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長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『シャザム!』

2019-05-22 | 映画レビュー(し)

DCが絶好調だ。昨年末に公開された『アクアマン』に続いて本作『シャザム!』も大ヒットを記録。しかも”DC映画史上最高傑作”とレビューもこれまでにない好評ぶりである。戦略性がしっかりしてきたのか、先行作品とは違って対象年齢はやや低めで、家族で楽しめるファミリームービーとして完成されているのがいい。

ある日、少年ビリーは謎の魔法使いからスーパーヒーローに変身できる力を授けられる。合言葉は「シャザム!」。ダッセぇとバカにしていたらもっとダッセぇ衣装の大人の姿になってしまった。中2の頃に誰もが憧れた”もしもスーパーパワーを手に入れたら”だが、今どきのガキンチョはYouTuberになるのが可笑しい。アメコミオタクの義兄弟フレディとスーパーパワー検証動画を作成し、ネットにアップして一躍人気者に。変身後の姿を演じるザッカリー・リーヴァイは本当に中身が中2のような屈託のなさでおおいに笑わせてくれる。『IT』にも出演していたフレディ役ジャック・ディラン・グレイザーも悪ガキな笑い方がなんともメンコイ。そんな彼らをつけ狙う悪役Dr.シヴァナにはマーク・ストロング。英国実力派俳優が悪役を演じるのはハリウッドの通過儀礼みたいなものだが、名実共に確立された今でも楽し気に演じてくれるのだからイイ人だ。

監督は『ライト/オフ』『アナベル死霊人形の誕生』をヒットさせたデヴィッド・F・サンドバーグ。ホラーの旗手が一転、80年代アンブリン映画を思わせる根明なファミリーアドベンチャーを撮ってくれたのが気持ちいい。今後、辛気臭いスーパーマンやバットマンに囲まれてどんな活躍をしてくれるのか楽しみだ。シャザム!

『シャザム!』19・米

監督 デヴィッド・F・サンドバーグ

出演 ザッカリー・リーヴァイ、ジャック・ディラン・グレイザー、アッシャー・エンジェル、マーク・ストロング、ジャイモン・フンスー

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『シーズ・ガッタ・ハヴ・イット』

2019-04-22 | 映画レビュー(し)

スパイク・リー監督の長編デビュー作。モノクロとカラー、ドキュメンタリーと劇映画といった具合にあらゆる手法とジャンルを自由闊達に往復する作家性が既に確立されているのはもちろん、解放された女性性という今日的なテーマを擁する古びない視点に驚かされる。後にNetflixがTVシリーズとしてリメイクしたのも納得だ。

ヒロイン・ノーラは3人の男と自由気ままにセックスを楽しむが、男たちはそれを良しとしない。男が相手をとっかえひっかえしても”遊び人””プレイボーイ”と大らかに受け入れられるのに対し、女が性に開放的だと途端に”ふしだら”と罪人の烙印を押されてしまう。そして男たちは女を肉体的にも精神的にも所有しようとするが、その本質を愛そうとはしないのだ。1986年時点でこのテーマを掲げてきたリーが挑戦的な作家と受け止められたのも無理はないだろう。時代が追いつくのに30年がかかり、リーは『ブラック・クランズマン』でついに初のオスカーに輝くのである。

 

『シーズ・ガッタ・ハヴ・イット』86・米

監督 スパイク・リー

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『女王陛下のお気に入り』

2019-02-27 | 映画レビュー(し)

今年のアカデミー賞で最多9部門10候補に挙がった歴史劇。18世紀イングランド、アン女王は乱心状態にあり、幼馴染であるレディ・サラの傀儡と成り下がっていた。そこへ没落貴族の娘アビゲイルが小間使いとしてやって来る。女王とサラの間の“ある秘密”を知った彼女はそれを利用し、女王の寵愛を得ようと画策していく…。

ギリシャ出身の鬼才ヨルゴス・ランティモス監督はこの歴史的事件を彼らしい捻くれたユーモアでブラックコメディに仕立てている。サンディ・パウエルによる時代考証を無視した衣装で貴族達がディスコダンスを踊り、ローアングルの魚眼レンズ撮影が歴史劇特有の格調を奪って画面に異質さをもたらす。唯一の米国人となるアビゲイル役エマ・ストーンのコスチュームプレイが全く似合わない現代性は既存の史劇を破壊するには最適なキャスティングだ。
 ストーンは『ラ・ラ・ランド』でオスカー受賞後も『バトル・オブ・セクシーズ』『マニアック』そして本作と怖れを知らない充実の作品選択眼である。そんな彼女を手籠めにしようとする男達は白塗り、カツラと吃驚な出で立ちで政争に明け暮れており、宮廷から一歩も出ない作劇が東西問わず停滞しきった現代の政治を揶揄するのは言うまでもないだろう。

本作のもう1つの見どころは女優陣の演技合戦だ。本作でアカデミー主演女優賞に輝いた英国のベテラン、オリヴィア・コールマンがアン女王に扮している。痛風のためロクに歩く事もできず、我がままと贅沢の限りを尽くす肥満体の裏には17人の子供を産みながらも先立たれ、“世継ぎを残す”という役割に圧し潰された女性の悲哀がある。まるで糸の切れた凧のように宮廷を彷徨う狂気には圧倒されてしまった。

そんな女王を操るレディ・サラに扮するのがレイチェル・ワイズ。初めこそ冷酷な憎まれ役として登場するが、パンツルックで銃も馬も使いこなすマニッシュさは惚れ惚れするような麗しさだ。映画の終盤には『山猫』のアラン・ドロンよろしく眼帯姿まで披露する。アカデミー賞では助演女優賞にノミネートされたが、実質はエマ・ストーンとのW主演と言っていいだろう。

 物語の結末はともかく、ワイズ扮するこのレディ・サラが後の英国首相チャーチルの祖先という事実は知っておいても損はないハズ。僕たちは度々、負の歴史を繰り返してきたが、同時にそんな間違いを自浄する力も備わっているのでは…と信じたくなった。映画館を後にする時はぜひそんなエピローグを思い出してもらいたい。


『女王陛下のお気に入り』18・英、米、アイルランド
監督 ヨルゴス・ランティモス
出演 オリヴィア・コールマン、エマ・ストーン、レイチェル・ワイズ、ニコラス・ホルト、ジョー・アルウィン
 
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『シュガー・ラッシュ/オンライン』

2019-01-24 | 映画レビュー(し)

6年ぶりの新作はインターネットの世界が舞台だ。ラルフ、ヴァネロペらが暮らすゲームセンターにネットが開通、彼らはLANケーブルを通じて広大な世界へと漕ぎ出していく。
サイバー空間を擬人化した遊びはディズニーらしいユーモラスなアイデアが満載。ディズニーサイトへアクセスしたヴァネロペがそこで歴代プリンセスと出会う場面ではこれまでにないブラックな自虐ギャグがさく裂している(可能な限りオリジナルのボイスキャスト再結集させるという手の込みようだ)。
ヴァネロペはグランド・セフト・オート風のバイオレントなゲーム世界に迷い込み、そこで繰り広げられる激しいカーアクションに魅せられる。パステルカラーのお菓子で作られた子供用ゲーム「シュガー・ラッシュ」ではなく、危険で刺激に満ちたこの世界で新しい人生を送りたい…『ワイルド・スピード』よろしく登場するクールなガル・ガドットに影響され、ヴァネロペの新世界に対する気持ちはさらに高まっていく。

方や、ラルフは唯一の友達であるヴァネロペが自分を置いて出て行ってしまうことに動揺し、どんどん暴走していく。進歩的な女性VS現状維持を望む男性という構図は今年何度も繰り返されてきたテーマだが、そろそろその先を見せてほしい。愚鈍なラルフは闇サイトでウイルスを購入(なぜかこのシーンは素っ頓狂なまでにグロテスクで凄く可笑しい)、その嫉妬はネット世界を脅かす一大事へと発展してしまう。

前作以上のスケールでアクションが繰り広げられるが、今年ピクサーの『インクレディブル・ファミリー』でブラッド・バードが達成したスリルとサスペンスを思うとイマイチ物足りない。結局、ラルフはアーケードゲームに戻り、ヴァネロペはネットの世界に旅立ってしまう。時代精神を捉えたセンスは買うが、僕らが見据えてなくてはいけないその先だろう。何より僕は大の男である(デザイン上、そう見える)ラルフに全く友達がおらず、幼女のような姿のヴァネロペに依存していることに違和感を覚えてしまう。見た目は大人でも幼稚な男と、見た目以上に成熟した女。まだまだ描けるものがあっただけに、子供だましのような印象が残ってしまった。


『シュガー・ラッシュ/オンライン』18・米
監督 リッチ・ムーア、フィル・ジョンソン
出演 ジョン・C・ライリー、サラ・シルバーマン、ガル・ガドット、タラジ・P・ヘンソン、アラン・テュディック、ジェーン・リンチ、ジャック・マクブレイヤー、アルフレッド・モリーナ
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『シュガー・ラッシュ』

2019-01-21 | 映画レビュー(し)

かつて子供達で賑わったゲームセンターもオンライン携帯ゲーム全盛の今、人の姿はまばらで閑散としている。設置しているゲーム筐体が昔懐かしの8ビットなのだから無理もないか。そんなゲームセンターも夜になればゲームキャラ達が筐体を抜け出し、互いのゲームを行き来しているではないか。ゲーム『Fix it Felix』(ドンキーコングとレッキングクルーを足したようなゲームと思ってくれればいい)の悪役ラルフは汚れ仕事を労われることもなく、皆の嫌われ者。そんな毎日に嫌気がさした彼はゲームを抜け出し、シューターゲームの景品メダルを手に入れて周囲を見返そうとする。

『トイ・ストーリー』のゲームセンター版とも言うべき設定は8ビットゲームで遊んだ世代にはとりわけ懐かしい楽しさがあるだろう。ラルフは愚鈍だが、ジョン・C・ライリーのボイスアクトによって愛すべきキャラとなっており、ヒロインとなるヴァネロペに至ってはサラ・シルバーマンのダミ声(!)もあってディズニーヒロインの中でも異色のプリンセスになっている。それだけに彼女のアイデンティティを決定付けるカーレースアクションがスリルに乏しく、子供騙しに見えてしまうのが惜しかった(奇妙な言い方だが、“ゲーム”っぽいのだ)。

 行動的で進歩的なヴァネロペに対してラルフはいい奴だが、現状に甘んじる変化を受け入れられない男として描かれる。この対比は6年後の続編で思いもよらぬ形へと発展する事になる。


『シュガー・ラッシュ』12・米
監督 リッチ・ムーア
出演 ジョン・C・ライリー、サラ・シルバーマン、ジェーン・リンチ、アラン・テュディック、ミンディ・カリング
 
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