で、ロードショーでは、どうでしょう? 第2052回。
「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」
『カモン カモン』
独身のラジオジャーナリストと9才の甥が複雑な事情を抱えながら、心を通い合わせていくドラマ。
主演は、『ジョーカー』のホアキン・フェニックスオーディションで選ばれた新星ウディ・ノーマン。
監督・脚本は『人生はビギナーズ』、『20センチュリー・ウーマン』のマイク・ミルズ。
物語。
NYでラジオジャーナリストとして働く独身男ジョニーの現在の取材対象は子供たち。アメリカ中の子供に、自分の状況を語ってもらい、その声を放送している。
その彼がLAに暮らす妹ヴィヴに頼まれ、彼女がある事情で家を空ける間、9歳の甥ジェシーの面倒を見ることになる。
引き受けたもののジョニーは慣れない子どもとの共同生活に不安を隠せない。
それでも、独特な行動をとる甥となんとかやっていけそうだったが、ヴィヴの予定がずれ込み、預かる期間が延びると、じょじょに亀裂が生じ始める。
出演。
ホアキン・フェニックス (ジョニー/おじさん)
ウディ・ノーマン (ジェシー)
ギャビー・ホフマン (ヴィヴ)
スクート・マクネイリー (ポール)
モリー・ウェブスター (リウサーヌ)
ジャブーキー・ヤング=ホワイト (ファーン)
スタッフ。
製作:チェルシー・バーナード、リラ・ヤコブ、アンドレア・ロングエーカー=ホワイト
キャスティング:マーク・ベネット、ジェニファー・ヴェンディッティ
撮影:ロビー・ライアン
プロダクションデザイン:ケイティ・バイロン
衣装デザイン:カティナ・ダナバシス
編集:ジェニファー・ヴェッキアレッロ
音楽:アーロン・デスナー、ブライス・デスナー
『カモン カモン』を鑑賞。
現代アメリカ、ラジオジャーナリストと幼い甥が複雑な共同生活を送るドラマ。
子どもに取材するジャーナリストが幼い甥と暮らしたら、衝突と不安と玄妙な関係が生まれていく、日常を丁寧に掬い取る。ドラマチックは奥の層に置き、暮らしと心情に焦点を当てていく。
監督・脚本は『人生はビギナーズ』、『20センチュリー・ウーマン』のマイク・ミルズで、実子から得たものを甥と叔父に置き換えて、フィクションとして構築した。
甥の自然さはまるでスケッチのようである。
そこに、ドキュメンタリーと同じ形で実際に台本無しでホアキン・フェニックス自身も取材した子供たちのインタビューが主人公の仕事としていくつも挿入されることで、小さな大人としての子供のもう一つの面が浮き彫りになっていく。
そこには、大きな子供としての大人の姿が対比される。
ホアキン・フェニックスは狂気の『ジョーカー』の後にこの作品を選びその幅の広さを見せるとともに物語らせることと言う反転した役をまるで治療のように映り出る。
9才の甥には、オーディションで選ばれたウディ・ノーマンはすでに6年のキャリアを持っており、プロの俳優として役を捕まえている。ここに、ギャビー・ホフマンとスクート・マクネイリーが二つの関係をねじれ鏡にさらけ出す。
どこかに二つの側面が見えてきてもしまう。それは大人が考える子供の教科書というかね。
それをあなたを子供の頃のあなたの思い出に連れていくノスタルジーで押し流す。白黒の画面が否応なく懐かしさに胸を締め付ける。ああ、こんな日々があったと。
ちょっと清閑なLAと喧騒のNYの二つの町の姿がそれを加速させる。
そこに、災害の町への取材で、今の日本人の心に間接的に繋がってしまう。
子どもに戻し、大人の視線でも見せる、この思いの見せ方に相当な作り込みと作意に恐れ入る。
日本の鬱についてのドキュメンタリー『マイク・ミルズのうつの話』も撮っているマイク・ミルズの視線の優しさ。
何を呼んでいるのか、タイトルの『カモン カモン』にもその思いが潜んでいる。
映画館を出て見える世界が少し柔らかくなった。
思い出はいつも時を経て胸を締めつける録作。
おまけ。
原題は、『C'MON C'MON』。
『おいで おいで』。
2021年の作品。
形式:B&W
製作国:アメリカ
上映時間:108分
映倫:G
配給:ハピネットファントム・スタジオ
ネタバレ。
「カモン」は未来へ向かって言っているので、「おいで未来」というニュアンスの使い方。