ぼくは行かない どこへも
ボヘミアンのようには…
気仙沼在住の千田基嗣の詩とエッセイ、読書の記録を随時掲載します。

偽説 鼎の浦嶋の子伝説 (再掲)

2019-04-03 09:13:30 | 小説
※これは、1999年の気仙沼演劇塾うを座立ち上げの頃に、風土記(奈良時代の)や、大島村長村上氏らの作った乙姫窟の伝説などを踏まえ書いたもの。2010年に、いちど掲載しているが、3回に分けて上げていたので、今回、改めて、一括でまとめてアップすることにした。気仙沼大島大橋(愛称:鶴亀大橋)が間もなく開通するタイミングでもある。    陸の国、気仙沼の郷は緑なす山地に入り江深く風光明媚を世 . . . 本文を読む

小説 花束を

2017-01-03 09:36:02 | 小説
花束を    誕生日のプレゼントは何がいいか、彼が問いかけると、そうね、とサキは言った。  何か美味しいものが食べたいわね。  これを翻訳すると、こうなる。  そうだね。なにが美味しいもの食べだいね。  私が、たとえば…とさらに問いかけると  そうだね、なにかこじゃれたイタリアンどかね。  イタリアンが…(この「が」は、鼻濁音ではなくて濁音。共 . . . 本文を読む

共同体とは その3

2016-06-08 23:59:13 | 小説
 内湾を見おろすヒルトップ・カフェの窓際に座った若い男と女は、コーヒーカップに手を触れながら、着岸しようとするカーフェリーの滑るような動きに目をとめている。  カウンターの川下は、そちらを見ないようにして、隣の山向に問いかける。 ――あの二人は、結婚しようとかしないとか言ってるんでしょうかね。 ――さあな、分からないな。 ――男の両親と一緒に住むとか住まないとか。 ――さあな、どうだろう . . . 本文を読む

共同体とは2

2016-06-07 22:43:07 | 小説
 そのとき、ヒルトップ・カフェには、ふたりの来客があった。  カウンターに並んで、コーヒーカップを前にして、手持ち無沙汰の体で、若い方の男がおもむろに口を開く。 ――山向さん、共同体ってなんでしょう? ――川下さん、いったいどうしたんだい、突然、共同体だなんて? ――いや、いま、本を読んでるんですけど、どうなんだろう、共同体とは悪なのか、共同体とは極楽浄土なのか。 ――ほう、また、極端だ . . . 本文を読む

共同体とは

2016-06-06 00:10:34 | 小説
 ヒルトップカフェの昼下がりは、賑やかな日もあれば、静謐な日もある。  この日は、若い男がひとり、カウンターに座っている。淹れたばかりのコーヒーが、男の目の前に置かれる。 ――ねえ、共同体って何ですか?何のことなんですか? ――何かが複数集まっていること、その集まり。グループ。コミュニティ。 ――まあ、そりゃそうでしょう。 ――ヨーロッパ共同体、頭文字でECというのがある。昔は、EECヨ . . . 本文を読む

とりあえずの書き出し

2016-06-03 00:04:19 | 小説
 カフェ、だととりあえずは言っておこう。名前は何でもいい。ああ、そうだ、ヒルトップ・カフェ、丘の上の珈琲店、とでも名付けようか。  小さな入り江を見下ろす小高い丘の上の小さな木造建築、というよりも、平屋の民家に少し手を加えて、方丈とか、庵とか、四阿とまで言っては言い過ぎとなるが、粗末な、しかし、どこか瀟洒な、こ洒落れたというには深く落ち着いた色合いともなる。  港を眺めながら坂道をのぼって辿り . . . 本文を読む

代官山でパンケーキ

2013-11-05 01:14:53 | 小説
 代官山で、朝食にパンケーキを食べるなどという、きょうび典型的な振る舞いをしてしまって楽しかった。  朝、ホテルの中とか、近くのチェーン店のカフェで、というのはパスして、代官山に行くつもりだったので、朝食は行ってから何か食べようと、渋谷から東横線に乗り換えて、代官山の駅に降りた。何十年振りかで来たが、相変わらず小さな駅だ。  駅降りてすぐの、明るいパステルの色使いのカフェが、9時にもならないと . . . 本文を読む

小説 スルドⅡ 薪窯のピザ

2012-11-21 00:10:13 | 小説
 サンバの集団は、テントの間の細い通路を抜けて、芝生の中にしつらえた仮設の舞台の前に進み、ひときわ賑やかに打楽器の音を打ち鳴らす。光る素材の生地で作った衣装をまとった男女の踊り手たちは、楽手たちの前に展開する。一方、サンバらしい、大きな天使の羽をつけた小さなコステュームの踊り手たちは、舞台下の楽手たちに守られるかのように、その背面の舞台の上に進み、ハイヒールの靴のまま、激しい踊りを踊る。  躍動 . . . 本文を読む

小説 スルド

2012-11-12 17:04:57 | 小説
 東京駅で新幹線から中央線に乗り換えて、武蔵境の駅へ向かう。 「大宮で降りて、埼京線で新宿に出た方が早いらしいけどね。」 「うん、でも…」 「乗り換えが2回になるしな。」  丸の内口側の中央線ホームへの長いエスカレータに乗る。 「丸の内口のドームは、また後にしよう。」  妻は、もちろんというように、うなづく。  休日の昼間で込み合っておらず、中央線の快速は座ることができた。 「中央線乗れたってメー . . . 本文を読む