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菱沼康介の、丸い卵も切りよで四角。

日々の悶々を、はらはらほろほろ。

童の夢。 『イノセンツ』

2023年08月02日 09時00分03秒 | 映画(公開映画)

で、ロードショーでは、どうでしょう? 第2281回。


「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」

 

 

 

 


『イノセンツ』

 

 

 

夏休みの団地で子どもらがささやかな超能力で遊び始めるサイキック・サスペンス・ホラー。

 

監督・脚本は、エスキル・フォクト。
ヨアキム・トリアー監督の『テルマ』、『わたしは最悪。』、『母の肖像』の共同脚本で注目されたノルウェーの鬼才で、今作は『ブラインド 視線のエロス』に続く長編監督2作目。

 

 

 

物語。

現代ノルウェー。
郊外の団地に引っ越してきた9歳の少女イーダは、両親が自閉症で口のきけない姉のアナばかり気にしていると不満を募らせていた。
イーダが夏休みで、誰とも知り合えず、遊べず、アナの面倒を見ていると、ベンという少年が「いいものを見せてあげる」と言うので森へついていく。
一人になったアナは、不思議な少女アイシャと仲良くなる。
アイシャといるとアナにある変化が訪れる。

 

 

 

出演。

ラーケル・レノーラ・ピーターセン・フレットゥム (イーダ/アナの妹)
アルヴァ・ブリンスモ・ラームスタ (アナ/イーダの姉)
サム・アシュラフ (ベン/ベンジャミン)
ミナ・ヤスミン・ブレムセット・アシェイム (アイシャ)

エレン・ドリト・ピーターセン (アンリエッタ/イーダとアナの母)
モーテン・シュヴァルトヴェイト (ニルス/イーダトアナの父)

カドラ・ユスフ (アイシャの母)
リサ・トン (ベンの母)

ノル・エリック・ヴァーグランド・トルガーセン (14歳のいじめっ子)
マリウス・コルベンストヴェット (石を持たされた男)
キム・アトル・ハンセン (玄関先の男)
イリーナ・エイズヴォルド・トイエン (医師)

 

 

スタッフ。

製作:マリア・エケルホフド
製作総指揮:アクセル・ヘルゲランド、セリーヌ・ドルニエ、デイヴ・ビショップ

撮影:シュトゥルラ・ブラント・グロヴレン
音楽:ペッシ・レヴァント

 

 

『イノセンツ』を鑑賞。
現代ノルウェー、夏休みの団地で子らがささやかな超能力で遊び始めるサイキック・サスペンス・ホラー。
北欧のバカンスの間に、まだ団地にいる、それだけであることを伝えている。そう、それはその家庭は何か事情(貧困など)を抱えているのがわかる。その子供らが出会う。まるで鬱屈を心のメタファーのように超能力を持ち始めた子供らが。
そして、予測通り、超能力は悪い方向に行き、それによって変わっていく日常をどう取り戻すか。
いっちゃえば、幼い版『クロニクル』なのだが、あのアメリカンなポップさではなく、北欧の冷たい手触りでにじりよってくる。
監督・脚本は、エスキル・フォクト。カンヌ受賞作『わたしは最悪。』の共同脚本で注目されたノルウェーの鬼才。あれは関係性がこまやかだったけど今作もそれにより強烈なフィクションにリアリティを与えている。映像で語る日常描写と子供のその世界しかない狭さ。アートホラーとして淡々と進みながら、じょじょにじょじょに蝕んでくる。このじわりに波長が合うと画面に飲み込まれていきます。(『AKIRA』の実写化、彼の監督で見てみたい)
今作、大友克洋の傑作『童夢』からインスパイアされたそうで。この雰囲気の再現は完全に実写化成功といえる。大友自身もギレルモ・デル・トロも実写化に挑もうとしたのに、なかなか成立しなかった企画が、北欧からのこれを見たら、それらの企画も動き出すかもしれない。
大友のあの白い画、緻密な繰り返し、静寂の怖さがばっちり画面に刻み込まれている。それは、脚本化でもあるのに、台詞を徹底的に切り詰めてる巧みさ、映画のトーンの設計こそ脚本ということを知ってるのでしょう。あの言葉を言うだけでエモーションが響きまくる。
それはキャストの見た目からも伝わってくる。
主人公のイーダ演じるラーケル・レノーラ・ピーターセン・フレットゥムが、まずがっつり大友作画な顔。素晴らしい演技で繊細な心理を表情や仕草で伝えてくれる。大丈夫だよと彼女の目線にしゃがみこんで、眼を合わせて、励ましたくなるほど。演技力なら、アルヴァ・ブリンスモ・ラームスタの自閉症ぶり。この演技には彼女を見ているだけで泣きそうになるほど、想像力を掻き立てる。サム・アシュラフの壊れぶりは心配になっちゃうほど。ミナ・ヤスミン・ブレムセット・アシェイムには自分を試され、現実にはみ出してくるほど。素晴らしいキャスティングは漫画感を超えて実写ならではのものなの。母親3人の描き分けが素晴らしい。しかも、エレン・ドリト・ピーターセンは名前も同じなように実母で、その関係性の自然さは狙ってるのが分かります。
撮影が、本当に素晴らしいのです。撮影のシュトゥルラ・ブラント・グロヴレンの手掛けた作品がなかなか曲者で、酔っ払い映画『アナザーラウンド』、1カット映画の極北『ヴィクトリア』、傑作ドラマ『ひつじ村の兄弟』、画しかないSF『最後にして最初の人類』(製作も)を手掛けているノルウェーの異才。これだけの実績がありつつ、北欧で仕事し続けるのはこだわりなんですかね。(でも、監督が北欧の人からかレッド・ホット・チリ・ペッパーズの『GO ROBOT』MVなどアメリカでも仕事はしている。多彩な照明のコントロールがよいです)
独特のレイアウト、スーパークローズアップのセンスの良さ、画調の明るい冷たさが刺さります。
それに応えた同じトーンでの特殊効果が気が利いている。
そして、子供が主人公だけど大人にも向けている内容なのよね。子供には怖いし、トラウマ級の内容。これにはまったら、いい観客に育つでしょうけど。もうね。完全にホラーなのです。そこだと狭い視点が入ってくると判断したのか、日本ではホラーを外しているけど、海外ではホラーとされてます。(日本はなぜホラーの幅広さを狭めるのだろう?)
そして、この不穏さを支える音響と音楽もいいのよ。(アニメの『AKIRA』の音楽へのオマージュもあったり)
そうそう、猫好きにはドン引きのシーンがあります。あの描写をここまでまっすぐにやれる北欧の許容度(PG12)は大人を感じます。
表面で判断すると子供怖いで終わりそうなのの、きっちり、その奥を描いているところを見逃さないでいただきたい。
それは大人社会の写し絵としての子供社会ということ。ここは見逃さないでほしい。
でも、まごうこと児童向けなのは特筆しておきたい。こういう毒って大人と見ることで確実に薬にもなり得ると思うのです。
クライマックスの静寂に震えます。
見えないところに痛みがある傑作。


 



 

 

 

おまけ。

原題は、『DE USKYLDIGE』。(デ・ウスキルディゲと読むのかな)
英語題は、『THE INNOCENTS』。
『罪なき者たち』。

2021年の作品。

 

製作国:ノルウェー / デンマーク / フィンランド / スウェーデン
上映時間:117分
映倫:PG12

 

配給:ロングライド

 

Red Hot Chili Peppers - Go Robot [Official Music Video]
https://www.youtube.com/watch?v=HI-8CVixZ5o

 

イノセンツ の映画情報 - Yahoo!映画

Movie night:

大友克洋「童夢」オマージュに世界が絶賛 『わたしは最悪。』の脚本家による監督最新作 映画『イノセンツ』 - otocoto |  こだわりの映画エンタメサイト

イノセンツ | あらすじ・内容・スタッフ・キャスト・作品・上映情報 - 映画ナタリー

The Innocents - U.SEE

The Innocents review – psychic kids wreak havoc in chilling Norwegian  horror | Horror films | The Guardian

Why The Stars Of THE INNOCENTS Weren't Allowed To See Their Own Movie -  FANGORIA

 

 

ネタバレ。

エンドクレジットは、上から下へ上がり、互い違いなので、見やすい。

 

イーダの母役ヘンリエッテを演じるエレン・ドリット・ピーターセンとイーダ役ラケル・レノラ・ピーターセン・フロッタムは実の母娘。

そういう点でも心のケアをきっちりやったであろうことを感じられる。
実際、完成作品は、幼い子の出演者は、まだ見てないそうです。

 

アイシャは、母とのコミュニケーション不足と母の電話が遠くの人とのコミュニケーションを示す。
ベンは、虐待による暴力とコントロールを受けている。
アナは、両親と妹の愛と苦しみを拡大する。
イーダは、愛情不足を本人は感じているが、実際はそうでもないので、能力を発揮できない。

子供らの超能力は愛のメタファーでもある。
愛を欲する欲。
クライマックスには、多くの子供に感応する。
イーダの能力は、姉を助けようという姉妹愛で発揮される。

 

 

 

 

 

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