ムジカの写真帳

世界はキラキラおもちゃ箱・写真館
写真に俳句や短歌を添えてつづります。

とこしへの野

2018-07-25 04:19:25 | 短歌





佐保姫の 岸に露とも 消えつるを とこしへの野に 咲く花とせむ





*今日は一年前のツイートから持ってきました。

「佐保姫」はもう知っていますね、春の女神のことです。わたしたちの歌では、ヴィーナスやそれに準ずる女神のことを言い表したりします。

表題の歌は、ボッティチェリの誕生のヴィーナスの絵に添えて詠われていました。

ヴィーナスの女神が、岸にたどりついて露のように消えてしまったのを、永遠の野に咲く花としよう。

もちろんこの歌はかのじょのことを意識しています。人間世界に美しい女性として生まれてきて、ぞんぶんによいことをしようとしていたが、それはある程度なんとかなったものの、結局は露のように消えていかざるを得なかった。現れては消えてゆく泡のように、かのじょははかなく消えていった。

あれほど人類に尽くしても、何も報いはなかったというのに。それどころかあまりにもひどい仕打ちを受けていたというのに。

不幸なのは消えていった本人ではない。それを消してしまった人々の方だ。あらゆることをして人類に尽くしてきた霊魂を消してしまったら、残った世界があまりにもひどいことになった。春の女神が咲かせていた花が一気に咲かなくなり、世界はあまりにも寂しくなった。なんにもない。それだけでなんにもない。

生きるのがつらいのは、ほんとうは愛のために生きていたからです。その愛を、人間は消してしまったのです。

人々はヴィーナスなんてものは美しいだけの馬鹿だと思い込んでいた。だがそれがいなくなった時、どれだけ世界がつらいものになるかを、初めて知った。

もう永遠に帰っては来ない。そして女神は永遠の花になる。

すべてを愛で救ってくれた女神を、人間は永遠に恋していかねばならなくなったのです。






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