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長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『スキャンダル』

2020-02-25 | 映画レビュー(す)

 女性キャスターが会社重役をセクハラで訴えた実在の事件、と聞いて足が遠のく男性客もいるだろう。#Me too以後、ポリティカルコレクトに配慮したハリウッド映画はつまらないと嘯く輩はネット上で見る限り決して少なくない。
 ジェイ・ローチ監督、製作・主演シャーリーズ・セロンもそれは重々承知だ。彼らはより多くの耳目を集めるために本作を何重にもコーティングしている。2016年に右派メディアFOXニュースで起きた事件を実名そのままに映画化。主演にはセロンはじめニコール・キッドマン、マーゴット・ロビーら人気スターを集めた。FOXニュースのCEOであり、本作でセクハラの限りを尽くすド外道ロジャー・エイルズの言葉を借りれば映画は“視覚メディア”である。彼は女子アナにミニスカートを履かせ、おみ足で視聴率を底上げした。『スキャンダル』に登場する男性の多くは女性を支える理知的な存在であり、世の男性諸氏を罰する事が本作の目的ではない。映画が狙う本丸は今年大統領選挙を控えるドナルド・トランプだ。

 序盤は2016年の大統領選、まだ泡沫扱いだったトランプと彼の度重なる女性蔑視発言に憤ったFOXニュースの人気キャスター、メーガン・ケリーの戦いが描かれる。共和党外から飛び込み、共和党を徹底批判することで支持を集めるトランプを当初FOXは潰しにかかるが、その人気が確定的になるにつれ矛先を収めていく。メーガンはしきりに「女性蔑視は大統領に相応しい気質なのか」と糾弾するも、彼女自身がマスコミの“ネタ”になる事を憂慮して手打ちとなってしまった。

 時同じくしてFOXニュースのベテランキャスター、グレッチェン・カールソンがロジャー・エイルズをセクハラで訴える。自身のボス、それもマスメディア界のドンを訴えることはキャリアの終焉も意味する。だが、彼女には同じ目に遭ってきた女性達が声を上げてくれるという確信があった。

 この映画の白眉は強い女(なんせシャーリーズ・セロンだ)がセクハラ野郎を成敗してめでたし、ではなくこのセクハラを許してきてしまった構造に切り込んでいる点だ。グレッチェンの爆弾発言(原題=Bombshell)は波紋を広げるも期待に反して同調者はなかなか現れない。トランプはじめ性的搾取者はセクハラの対価としてポジションを与える事で、“セクハラは適度にいなせば良い”と許容する風土を作らせたのだ。
 その犠牲となるのがマーゴット・ロビー演じる若きキャスターのケイラである。エイルズによって恥辱に苦しみ、自我が崩壊する姿は痛ましい。セクハラを看過してきたメーガンに彼女は訴える「どうして言ってくれなかったの?これは私達全体の問題よ」。

 3代女優競演映画という売り込みだが、3人揃うのは一瞬のみ。そのエレベーターシーンにおける緊張感やグレッチェン、メーガンらが同調者を探す中盤以後のサスペンスなど大いに見応えがあり、00年代からポリティカル映画をコツコツと作り続けてきたジェイ・ローチ監督はネクストステージに立った感がある。アカデミー賞ではセロンが主演、ロビーが助演でノミネートされ、本人そっくりメイクを手掛けたカズ・ヒロがメイク賞に輝いた。


『スキャンダル』19・米
監督 ジェイ・ローチ
出演 シャーリーズ・セロン、ニコール・キッドマン、マーゴット・ロビー、ジョン・リスゴー、ケイト・マッキノン、コニー・ブリットン、マルコム・マクダウェル、アリソン・ジャネイ、マーク・デュプラス
 
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『スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け』

2020-01-08 | 映画レビュー(す)

 ライアン・ジョンソン監督による前作『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』はこれまでのシリーズから換骨奪胎した“新約聖書”として批評家から大絶賛された一方、多くのファンからは「こんなのスター・ウォーズじゃない」と激しいバッシングを受け、その5か月後に公開された『ハン・ソロ スター・ウォーズストーリー』の興収に甚大な影響を及ぼす程のファン離れを起こす結果となった。これを受けディズニー、ルーカスフィルムは当初予定していたスピンオフ映画第3弾の製作を中止、エピソード9以後の製作ペースを落とす事を表明した。間もなくして次期3部作の製作総指揮を託されていた『ゲーム・オブ・スローンズ』のショーランナー、デヴィッド・ベニオフとD・B・ワイスがNetflixへ鞍替えし、プロジェクトを離脱した事も明らかとなる。

 そんな中、エピソード9のメガホンを任されたのが『フォースの覚醒』を手掛けたJ・J・エイブラムス監督である。生粋の映画オタクである彼ならばファンダムを心得た演出で小器用に立ち回ることだろう…と僕は思っていた。
そして4月に予告編第1弾が公開される。そこに映っていたのは逝去したはずのキャリー・フィッシャー、『ジェダイの帰還』以来の登場となるランド・カルリジアン、デス・スターの残骸、そして死んだはずの銀河皇帝パルパティーンだった。僕は思った。「イヤな予感がする」。

 『スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け』は有害なファンダムというダークサイドに屈した虚無のような2時間23分だ。恐怖に怯えた監督JJはファンサービスを過剰なまでにパッケージングし、物語はおろかアクションシーンにアドレナリンを持ち込む事すらもままならない。しかもここにはエピソード7公開時からネット上に流布していた“スノークはパルパティーンのクローン”や“レイはパルパティーンの子孫”といったファンセオリーが詰め込まれており、ほとんど二次創作のパッチワークである。

 さらにエピソード8が培った要素を尽くなかった事にして、トキシックファンダムの足を舐める有様だ。前作で無謀は英雄的行為でないと学び、リーダーシップに目覚めたはずのポー・ダメロンは援軍の確証もないまま敵陣へ全軍突撃を呼びかける。同じく命を賭けた特攻は真の勝利ではないと悟ったはずのフィンはまたしても玉砕覚悟で死地に残る。
前作公開時に差別的なバッシングを受け、大きな火種となったローズ役ケリー・マリー・トランはエキストラ同然に格下げされ、フィンには事もあろうに同じ黒人の女性キャラクター、ジャナが当てがわれるという人種差別も甚だしい配役だ。フィンがレイへ抱く恋心が描き切られない事はもちろん、JJはエピソード7で自ら作った悪役ハックス将軍もろくろく活かせず、盟友であり、今や大女優となったケリー・ラッセルに終始被り物をさせたままという不義理さには心底幻滅した。

 JJはファンが期待する要素を詰め込むばかりに演出的タメや行間、そして胸躍るアクションを生む事を見失ってしまった。2010年代の終わりに『アベンジャーズ エンドゲーム』『ゲーム・オブ・スローンズ』というポップカルチャーの新アイコンが金字塔を打ち立てた後では、『スター・ウォーズ』の宇宙は何とも古臭く、冴えない旧時代の遺物にしか見えないのである。そんな決定的“代替わり”を目撃するとは、僕はついぞ思わなかった。


『スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け』19・米
監督 J・J・エイブラムス
出演 デイジー・リドリー、アダム・ドライヴァー、ジョン・ボイエガ、オスカー・アイザック、キャリー・フィッシャー、マーク・ハミル、ビリー・ディー・ウィリアムズ、イアン・マクダーミド
 
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『スウィート17モンスター』

2019-09-08 | 映画レビュー(す)

ケリー・フレモン・クレイグ監督による本作を見てアイタタタ…と思わない大人はいないだろう。主人公ネイディーンは17歳。周りの気取ったバカ連中とはツルまない。ファッションもスクールライフも我が道を行く女の子だ。そんな彼女の親友は天使のように可愛い幼馴染のクリスタ。ところが彼女は事もあろうにイケメン、筋肉バカの兄貴ダリアンと付き合い始めてしまう。ありえない!!

『スウィート17モンスター』は思春期特有のこじれにこじらせた面倒くさい自意識を描いている。ムカつく兄貴と付き合うなんて許せない。ネイディーンは「私とアニキ、どっちが大事なの?」とまで迫る。そして担任の先生に絡んでは自己憐憫に浸る始末だ。そんな彼女が何より許せないのは何者でもない自分自身なのだろう。そんな暴走女子高生をヘイリー・スタインフェルドが快演。あらゆるギャグをキメていく切れ味の鋭いパフォーマンスは『ジュノ』のエレン・ペイジを彷彿とさせる。

脚本も手掛けたクレイグ監督はそんなネイディーンを取り囲む全ての人に温かい視線を注いでおり、その優しさが心地良い。何不自由ないリア充生活を送っているように見えるアニキにも長男としての責任感があり、母は夫亡き今、女手一つで年頃の子供達を育てる苦労を抱えている。皮肉屋で、とうてい教育熱心には見えない先生はむしろネイディーンと似たこじらせ思春期を送ったクチではないか。演じるウディ・ハレルソンは近年、性格俳優としてますます脂が乗ってきたが、『スリー・ビルボード』や本作で到達した“優しさ”こそがキャリアの円熟ではないだろうか。クリスタ役ヘイリー・ルー・リチャードソン嬢はスタインフェルドが霞むほど可愛らしく、今後のブレイクに期待したい(スタインフェルドはわざとブサイクに演じてます、ハイ)。

しばしば美化されがちな青春時代だが、決して戻りたくないと思えればあなたは心身ともに成長した大人かも?一歩だけ階段を上がる事のできたネイディーンの人生は、映画が終わった所から始まる。


『スウィート17モンスター』16・米
監督 ケリー・フレモン・クレイグ
出演 ヘイリー・スタインフェルド、ウディ・ハレルソン、キーラ・セジウィック、ブレイク・ジェナー、ヘイリー・ルー・リチャードソン
 
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『スイス・アーミー・マン』

2019-09-06 | 映画レビュー(す)

絶海の孤島でサバイバル生活を送る遭難者ポール・ダノ。ついに食糧も尽き、絶望に駆られて首を吊ろうとしたその時、目の前に土座衛門ダニエル・ラドクリフが漂着する。この死体はオナラ(死体の腐敗ガス)を使ってモーターボート代わりになったり、口からウォーターサーバーの如く真水を吐いたり、さらにはお喋りもできる十徳ナイフ(=スイス・アーミー・ナイフ)のような死体、“スイス・アーミー・マン”だった!ホントにそういう映画なんだってば!

こうして書いていてもどうかしてるとしか思えないプロットで、映画の大半は「いったい何を見ているんだオレは…」という戸惑いが拭えない。ダノはもちろんのこと、ハリー・ポッターことダニエル・ラドクリフが水死体を楽し気に演じており、一種のバディムービー、ブロマンス映画として成立している(中盤、どんどん倒錯していく)。
ラドクリフは『ハリー・ポッター』以後、精力的な役選びをしており、今や90年代のジョニー・デップを思わせるキャリア形成である。今後は創造的パートナーシップを築ける映画作家との出会いがキャリア発展のカギになっていくだろう。

この手の映画は得てして道徳的な着地を見せるものだが、本作は感動的なまでの開き直りを見せている。キモくたっていいじゃない!と。


『スイス・アーミー・マン』16・米
監督 ダニエル・シャイナート、ダニエル・クワン
出演 ポール・ダノ、ダニエル・ラドクリフ、メアリー・エリザベス・ウィンステッド
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『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』

2019-07-10 | 映画レビュー(す)

記録的大ヒットを記録した『アベンジャーズ エンドゲーム』からわずか2か月、MCU最新作が早くも登場だ。本作は一連のストーリー”フェーズ3”の最後を締め括る作品であり、そして新章のプロローグである。その役割を担うのがアベンジャーズのリーダー・アイアンマンに見出されたスパイダーマン=ピーター・パーカーだ。『エンドゲーム』ではトニー・スタークの原動力としてピーターの喪失が描かれていたが、本作ではその関係性が裏返され、そこにスパイダーマンのテーマ”大いなる力には大いなる責任が伴う”が込められていく。今回もマーベルの作劇に抜かりはない。

本作の見所の1つが宇宙最強の敵サノスと決着をつけた今、パワーインフレしたヴィランの設定を今一度リセットした点だろう。

(以下ネタバレ)

本作の敵ミステリオは特殊効果を使ってスパイダーマンを混乱させる原作コミックファンにはお馴染みのキャラクターだ。テクノロジーを剥がせば姑息な小悪党に思えるが、「人間が見たいと思うものを見せる」というフェイクが現実に政治家からネットの隅々にまで蔓延している今、サノス級の強敵と言っても過言ではないだろう。親愛なる隣人が今一度戦うべき相手は実際に僕たちを脅かしている存在であり、それが魅力的に近づいてくる怖さをジェイク・ギレンホールは名優たる巧みさで見事に体現している。

と、小難しい事から書き始めてしまったが、前作『ホームカミング』以上に愉快な仕上がりだ。トム・ホランドはじめゼンデイヤ、ネッド役ジェイコブ・バタロンらフレッシュな若手はもちろん、”セクシー過ぎるメイ叔母さん”マリサ・トメイ、そしてマーベルのヘッド監督ジョン・ファヴローらの演技アンサンブルは活気に満ち溢れ、実に楽しい。『エンドゲーム』で気になった細かな謎(5年問題)には爆笑モノのギャグで答えてくれている。そして『スパイダーマン:スパイダーバース』への一種のアンサーとしてサム・ライミ版との思わぬリンクがされているのもお見逃しなく。

できればワイワイ、キャッキャしながら高校生活を送って欲しかったが、次回作はいよいよ波乱の予感。そしてアベンジャーズの新たなスタートである。お楽しみはこれからだ。

『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』19・米

監督 ジョン・ワッツ

出演 トム・ホランド、ゼンデイヤ、ジェイク・ギレンホール、サミュエル・L・ジャクソン、コビー・スマルダース、ジョン・ファヴロー、ジェイコブ・バタロン、マリサ・トメイ、J・B・スムーブ

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