ぼくは行かない どこへも
ボヘミアンのようには…
気仙沼在住の千田基嗣の詩とエッセイ、読書の記録を随時掲載します。

ミルキイウェイにぶら下がって

2022-01-02 22:36:54 | 月刊ココア共和国 投稿詩
ミルキイウェイにぶら下がって流れ去る星の煌めきを眺める鵲の橋を渡る年に一度の逢瀬を想ってため息をつく牽牛織女の恋ほとんど引き裂かれた恋ほとんど終わった恋の物語永遠に終わることのない終わった恋の物語肉体を失った感情も失った視線だけを残した見上げる夜空の向こうに輝く無数の星のはてに熱を失った漆黒の空漠が拡がるミルキイウェイにぶら下がって虚空のブランコに乗って年に一度の逢瀬を息を殺して待つ私は待つもの私 . . . 本文を読む

後ろめたい

2021-11-25 12:46:22 | 月刊ココア共和国 投稿詩
後ろめたい死ななかった者はすべて後ろめたい断水や停電しなかった家の者は断水や停電した家のひとに後ろめたい断水や停電した家の者は浸水した家のひとに対して後ろめたい浸水した家の者は家が流されたひとに対して後ろめたい家が流された者は妻や子を亡くしたひとに対して後ろめたい妻や子を亡くした者は妻や子に後ろめたい仕事を失った者も家族を亡くしたひとに後ろめたい被災地にいながら生き延びた者はすべて生き延びたことを . . . 本文を読む

想い出

2021-11-02 22:07:22 | 月刊ココア共和国 投稿詩
冷酷なことも残酷なことも非道なことも悲しいことも淋しすぎることも泣きたくなるようなこともすべて透明に美しくなるいつのまにか透明になる内実が脱け落ちて形相だけ残ってものをつかんだり食べたり爪が髪の毛が伸びたり足あとをつけたりそんなことはもう決してできない可愛らしい笑顔とか見つめている視線とかそう噛むことはできなくても見つめることだけはできる純粋な重力として遠い記憶の中でぼくを見つめている※月刊ココア . . . 本文を読む

男として

2021-09-29 16:41:55 | 月刊ココア共和国 投稿詩
人間の男として女を愛する女がかつてこう語った「わたしたちは 墜ちたまま それしかほかに 知らない仕方でむさぼりあった シイツの草叢で 祖先たちの墓の上で」(新川和江 「地上の愛 より」第三連)今男として女を愛することを語り直すおれたちは天上に昇ったり地獄に堕ちたりを繰り返しながらむさぼりあった正しいことと誤ちと多様な方法を試みて愛し合ったシイツを皺寄せながらフランスの歴史を辿りながらロシアの大地に . . . 本文を読む

1メートルの沈下

2021-07-28 22:08:06 | 月刊ココア共和国 投稿詩
土を盛る華やかにデコレートする土色の土を盛るアスファルトで塗りたくる全般に沈下しているから少しばかり一部を盛っても追いつかないお目々ぱっちりまつげどっきりくちもとげんなり夜暗いときにクルマで通ると目測の助けになるものがひとつもないのでつい踏み外しそうになるような気がして怖い街路灯がない不要な交差点に信号機はぴっかり盛ったところはそこだけ高いそこだけ華やかそこだけぱっちりあとは暗闇高潮のあとそのまま . . . 本文を読む

色々な空 2021

2021-05-24 22:27:00 | 月刊ココア共和国 投稿詩
青い空空っぽの空充満した空鉛色の空喜びが翔ける空悲しみが舞う空苦しみが覆う空気晴らしが墜ちる空いずれにしろ空は広い空漠と広い蒼や朱や濃紺の色あいで虚空は果てが無い自由と放縦重圧と飛翔闘争と逃走 . . . 本文を読む

地球は発熱している

2021-03-22 21:00:19 | 月刊ココア共和国 投稿詩
地球は発熱している資源が活用され採取され採掘され開発され搾取され生産され消費され激しく踊り続け排出され廃棄され酷使され蝕まれ平熱を超えて放っておけば病原体をまき散らし死に至る病となって不可逆の閾を超えて瀕死の白く美しい鷺のように横たわり息絶える . . . 本文を読む

一冊の本を

2021-02-19 21:48:41 | 月刊ココア共和国 投稿詩
一冊の本を書きたい私の書き紡ぐ言葉で世界の不思議を説き明かし人間の未来を指し示すそんな本を書きたいその一冊で歴史を変えてしまうそんな本を書いてみたい聖書だとか資本論だとかいやもっと見果てぬ夢である美しい一冊の本ほんとうのことだけが記された絶対零度の本決して開かれることのない一冊の本 . . . 本文を読む

紅葉

2021-01-24 12:30:26 | 月刊ココア共和国 投稿詩
死ぬべきものつるべ落としに落ちる秋の陽の光を浴びて影を宿し赤く燃える乾いた有機物落ちるべきもの朽ち果てるもの朽ち果てて黄泉返るものヴィオロンの音色が時雨のようにふり落ちていくかのようにピストルの発射音が谷間の冷気を切り裂いていくかのように〈とうとう〉とも言わず見つけ損ねた波浪の彼方の永遠まで常立の綿津見のくにまで海洋神のくにまで水底の竜宮城まで朱々と燃える西方からの浄らかな陽射しを受けて西北の山脈 . . . 本文を読む

ジョン・レノンが死んで

2020-12-18 21:56:59 | 月刊ココア共和国 投稿詩
ジョン・レノンが死んで四十年経つそうだ四十歳で撃たれて四十年私は六十歳を超えたそうだ六十四歳だジョン・レノンが平和を我らに(give peace a chance)と歌ってヴェトナム戦争は終わったかもしれないが中近東にも中央アジアにも南米にもアフリカにも戦闘状態は続いているジョン・レノンが革命(revolution)と歌っても愛と平和(love & peace)を唱えても地球のどこかで今も . . . 本文を読む

大きな心

2020-11-25 20:41:02 | 月刊ココア共和国 投稿詩
ミラーボールの輝く暗闇黒い天使がひそむ垂れ幕の影通りすがりにほのかな生き物の香りを投げかけてその大きな心で僕たちを包むダンスホールの大きなフロア仮面をつけた黒い口唇の女選好するかすかな生き物の匂いを投げかけて膨張する震える心で僕たちを包み込む白い魔法と黒い魔法天使と堕天使の永遠の物語腕の中にすっぽりと納まる肉体の小ささでその大きな心で深い愛を交わす甘い蜜の味快楽のハーモニー天使と堕天使の不朽のダン . . . 本文を読む

狐の嫁入り 月刊ココア共和国 10月号電子版掲載詩

2020-09-29 19:09:34 | 月刊ココア共和国 投稿詩
開港地の暗闇の斜面の細い坂道を行列が登っていく先頭の羽織袴の男が薄明るい提灯を下げてうつむいてだらだらと行列が続き白無垢の花嫁衣裳の花嫁が角隠し面を伏せて楚々と向かう開け放たれた屋敷へ周旋屋の誂えたほの暗い座敷へ行きは好い佳い帰りは怖い晴れた日に汽船の行き交う港を見下ろして軍船の帰港を寄港を待ちわびてもののふの道は死ぬことと心得て白無垢の花嫁衣裳の花嫁が角隠し耳隠し鼻隠し尖った口隠しひげ隠し尻尾を . . . 本文を読む

戴冠式   

2020-09-29 15:45:41 | 月刊ココア共和国 投稿詩
太陽の王冠を外して仮面舞踏会のマスクを脱ぎ捨てて真実を撒き散らし生身の人間として中央に屹立つ言葉には依らず一度咳払いをして意図の存在を知らしめ影響はその都度3メートル四方に及びステップを踏みジャンプを跳ぶたびに移動し進行し痕跡を残し影響を拡げ流行を支配するしかしマスクの下には白塗りの顔真っ赤なまん丸い華笑われて笑われて笑われて素顔はどこにもない涙が一粒描かれて流れない涙乾いた涙乾涸びた涙固定された . . . 本文を読む

雨 月刊ココア共和国 9月号電子版掲載詩

2020-08-21 17:55:28 | 月刊ココア共和国 投稿詩
一瞬冷たい西風が吹いて柔らかな女神が降臨する無数の女神が行列をなして天空から斜め下に滑り落ちるそれぞれの地上の女神を見つけて黒い髪を濡らす赤い唇を濡らす青いドレスを濡らす青いドレスを濡らして沁みとおった肩を濡らす大理石の白い肌を濡らす陸前リアス式海岸の大理石の岸辺の波の雫と見分けのつかない雨の雫があの場所を濡らす暖かい雨が入り江の最奥部のあの場所を濡らす沁みとおってあからさまな視線を受け止めてあの . . . 本文を読む