ムジカの写真帳

世界はキラキラおもちゃ箱・写真館
写真に俳句や短歌を添えてつづります。

岸の佐保姫

2017-06-22 04:20:16 | 短歌





風運ぶ にほひこぼるる 若草を 衣きせたまへ 岸の佐保姫






*今日はかのじょの古い作品から取り上げましょう。これは旧ブログの「ふゑのあかぼし」にあったものです。確か、ボッティチェリの「ヴィーナスの誕生」と組んで発表したはずです。

「佐保姫(さほひめ)」は春の女神のことです。佐保山を神格化した女神のことらしい。これに対して秋の女神は「竜田姫(たつたひめ)」と言います。竜田山を神格化したものです。平城京からすれば、佐保山は東にあり、竜田山は西にあることから、そうなったらしい。五行説では春は東方にあり、秋は西方にあるからだそうです。

「にほひこぼる」とは美しさが外にあふれ出るということを意味します。「にほひ(匂い)」には香りという意味の他に、美しい色合いや魅力、気品と言った意味があるのです。「若草」は春に萌えだしたばかりの草のことですが、若い女性の譬えによく使われます。ここまで言えば、わかりますね。

風が運んできた、あふれんばかりに美しいそのひとを、衣を着せて立派な姿にしてください、岸に立っている春の女神よ。

そのまま、「ヴィーナスの誕生」の図になっていますね。絵の中では西風ゼフュロスに吹かれて岸にたどり着いた裸体のヴィーナスに、時の女神ホーラが衣を着せようとしている。

「ふゑのあかぼし」を最初からたどっていけば、闇の中を耐えてがんばってきた女性が、やがて光の中に出てきて、自分の本当の姿を勝ち得ていくという話になっているのに気付くはずです。ですからこの歌はこういう意味にもなるのです。

その人は闇に塗りこめられた世界を、ただ愛を信じてつらぬいて生きてきた。そして本当の自分を勝ちえた。ゆえに春の女神よ、その人に真の衣を着せ、美しく立派な姿にしてください。その人は本当にがんばってきた。ひたすらに神を信じて生き抜いてきたのだから。

これは暗闇の世界を、魂をさいなまれながらも生き抜いている正しい霊魂をたたえるための歌なのです。どんなつらいことがあろうとも、あなたがたはこのヴィーナスのように、いずれ本当に美しいものになって、真実の国の岸にたどりつくだろうと。

それが、人類の春なのだと。







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