眼鏡をかけたチャン・ツィイーが、雷雨の中、路上で苦しみながら1人で出産する・・・。
延々と続く衝撃的なシーン。その迫真の演技には誰もが感動するだろう。
ジャスミンの花開く
観ながら、キェシロフスキ監督の遺稿による映画「美しき運命の傷痕」を思い浮かべていた。
共通点は、嫉妬により狂っていく女性の人生。
「ジャスミン・・・」は三世代の女性の、「美しき・・・」は三姉妹の、それぞれの生き方を、ともに豪華キャストを揃えて描いている。
本作は、えぐり方としては、王女メディアを下敷きにした「美しき・・・」には及ばないが、20世紀の上海の、50年間にわたる激動の歴史を背景にしているだけに、ドラマチックな演出は見応えがある。
テーマは、母と娘の確執。
30年代、50年代、80年代と3章に分れ、チャン・ツィイーは、各章で娘役の茉(モー)・莉(リー)・花(ホワ)を演じる。茉莉花は、ジャスミンの花。
第1章の娘・茉は、第2章では母に、第3章では祖母になる。母と祖母役は「ラストエンペラー」で皇后役を演じたジョアン・チェン。さすがの名演技を披露している。
茉は、戦前の映画王国・上海で、憧れの映画女優になったものの、映画会社の社長に捨てられ、未婚の母に。さらに、自分の母の愛人とも寝たため、嫉妬に狂った母を自死に追いやる。
戦後、中国は社会主義国家となり、母の遺言により莉と名づけられた父親の無い娘は、共産党員と結婚。しかし、不妊症のため精神を病み、自殺した祖母と同じく嫉妬に苛まれ、悲しい運命を辿る。
改革開放の時代、莉の養女である孫娘の花も、愛人に捨てられた祖母と同じく、大学生の夫に裏切られ、シングルマザーになる。
上記のように、章を追う毎に反復が多用される。
それぞれの時代のエリートに恋をする娘。
彼らとの交際に反対する母。
母の反対を押し切って、家を出る娘。
好きな男優に似た青年が、娘、孫娘の伴侶になる奇遇。
男の裏切り。
実家へ戻る。
女(母と娘)の嫉妬。
嫉妬が原因となる家族の自殺。
1人での出産・子育て・・・。
エディプスの3角構造で知られているように、、母と娘の確執は永遠の命題。これらの反復は、そうした構造を強調している。
四世代にわたる不幸の連鎖であるが、どの女性も強くてたくましい。
それに反して、男性たちは一様に軟弱である。
「私の一生は台無し。あなたのお母さんさえ産まなければ・・・」と、茉は花に言う。
「子供がいなかったら、もっと悲惨だったかも・・・」と、切り返す花。
血は繋がらなくても、家族は影響されて、似たような人生を歩むもの。
莉の養女である花は、血縁にはこだわらない家族のあり方を主張しているのだ。
茉が、死ぬまで手放さなかったジャスミンの香水びんは、女優時代に恋人からプレゼントされたもの。50年にも及ぶ不幸の連鎖のルーツである。
彼女が表紙を飾った古い映画誌も、何かとトラブルを招いた代物。
花は、育ての母である祖母・茉の死後、長年の悲運の鎖を完全に断ち切るため、それまで住んでいた写真館と遺品を処分。幼い娘とともに、新しい時代のシンボルである高層マンションに移る。
新たな旅立ちをする母と娘。
三世代の娘たちのうち、茉と花は、それぞれ「母の死=母の棄却」をすることで自立した。
莉だけは、自死した祖母の名づけという呪縛があったのか、いつまでも母を超えることができず、自死を選ぶ。
「美しき・・・」の3姉妹は、母の強い呪縛に捉えられ、なかなか自立できない
が、花の娘はどうだろうか。
本作で監督デビューしたホウ・ヨンは、「初恋のきた道」「あの子を探して」の撮影監督。映像の美しさは特筆に価する。
色使いのすばらしさ。
映画の黄金時代である30年代は緑色、文化革命に揺れた50年代は赤色、改革開放の80年代は青色。
時代を象徴するこれらの色が、ファッションはもちろん、さまざまな場面を鮮やかに彩る。
小道具やアングルなどへのこだわりも心憎い。
主人公は写真館の娘。時の流れや心理状態を表現する家族写真。
人間関係の危うさを表す、ベッドのカーテンの揺れ。
それぞれの時代の主人公にとって、節目となる出血シーン。
さりげなく思いが表れる、足元のアップ・・・。
これらは繰り返し表現されるので、観客はその都度、この場面が何を意味するのか(差異)を考えることになる。
不幸の連鎖は、中国現代史の暗黒部分(日本の侵略、文革、階級社会・・・)のメタファーでもある。
深読みもできるし、娯楽作品としても十分楽しめる佳作だ。
★★★★(★5つで満点)
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延々と続く衝撃的なシーン。その迫真の演技には誰もが感動するだろう。
ジャスミンの花開く
観ながら、キェシロフスキ監督の遺稿による映画「美しき運命の傷痕」を思い浮かべていた。
共通点は、嫉妬により狂っていく女性の人生。
「ジャスミン・・・」は三世代の女性の、「美しき・・・」は三姉妹の、それぞれの生き方を、ともに豪華キャストを揃えて描いている。
本作は、えぐり方としては、王女メディアを下敷きにした「美しき・・・」には及ばないが、20世紀の上海の、50年間にわたる激動の歴史を背景にしているだけに、ドラマチックな演出は見応えがある。
テーマは、母と娘の確執。
30年代、50年代、80年代と3章に分れ、チャン・ツィイーは、各章で娘役の茉(モー)・莉(リー)・花(ホワ)を演じる。茉莉花は、ジャスミンの花。
第1章の娘・茉は、第2章では母に、第3章では祖母になる。母と祖母役は「ラストエンペラー」で皇后役を演じたジョアン・チェン。さすがの名演技を披露している。
茉は、戦前の映画王国・上海で、憧れの映画女優になったものの、映画会社の社長に捨てられ、未婚の母に。さらに、自分の母の愛人とも寝たため、嫉妬に狂った母を自死に追いやる。
戦後、中国は社会主義国家となり、母の遺言により莉と名づけられた父親の無い娘は、共産党員と結婚。しかし、不妊症のため精神を病み、自殺した祖母と同じく嫉妬に苛まれ、悲しい運命を辿る。
改革開放の時代、莉の養女である孫娘の花も、愛人に捨てられた祖母と同じく、大学生の夫に裏切られ、シングルマザーになる。
上記のように、章を追う毎に反復が多用される。
それぞれの時代のエリートに恋をする娘。
彼らとの交際に反対する母。
母の反対を押し切って、家を出る娘。
好きな男優に似た青年が、娘、孫娘の伴侶になる奇遇。
男の裏切り。
実家へ戻る。
女(母と娘)の嫉妬。
嫉妬が原因となる家族の自殺。
1人での出産・子育て・・・。
エディプスの3角構造で知られているように、、母と娘の確執は永遠の命題。これらの反復は、そうした構造を強調している。
四世代にわたる不幸の連鎖であるが、どの女性も強くてたくましい。
それに反して、男性たちは一様に軟弱である。
「私の一生は台無し。あなたのお母さんさえ産まなければ・・・」と、茉は花に言う。
「子供がいなかったら、もっと悲惨だったかも・・・」と、切り返す花。
血は繋がらなくても、家族は影響されて、似たような人生を歩むもの。
莉の養女である花は、血縁にはこだわらない家族のあり方を主張しているのだ。
茉が、死ぬまで手放さなかったジャスミンの香水びんは、女優時代に恋人からプレゼントされたもの。50年にも及ぶ不幸の連鎖のルーツである。
彼女が表紙を飾った古い映画誌も、何かとトラブルを招いた代物。
花は、育ての母である祖母・茉の死後、長年の悲運の鎖を完全に断ち切るため、それまで住んでいた写真館と遺品を処分。幼い娘とともに、新しい時代のシンボルである高層マンションに移る。
新たな旅立ちをする母と娘。
三世代の娘たちのうち、茉と花は、それぞれ「母の死=母の棄却」をすることで自立した。
莉だけは、自死した祖母の名づけという呪縛があったのか、いつまでも母を超えることができず、自死を選ぶ。
「美しき・・・」の3姉妹は、母の強い呪縛に捉えられ、なかなか自立できない
が、花の娘はどうだろうか。
本作で監督デビューしたホウ・ヨンは、「初恋のきた道」「あの子を探して」の撮影監督。映像の美しさは特筆に価する。
色使いのすばらしさ。
映画の黄金時代である30年代は緑色、文化革命に揺れた50年代は赤色、改革開放の80年代は青色。
時代を象徴するこれらの色が、ファッションはもちろん、さまざまな場面を鮮やかに彩る。
小道具やアングルなどへのこだわりも心憎い。
主人公は写真館の娘。時の流れや心理状態を表現する家族写真。
人間関係の危うさを表す、ベッドのカーテンの揺れ。
それぞれの時代の主人公にとって、節目となる出血シーン。
さりげなく思いが表れる、足元のアップ・・・。
これらは繰り返し表現されるので、観客はその都度、この場面が何を意味するのか(差異)を考えることになる。
不幸の連鎖は、中国現代史の暗黒部分(日本の侵略、文革、階級社会・・・)のメタファーでもある。
深読みもできるし、娯楽作品としても十分楽しめる佳作だ。
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「茉莉花」の歌が印象的に使われていて、
細部まできれいな作品でした。
チャン・ツィイーの出産シーンは怖かったです。
チャン・ツィイーも気丈な役を演じ分けていましたが、私にはジョアン・チェン演じた祖母の物語のようにも思えました。
どんな時も女性は強いですね。
TBいただいていきます。
チャン・ツイィーのチャイナドレスとってもステキでした!
こちらの昼ドラにでもありそうな筋書きですが、想像力をはたらかせるように描かれていたので、原色の夢を見させてもらったような気分になりました。
なるほど、鋭いご指摘ですね。そこまでは考えが及びませんでした。歴史や社会に対する批判精神が作品の根っこにあるのかも知れませんね。
母と娘の確執も同様に根深いようですが、物語の中で延々とそれが繰り返されると見ていてちょっと辛かったです・・・。
ホアの娘には、今度こそ幸せな人生が訪れることを祈ります。