一期一会

日々是好日な身辺雑記

「滅ぼす」/ ミシェル•ウエルベック

2023年11月26日 | 日記
図書館から借りたミシェル•ウエルベックの「滅ぼす」を昨日読み終えた。この作家は初めてだが、久しぶりに読み応えのある小説だった。

物語の舞台は次の大統領選挙の前年、2026年のフランスである。経済•財務大臣のプリュノ•ジュージュがギロチン断首されるフェイク動画がネット上に拡散され、それを調査するのがフランスの情報機関DGSI(国内治安総局)のバスチャン•ドゥトルモン、そこからこの物語が始まるので、彼が主人公のサイバーテロ集団が絡む政治ミステリーかと思ったがそんなことはなかった。
9月頃に日経書評を読み図書館にリクエストしたが、図書館の本なので帯がついてなく、カバーの折り畳みのあらすじや、登場人物紹介もないので、話の大筋を知らないままに読み進めてていく。

続いて登場するのが、大臣執務室のスタッフのポール•レゾンで、プリュノ•ジュージュの信頼が厚く腹心的立場だ。そしてこの物語は彼が主人公の政治ドラマであり、家族ドラマだった。昔DGSIに勤めていたポールの父エドゥアールが脳梗塞で倒れ、昏睡状態だという留守電が父のパートナーのマドレーヌから届き、リヨンの病院に駆けつける。
妹のセシルと行政士で失業中の夫エルヴェ、
弟オーレリアンとその妻でジャーナリストのインディーと、血の繋がらない息子も来る。
40代後半のポールは妻ブリューダンスとの間で微妙な問題を抱えている。

ポールを中心に大統領選挙に関わるプリュノ•ジュージュとの政治中枢の物語と、ポールと妻や家族が直面する試練が平行して描かれている。この二つの物語に関わる政治コンサルタントや医師、情報機関DGSIのメンバーなど全ての人物描写が深く描かれているのが特徴的で、語られる言葉も哲学的だ。内容は闘病と家族間の問題と、暗く重いものだが読み出したら止まらないという、正にページターナー小説だった。
紅葉見物の車中、ジムから戻り就寝までの時間と集中して読めた。上下巻を5日で読んだが、一般的なオススメ本かというと微妙で、読み出したら止まらないが、面白いという言葉のニュアンスとは違う。
終盤になると口内に出来た癌について、化学療法や放射線治療、外科手術などの治療法の選択、その闘病状況について60ページにわたり詳しく語られる重い話だ。

今夜就寝前から読み始めるのは、(このミステリーがすごい)大賞を受賞した「元彼の遺言状」だ。「滅ぼす」と比べ軽く読めそうな気がする。
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