菱沼康介の、丸い卵も切りよで四角。

日々の悶々を、はらはらほろほろ。

もはや丸くない円卓から抜け出せない。 『湖のランスロ』

2022年04月01日 00時00分11秒 | 映画(公開映画)

で、ロードショーでは、どうでしょう? 第2029回。


「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」

 

 

 

 

 

『湖のランスロ』

 

 

聖杯を発見できなかった円卓の騎士ランスロが王妃に不倫を終えると告げる西洋時代劇。

『アーサー王と円卓の騎士』『騎士ランスロット』伝説の知られた盛り上がりの後の物語の一部に焦点を当て、ファンタジー部分を排除して、フランスを舞台脚色し、徹底的なリアリズムで描き出す。

 

プロの俳優をキャスティングせず素人を起用するなど、過度な演出を徹底的に排除して真実そのものを追求しつつもジャンルものも不条理劇もつくり出した唯一無二の作家、『抵抗(レジスタンス)―死刑囚の手記より』、『スリ』、『やさしい女』などで知られるフランスの映画監督のロベール・ブレッソンの中でも異色作の一本。

 

ゴダールらヌーヴェルヴァーグの作家たちをはじめ世界中の映画人に多大な影響を及ぼし、ブレッソンの、日本では特集上映などを除き劇場未公開の二作品『湖のランスロ』、『たぶん悪魔が』が40年以上の時を経て、ついに公開。
両作とも最新の技術を駆使した4Kデジタルリマスターで美しい映像が見事に甦っている。

 

監督・脚本は・ロベール・ブレッソン。

 

 

物語。

中世フランス。
王の命令による数年に及ぶ聖杯探しに失敗し、多くの戦死者を出した円卓の騎士たちが城に戻ってきた。
最強の騎士であるランスロも最後に戻ってきた。
ランスロは王妃グニエーヴルとの道ならぬ愛を終わりにすることを決意していた。神に不倫をやめると誓ったのち、王妃にも告げる。
しかし、王妃はそれを受け入れない。

円卓の騎士ゴーヴァンはランスロを心配するが、円卓の騎士モルドレッドは、これを利用して、権力を手に入れようと企む。
団結していたはずの騎士の間に亀裂が入り始める。

 

 

出演。

リュック・シモン(騎士ランスロ)
ローラ・デューク・コンドミナス (王妃グニエーヴル)

アンベール・バルザン (騎士ゴーヴァン)
ウラディミール・アントレク=オレスク (ラ・ルイ/王)
パトリック・ベルナール (騎士モルドレッド)
アーサー・ド・モンタルンバード (リオネル)

 

 

スタッフ。

製作:ジャン=ピエール・ラッサム、フランソワ・ローシャ、ジャン・ヤンヌ

撮影:パスクァリーノ・デ・サンティス
プロダクションデザイン:ピエール・シャルボニール
装飾:ジャン・ボーレット
編集:ジャーメイン・アルタス(ジャーメイン・ラミー)
音楽:フィリップ・サルド

 

 

『湖のランスロ』を鑑賞。
中世フランス、聖杯を発見できなかった円卓の騎士ランスロが王妃に不倫を終えると告げる西洋時代劇。ロベール・ブレッソンの中でも異色作の一本
日本での未公開作品でカラーの美しさがデジタルリマスターで蘇った。(『たぶん悪魔が』も)
今作でも、モデル方式で、素人俳優を起用している。
騎士ランスロの伝説、アーサー王伝説から、ファンタジーを排除し、フランスに舞台を置き換え、独自の脚色をしている。
伝説の後日譚の部分に焦点を当て、説明を極端に排除し、徹底的に現実的な描写、肉体的かつ狭視的な表現を用いて、語っていく。
甲冑と髭、抑制された物言いにより、騎士たちは区別がつきにくい。何かの記号のようになる。つまり、騎士、男の殻の中に閉じ込められ、その個性は切り落とされる。(それを示すように、首を切り落とされる騎士のカットから始まる)
その個人性は甲冑の中に封じ込められる。
それは、不倫=愛(時代性も考慮)の終わりも、愛という個人の道を断つという物語でも示される。王妃は仕組みの中でも個人を貫こうとする。
聖杯は手に入らず、王を裏切りながら、騎士同士の内紛を起こしながら、それでも騎士道に囚われる男たち。
甲冑が全編を通じて、カチャカチャと音楽を奏でるが、その音は虚しさを呼び起こす。音響演出による心理的な効果が凄まじい。
男性性の虚飾を剥ぎとろうとする物語は、1974年から約半世紀過ぎても現代に通ずるもの。
当時の独特のカラー撮影は、生々しく物質としての皮膚や金属を映し出す。カメラワーク(ルックやトラッキング)も強い個性があり、魅了する。
馬上槍の試合や剣による戦闘などアクションシーンも多いが、興奮や充実よりも痛みと空虚さが勝つ。
徹頭徹尾、透徹された作家性で紡がれた映画。
言われようもない冷静さでもって腹に落ちてくる。
金属の冷たさが低温火傷を起こす杯作。

 

 

 

おまけ。

原題は、『Lancelot du Lac』。
英語題は、『LANCELOT OF THE LAKE』。
『湖のランスロ』。

英語読みでのランスロットで知られる。(ほかに、ラーンスロット、ランスローなどとも表記される)
フランス人なので、Lancelotでランスロの方が音に近い。
ちなみに王妃グニエーヴルは、グィネヴィアの方で知られている。

ランスロは湖の乙女という妖精ニミュエに育てられたため、「湖の騎士(Lancelot du Lac)」と呼ばれる。

 

1974年の作品。

 

製作国:フランス/イタリア
上映時間:84分

 

配給:マーメイドフィルム/コピアポア・フィルム
宣伝:VALERIA

 

 

受賞歴。

1974年の第27回カンヌ国際映画祭にて、国際映画批評家連盟賞を受賞。
(ただし、ロベール・ブレッソンは受賞を拒否した)

 

ミヒャエル・ハネケは、今作をオールタイムベスト10に選んでいる。

 

 

アーサー王(英語: King Arthur)は、5世紀後半から6世紀初めのブリトン人の君主。
中世の歴史書や騎士道物語では、アーサー王は6世紀初めにローマン・ケルトのブリトン人を率いてサクソン人の侵攻を撃退した人物とされる。一般にアーサー王物語として知られるものはそのほとんどが民間伝承や創作によるものであり、アーサー王が実在したかについては現在も議論されている。

現在のアーサー王物語になくてはならない要素やエピソードの多くがジェフリーの『列王史』の時点ですでに登場している。12世紀のフランスの詩人クレティアン・ド・トロワはこれらに『エレックとエニード』や『クリジェス』で登場していたランスロ(ット)と聖杯を追加し、アーサー王物語を中世騎士道物語の題材の一つとして定着させた。

今作は、ド・トロワの『ランスロまたは荷車の騎士』(1165-1195年頃)や『散文ランスロ』等に基づく、聖杯探求伝説の後日譚として、ブレッソン独自の物語になっている。(wikiより)

ランスロはフランス出身の騎士(フランスの領主パン王の息子)で、ブリテン島に行った際にアーサーと出会った。

ランスロは、伝承の中で、何度か他の騎士の鎧や服を着て、正体を偽っている。
これらのエピソードから、ブレッソンは個性を奪う鎧という発想を生み出したのではないか。

 

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