マダム・クニコの映画解体新書

コピーライターが、現代思想とフェミニズムの視点で分析する、ひと味違う映画評。ネタバレ注意!

ビューティフルアイランズ

2010-08-14 | 映画短評
南太平洋のツバル、イタリアのベネチア、アラスカのシシマレフ島。これらの島は今世紀中に海没するだろうといわれている。
 本作は、”喪われゆく世界”をテーマに、この3つの島の現状を3年間かけて映像化。気候変動がもたらす地球環境への影響の大きさを問題提起すると同時に、美しい風景や守りたい風俗・伝統、住民の心情などを丁寧に掬いとっている。
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 監督の海南智子は、10代から環境問題に関心を持ち、NHKの報道ディレクターとして7年間、そうした番組を制作。10年前に独立した気鋭の映像作家だ。

 世界で最初に沈むと言われているツバル。しかし、私たちには、”遠い南の島の楽園”というイメージが強い。一方、観光都市であるベネチアは、誰もが知っている土地で、都市生活者にとっても身近に感じられる存在である。
 この2つの島に加えて、米国民でありながら世界初の環境難民となった、アラスカ先住民の島シシマレフを取り上げたことで、地域的にも文化的にも広がりが出て、問題の深さがよく解った。

BGMもナレーションもない。聞こえるのは波や風、小鳥や人々の声、祭りのざわめきなどの自然音だけだ。固定カメラで、観客の視線から、美しい風景や伝統的な生活など”島の時間”をじっくり切り取っている。
 絵葉書のように美しい映像だが、被害のシーンを多用するよりも、「大切にしたい人類の遺産を喪ってしまってもいいのか」と訴える監督の思いが伝わってくる。

 被害は少しずつ進行するため、住民は環境の変化に気づくのが遅れ気味となる。そのうえだんだん慣れてしまうので、声高に訴えるというよりは、現実を冷静に受け入れ、対処せざるを得なくなる

 ツバルでは、子どもたちが高潮時に海に出て、元気に遊ぶ様子が痛ましい。
 ベネチアでは、浸水時に歩行者用の高床を設置。店では長靴をはいて接客する。
 シシマレフでは、住民投票で”全員移住”を決めたが、代替地のめどはたっていない。

 ツバルには、新聞や電話、テレビ、インターネットなどもほとんどない、昔ながらの暮らしをしている島がある。人々は「神様が我々を見捨てるわけがない」と信じている。
 日常的に助け合い、集い、語り、踊って、”共生”を楽しみ、人間の原点ともいえる幸せな毎日を送っている。まさに楽園である。

 3つの島それぞれに、子どものきょうだいの無邪気な生活ぶりが紹介される。彼らの純粋さとは裏腹に厳しい現実があるのだ、という深読みができる。
 これらの島はお互いに遠く離れているが、気候変動に限らず、すべてにおいて地球規模でつながっている。そして、そこで起きていることは、遠からず私たちの身にも起きることなのだ。

 観た後、映像美の余韻のなかで何かが心に残る、不思議な体験をした気分だった。
★★★★★(★5つで満点)

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1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
現実~ (cyaz)
2010-08-25 08:45:34
マダム・クニコさん、こんにちは^^
TB&コメント、ありがとうございましたm(__)m
同じ地球人として、ニュースではしょっちゅう
地球温暖化の問題は見聞きするのですが、
現実問題(死活問題)として、この映画を通して海面上昇の実像を見せられ、
改めて地球温暖化という問題を考え直すきっかけとなりました。
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