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長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ラスト・クリスマス』

2020-01-22 | 映画レビュー(ら)

 ドラゴンを降りた我らがカリーシことエミリア・クラークが酒飲み、自己チューのホームレスを演じるラブコメディ。インタビュー等のオフショットで見る限り、我らがドラゴンの母はこのジャンルに打ってつけのファニーフェイスの持ち主。ガールネクストドアな親しみ易さがある。

 舞台はクリスマスシーズン真っただ中のロンドン。彼女が働くのはクリスマスグッズ専門店で、オーナーはなんとミシェル・ヨーだ。そこへエミリアの恋のお相手としてヘンリー・ゴールディングが現れる。『クレイジー・リッチ!』の母子再共演にシンガポールで没落したヨーがロンドンで再出発し、生き別れの息子と再会する話しかと思っちゃったよ!(2人の共演シーンはなし。)ゴールディングは『クレイジー・リッチ!』の成功がフロックでなかった事を証明するハンサムぶりで、ハリウッド女優の恋のお相手をアジア系俳優が演じる新たな時代の扉を開いている。

 『ラスト・クリスマス』はベタなジョージ・マイケルのヒットナンバーも、多様なキャスティングも他のジャンル映画とは一線を画す大きな仕掛けだ。やや詰め込み過ぎなきらいはあるが、スマホを捨てて上を向けというメッセージは気持ち良く、多民族社会となったイギリスの現在(いま)を映していると言っていいだろう。そして聖夜の奇蹟を素晴らしき哉、人生と謳うクリスマス映画でもある。ぜひともカリーシには女王不在のラブコメ映画界を征服してもらいたいところだ。


『ラスト・クリスマス』19・米
監督 ポール・フェイグ
出演 エミリア・クラーク、ヘンリー・ゴールディング、ミシェル・ヨー、エマ・トンプソン
 
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『ラストムービー』

2020-01-09 | 映画レビュー(ら)

 社会現象となった『イージー・ライダー』に続くデニス・ホッパーの監督第2作『ラスト・ムービー』はその難解さから製作ユニバーサルとの対立を招き、ハリウッドから事実上追放される要因となってしまった。ここ日本でも31年ぶりの劇場公開となる幻の1本だ。ホッパーはその後、ドラッグとアルコールに長らく苦しみ、完全復活は86年のデヴィッド・リンチ監督作『ブルー・ベルベット』まで待つ事になる。『ブルー・ベルベット』における映画史上屈指の狂人フランク・ブースを演じた衝撃は今なお語り草であり、デニス・ホッパー=怪優というイメージを持つ映画ファンがほとんどだろう。そんな彼のキャリアを一時、破壊した映画ともなればさぞかしや…と期待したが、『ラストムービー』は安易な言葉では括り切れない一品だ。若きホッパーの美しい顔(そう、彼はベイビーフェイスである)からはむしろ不器用なまでに純粋な映画愛、いや求道的なまでの映画への信仰心が感じられる。

 ペルーの高地へ映画の撮影隊がやって来る。映画を知らない原住民たちは虚構を真実と思い込み、木で作られた撮影機材の山車を担いでホッパー扮するスタントマンを追い回す。未開に映画という宗教が持ち込まれた事で文明が崩壊してしまったのだ。

 しかし、映画を直線で見てもプロットの表面をなぞるだけに過ぎず、この映画の魅力を味わえた事にはならない。ホッパーのキャリアを語る上で欠かせないのは写真家としての顔だ。写真集“DENNIS HOPPER 1712 NORTH CRESCENT HEIGHTS”等を垣間見るに、この『ラストムービー』の美しいロケーション、辺境ゆえの野性味、そして即興性は彼の多彩な芸術性に依るものである事が伺える。本作は稀代のアーティストによるインスタレーションアートなのだ。


『ラストムービー』71・米
監督・出演 デニス・ホッパー
出演 ジュリー・アダムス、サミュエル・フラー、ピーター・フォンダ、クリス・クリストファーソン
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『ザ・ランドロマット/パナマ文書流出』

2019-11-26 | 映画レビュー(ら)
 
2016年に発覚した“パナマ文書”事件を、監督のスティーヴン・ソダーバグは『トラフィック』や『コンテイジョン』で見せたポリティカルサスペンスの手法ではなく、マイケル・ムーアやアダム・マッケイ映画のようなバラエティ番組的コメディとして描いていく。租税回避マニュアル“パナマ文書”を作り上げた弁護士のモサックとフォンセカ(真っ白なスーツ姿がいかがわしいゲイリー・オールドマンとアントニオ・バンデラス)が第4の壁を突破して金の流れを僕たちに解説し、それを取り巻く世界中の鬼畜、守銭奴達のエピソードが面白おかしく語られる。中でも娘の友人との不貞行為がバレるや、家族に口止め料として株債権を渡すクソ親父のエピソードはケッサクだ(『ゲーム・オブ・スローンズ』でも金満野郎を演じていたノンソ・アノージーがここでも酷い目に遭う)。

ソダーバーグはアメリカにおける大企業への税制優遇をはじめ、パナマ文書が世界規模のモラルハザードを形成している青写真を描こうとする。しかし前述の2監督が手掛けた『ボウリング・フォー・コロンバイン』や『マネー・ショート』『バイス』のような観る者の目を開かせる驚きや発見には乏しく、背筋の凍る警鐘を発するにも至っていない。さすがの技巧派ソダーバーグもこの分野を一朝一夕には攻略できなかったようだ。

そんな本作のぎこちなさを貫通するのがソダーバーグとは初タッグとなるメリル・ストリープである。ひょんな事からパナマ文書に関わり始める田舎の主婦に扮し、思い込みと図々しさで一点突破していくオバちゃん力で笑わせる。そして映画の最後には大女優たる圧倒で場をかっさらってしまうのだ。今年はTVドラマ『ビッグ・リトル・ライズ』シーズン2でもニコール・キッドマンら実力派女優陣を凌駕する怪演を見せており、どうやら現在の彼女のグルーヴがこのテンションである事が伺える。まったく、底の知れない女優である。

エンドクレジットにはソダーバーグの強い義憤も感じられる。そう遠くないうちにさらなる傑作社会派映画を撮ってくれる事だろう。


『ザ・ランドロマット/パナマ文書流出』19・米
監督 スティーヴン・ソダーバグ
出演 メリル・ストリープ、ゲイリー・オールドマン、アントニオ・バンデラス、マティアス・スーナールツ、デヴィッド・シュワイマー、ロバート・パトリック、ジェームズ・クロムウェル、シャロン・ストーン、ジェフリー・ライト、ノンソ・アノージー
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『ラフ・ナイト 史上最悪!?の独身さよならパーティー』

2019-08-02 | 映画レビュー(ら)

独身最後の夜に起こる騒動を描いたハレンチコメディ…と書けば傑作『ハングオーバー!』が頭をよぎるが、本作はその“女性版”といった所か。スカーレット・ヨハンソンを主演に据え、その周りにケイト・マッキノン、ジリアン・ベルといったエースストライカー級のコメディエンヌが集結した…のだけど、これが全く面白くならない。下ネタと不謹慎さだけで笑いは持続しないのだ。思い返せば『ハングオーバー!』はシラフでなければ書けない緻密な脚本だった。

それにしてもセクシー女優のイメージが強かったスカーレット・ヨハンソンもスーパーヒーロー役を経たせいか、硬派なイメージが加わって本作では政治家役である。女性の進出が著しい近年の米政界のイメージも手伝ってか、全く違和感がない。その代わり、お色気はゾーイ・クラヴィッツが担当。笑いじゃ済まない色気でコメディが似合わない事を実証してしまっている。


『ラフ・ナイト 史上最悪!?の独身さよならパーティー』16・米
監督 ルチア・アニエッロ
出演 スカーレット・ヨハンソン、ケイト・マッキノン、ジリアン・ベル、ゾーイ・クラヴィッツ
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『ザ・ライダー』

2018-12-11 | 映画レビュー(ら)

風が吹き、大地が鳴る。馬が見つめ、人は触れる。
いつともどことも知れない語り口が映画に神秘的な抒情性をもたらす。
1人の若きロデオカウボーイが落馬し、頭に重傷を負う。右手はあの時、手綱を握りしめたまま開かない。次に失敗したら、おそらく命はないだろう。青年は怖れを感じる。オレの人生はここで終わってしまうのか?だが他にどんな生き方があるというのだ?
父親はまた家賃を吞み潰した。学のないカウボーイにはスーパーの棚卸くらいしか仕事はない。どうやったら自分が自分でいられるのか。そんな心の内を明かせるのは、白痴の妹だけだ。

『ザ・ライダー』はアメリカ映画が綿々と受け継いできた“映像文学”と呼べる作品だ。ジョシュア・ジェームス・リチャーズによる素朴なカメラと実名で演じる素人俳優達には胸をかきむしりたくなるような美しさがあり、とりわけまるで馬以外には何も知らないかのような表情を見せる主演ブレイディー・ジャンドロに心打たれる。
 この伝統的アメリカ映画の筆致を中国系クロエ・ジャオ監督が手掛けていることに大きな意義を感じる。昨年、ディー・リース監督『マッドバウンド』でも触れたが男性的、女性的という論評が意味を成さなくなってきた事はもちろん、“アメリカ映画”という文脈も既に多様な文化、人種の中で消費され、新たな形へと継承されているのだ。ジェフ・ニコルズ、デヴィッド・ロウリー、テイラー・シェリダンらと共に覚えておきたい“アメリカ映画”の新鋭監督である。


『ザ・ライダー』17・米
監督 クロエ・ジャオ
出演 ブレイディー・ジャンドロ
 
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