一期一会

日々是好日な身辺雑記

「プログレッシブ キャピタリズム」/ジョセフ・スティグリッツ

2020年06月10日 | 雑記
いつの頃からか、アメリカ型の資本主義社会と言われるものが、ヨーロッパや日本とは違うものに感じ、それが現在のアメリカの格差社会を生んでいるのだろうと思っていた。
新型コロナウィルスでフードバンクに食料を求める人々の映像を見て、あのアメリカで!と思った。
金融資本主義や株主資本主義とも言われるアメリカ型資本主義の問題点を、世界の代表的な経済学者が論じた(欲望の資本主義)と題した番組が、2018年から正月三が日に毎年放送されていた。そのスピンオフ番組がジョセフ・スティグリッツとジャック・アタリという米仏を代表する経済学者で、4月にNHK BSで放送された。

2月に図書館に予約しておいたそのスティグリッツの(プログレッシブ キャピタリズム)が図書館の再開で手元に届いた。その他に(レオナルド・ダ・ヴィンチ)、(モスクワの伯爵)(教養としてのコンピューターサイエンス講義)を同時に受け取ったが、これを2週間で読むのは大変だが、(コンピュータサイエンス講義)は大部分が解っている事だったので、部分読みをしたら2時間ほどで読めた。35年前のコンピュータはオペレーティングシステム、ネットワーク、データベース、3D CADなどのアプリも全て自社製品だったので、全て勉強する必要があった。





進歩的資本主義と訳するのだろう(プログレッシブ キャピタリズム)の著者ジョセフ・スティグリッツはコロンビア大学教授のノーベル経済学者で、クリントン政権で経済諮問委員会委員長、世界銀行の副総裁と、自ら提唱する経済政策を遂行する立場にいた実践学者だ。
350ページのこの本は第1部が迷走する資本主義として、成長の鈍化や格差の拡大として、人種・民族・性における格差、医療における格差、資産の格差、チャンスの格差を上げている。またGAFAなどの市場支配力の問題が提起されている。第2部では政治と経済を再建するためにとして、不公平な選挙制度の改革などを上げている。ゲリマンダーと言われる選挙区割りの問題で、アル・ゴアやヒラリー・クリントンのように得票数で上回っても、ブッシュやトランプに負けたという、一票の重みの違いの不公平の是正などを提起している。
そして最高裁判事の選定経緯などにも触れられている。

差別解消の取り組みとして、「アメリカ社会をむしばむガンと言えるのが、人種・民族・性による差別である。最近の警察による暴行事件や大量収監などが示すように、こうした差別はいまだに根強く蔓延している」としているが、この本は昨年出版されたものだ。
そして長年経済格差に取組んできた学者らしく「所得階層の最下層の家庭に生まれた人、特にマイノリティに属する人にとって、アメリカンドリームはもはや神話でしかない。人種・民族・性による差別は、経済的格差の拡大、機会の喪失、経済的・社会的分断をもたらす重要な要因となっている」としている。この本を読んでいてマーキングしたい部分が何ヶ所もあったが、図書館の本ではそうもいかない。

当然この本ではトランプについてもページを割いているが、ここで紹介するまでもないだろう。4/17に放送されたNHK BS(欲望の資本主義2020スピンオフ スティグリッツ)では、トランプの減税政策や保護主義政策について(よくここまで悪い政策が作れるものだと思った)と一刀両断だった。まぁトランプは政策以前の問題として、教会の前で聖書を掲げて写真を撮るより、聖書を開いて博愛・平等というものを学ぶべきだろう。

(プログレッシブキャピタリズム)ではアメリカ型資本主義の問題が語られているが、先週土曜日にはNHK BSの映像の世紀で「グレートファミリー 巨大財閥の100年」というドキュメンタリーの放送があり、そこで資本家の元祖とも言うべき、石油王ジョン・ロックフェラーがその苛烈な事業展開から、悪魔の男と称される要因が描かれている。その晩年の病床のロックフェラーを見舞った自動車王ヘンリー・フォードに(天国で会おう)と言ったら、(天国に行けたらね)と返されたエピソードが描かれている。資本家という人のある一面なのだろう。