リッスン・トゥ・ハー

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熟した私たちは今が食べごろ

2011-01-10 | リッスン・トゥ・ハー
あたしがもう少し頭が良かったら、と考える時がある。たいていは嫌なことがあった夜だ。いつもはシャワーだけど、湯をためてお風呂に入る。ちょっといい入浴剤を入れて、ゆっくりと湯につかっている時だ。湯につかりながらあたしは嫌なことを思い出してしまう。どうしてもっとあそこでこのセリフを言えなかったんだろうと、あたしの頭は後悔で満たされている。頭の回転が速くて、切り返しが速かったら、こんなにも悔しい思いをせずにすんだのに(あたしの嫌なことはたいてい特定の人物からの攻撃だ)。のぼせてしまうほどゆっくりつかって上がると、その頃にはなにが嫌だったのか、ほとんど忘れてしまっている。

つる子さんが居間で焼酎をロックで飲んでいるので、あたしも少しだけもらう。あたしはほとんどお酒が飲めない。だけどのぼせ気味のお風呂上がりに、少しだけ飲むお酒はすごくおいしく感じる。つる子さんからグラスを受け取って、ちびちびと飲む。つる子さんはたいていおつまみにチーズを食べている。あたしは焼酎とチーズなんて一緒に食べたくない。いつか、そうつる子さんに主張すると、そうなんや、と寂しそうな顔をした。だからもう言わない。つる子さんのあんな顔見たくないもの。

つる子さんがグラスを傾けると氷がからんと鳴った。あたしはこのままソファで眠ってしまいそうだ。髪を乾かしてないから、まだ眠るわけにはいかない。眠るわけにはいかない。だけど、もうまぶたが重くて仕方がない。今あたしのまぶたは、そんじょそこらの象よりも重い。重いから閉じてしまう。あたしの身体にふんわりとブランケットがかけられた。つる子さんはふたたびグラスを傾ける。


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