリミットを加えただけ(それでも十分スリルとサスペンスはあるが)。本作のユニークさは後半から発揮される。あえてスケールをダウンし、洋館内での攻防を描いたホラー映画へと舵を切っているのだ。特に今回の敵インドラプトルはまるでゴシックホラーに登場する怪物のようなカギ爪をもっており、監督のJ・A・バヨナは意識的に往年の名作ホラーへオマージュを捧げている。

そして浮かび上がるのが人間の傲慢さと、生命倫理への警鐘だ。自然災害はじめ、僕ら人類にコントロールできるものが如何に少ないのか思い知らされる。収縮していった映画は最後にシリーズのさらなる拡張を宣言し、終わるのだ。

おふざけばかりのスター・ロードとは違う、男臭いヒーロー像をクリス・プラットは今回も好演。ブライス・ダラス・ハワードとのケミカルも相変わらず抜群で、3部作完結編にも期待が持てる。

『ジュラシック・ワールド 炎の王国』18・米
監督 J・A・バヨナ
出演 クリス・プラット、ブライス・ダラス・ハワード
 
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