リッスン・トゥ・ハー

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1187字の愛

2010-03-19 | リッスン・トゥ・ハー
ジュテーム。そのままで、動かずに、ぼくの目を見るんだ。じっと。何も考えなくていいただ、ぼくの目を見ることに集中して。しだいにぼくの身体がはっきりと見えてくる。暗がりはやがて夜明けとともに差し込む光によってぼくは照らされて、君も照らされて、ふたり照らされて、ぼくの身体のラインはとても綺麗なことに気づくだろう。君の身体のラインはどうだい、いや、応えなくていい。光りに照らされたことがすべてだ言葉は、ただの飾り物にすぎない。呼吸を忘れて、心臓を高鳴らせて、すべてを込めて君の身体の底まで見つめ続ける。するときみはバターのようにすぐ融けてしまうだろう。融けてしまった君をこねてこねて丸くして、卵の黄身を塗りたくり、オーブントースターで焼き色をつける。すると香ばしい匂いがほのかに漂ってきて、部屋を満たしてしまうだろう。ちょうど朝の食事にいい。それを手で割って、ふたりで食べよう。バターなんかを塗り、はちみつを垂らし、かぶりつくように食べよう。カフェオレをおともに。食後のデザートは練乳いちご。そうしながらいろんな話をする。未来のこと過去のこと、飢餓状態のくまのプーさんならこのはちみつをねぶるだろうか、プーさんの妻はくーさんなのだろうか、とりとめなくとりとめなくふたりは話をする。実は下着もつけてないのに。君は立ち上がって、カフェオレのおかわりを入れる。ぼくの分もついでくれる。君の入れたカフェオレは冷めていてあまりおいしくなかったけれど、そんなことはどうでもいいんだ。かすかに微笑む。今、確実に幸せをかみしめたから、太陽の光りは窓際、カーテンは開け放っていて、手ですくってみる。すくいとれるわけはない。だけど、何度も何度もすくっているうち君はフフと笑い、それに気を取られていると、今、確かに光を掬いとれたような気になる。実際手のひらには重みを感じる。あたたかくなっている。やけに香ばしい匂いもする。いい気分になる。これは神聖な行為だ。ふたりは寝室にむかう。今日は祝日で、時間は海の水ほどあった。無数の貝殻を拾い集めるように、快楽を貪るために、ゆっくり1、2ステップを踏みながらベッドに倒れ込むと君が熱い吐息を木の首筋にあてて、桃色のイメージ、あっという間に。いくつかの過程を経る。五月雨のような湿気の中、湯気がぼやぼやと部屋の至る所で立ち上る。すぐに消えてなくなるが確実に存在感として残っている。外では人々が活動している。猫は発情を繰り返している。アイスキャンディーの棒が投げ捨てられる。車が排気ガスを遠慮せずに吐き出している。雲はぼんやり空のまんなかまで出てきて、まだ出る時間じゃないとひっこんでいく。宇宙はさらに広がっていく。ぼくはきみの小さな胸の先に唇をつけて、梅干しの種のことを思う。いつまでも口の中にあって、味が消えることのない種。そしたら君はくすぐったいような声で。


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