ぼくは行かない どこへも
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気仙沼在住の千田基嗣の詩とエッセイ、読書の記録を随時掲載します。

自治体学2024.3 vol.37-2 自治体学会誌 追悼大森彌先生

2024-06-27 21:44:48 | エッセイ
 大森彌先生も彼岸に渡られた。
 昨年3月刊の『自治体学』vol.36-2の特集は、「追悼西尾勝先生・新藤宗幸先生」であった。冒頭の座談会には、大森彌先生も出席しておられた。
 松下圭一、田村明、そして、西尾勝、新藤宗幸…
 冒頭、岡崎昌之先生(法政大学名誉教授)も、同じことから書き起こされている。

「ちょうど1年前の『自治体学』(36-2号)は、西尾勝先生、新藤宗幸先生の追悼特集号であった。その冒頭の座談会で、両先生への思いを述べておられたのが大森彌先生であった。…自治体学会の中核を力強く牽引されてきたお三方が相次いでお亡くなりになったことに、なんとも寂寥感、喪失感が募る。」(p.2)

 大森先生は、特に、最も小さな自治体である町村を大切にされた。

「地方六団体のひとつ、全国町村会において大森先生の果たされた役割も大きい。そこでは町村長や町村職員の果たす役割の重大さ、小規模自治体の存在意義と重要性などを基盤とし、町村行政の在り方について多くの調査研究や提言がなされた」(p.3)

 現場を大切にされたし、職員とお酒を酌み交わすことも大切にされていた。とある居酒屋で岡崎先生に、「現場の自治体職員や住民の皆さんと、会ったり話したりすることがホントに楽しく重要だよね」、そう語られていたという。
 大杉覚東京都立大学法学部教授は、大森先生が大切にされた言葉のひとつとして「臨床の知」を挙げられる。

「現場と並んで大森先生が良く口にされたのが「臨床の知」です。「よき臨床医が患者との対話を大切にし。文字どおり手を当てて診断することによって患者との間に理解と交流に基づく信頼関係を創り出しうるように、自治体職員は住民と対話し地域に手を当てて本当の『知』を獲得しているであろうか。」(大森彌『自治行政と住民の「元気」』良書普及会、1990年353頁)」(p.5)

 「臨床の知」といえば、哲学者中村雄二郎が唱え、鷲田清一が「臨床哲学」として継承し、河合隼雄の「臨床心理学」とも連なる知の系譜である。地方自治と哲学的な臨床の知が通底しているとなれば、私の拙い思索の道行きにおいては重要なことである。(これは、さらに精神保健福祉につながる。)
 大杉氏はさらに、大森先生による「自治体行政学」の確立について述べる。

「…いまだ確立されていないとされた「自治体行政学」に果敢に挑み、「国の行政」学と「自治体の行政」学に分け、固有の問題領域として理論化しようと試みたことです。/ …これまで「国の行政」を構成し、あたかもそこに従属するのが当然かのように理解されてきた「地方行政」から「自治体行政」を解放したことです。」(p.5)

 辻琢也一橋大学大学院法学研究科は、

「大森先生の活動の中で一貫していたのは、「市町村にできることは市町村に」という市町村優先の考え方である。」(p.6)

 大森先生は、福祉政策においても活躍された。

「生前、大森先生は、例えばゴールドプランの「成功」について次のように語られることがあった。」(p.6)

「成功要因は三つある。第一には、市町村優先の現場主義である。…第二は、過度に財政状況を重視しないことである。…第三は、将来を悲観しすぎないことである。」(p.7)

 これは、市町村の現場にいる市民、職員にとって大きな励ましとなる言葉であろう。

「大森先生の言葉を借りていえば、「自治の現場は着実に実力をつけ、政策的自立と自律的な行政運営の実績を上げつつある。」ことを再認識しなければならない。」(p.7)

 鏡諭法政大学大学院公共政策研究科兼任講師は、「介護保険のDNAを作った大森彌先生」について語り(p.8)、江藤俊昭大正大学公共政策学科教授は、「自治体議会改革への貢献」について語る(p.12)。
 坂本誠公益財団法人地方自治総合研究所常任研究員は、新たな中央集権への動きに警鐘を鳴らす。

「昨今、「行き過ぎた地方分権改革」への「是正」を求める論調が見られる。…地方から国への集権が取り沙汰されつつある。…今般の地方自治法改正案による「非平時における一般ルール」の導入もその一環とみるのは穿ちすぎるだろうか。」(p.11)

 さて、今号の特集は「マイナンバー制度を考える」、金井利之先生ほかが論考を寄せられている。
(ちなみに、金井先生も、今回の自治法改正は「あってはならない」と真っ向から反対を唱えられている(朝日新聞デジタル5月18日)。これは、自治体学会の会員として当然の反応である。本来、学会自体としての明確な態度表明もあってしかるべきと私は考える。)
 東北自治体学会のメンバーから、会津美里町の渡部朋宏氏が「「住民」が問いかけるマイナンバー制度の意義」を寄せられている(p.24)。
 また、「地域からのメッセージ」として、同じく青森県おいらせ町の佐藤啓二氏が、大森先生の訃報は「とてもショックで残念でしたが、同時に「おら、もっとしっかりしねばなんねな」と強く感じ」たと記す(p.48)。「地元おいらせ町で開い」てもらった「10時間巡回集中講義「自治体職員論」」をまとめた「大森先生の著書『自治体職員再論』を棚から手に取り、もう一度確かめたのが「今のようにものを感じ、考え、こうどうしているあなたは、自治体職員として真っ当ですか?」という問いでした」、と。
 私自身、大森先生には何度もお目にかかり、ご指導をいただいいた。自治体学会総会の際にもであるが、特に宮城県市町村職員研修所の所長時代には、大森先生にアドバイザーになっていただき(これは、私の所長就任前に、元宮城県古川市職員で、研修所の嘱託となっていた本田作夫氏の尽力によるものであった)、日中の講義、打ち合わせの時間はもちろん、終了後の懇親会の席でお酒を酌み交わしながら薫陶をいただいた。岡崎先生は「池袋の居酒屋で」と記されるが、私は仙台の居酒屋で、大森先生の、お酒が進むに従い陶然とした横顔が思い浮かぶ。そして、毅然として、分権への意志を語られるのであった。




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