リッスン・トゥ・ハー

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覇権争いに敗北したサル

2010-08-07 | リッスン・トゥ・ハー
「猿です」

「で、負けたの?」

「見事に負けました」

「もういいわけはきかないから、これからどうするの?」

「国に帰ろうかと思っています」

「帰ってなにするの?」

「両親の畑を手伝って、のんびり暮らしていこうかと」

「あんたに農業ができるのかしら」

「こう見えても、結構休みの日とかに帰ってたんです、農業手伝うために」

「ご両親はなんて言ってるの?」

「彼らはいつだって、ぼくの味方です、好きなようになさいと言ってくれています」

「そう」

「何か納得いってませんね?」

「まあね」

「なんでですか、ぼくがもうあきらめて国に帰るのだから、自分で決めたことなんだからそれでいいじゃないですか」

「じゃあ聞くけど、あなた本当にそれでいいの?」

「良いです。もうぼくは覇権を奪う気はありません全く」

「あなたに憧れて猿軍団に入った若者だってたくさんいるのよ、彼らを裏切る行為よ」

「仕方ありません、彼らはまた別の強い猿についていくでしょう」

「バカ!」

「いた!なにするんですかいきなり頬をぶって」

「これはみんなの痛みよ、バカバカバカ!」

「ちょっとじゃあぼくにどうしろって言うんですか、もう疲れたんです、ぼくはなにもできない猿です、ゆるしてください」

「あんた、そんなんじゃなかった、変わったね、何度倒れても立ち上がって向かっていったあの頃のあんたがあたしは」

「なんですか?」

「好きだった」

「梅さん・・・」

「はやく国に帰りな、二度と戻ってくんな、あんたなんか大嫌いだよ」

「梅さん、待ってください、どこいくんですか?」

「あんたがいないんじゃ、こんなしがない居酒屋開いてても仕方ないわ、あたしも、帰る」

「帰るってどこへ、梅さんの故郷はこの辺じゃ?」

「あんたと一緒に」

「梅」

「猿太」

「子どもを作って、それに覇権とらせるんだ」

「いいよ別に、家族でのんびり暮らそうじゃないか」

「そうだな」

「今日は商売上がったりだよ、のれんおろしてくるね」

「ああ」

「・・・」

「やけにおせえな」

「・・・」

「おい、梅、いない!?手紙が!『梅は私がいただいた返してほしければ山に来い』だと。どこの山?」

「・・・」

「どこの山なの?」

「富士山」

「梅の声が聞こえた、届いたんだきっと、よし、梅、待ってろお前を取り戻してやる」

「頼んだよ猿太」

「まかせとけ」

「富士山にはそれはそれは恐ろしい猿がいるという」

「へっちゃらだい」


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