で、ロードショーでは、どうでしょう? 第1292回。
「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」
『きみへの距離、1万キロ』
遠隔操作の小さなロボットで、北アフリカの砂漠の少女と一万キロ離れたアメリカのデトロイトで働く青年が知り合う異色のドラマ。
主演は、『シークレット・アイズ』、『グリーンルーム』のジョー・コールとフランス出身のリナ・エル・アラビ。
監督と脚本は、『魔女と呼ばれた少女』、『ホワイト・ラバーズ』のキム・グエン。
物語。
現代、地球。
北アフリカの砂漠地帯にある石油パイプラインの回りに数十台の小さなクモ型ロボットがいる。
それは、1万キロ離れたアメリカ・デトロイトから遠隔操作する遠隔警備会社のロボットで、青年ゴードンはそのオペレーター。夜勤の彼は、デトロイトは夜、北アフリカは昼間の奇妙な逆転生活を送っていた。
彼は昨夜、最愛の彼女から別れを告げられ、傷心のまま、今日も仕事にやってくる。
上司のピーターは、彼を慰めるために、彼を出会い系アプリに登録してしまう。
ある日、彼はパイプラインから見える道をアユーシャという若い女性がバイクで移動しているのを見つける。
出演。
ジョー・コールが、ゴードン。
リナ・エル・アラビが、アユーシャ。
ファイサル・ジグラが、カリム。
ブエント・スカグフォードが、上司のピーター。
ハティム・セディキが、リダ。
マンスール・バドリが、バッサム。
ムハンマド・サヒーが、杖をついた盲目の老人。
スタッフ。
製作は、ピエール・エヴァン。
撮影は、クリストフ・コレット。
プロダクションデザインは、エマニュエル・フレシェット。
衣装デザインは、ヴァレリー・ベレグー。
編集は、リチャード・コモー。
音楽は、ティンバー・ティンブル。
現代地球、アメリカの遠隔警備の青年とアフリカの伝統に悩む少女がロボット越しに出会うドラマ。
現代おとぎ話。もはやスマホがSFではないように、遠隔操作技術もロボットもSFではない。
抒情寄りな語りはこの題材ゆえに好みが分かれるか。その温さこそが魅力ではある。
映画的寓意の入れ方が巧み。ご都合はパイプに情が流れているから目をつぶれる。ラブスト-リーと見がりな目こそ疑え。コミュニケーションドラマであり、信じられるものについての寓話に見えた。
ロボットのぎこちない足音に意思を見出す熱作。
おまけ。
原題は、『EYE ON JULIET』。
『ジュリエットを見つめて』。
『ロミオとジュリエット』と『シラノ・ド・ベルジュラック』が加わった感じですね。
上映時間は、91分。
製作国は、カナダ。
映倫は、G。
キャッチコピーは、「それは、遠隔操作な片想い」。
内容も伝えてて、シャープでなかなかよいです。
ドローン題材の映画はまだ数が少ないながらも秀作揃いで、中でも『ドローン・オブ・ウォー』、『アイ・イン・ザ・スカイ』がオススメ。
この作品自体が『ドローン・オブ・ウォー』のロマンティック版とさえ言える。
ややネタバレ。
たまたま『心と体と』と続けて見たら、こちらも心と体のズレについての物語で、このリンクに思い深まり。
ネタバレ。
最後の展開や途中の恋人の死などをご都合ととらえる人もいるかと思う。実際、そう見える。だが、越えられない現実に対して、せめて、ラブストーリーの夢としての甘みはあえてのものだろう。現実ならこうだよねという諦観やつつましやかさ、苦味よりも、楽観やロマンチシズム、乱準じゃない生き残るための愛を堂々と描くことの度胸として見るべきだろう。自分の眼鏡が汚れていないか、一度、外して確かめよ。
アユーシャが抱えた困難、恋人カリムの死、家族との別れる孤独、難民となる社会的かつ物理的な恐怖を越えさせるために、たとえ、ストーカー的であっても無償の愛の存在、信じられる目的としての、実際に会う約束を交わしたのだ。
難民問題をもはや常識的知識として省いているのだ。実際、簡単に死んでいるのだ。若い女性が一人で、自由を勝ちとるたびに出る困難にエネルギーを与えるのが口約束という最もはかない情報のやり取りであるという点を思おう。
『裸足の季節』を思い出した。