平家物語
祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり
沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理をあらわす
おごれる人も久しからず ただ春の夜の夢のごとし
たけき者もついには滅びぬ
偏(ひとへ)に風の前の塵に同じ
平社員物語
勤めた商社の退職金(かね)の声
昇給無用の響きあり
羅沙30年の花の道
勝者失格(負け組ってこと)のこだわりをあらわす
怒れる妻も声を嗄(か)らす
ただあきらめの悪夢のごとし
強き夫もついには萎(しお)れぬ
偏(ひとえ)に蛇の前のカエルに同じ
これを書いている時点ではまだ勤務中で、定年まで5ヶ月である。今から充分予想出来る内容なので作ってしまった。
平家物語は琵琶をつま弾く法師が物語ったのだろうが、平社員物語はウクレレで軽やかに物語るのがふさわしい。羅沙は意味不明だが、知る人ぞ知る、私の勤務先の当て字の漢字表記である。
家庭内での、夫の権威、父の権威の低下が叫ばれている昨今。我が家でも夫の権威は失墜中である。かろうじて、これまで蓄積してきた知識で一目置かれることがある程度で、パソコンでレシピ、案内状、パンフなど、今でも妻のお役に立たせてもらっている一部分がそれを支えている。
来年からは収入が逆転することもあり、蛇ににらまれたカエルになることが確実だ。
息子や娘に対する権威は維持できていると思われている。その点だけは妻にも期待されている。子どもたちからすれば「すぐ怒るから怖いだけ」と言うかも知れない。
息子が未成年の頃、たばこを吸っているのを、息子の塾長でもある、私の友人に見つかってしまい「親父には絶対に言わないで」と何度も懇願したそうだ。久しく見ていない親父の権威を感じたそうだ。
やはり息子が二十歳前の頃、息子の部屋掃除をしていた妻が「こんなものが部屋に転がっていた」と慌てて飛んできた。手には避妊具、コンドームを持っていた。
「お父さんから、きつく言って」と言うので「こんなの使うな!と言うのか。使わない方が怖い」と応じると、本気で怒り出した。困惑しきっているのを見たら黙っているわけにはいかない。帰宅した息子を呼びつけて注意した。
「おまえ、お母さんがびっくりして、慌てまくっているぞ。こんなもの部屋にころがしておくな。バカ野郎」
息子はひっぱたかれると思い、慌てていたが
「余っているならお父さんに少し寄こせ」の一言で安心したのか、
「お父さん!その歳じゃ、もう役に立たないだろう。だから必要ないじゃん」
などとぬかす。
「バカ野郎、俺だって、まだまだ立派な現役だ。お母さんは知らないから内緒だけどな」
ゲラゲラ笑いながら話しているのを、台所に居た私のお袋が聞いていて、さっそく妻に言いつけに行った。
以来、「エロ父子(おやこ)」と一緒くたに呼ばれることになった。
家庭での権威維持は実に難しい。