不適切な表現に該当する恐れがある内容を一部非表示にしています

菱沼康介の、丸い卵も切りよで四角。

日々の悶々を、はらはらほろほろ。

言葉の呪いと祝い。 『フェアウェル』

2020年10月14日 00時00分35秒 | 映画(公開映画)

で、ロードショーでは、どうでしょう? 第1776回。


「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」

 

 


『フェアウェル』

 

 

 

アメリカで育った中国系アメリカ人が余命わずかだが告知をしないと決めた祖母に会うため帰郷し、親戚と祖母を囲んで過ごす悲喜劇。

 

主演は、『オーシャンズ8』、『ジュマンジ/ネクスト・レベル』のオークワフィナ。

 

監督・脚本は、これが長編2作目となる新鋭ルル・ワン。

ルル・ワン自身とその家族の体験を基に描き、小規模作品ながら口コミで広がり全米でサプライズ・ヒットを記録するとともに賞レースを賑わした。

 

 

物語。

ニューヨークに暮らすビリーは、大好きな祖母ナイナイがガンで余命3ヵ月の宣告を受けたと知る。
しかし、親戚一同は最後まで病のことはナイナイには伏せておくつもりである。それが中国式だという。アメリカ育ちのビリーはちゃんと本人に告知しないことが納得できない。
ナイナイの生存葬がわりに、今、日本に住んでいるいとこハオ・ハオの結婚式を中国で行うことになり、親戚一同が集まることになる。

 

 

 

出演
オークワフィナ (ビリー)
チャオ・シュウチェン (ナイナイ)

ツィ・マー (ハイヤン)
ダイアナ・リン (ルー・ジアン)

ハオ・ハオ (チェン・ハン)
水原碧衣 (アイコ)

リトル・ナイナイ (ルー・ホン)
ハイビン  (チアン・ヨンポー)
ユーピン  (ツァン・ジン)
アンティ・リン  (リー・シャン)
ミスター・リー  (ヤン・シュエチェン)
ソン医師  (ジム・リュー)

 

 

スタッフ。

製作:アニタ・ゴウ、ダニエル・テイト・メリヤ、アンドリュー・ミアノ、ピーター・サラフ、マーク・タートルトーブ、クリス・ワイツ、ジェーン・チェン
製作総指揮:エディ・ルービン

撮影:アンナ・フランケスカ・ソラーノ

衣装デザイン:ヴァネッサ・ポーター、アテナ・ワン

編集:マット・フリードマン、マイケル・テイラー

音楽:アレックス・ウェストン
音楽監修:スーザン・ジェイコブス、ディラン・ニーリー

 

 

 

『フェアウェル』を鑑賞。
現代中国、祖母に末期がん告知をしないと決めた孫娘と親戚一同の帰郷を描く悲喜劇。
監督・脚本のルル・ワンの実話を元にしている。
がん告知を巡る真っすぐな構成による玄妙なる悲劇と喜劇のミックスに心が揺さぶられる。
その姿がすでに喜劇と悲劇を纏うオークワフィナが映画と一体化する。あの首と肩と猫背! そして、一族の精神的土台だと伝えるチャオ・シュウチェンの存在感たるや。
一族集合ものとして、田舎帰郷あるあるの悲喜こもごもを濃縮して、俯瞰して味わう。
全キャストの佇まいが親戚の空気に包む。特に日本人だと嫁役の水原碧衣に手がにじむ。
ああ、この空気、どこの国だろうと親戚とは苦く酸く甘く辛いものなのだな。
いやぁ、この物語の妙味よ。口に戸がそもそもないのに、口に戸を立てるのだから。
その音の使い方も含めて、ジャンルの使い方が技あり。
映画的な仕掛けがレントゲンの影のように白と黒の中に浮かび上がる。
その鼻ピアスは彼女の心。
円卓に座るAとWが輪(WA)となっていくU作。




 

おまけ。

英語原題は、『THE FAREWELL』。
『告別』、『ごきげんよう』。
中国語原題は、『別告訴她』。
『彼女に言わないで』。

 

2019年の作品。

 


製作国:アメリカ / 中国
上映時間:100分
映倫:G


配給:ショウゲート  
 

 

 

受賞歴。

2019年のゴールデン・グローブにて、女優賞(コメディ/ミュージカル) を、アウクワフィナが受賞。
2019年のインディペンデント・スピリット賞にて、作品賞 、助演女優賞(チャオ・シュウチェン)を受賞。

他に、30の賞を受賞。

 

 

 

 

 

 

 

 

ややネタバレ。

撮影監督のアンナ・フランケーザ・ソラノは『フレンチアルプスで起きたこと』や『歩いても 歩いても』を参考にしたことを認めている。

 

 

アイコとハオハオが歌うのは『竹田の子守唄』。

 

 

 

 

 

 

ネタバレ。

円と欠けた円がモチーフになっている。
ビリーの鼻のピアスは欠けた円になっている。
なぜ、ナイナイがピアス泥棒の話をするのかの理由は、ビリーの鼻のピアスではなかろうか。ナイナイは耳とは言っているが。
CTスキャンも欠けた円を描く。
円卓、皿、モニュメント、指輪、ハートマークなどなどが円と欠けた円が写されていく。
丸と欠けた円で、ナイナイがいなくなる未来や心の喪失、自分の立つべきアイデンティティの不安定などが見えてくる。

ビリーはピアスはしてないと言っているが、実際は鼻も耳もしており、嘘から映画が始まる。

いや、その前に、「実際の事件を基にした物語」という、いわゆる「Actual Event」ではなく「Actual Lies」として、「実際の嘘を基にした物語」から始まっている。

これは、嘘についての物語。

 

鳥は、何かの知らせとして、出て来る。
柵の模様も鳥。
だが、それを逆手に使う。
つまり、病気だ。
ビリーが抱えるもやもやともいえる。
そして、そのきっかけはビリーが習ったナイナイの発声。
映画自体も電話という声だけの存在から始まる。

これは声についての映画。

肺がんであることも含めて。これは実際はどうだったか。

 

診断書を書き替えることで嘘は本当になる。
そう、これは、言霊についての映画。

 

 

最後の流れるハリー・ニルソンの『Without You』は、そのままの状況と心情を映していて、最後の逆転を盛り上げる。

 

 

『竹田の子守唄』は、題名に「子守唄」とあるが、正しくは「守り子唄」となるそう。
子供を寝かしつける唄ではなく、奉公先で、出身の学校へ通ったり遊んだりする余裕のない10歳前後の少女の心情が唄われている、と言われている。
帰りたいという気持ちが浮かぶ。
それは、アイコの気持ちでもあり、所在をなくしているビリーの心情でもある。

 

 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« つぶやきのまとめ 10/13 | トップ | 照り降る。 『ザ・テリブル』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

映画(公開映画)」カテゴリの最新記事