で、ロードショーでは、どうでしょう? 第2140回。
「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」
『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』
強大な小国ワカンダが再び王を失い、新たな危機が訪れるアクション・アドベンチャー。
2018年に公開され空前の大ヒットを記録するとともに、スーパーヒーロー映画、アメコミ映画として初めてアカデミー賞の作品賞にノミネートされるなど社会現象を巻き起こしたMCU映画『ブラックパンサー』の続編。
監督と共同脚本は、ライアン・クーグラー。
出演は、レティーシャ・ライト、ルピタ・ニョンゴ、アンジェラ・バセット、マーティン・フリーマン、テノッチ・ウエルタ。
物語。
ワカンダは悲しみに包まれていた。
先代の王ティ・チャカ、キルモンガーに続き、現国王ティ・チャラを失ったのだ。
ティ・チャラの母でもあるラモンダが玉座に座り、悲しみを乗り越えて新たな一歩を踏み出そうとしていた。
強大なる小国の軸で、ワカンダでしか採れない特別な特性を持つ金属ヴィブラニウムを求める各国の思惑が動き出した。
しかし、ワカンダの守護神ブラックパンサーを生み出すハートのハーブはもうない。
原案:ライアン・クーグラー
脚本:ライアン・クーグラー、ジョー・ロバート・コール
出演。
レティーシャ・ライト (シュリ)
アンジェラ・バセット (ラモンダ)
ドミニク・ソーン (リリ・ウィリアムズ)
ルピタ・ニョンゴ (ナキア)
ウィンストン・デューク (エムバク)
ダナイ・グリラ (オコエ)
ミカエラ・コール (アネカ)
フローレンス・カサンバ (アヨ)
テノッチ・ウエルタ (ネイモア/ククルカン)
アレックス・リヴィナリ (アットゥマ)
マデル・カデナ (ナモーラ)
マーティン・フリーマン (エヴァレット・ロス)
ジュリア・ルイス=ドレイフュス (ヴァル/ヴァレンティーナ・アレグラ・デ・フォンティーヌ)
スタッフ。
製作:ケヴィン・ファイギ、ネイト・ムーア
製作総指揮:ルイス・デスポジート、ヴィクトリア・アロンソ、バリー・ウォルドマン
撮影:オータム・デュラルド・アーカポー
視覚効果監修:ジェフリー・バウマン
プロダクションデザイン:ハンナ・ビークラー
衣装デザイン:ルース・カーター
編集:マイケル・P・ショーヴァー、ケリー・ディクソン、ジェニファー・レイム
音楽:ルートヴィッヒ・ヨーランソン
音楽監修:デイヴ・ジョーダン
『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』を鑑賞。
近未来(2025年くらい)アフリカ、王を失った強大な小国ワカンダに危機が訪れるアクション・アドベンチャー。
2018年に公開され、誇るべき黒人社会の有り様を描き、空前の大ヒットを記録し、スーパーヒーロー映画としても初めてアカデミー賞の作品賞にノミネートされるなど社会現象となったMCU映画『ブラックパンサー』の続編。
前作で主演のチャドウィック・ボーズマンが続編制作開始直前の2020年に他界するという大きな悲劇を乗り越え、代役を立てないことを決め、ライアン・クーグラー監督と主要キャストが再結集し、脚本を改訂し、追悼作をつくり上げた。
まさに主を失ったワカンダ王国の新たな物語をつむぐ。
死と別れ、世界の理不尽、改革と自己への怒り、闇へ向かうに十分な理由から、いかに大いなる力と向き合うのかを問う。そこには復讐の価値をも取り込み、今の世への問いかけも。
思う以上に政治的な映画だったりする。
単独の大作映画として(『アベンジャーズ』3・4連続撮影は合計金額で超えている)はアメリカ映画史上最大予算額約300億円が投入された。ほぼ黒人キャストによる映画としては快挙と言える。『NOPE』などメインキャストのほとんどが有色人種による大作映画という流れが生まれたのだ。(今までは大作とうたいつつも実は予算は平均的という映画が多かった。たとえば、『父親たちの星条旗』『硫黄島からの手紙』の連作でも5倍の予算比率だった)
それは、前作の評価と思いへのアンサー。あなたがいなくても、これをつなげて見せると。
ゆえに、そこにあるのは、快活なヒーロー継承ではない、より困難な課題にどう向き合うのかをつきつける。いい顔した対奥は己の理で動く、それは非難する己も同じ穴の貉であると気づけない。
アクションは抑えめにし、広いようで狭い映像は心の視野を映すよう(コロナ禍のせいもある)。志は高いし、意図は見えるし、思いは伝わるけど、脚本は意外と作為と事情が見え過ぎていなくもない。リリ・ウィリアムズのところとかね。なんといっても、アメリカでさえまだ大作で女性主人公の物語を描くことにおいては、はじまったばかりであることに気づかされる。妹であること、母であること、女性であることについて、うっすらとしか描かれない。もちろん、あえて、男性と同じように描いたのだと言うのならば、それこそはじまったばかりだから、ということだろう。
それでも、アンジェラ・バセットは女王の威厳と母の顔を両立させ、テノッチ・ウエルタは強者を存在させ、ダナイ・グリラはそのエモーションで物語を刺す。この大役をレティーシャ・ライトは、その細い体では支えきれな型感はあるが、そこにもドラマを感じてしまう。それほどの重圧であると。
IMAXフォーマット撮影ではあるがが書くはそこまで通されないし、3Dはよく引っ込むがイマイチ。アクションが見づらいし、表情が見えづらい。
戦争映画の様相で、アクションシーンの魅力などは薄め。登場人物たちの心情にや状況により焦点が絞られている。そして、そこにはもはやつくり手の心情さえも組み込まれていると言える。
美術はよくできているが、これはモニターで見るとやや作り物めいた感じがし、映画館マジックでどうにかのレベルだったのは少々残念。CGのレベルはかなりたかかっただけに。
撮影も凝ったところは少ない。これはクーグラー作品の特徴でもあるが。
大きなシリーズ作品で、MCUほど決別とその後の喪失が見所になっていったのが、キャラが愛されているからだろう。(TVシリーズ『太陽にほえろ』などで死は見せ場となってはいても、やはり退場である場合が多く、その後の喪失について重要視されることはほとんどなかった)。ある意味、MCUフェーズ4とはその喪失と向き合う人々が描かれてきた。主人公が死ぬ可能性があるシリーズものは今まではほぼあり得なかったのだ。
しかも、今作は現実の死とも向き合っている。
今作を見に行くことは告別式に参列するのと同義とさえ言える。OPから、それを伝えてくる。
「欲しい」「したい」「届かない」ことに己だけでなく、周囲と向き合い、「我慢」「忍耐」「我を知る」ことの価値をうたう棺作。
おまけ。
原題は、『BLACK PANTHER: WAKANDA FOREVER』。
『ブラックパンサー:ワカンダよ永遠に』。
2022年の作品。
製作国:アメリカ
上映時間:161分
映倫:G
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
ややネタバレ。
MCUでの時間軸は、『ソー:ラブ&サンダー』と同じ頃だそう。
インタビューによると、ウカピは国内で追放だから軟蟄居みたいな感じになってるそうです。
ネタバレ。
ポストクレジット的なエピローグがある。あれもポストクレジットなのだろうか?
いつもの「ブラックパンサーは戻ってくる」はある。
それゆえ、映画を見ても、ポスターを見ても、分かるのは、主人公はシュリではなく、ナキア、オコエ、ラモンダ、ネイモアの5人だとわかる。
もちろん、メイン主人公はシュリだが。
真の主人公は不在のティ・チャラともいえる。
ゆえに、最後に彼の息子が出てくる必要がある。
彼が遺したものがあることが示される。
まさかのヴァルとロスは元夫婦なのね。
追加クレジットで、マイケル・B・ジョーダン (エリック/キルモンガー)
チャドウィック・ボーズマン(ティ・チャラ)※回想のみ
ディヴァイン・ラブ・コナドゥ=サン (トゥーサン/ティ・チャラ)
ティ・チャラの息子のトゥーサンはハイチの名で、ワカンダの名はティ・チャラ。王座の重圧なく育ってほしいがゆえの親心。
同じ名前を継がせるのは、王族が2世などと継がせる文化だろうけど、そうなるといつか王にしたいという思惑を感じる。本人にも伝えているし。
つまり、子供時代は王座や政治的なものに囲まれずに育ち、ある年齢になったら、その責任を継ぐというということんでしょうね。
バッキーはあんだけ世話になったけど、国民にはティ・チャカを殺してるとも思われているので、葬式にこれなかったんだろう。
トニー・スタークもブラックウィドウもいないし、スティーブ・ロジャーズもいないことになってるし。
ティ・チャラはアベンジャーズ絡みのメンバーと絡んでないのよね。
ワカンダは支配されたことがないのに、英語圏なのよね。
実際に死んだキャストのキャラの子供に同じ名前をつけるオチは、『ワイルドスピード:アイスブレイク』と同じだったり。
ネイモアが最初にラモンダとシュリの前に姿を現した時に、ただ探知機だけを残して力を見せつけるだけにした。
それは、ワカンダもまた探知機があることは不都合で、国家戦略的に避けたいことだからだろう。
だが、すでに機械として完成したものがあるのならば、科学者をとらえ、殺したところで機械はあると考えるべきだろう。
すでに、タロカンとしてはアメリカ攻撃はワカンダのせいだと認識させており、ワカンダがタロカンと同盟を組まざる得ない状況を作り出そうという狙いもあるのだろう。
とはいえ、いくら対立していても母を殺した相手と同盟を組めるかというのは厳しいかと思う。
ネイモアはいくら長く生きていても強すぎて、身を隠し、外交をしてこなかった弱さが出ている。
それは、ワカンダもまた近い。
シュリはその弱さに気づいたとも言える。
王になるには自分が弱いと。
だからこそ、族長として長老と渡り合ってきて、彼らの避難を申し込まれ、ある種の外交手腕も持つエムバクに王を託したのだろう。
シュリとのバトルでネイモアは槍を刺すだけで海へと向かう。
片足の羽をもぎ取られてまともに飛べず、乾燥で力を失い、何より早い水の補給を求めた。
ナモーラなど槍が刺さっても回復して戻れる相手と稽古してきたであろうネイモアながら、槍を刺しただけでシュリが動けなくなるという発想をしたのだろうか。
ヴィブラニウムの槍であれば、そう簡単には抜けないものだから、時間を稼いで、まずは回復を狙ったのだろうが、まさか槍を折ることができるとは考えられんかったのだろう。ヴィブラニウムの武器でさえ壊せる力をシュリが持つとまでは。
シュリは、あの戦闘機のエンジンが生きていることをグリオに確認していたのだろうか。
この卑怯であろうとも勝利しなければ相手は言葉を聞かないという考えが見える。
ここには気高いティ・チャラと違うシュリの選択が見える。
もちろん、ワカンダの守護神であるブラックパンサーならば、ワカンダを最優先するのと感上げれば、卑怯でも勝利をとるよね。
シュリは女王ではなく守護神となったことで、何者かを示すときに、シュリというよりブラックパンサーであることをしめしたようにも見える。
それは、ラモンダとティ・チャカの娘でティ・チャラの妹であることを示したとも言える。
ということは、シュリが自分が何者かを見つけるのはこれからなのだ。
だから、彼女は立場(女王)を捨て、エムバクに託す。
そこに、ティ・チャラの遺した嫡男の存在は、彼女を軽くする。家と血と継承に対する責任をティ・チャラが考えていたとも見える。
前作でナキアを任務からは外したのは、妊娠したからだったのね。
リリ・ウィリアムズは、巻き込まれただけで、道具立てのマクガフィンとなっている。
深く読み込めば、血が繋がっていないリリがトニーのアイアンマンの流れを継いでいるという血ではなく智によるつながりを示しているとも言える。
そうなると、エムバクは血ではなく知(彼を知っていること、彼が経験値があること)で王を継いだとも言える。
この物語は、日本語ではあるが「チ」で繋がっていかせようとしている。
ラモンダがシュリに「ティ・チャラについて話さなきゃいけないことがある」は、ハイチの息子のことだったのね。
宗教間の違いを受け入れることの映画にもなっている。
1年後、喪を終え、喪服を燃やすとき、それは魂が自分のそばにいることを認める儀式という側面があった。
それゆえ魂の存在を信じられないシュリは脳のつくり出したものとして科学者として死を扱う。
ハートのハーブの効果も、また脳がつくり出したものであり、ゆえに自分の脳がキルモンガーを呼び出したことに愕然とする。ある意味で兄を殺した相手だから。
しかし、自分の脳がつくり出したのなら、相手を自分の思想で否定するのではなく、その思想を受容することもできると気づく。
それは、復讐という思想から彼女を解放する。