ぼくは行かない どこへも
ボヘミアンのようには…
気仙沼在住の千田基嗣の詩とエッセイ、読書の記録を随時掲載します。

波止場のエディ 気仙沼2005 Ⅷ 港のカウンターバー

2021-03-06 21:39:56 | 波止場のエディ
 夜の波止場に霧が深い。 マッチを擦るつかの間、サングラスの横顔が浮かび上がる。 バー・カウンタ-の小さな四角い籠の中に、きっちりと、店の名前の入ったマッチが並べてある。そんな時代遅れの酒場が、俺には似合っている。 「この国の、どこかに、まだそんなお店が残っているかしら?」 エリカ、この街には、この夢の街には、まだ、一軒だけ、化石のようにそんな店がある。 バーテンダーは、うんとドライなマティーニを . . . 本文を読む

波止場のエディ 気仙沼2005 Ⅶ 港の珈琲ハウス

2021-03-05 21:25:42 | 波止場のエディ
 南気仙沼駅を降りて、真正面、駅前広場の真ん中に、落合直文の歌碑がある。 「砂の上にわが恋人の名をかけば波のよせきてかげもとどめず」 そのまま、まっすぐ、駅前大通りを歩いていくと、海の市があり、魚市場があり、港がある。 気仙沼湾、世界の海を航海するまぐろ漁船が係留する気仙沼漁港。 岸壁沿いの道路に面した珈琲ハウスの、窓際のテーブルに向かい合って、「エディ、あなたの名前を、ガラスの上に書いて、拭き消 . . . 本文を読む

三陸新報2021.3.5の社説に「内湾エリアに観光案内の解説板」が取り上げられる

2021-03-05 20:19:59 | 波止場のエディ
 今朝の三陸新報の社説は、内湾、港町エリアの観光案内板設置の件である。先般も事業については記事として取り上げられていたところであった。「解説板は2003年、気仙沼魚市場前から浮見堂付近までの17カ所に設置された。「港町ブルース歌碑」「港町恋人スクエア」「出港準備岸壁」「海の道」などがある。」 震災の後、一基だけ残っている神明崎の小高い境内にある「五十鈴神社と猪狩神社」の解説板には、その場所にまつわ . . . 本文を読む

波止場のエディ 気仙沼2005 Ⅵ 笑う魚

2021-03-04 21:12:44 | 波止場のエディ
 波止場では、時おり、不思議なものに出合う。岸壁から、ふと海面を見下ろすと、大きなスズキが一匹、悠々と泳いでいる。じっと、その様子を窺っていると、ふっと、振り返り、ニヤリとわらう。「魚が笑ったっていうの?冗談でしょ!」 「いや、エリカ、その魚は、本当に笑った。俺は、嘘はつかない。嘘と下卑た冗談は、趣味じゃない。」 「洒落たジョークは別、でしょ。」 「洒落た洒落、じゃ、洒落にならない。」 「で、その . . . 本文を読む

波止場のエディ 気仙沼2005 Ⅴ 岸壁のポケットパーク

2021-03-03 20:50:12 | 波止場のエディ
 気仙沼では、山に木を植える人々がいる。山に木を植える漁師たちがいる。 「森は海を海は森を恋いながら悠久の愛紡ぎゆく」と歌った歌人もいる。 そして、内湾に面した岸壁の遊歩道のベンチを置いた一角の、車道との間の打ち捨てられた花壇に、どうだんつつじを植える若者たちがいる。 「ポケットパークが、緑に囲まれて生き返ったようだ、というひともいる。連休の間は好天続きで、まだ、根を張り切れない樹木は、喉がカラカ . . . 本文を読む

波止場のエディ 気仙沼2005 Ⅳ レストラン・エースポート

2021-03-02 21:20:33 | 波止場のエディ
 内湾を見下ろす、旅客船ターミナル3階のレストラン・エースポート。対岸に浮見堂の朱の色が浮かび上がり、海面に光の線が映る。 松の実とバジリコのパスタ、ゴルゴンゾーラの薄いピザ、キャンティの赤、ドルチェは、不整形なティラミス。 「このあたりの街割りは、不整形な四辺形で、昭和の初めの大火のあと、その不整形な敷地に合わせて短い期間に建て替えられた特徴ある建物が続いているんだそうだ。つい最近まで、まちのひ . . . 本文を読む

波止場のエディ 気仙沼2005 Ⅲ 浮見堂の夜(続)

2021-03-01 22:54:34 | 波止場のエディ
 「エディ、ここの灯りはまぶしすぎるわ。」 神明崎浮見堂の欄干に身をもたせ、エリカは、傍らのエディにささやく。 トレンチコートの襟を立てて、エリカの肩を抱き寄せ、「ああ、もう少し柔らかな光が、俺たちには似合う。大人の恋には、明るすぎる光はかえって邪魔だ。」 対岸の岬のうえのプラザホテルのコンベンションホールは、ガラスの壁面から、にぎやかなパーティーの灯りがあたりを照らし出す。大勢の着飾った婦人たち . . . 本文を読む

波止場のエディ 気仙沼2005 Ⅱ 浮見堂の夜

2021-02-28 22:45:47 | 波止場のエディ
 気仙沼の内湾、神明崎の先に浮かぶ朱塗りの浮見堂は、十数基の明るい灯具に照らし出され、さまざまな広葉樹や石灰岩の岩肌の暗い背景の上に浮かび上がる。「神明崎は、全体が石灰岩の岩礁で、中には、深い鍾乳洞が走っている。今は、コンクリートの岸壁と道路に塞がれて水たまりのような管弦窟も、実は鍾乳洞で、もとは、波の音が反響し、妙なる調べを奏でていた。奥には、弁天様と地蔵像が安置されている。」「エディ、弁天様と . . . 本文を読む

波止場のエディⅠ 気仙沼2005

2021-02-27 21:38:26 | 波止場のエディ
 波というほどの動きもない穏やかな水面に、赤やオレンジや少しばかりの青の光が映っている。 リアス式海岸の奥深い湾入の奥の奥、うらぶれた旧市街に囲まれた内湾の、湾口の島へ向かう航路の船着場に、トレンチコートの襟を立てた一人の男がたたずむ。 「エディ、あなたは、いつもそうね…やさしいけど、冷たい。わたしの気持ちなんてわかろうともしない。」 港にほど近い、ショット・バーのカウンターに先ほど . . . 本文を読む

連載小説 波止場のエディ 気仙沼2005 予告編

2021-02-26 23:37:30 | 波止場のエディ
 保存の日付は2005年になっている。書いたのは多分、そのもう少し前。もちろん震災前である。当時、夢波止場実行委員会なる団体があって、ボスは加藤英一、気仙沼湾観光協会宣伝事業部会の別働隊であったといっていい。そこで作ったポスターの原案のひとつが見出しの画像。同じフォルダの中に保存してあった。今回、加藤英一氏の了解を得て掲載した。 で、「波止場のエディ」であるが、当時、市、商工会議所、観光協会などで . . . 本文を読む