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気仙沼在住の千田基嗣の詩とエッセイ、読書の記録を随時掲載します。

自治体学2023.3 vol.36-2 自治体学会誌 追悼西尾勝先生・新藤宗幸先生

2023-05-04 13:40:27 | エッセイ
 特集は自治・分権の志―追悼西尾勝先生・新藤宗幸先生―と題される。
 自治体学会副理事長をお引き受けいただいた青山崇氏の巻頭メッセージでも、

「学会設立に尽力された松下圭一先生、田村明先生が亡くなられ、昨年は西尾勝先生、新藤宗幸先生が亡くなられました。」

と記される。「自治・分権の志」という特集名と、この人名を並べるだけで、その精髄は明らかである、と言って、あえてこの紹介は語り始めずともいいのかもしれない。
 しかし、特集冒頭の座談会は、大森彌中川幾朗今井照の三氏である。
 ここまで人名の上がった7名の方々は、私自身自治体学会のメンバーであって、それぞれ頻度の違いはあれ、謦咳に接し著作に学んだ方々であり、思い出も語るべき方々であるが、ここでは詳細には触れない。大森先生の発言中に、自治体学会の多くの先輩方の人名も登場し、その方々についても語りたいところではあるが、それも割愛する。
 大森先生は、こう語る。

「まず新藤さんですが、実は料理がお得意で朝食は彼が作っていたそうです。地元のPTA会長もやっていますね。生活人としても先頭を切っていたような人だったのではないでしょうか。私は千葉大学を2005年に退職しましたが、その後任として新藤さんをお呼びしています。教授会の投票の前に私が新藤さんを推薦する演説をしたのですが、表決では満票だったんですよ。そのことを新藤さんに話したら、新藤さん、ムッとした顔して、「どうして満票になるの。反対票がないといけないじゃないの」とおっしゃったんです。」(6ページ)

西尾さんは、…最も大きかったのは地方分権推進委員会への参加でした。」(6ページ)

さらに、

「西尾さんの著書『行政学の基礎概念』は多くの行政学者が引用することになった業績ですよね。」(7ページ)

 私も、東京大学出版会のこの本と、『行政学』(有斐閣)は、基本的な文献として勉強させていただいた。

「僕らは会合で集まると大体飲みに行きました。あの二人はヘビースモーカで、日本酒が好きでした。よく一緒に飲みに行って、いろいろなことを語らい…ました。」(6ページ)

 中川先生は、新藤先生と同年齢とのことであるが、

新藤先生のお書きになった本、発言の分量…そのテーマが時代にきちっと合っている、時代と常に闘っておられた方だと、敬服しています。」(7ページ)

 今井先生の発言から、

「私はやはり、西尾先生の業績としては地方分権推進委員会での6年間の活動を挙げたいとと思います。2000年分権改革は西尾先生なしには成立しませんでした。西尾先生は、研究者としての考え方をはっきり持っていらっしゃると同時に、官僚機構を相手にそれを実現する能力をお持ちでした。」(8ページ)

「あの90年代後半の分権改革については、いま色々批判する人もいますが、時代を共有していた我々にとってみれば絶対的に支持するべき活動でした。」(8ページ)

 今井先生のおっしゃる「我々」は、もちろん、私も含むものである。
 座談会に続いては、土山希美枝法政大学教授による「〈自治・分権〉を切り拓くもの 新藤宗幸氏、西尾勝氏と自治体」。土山先生のフェイスブック等で明かされるお茶目な人柄について紹介したい思いはあるが、ここでは自制しておく。

新藤宗幸氏は、中央政府のとりわけその権威の発露に厳しい視線と鋭い批判を展開してきた。
 西尾勝氏は、2000年地方分権改革の文字通りキーパーソンとして、中央政府と自治体のあいだにある制度の前提と設計を大きく変えた。」(13ページ)

「2022年の新藤氏、西尾氏、そしてその7年前の松下氏のご逝去は、私たちに、自治と自治体にとってまさに「巨星」であった存在が失われたという気持ちを起こさせる。それでも、市民自治を起点に〈自治・分権〉の実現を目指していくことに価値があると思うのであれば、「小さな私たち」だからこそ、それぞれがめざす調整、模索、提起、抵抗、格闘というさまざまなかたちでの「たたかい」をそれぞれの現場ですすめ、そのそれぞれの、現状にたいする抵抗の連帯によって「小ささ」を克服していくしかない。私たちは〈自治・分権〉を切り拓くためにたたかっているか。それが問われている。」(13ページ)

 私も市役所を退職してはや6年を経過しているが、死ぬまで、ある自治体に住まう市民であることに変わりはない。「〈自治・分権〉を切り拓くためにたたかっているか」、この問いはつねに突きつけられているものだ。
 次の「西尾勝先生と自治・分権の志」を寄稿される石井隆一富山大学名誉教授、全富山県知事は、地方分権推進委員会事務局次長を務めた方とのことである。当時の現場での、西尾先生の奮闘を記す貴重な証言である。

西尾先生は…細川護熙内閣、村山内閣などの連立政権の登場といった、中央政治に大きな変動が起きているこの「時」、分権委員会というこの「場」、「機会」を逃したら、「分権改革は当分できない」、「今やるしかない」という「強い使命感」と「志」及び、改革のために、分権の筋道を通しながらも、政界や官界の方々との折衝やギリギリの調整の場に臨むことを厭わない「凛とした強いご覚悟」を持っておられたと思います。」(15ページ)

 さらに掲載の追悼、論考を紹介すべきところであるが、東北自治体学会関係のことに絞っておく。坪井ゆずる朝日新聞論説委員(元仙台総局長であった)が「分権改革の再起動をめざしつつ」という追悼メッセージ、渡部朋宏氏(福島県会津美里町職員)が「2012年9月に宮城県東北自治総合センターで開催された「西尾勝巡回10時間集中セミナー」に触れて」、「地方分権改革の意義と自治体の現状」について論考、また特集とは別枠であるが、「福島原発被災地を歩く聞く語り合う」を、東北自治体学会として、会津美里町職員の菅原佑貴氏が、執筆なさっている。

 ところで、新入会員紹介で島根県立大学地域政策学部準教授の田中輝美さんが「人口希少時代の地域再生」を寄稿なさっている。ローカルジャーナリストを標榜し、私の図書館時代にお世話になった方である。またお会いできる機会があれば有り難い。

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新藤宗幸 教育委員会―何が問題か 岩波新書

地方自治に関わる2題 河北新報2021/10/08の記事

(西尾勝「自治・分権再考ー地方自治を志す人たちへ」ぎょうせい)



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