で、ロードショーでは、どうでしょう? 第1024回。
「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」
『ヒトラーの忘れもの』
第2次大戦終戦直後のデンマークで、同国に残されたドイツ人少年兵たちが、ナチスが埋めた海岸線の地雷の除去作業を強制させられ、その半数が死傷した、という知られざる残酷な史実を映画化した衝撃の戦争ドラマ。
その実話から発想され、死と隣り合わせの不条理な状況に放り込まれたドイツ人少年兵たちの過酷な運命と、憎しみをもって彼らを監督するデンマーク人軍曹の心に芽生えた葛藤の行方を描く。
監督と脚本は、デンマークの新鋭でドキュメンタリー畑出身で、劇映画三本目の、マーチン・サントフリート。
物語。
1945年5月。
終戦で、ナチス・ドイツの占領から解放されたデンマークだったが、海岸線にはドイツ軍が埋めた200万近い地雷が残ったままだった。
その除去に、捕虜となっていたドイツ兵たちが駆り出されることになった。そんな除去部隊の一つを監督することになったデンマーク軍のラスムスン軍曹はナチスへの憎悪に凝り方また人物だったが、自分の部隊のドイツ兵全員があどけなさの残る少年であることに驚きつつも、彼らを容赦なく作業に従事させるだけでなく、人間扱いさえしないのだった。
部隊の面子は、みな10代の少年兵で、学校のような有様。彼らは、この浜の作業が終了すれば帰国できる、というラスムスンの言葉を心の支えに、死と背中合わの作業をこなしていく。
終戦後の物資の少なさはただでさえ体力を奪い、専門でもなく経験も少ない少年兵らは、一人また一人と命を落としていく。
出演。
ローランド・ムーラーが、デンマーク軍の ラスムスン軍曹。
ルイス・ホフマンが、ナチス少年兵のセバスチャン・シューマン。
ジョエル・バズマンが、ヘルムート・モアバッハ。
レオン・サイデルが、ヴィルヘルム・ハーン。
エミール・ベルトンが、エルンスト・レスナー(双子の弟)
オスカー・ベルトンが、ヴェルナー・レスナー(双子の兄)。
ミケル・ボー・フォルスゴーが、デンマーク軍のエベ大尉。
ほかに、オスカー・ブーケルマン、アウグスト・カーター、ローラ・ブロ、ゾーイ・ザンヴィリエット、など。
スタッフ。
製作は、マルテ・グルナート、ミカエル・クリスチャン・リークス。
製作総指揮は、ヘンリク・ツェイン、レナ・ハウゴート、トーベン・マイゴート、オリヴァー・ジーモン、ダニエル・バウアー、シュテファン・カペラリ、ジルケ・ヴィルフィンガー。
撮影は、カミラ・イェルム・クヌーセン。
プロダクションデザインは、ギッテ・マリンク。
衣装デザインは、シュテファニー・ビーカー。
編集は、ペール・サンドホルト、モリー・マリーヌ・ステンスゴード。
音楽は、スーン・マルティン。
終戦後のデンマークで地雷除去にナチスの少年兵を従事させた実話から描き出すサスペンス・ドラマ。
少年集団もの、鬼軍曹もの、敵との交流ものに見せつつ、そこだけで終わらぬ善悪で計り切れぬ絡まった心のひだを見せつける。
地雷の爆発のタイミングの巧さに爆発音の度に心臓が膨む。
少年兵の顔が似ていることはテーマにもなっている。
双子の存在がそれを際立たせる。
実話の中に潜ませた隠喩に唸らされる。
敵に属したものを責めるということの際限なさ、戦争が残す抱えきれない爆弾の重さを踏む地の下に感じる爆作。
おまけ。
原題は、『UNDER SANDET』。
英題は、『LAND OF MINE』。
このどちらも、オリジナルにクレジットされます。
意味は、原題が『砂の下に』、英題が『地雷の地』ですね。
原題の、砂の下の地雷と人の内面の意味を持つ意味深さはかなり好みです。
東京国際映画祭では、『地雷と少年兵』という邦題だったそう。
日本語の地雷には心理的なものも含むけど、この地雷に軍曹やデンマークの憎しみを重ねているのでしょうね。
最終的な邦題は「忘れもの」という柔らかさが児童映画を思わせつつ、内容とのギャップが痛みを増幅するのでイメージも膨らむので悪くないタイトルです。だけど、軍曹の方の思いが消えているのは少しだけ物足りない気もします。
とはいえ、タイトルで内容をある程度は伝えないと目に留まりにくい日本の傾向を考えて、ヒトラーというスターを担ぎ出したんでしょうね。
でも、『ナチスの忘れもの』にしなかったのはなんでかね?
上映時間は、101分。
製作国は、デンマーク/ドイツ。
映倫は、G。
キャッチコピーは、「大人たちが残した 不条理な任務。少年たちが見つけるのは、憎しみか明日への希望か――」
受賞歴。
2016年のヨーロッパ映画賞にて、撮影賞をカミラ・イェルム・クヌーセンが、衣装デザイン賞をシュテファニー・ビーカーが、ヘア&メイクアップ賞をバーバラ・クラウザーが、受賞。
2015の年東京国際映画祭にて、最優秀男優賞をルイス・ホフマンとローランド・ムーラーが受賞。
このデンマークの地雷は、21世紀まで残っていたそう。
デンマークは、終戦時にドイツと交戦下になく、保護国になっていたことが連合国とヨーロッパ内における立場の難しさが発生した。
復興を担当したイギリスからの要請で、少年兵による地雷除去を突っぱねることができなかった。
捕虜に地雷撤去をさせるのは国際法違反だが、兵役を外された市民とすることで、彼らが捕虜には当たらないようにした。
この事実は政治が持つ非人道的計算の恐ろしさを突きつける。
この地雷除去に従事したのは、少年兵だけではない。
2000名ほどが動員され、その半数が死亡または重傷を負っている。
現代でも地雷除去は結局、人の手で除去する方法が一般的で、プロでも数千個に一人死亡する確率。
この実話は、デンマークでさえ、ほとんど知られておらず、隠ぺい工作があったこともうかがえる。
ネタバレ。
砂の下という題名や、人形を治療する、その人形を運ぶカートなど、イメージを伝える隠喩の巧さも注目したい。
こういう見方はどうかと思うが、地雷の爆発のタイミングも劇映画として、非常に素晴らしい。
最終訓練でも、子尾で縛hツするだろうなという観客の予想を巧くズラしている。
地雷により、人間が消し飛ぶという恐ろしさもあるが、両腕が吹っ飛ぶなどの人体損傷には、寒気も走るが、怒りが沸き上がる。
軍曹の人物造型が複雑なのがいいのよね。
愛犬の死に残酷さを取り戻してしまう様には、本当に悲しくなる。