リッスン・トゥ・ハー

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「まぐろ7(人命救助編)」

2008-04-07 | リッスン・トゥ・ハー
「まぐろ7(人命救助編)」

こんなにも遠く離れているのに、家を燃やす匂いが漂ってくる。
野次馬となって人々は、一様に他人行儀な顔をして、集まってくる。
消防車はやってこない。火の勢いが増す。「中に、まだ中に娘がいるんです」と叫び声がする。母親が燃え広がった家の中に飛び込もうとする。火達磨になることは必至であるにもかかわらず母の愛は尊い。しかし、周りの人間はそれを抑えている。行けば犠牲者はふたりになってしまう。それは避けなければならないだから、常識人たる限りなく第2者に近い第三者は母親を引き止めていた。
その時、人ごみから飛び出したものがいた。マグロだった。マグロは目にも留まらぬ速さで家に飛び込む。中で少し迷いながら、残された娘を探す。マグロは炙られていい香ばしいにおいを発する。匂いに誘われて野次馬はよだれを垂れ流す。
娘を見つけ、マグロは抱きかかえ外に助け出そうとする。触られた娘は「シゲ子さん、魚介類の至近距離耐えられん、生臭い」と叫ぶ。
マグロだと認識されなかった自分を恥じたのだろうか。
あるいは熱すぎて程よい焼き加減を超えて限界に達したのだろうか
あるいはバイトの時間になったのだろうか。
マグロは、たまたま落ちていたガソリンを頭からふりかけ、太い骨の芯まで丸焦げになった。くすくすと炭となり、焼け落ちた目玉はにごっていた。
マグロが丸焦げになった次の瞬間、野次馬のよだれで火は消え女の子は助かった。


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