リッスン・トゥ・ハー

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まるでブレーキの壊れたダンプカー

2010-12-07 | リッスン・トゥ・ハー
ダンプカーは荒くれ者だというイメージがみんなの頭に或る。ダンプカーはどうしようもないやつで、例えば子どもがジャイアントコーンを食べていれば必ずそれを奪って去っていく。お前のものは俺のもの、と捨て台詞を吐いて去っていく。例えば子どもが砂場で大きな山をつくっていれば必ずそれを壊して去っていく。いつかつぶれる運命にあるもの、と捨て台詞を吐いて。ダンプカーは不器用なのだ。本当は構ってほしいだけなのに、一緒に遊ぼうと言いたいだけなのに、それを上手く伝えることができずに、乱暴な行動になる。彼の悲しい生い立ちがそういう生き方をさせていた。ダンプカーに両親はいなかった。幼い頃に捨てられた、と彼は施設の職員に聞かされていた。母親のガソリンの匂いの記憶がかすかに彼に残っていたが、それを早く忘れようとした。俺には必要ない。俺は破壊と暴力によって成り立つ破壊神。ぬくもりなどくそくらえだ。彼のとる行動が、彼を孤独に追い込んでいった。石を投げられた。つばを吐きかけられた。火炎放射器をぶっぱなされた。ダンプカーはぼろぼろになった。上等だ。俺にはこの仕打ちが心地よい。彼はつぶやく。さて、俺もどうやら長くないようだ。エンジンが漏れている。爆発するのも時間の問題だ。俺はすべてをぶっつぶす。ダンプカーはある場所に向った。お地蔵さんがいるところ。彼はついに神をも恐れるお地蔵さんをつぶそうとしている。お地蔵さんの前に立つ。お地蔵さんは何も変わらず微笑んでいる。悪いがつぶさせてもらうよ、と言い、ダンプカーがお地蔵さんに向っていく。ぶつかる寸前、お地蔵さんが口を開いて、ダンプカーや、久しぶりだね。ふんわりと漂ってくるこのガソリンの匂い、俺の記憶の中で封印していた匂い、母さん?かすかな微笑みをお地蔵さんは浮かべて、つぶれる。ダンプカーは泣き叫びながら、爆発したそうじゃ。


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