夏の終わりに訪れて以来
小樽と函館のことを書くつもりでいた
大きなテーマを真正面からはなかなか書けない
具体的な細部を切り取らなくてはならない
その水は濁っている
細い透明なビニールパイプから気泡が吹き込まれ水面に同心円が拡散していく
循環することが水を浄化するという
運河は
小樽のまちの昔の栄光の象徴だ
過去だから美しい
石造の倉庫たちは本来の . . . 本文を読む
新宿から小田急線のロマンスカー朝一番片瀬江ノ島行きひとり降りて
波という名の裸像寝そべる短い橋を渡り
マクドナルドのモーニング・ソーセージマフィンセット390円食べる
マッシュポテトのフライと薄いコーヒー
髪の長い女と小太りの若い男が並んで座って夜が明けたような顔している
江ノ島が砂州のうえの自動車橋と歩道橋の向こうに見える
気仙沼は遠い
黒いカバンが重い
砂浜に
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1284年6月26日
ドイツの都市にキッチュなファッションの放浪のミュージシャンが現れ130人の子供たちを惑わして連れ去った
子供たちはミュージシャンの笛の音に恍惚して行列のまま天国か地獄まで歩いて行ったともいうあるいは都市から十数キロメートルの沼地で遭難したともいうついに都市には戻らなかった
1284年のドイツの笛からどんな音色でどんなメロディが流れたのか
20世紀のデカ . . . 本文を読む
「君主論」を読んでみたいと思っている
塩野七生にのせられて
マキャベッリはルネサンス都市国家の官僚だった
ワークハード&ビーハッピイというふうなモーレツ公務員だった
しかし出世の見込みはほとんどなかった
若くして政変にまき込まれ小さな領地に引っ込んで古典と対話し自らも古典を著した
太陽王ルイやヒットラーになるためのハウツーものではないらしい
塩野さんにのせられてマキャ . . . 本文を読む
いろんなことを
解決すべき問題として
体のまわりにひっかけておくこと
しかしそれらは常にひとつひとつ解決され
また
新たなものが問題とされ
というふうに
動いているものであること
そんな具合に
ぼくの仕事机のうえは
いつも乱雑だ
詩集湾Ⅱ 第Ⅴ章 何処へ… より
2015年の注:最近、机のうえは以前よりは片付いて . . . 本文を読む
六月の晴れた午前
陽のあたる廊下の開け放たれたカーテンのかげにもぞもぞと動くものがある
― ねえ、××、どこに行ったの?いないわねえ どこに行っちゃったのかしら?
ママがパパに目くばせして廊下の隅を指さす
― おや、ほんとだ どこに行っちゃったんだろう?
晴れわたった六月の空
気持ちのいい風がガラス . . . 本文を読む
冷たく澄んだ星空に
オルゴオルが鳴響く
明日もまた幸せな日がやってくるよう
火のもとに気をつけておやすみなさい
女のこえはしとやかに
太郎の屋根と
次郎の屋根と
そのしたのだんらんに
語りかけ時を知らせ
ひと部屋の灯を豆電球の薄明りに変え
にぎやかな笑いを健やかな寝息に変え
今日このごろは
我が家の太郎も寝どこのなか
何ごと . . . 本文を読む
かはたれどき
ややもやがかかって
高台のわたくしたちの家
縁側にわたくしたちが並んで立って
国道沿いにならび それに交差してならび あるいは無造作に点在する街灯が
まだまぶしい時刻
川面に
やや明らむ空が映り
妻問婚の時代であれば
後朝(きぬぎぬ)の別れの刻か
数か月前のわたくしも
あの川沿いの道を急いでいた
. . . 本文を読む
女が寝ている着衣の女がタオルをかぶって ベージュの靴下はくるぶしをやっと隠す短さダブダブの黒いニットパンツにグレーのⅤネックTシャツで髪はショート 街の路地の白い壁の「唇」ヘアスタジオで切ってきたばかり 女が寝ているカシミール産の丸い絨緞のうえに 街の輸入雑貨やで買ったんダーナ 唇を無防備にわずか開き両手を顔の両脇に小さくあげ脚をくの字に曲げて&n . . . 本文を読む
愛しあってるかい?
求めあってるかい?
生活しているかい?
ぼくが背負うモノ
あなたが背負うモノ
ぼくたちが担うモノ
悪魔が笑う夜
愛するモノたちが沈黙し
愛の形式をなぞるのをやめ
ぼくがテレビを眺め
あなたは台所に立ち
ピンクの細かな花柄エプロンの背中の結び目に目をやるとそれはいつものように結んであるがあなたはこちらをふりむかず
  . . . 本文を読む
おはよう
おいしいものたち
今日も一日よろしく
温めたミルクにソーセージ入りのパン
おはよう
おいしいものたち
冷たい空気
明るい朝の光
玄関にさしこまれた新聞
寝床から呼びかけるおまえの声
詩集湾Ⅱ 第Ⅳ章幻想旅行 より
2015年の注;これは特段の注記なし、だな。 . . . 本文を読む
ねえ
ぼくはまだ寝ている
休日・朝
半分開けたドアの向こう(左手にステレオのスピーカ)
六畳と食堂=台所を仕切る開ききらない硝子戸の向こう(テーブルと椅子・食器棚)
食堂と洗面所をへだてるはずだが全開の引き戸の向こうに(洗たく機)
明るい朝の陽光をうける曇硝子の窓があって
そのなかであなたが歯をみがいている
まだパジャマのまま
ふちどりが ほら 光っているまっ白なシルエットになっ . . . 本文を読む
ぼくは真摯な若者だった
臆病な青年だった
妻よ、ぼくはあなたを愛する
美しい妻よ、あなたはぼくに世界を与えた
かって、ぼくの手は世界に届かなかった
ぼくの見た世界はぼくののばした手のずっと向こうにあるか、あるいは、だらしなくおとした手の中にあった
ここかあるいはあそこか
それらふたつの世界は決してふれあうことがなかった
永遠の(とおもわれた)悲しいす . . . 本文を読む
ポスターなんかで見るとおり
樹頂からまん丸く放射状に葉を茂らせたヤシの木を背景にして
雲のない空の下
珊瑚礁の海岸近くのホテル
まっ青なプール
(空色のペンキで底を塗っているのだ)
水の中のコンクリートの椅子に腰かけるとそこがプール・バー
雲のない空の下
ビンタンという名のビールを飲み
インドネシアタバコのグァラムを喫う
(丁子入り 喫い口ヴァニ . . . 本文を読む
ぼくらは
あたかも舞台の真ん中
天井からのダウンライト浴びて
見つめあう
あなたはすわり
ぼくは左手に頭をのせて横たわり
ひとびとはぼくらを離れ暗闇のなかでささやきあい
白い蒸留酒と黄金色の醸造酒が注がれ
*
道化ひとり舞台そでのライトの中にすすみ出て口上を述べる
― 私はとある既婚者です。名前をウサギのしっぽと申します。
さて、私、あ . . . 本文を読む